コンタクトセンターにおけるSV(スーパーバイザー)は、オペレーターのロールモデル的存在となることが期待されています。だからこそ、SVの仕事への向き合い方は、コンタクトセンター全体の品質や姿勢に影響します。

そのため、SVの上長であるマネージャーやセンター長は、SVのストレス軽減やモチベーションを高める仕掛けを検討する必要があります。「オペレーターとして優秀だったから昇格した」という事実はありますが、SVが心身共に健康で、やりがいを感じながら業務に携わっているかどうかは、センターが円滑に運営されるだけでなく、顧客接点の品質を維持向上させる点でもメリットとなるからです。

この記事では、SVが抱えがちなストレスに注目し、上長ひいてはセンター全体でどのように対策・改善できるかを紹介します。

この記事が解決するお悩み

SVが抱えやすい具体的なストレスの例が知りたい

SVのストレスを軽減させるためにできることを探している

SVが抱えるストレスの実態

「コールセンターのオペレーター業はストレスがかかってしんどい」という声は、職業紹介系ブログやSNSなどでよく目にする内容です。では、SVはどうでしょうか。ネットでSVについて検索しようとすると、検索候補の上位に「ストレス」「きつい」というワードがセットで出てきます。残念なことに、SVとストレスはセットで語られるようになりつつあります。

では、SVはどのようなストレスを抱えているのでしょうか。SVが抱えやすいストレスや不満の一例を紹介します。

【SVが抱えるストレスや不満】

  • SVの業務負荷は高いのに、評価基準が曖昧で評価が最適化されていない
  • SVから先のキャリアパスが存在しない
  • SVを守って フォローしてくれる人がいない
  • SVに業務が集中するので、自身のメンタルケアやスキルアップのために使える時間が少ない
  • 「褒められる体験」が少ない
  • 給与が低い
  • 提案が通らず仕事が面白くない

SVが抱えるストレスは、業界やインバウンド/アウトバウンドによっても差が生じるので、一概にSVが皆上記のようなストレスを抱えているとは言えません。

しかし、いずれのストレスを抱えているとしても、「モチベーションの維持が難しい」という課題の発生を推察できます。

もし上長が「SVなんだから自分のモチベーションやキャリアは自分で管理しろ」という当人任せのスタンスを持っているなら、優秀なSVに長く働いてもらうことは難しくなるでしょう。

SVのストレスを軽減するためにできること4つ

列挙したストレスの例を参考に、少しでもSVのストレスを削減するためにセンターとしておこなえる4つの策を紹介します。

1. 褒める

「1つ目がこれ?」と思われるかもしれません。しかし、はっきりと褒められる機会が少ないのがSVの現状であるということを忘れないようにしましょう。成果が数値として可視化されやすいオペレーターとは異なり、SVの評価は定性的になりがちです。

コールセンター白書2023」のSVが「やりがいを感じること」というアンケートを見ると、「自分の実績」よりも「チームの実績」を重視する傾向が強いことがわかります。

とはいえ、それは「SV」としての「仕事への」やりがいです。SVもひとりの人間/社員であることを考えると、やはり個人にまつわる評価ややりがいは、モチベーションの維持に欠かせないと言えます。

一方で、SVはオペレーターや顧客から感謝の言葉をかけられる機会が多いポジションです。

同じく「コールセンター白書2023」による「この仕事をしていてよかったと感じたこと」というフリーコメントのアンケート結果によれば、以下のような2つの回答が目立ちました。

  • オペレーターに感謝された
  • お客様にお褒めの言葉をいただいた

同書は、SVのモチベーションの主な源泉が、「オペレーターや顧客からの評価」であると分析しています。

お客さまのことを第一に考えなければいけないコンタクトセンターにとって、お客さまからの良い評価は何よりも貴重です。オペレーターとSVとの良好な関係性も、円滑な業務遂行や、雰囲気の良いセンター作りにとって重要な要素です。

顧客とオペレーターの両方から高い評価を得ているSVがいるなら、ぜひ普段の業務について直接褒めたり感謝を伝えたりしましょう。そうすれば、自分の仕事を上長に「認めてもらえている」という自負がSVに生まれ、自信につながり、より生産性が高く効率的でホスピタリティのあふれるチームマネジメントや業務へと結びつくはずです。

2. 給与アップ

モチベーションの主な源泉は「オペレーターや顧客からの評価」とはいったものの、やはりあくまでも「気持ち」や「言葉」は可視化されにくいものです。モチベーションを「もたせているだけ」の状態になるリスクは常についてまわります。

「もたせている」状態が限界になり、いわゆる「燃え尽き」になった場合は、優秀なSVの急な部署移動や離職へと発展する可能性があります。評価の可視化において給与のアップが全てではありませんが、やはり目に見える形での評価は必要です。

「業務負荷が高いのに評価が最適化されていない」と「給与が低い」という2つの悩みは、「業務負荷が高い割に給与が低く、評価されていないように感じる」と言い換えることができるかもしれません。

「コールセンター白書2023」には「自分のモチベーションを高めるために、会社に求めること」という質問の回答が載せられています。その結果は、「給与アップ」が圧倒的多数の86%を占めました。

とはいえ、ただSVの給与をアップすれば良いというわけではありません。

目的はモチベーションの維持向上と、それに伴うSVのスキルおよびキャリアアップなので、給与アップのための評価基準を明文化することは大切です。評価基準の曖昧化を防ぐ一例として、コンクールや技能検定の活用が挙げられます。

SVを筆頭に、コンクールや検定を積極的に受ける風潮がセンターに生まれると、以下のようなメリットが生まれます。

  • SV個人の着実なスキル&キャリアアップ
  • スキルアップの可視化
  • プレイヤーとしてのモチベーションと向上心の維持
  • センター全体の応対スキルのボトムアップ
  • センター内のチャレンジ精神や向上心の引き上げ

ただSVの給与を上げて終わるのではなく、給与を上げる目的を明確化することがポイントです。実現可能な評価基準を設定・周知し、SVのみならずセンター全体のモチベーションとスキルが向上することを目指しましょう。

3. 「余白」をつくる

SVとは、オペレーターを守りフォローする存在です。そのため、オペレーターだけでは解決できない重クレームやカスタマーハラスメントの二次対応に膨大な労力を費やしているSVは少なくありません。

オペレーターに比べれば、SVはクレームやカスハラ対応に秀でているはずですが、SVたちはロボットではありません。難しい顧客対応に遭遇すれば、オペレーターと同じように労力と精神力を消耗していきます。

一方、さまざまな重要タスクが集中するSVにとって、十分なメンタルヘルスケアの時間を確保することは意外と難しいものです。場合によっては、自分のことは二の次にして、オペレーターのメンタルケアを優先するかもしれません。そのような状況では、いずれすり切れてしまうリスクがあります。

また、SVがスキルアップを図ろうと思うと、勉強や研修への参加といった時間が必要になります。

興味深いことに、既出の「自分のモチベーションを高めるために、会社に求めること」(出典:「コールセンター白書2023」)という質問に対して2番目に多かった回答は、「新しいことにチャレンジさせてくれる環境」でした。

マネージャーやセンター長といった管理職が想像する以上に、SVは新しいことへ取り組む意欲を持っているのかもしれません。

では上長は、「やるべきことをやってくれるなら、新しいことへの挑戦を止める気はない。時間を見つけて勝手にチャレンジしてくれたら良いし、成果についてはきちんと評価する」というスタンスで見守っていれば良いでしょうか。

このような当人任せ&結果主義のスタンスは、SVのチャレンジを応援しているとは言いがたいでしょう。SVは「上長からあまり応援されていない/良く思われていないかもしれない」といった不安が勝り、チャレンジそのものを辞めてしまうかもしれません。

上長は意識的にSVの「余白」の時間をつくってあげるようにしましょう。

余白の時間とは、有給休暇のようなただ休む時間ではなく、SVが自分の業務(メンタルヘルスケアや学習)のために使える自由な時間です。

上長がタスクの量や他部署との連携をコントロールし、SVのために余白の時間を創出するなら、新しいことへチャレンジする動機付けと強い後押しになります。

新しいことにチャレンジできる環境が整っていて、センター全体が応援してくれる雰囲気が醸成されていれば、SVは安心して新しいことに取り組め、それをセンターへ還元しようとするでしょう。現場を熟知し、課題を把握しているSVの成長は、センター全体の成長や発展にも貢献します。

4. SVを守りフォローする環境の整備

業界を問わず国内で問題視されている「カスタマーハラスメント」。オペレーターがカスタマーハラスメントに遭遇した場合のエスカレーション先はSVです。では、SVでも対処が難しい場合は誰が対応するのでしょうか。また、オペレーターのメンタルヘルスケアはSVがおこなうケースがよくありますが、SVのメンタルヘルスケアは誰がおこなっていますか。

オペレーターをカスハラから守るための基準やフローを決めたというセンターは少なくありません。しかし、SVから上長へエスカレーションするフローや基準については策定できているでしょうか

多くの企業がカスハラを問題視し、多様な対策を考えているからこそ、各コンタクトセンターも全社員を守りながら毅然としたカスハラ対策を徹底して、他社とも足並みを揃えていく必要があります。それは社員からセンターへの信頼や帰属意識に影響するからです。

また、SVはオペレーターを守る立場ですが、センターから守られるべき立場でもあるという事実を見落としてはいけません。

「コールセンター白書2023」の「オペレーターやSVのメンタルケアについて」というアンケート結果を見ると、多くのセンターにおけるメンタルヘルスケアの状況は以下のような内訳でした。

  • 産業医などの専門家と契約し窓口を設けている 38.6%
  • 上長などが相談に乗っている 78.7%

コンタクトセンターの多くが、メンタルヘルスケアの制度や窓口を設けていることは確かです。とはいえ、専門家に相談できる窓口を設けているセンターは少ないのが現状といえます。

同じセンターの誰かがSVの相談に乗る場合、もし職場の人間関係がストレス源となっているなら、相談や解決にいたらない可能性が高いと予想されます。とくに中間管理職は「逆パワハラ(パワーハラスメント)」の温床になりやすいと指摘され(出典:「コールセンター白書2023」)ています。そのため、とくにSVにとって「専門家の窓口」の存在がもつ意義は大きいといえます。

最後に

SVという立場上、ストレスや業務負荷がかかることを完全に防ぐことができません。しかし、問題となっているのは「ストレスと負荷がかかること」ではありません。「かかる負担に対して評価、給与、ケアが見合っていない」ということです、

そのため、「褒める、可視化できる評価をおこなう、学べる環境を整える、守る」の4つを徹底しましょう。

そうすれば、SVはもっとセンターにいやすくなり、やりがいや愛着、向上心をもちながら、業務で真価を発揮することができるでしょう。