オンプレミスとクラウドのどちらが良いのかという論争は、最近になって始まったわけではありません。しかし、この数年でクラウドシフトが一気に進み、「なんでもかんでもクラウド…」と感じることがあるかもしれません。

コールセンター業界においてもクラウド化の動きは活発になっています。では、市場の動向通りに右向け右でクラウド化しなければいけないのでしょうか。クラウドは万能で、すべてのコールセンターにとってベストな選択肢なのでしょうか。

この記事では、オンプレミスとクラウドのそれぞれのメリット・デメリットを、7つの要素から比較していきます。最近耳にするようになった「ハイブリッドクラウド」についても簡単にまとめますので、ぜひ最後までご覧ください。

この記事が解決するお悩み

既存のコールセンターシステム、ITソリューションのリプレースを検討している

クラウド、オンプレミス、ハイブリッドクラウドを一気に比較したい

コールセンターで進むクラウドファースト

コールセンターで進むクラウドファースト

コールセンターやコールセンターを取り巻くITソリューションの環境では、日に日に「クラウドファースト」が進んでいます。

「クラウドファースト」とは:
システムの新規導入や更新などの際、クラウドサービスの利用を優先的に検討する考え方のこと。クラウドファーストが進む背景のひとつに、日本政府によるDX推進といった「デジタル化」の推進が考えられる。類語として「クラウドネイティブ」という言葉があるが、クラウドネイティブはクラウドの採用だけでなく、クラウドのメリットを徹底的に活用することを指す。クラウド上での活用を前提にシステムやサービスを設計、開発を行う。

具体的にどの程度クラウドファーストが進んでいるのでしょうか。デロイトトーマツミック経済研究所によると、コールセンターシステム市場におけるクラウド型の構成比率は年率5%前後上がっていくとし、2027年にはクラウドとオンプレミスの比率がほぼ拮抗すると予測されています。

クラウドからのオンプレミス回帰が話題になる一方で、市場の傾向は明らかにクラウドへとシフトしているということです。

コールセンター白書2023」を見ると、コールセンターやCRM向けITソリューション市場におけるプラットフォームのうち、約半数がクラウド化していると指摘されています。

以下は、同書が公開している「導入・検討したソリューションのカテゴリー」の上位3項目の結果です。

【導入・検討したソリューションのカテゴリー】

  • フロントオフィス・アプリケーション 66.1%
  • 音声アプリケーション機能 42.4%
  • ナレッジ構築・管理システム 40.7%

コールセンターになくてはならない多様なカテゴリーのソリューションにおいて、クラウドファーストが起きていることは一目瞭然です。

クラウドファーストが進んでいる背景には、別の要素もあります。

クラウドソリューションの導入メリットについて尋ねた同書の別のアンケートを見ると、「導入コストの安さ」や「保守や更新に関するコストが安価、あるいは必要ない」が上位2つに挙がっています。「コスト意識」がクラウド化を加速させていることがうかがえる結果です。

クラウドが評価され、全体として「クラウドが良い」という流れになっていることは明らかですが、本当にクラウド化はベストな選択でしょうか。

結論から言えば、市場がクラウドに傾いている事実はありつつも、現時点でクラウド至上/クラウド絶対主義になる必要はないと言えます。クラウドとオンプレミスにはそれぞれ特有のメリットがあり、ケースバイケースだからです。

だからこそ「オンプレミスかクラウドか」の論争にはいつまでも決着がつかないのでしょう。そもそも、各企業やセンターが求めるメリットや機能は画一化されたものではないので、ひとことに「どちらが良い」と決めつけるのは現実的ではありません。

クラウドシフトVSオンプレミス継続・回帰

クラウドシフトVSオンプレミス継続・回帰

「クラウド主義になる必要はない」と言っても、オンプレミスからオンプレミスへのリプレース傾向が減少しているという現実は無視できません。そうかと言って、「オンプレミスが終わり」というわけではありません。では、改めて両者について比較してみましょう。7つの項目で比較していきます。

1. コスト

まずは、クラウドシフトの加速に一役かっているコストについてです。

オンプレミスは初期費用が高額であるという話は有名で、1,000万円を超えるケースは少なくありません。初期費用だけでなく、システムの開発やセットアップ、アップデートにもコストがかかります。

また、トラブル発生時には、自社対応で費用がかかり、自社で対応できない際には外注費がかかります。年間保守契約を結ぶとなれば、契約料が発生します。

オンプレミスの場合は固定資産税もかかるので、概してランニングコストは高額です。とはいえ、ほぼ一定額のコストで運用できるので、予算化しやすいメリットがあります。

クラウドは導入コストの低さが大きな特徴のひとつです。ベンダーによっては初期費用が無料(その代わり月額料金が高額に設定されている可能性あり)になっている場合があります。加えて、サーバーメンテナンスなどはベンダー側が行うので、保守・運用にかかるコストは不要あるいは最低限に抑えられます。

サービス利用料は、座席数や利用する機能・オプションに応じて設定されていることが多いので、需要の増減に合わせて無駄をはぶきつつ、コストをコントロールしていくことが可能です。

しかし、とくに外資系ベンダーのシステムを利用する場合にはコスト変動に注意が必要です。現在、外資系を中心に為替変動や人件費増などを理由とした値上げが相次いでいます。価格変動が起きたり、コストコントロールができたりしてしまうからこそ、オンプレミスに比べるとクラウドの方が予算化しにくいでしょう。

2. 導入期間

導入期間は、サービス契約後すぐに利用できるクラウドの方が圧倒的に早いと言えます。オンプレミスの場合は機器の調達から始まるケースが多いので、数週間から長いと数ヶ月を要する場合があります。

3. 運用負荷

オンプレミスにおいては、多くの場合システム構築・運用・保守の全てを自社で行わなければいけません。そのため、専門知識や技術をもつシステム運用管理者を配置したり、外部技術者を確保したりする必要があります。人材の選任や人材配置の見直しあるいは外部委託におけるコストを検討しなければいけないので、運用負荷は決して軽くありません。

クラウドの場合、必要な機器の調達やセットアップ、サーバー・インフラの管理はすべてベンダーに任せることができます。導入と基本的な運用に際して専門知識をもつ社員は必要ないので、クラウド運用を始める敷居は低いと言えます。

しかし、クラウド特有のメリットである「拡張性の高さ」を最大限に活かそうとするなら、システムに詳しいクラウド人材がいると有利です。これから導入を検討する方は、自社内にクラウド人材がいるかどうか、あるいはトレーニングできるかどうかを事前に確かめると良いでしょう。クラウドシステム導入における費用対効果に大きく影響します。

4. テレワーク

オンプレミスは自社内のネットワークを利用するので、社外からのアクセスが困難になるという特徴をもちます。だからこそ情報漏洩やハッキングのリスクを最小限にできるのですが、SSOによるクライアント認証が必要となったり、VPN接続できない端末は管理できなかったりと、テレワークの実現を阻む要素となることは事実です。残念ながら、オンプレミスによるテレワークの実現には限界があります。

日本におけるクラウドファーストを加速させたきっかけのひとつは、パンデミックによるテレワーク需要の高まりです。場所を選ばずに利用できるクラウドだからこそ、迅速にテレワークを実現することができます。

5. BCP対策

BCP対策の観点でも、先のテレワークと同じくクラウドに軍配が上がります。

物理的な機械が必須となるオンプレミスの場合、機器が壊れたり、社員が出社できない状況になったりすると、センター全体の業務を停止せざるを得なくなるリスクがあります。

クラウドであっても機器の故障やインターネット環境による影響は受けるので、確実に業務が止まらないというわけでありません。しかし、設備が分散・冗長化されていることがほとんどのため、オンプレミスに比べれば迅速なリカバリーや復旧を期待できます。テレワークに対応しやすいことから、災害直後であってもオペレーターが安全な場所で業務を継続することが可能で、業務停止を回避あるいは停止期間を最小限にすることが可能です。

6. カスタマイズ性

カスタマイズ性の高さは、オンプレミスの主要な強みのひとつです。運用上の負荷にはなり得るものの、システム構築から自社で行うからこそ、高度で複雑なシステムのカスタマイズが可能となります。柔軟なカスタマイズ力は、オンプレミスならではのメリットと言えます。

対してクラウドは、カスタマイズ性の低さがデメリットとして指摘されやすい傾向にあります。製品やサービスによっては、ランクを上げたプランやオプションの活用で迅速な増強を行うことが可能です。とはいえ、いずれの場合でも決められた枠組み(プラン)の中で行う場合が多いので、自社に合わせたカスタマイズ力という意味ではオンプレミスには劣るでしょう。

しかし、最近ではカスタマイズ開発可能となっているシステムもあるので、システム選別の時点で確認しておくことをおすすめします。

7. セキュリティ

最後はセキュリティ面です。とりわけ機密性の高い情報を扱うセンターは少なくないので、セキュリティにおいて妥協することは許されません。

オンプレミスなら自社のセキュリティポリシーにあった対策を講じられるので、よりセキュアなシステム環境を構築できます。基本的にすべての情報を自社内で管理するため、ハッキングや情報漏洩といったリスクを最小限に抑えられます。

対してクラウドは、ベンダー側のセキュリティに依存しがちなので、オンプレミスに比べればセキュリティ面が不安視されます。

とはいえ、近年はプライベートクラウドの活用や、ベンダー側のセキュリティレベル向上に伴い、クラウド全般がセキュリティ強化され始めています。そのため、「オンプレミスの方が絶対に安全」という認識は見直す必要があるかもしれません。

セキュリティの面でオンプレミスかクラウドかを検討するというよりは、「自社が求めるレベルのセキュリティ対策が可能かどうか」という視点が大切です。

ハイブリッドクラウドという選択肢

ハイブリッドクラウドという選択肢

ここまでで7つの項目においてクラウドとオンプレミスを比較しました。テレワークやBCP対策のように、とくに近年ニーズが高まっている要素においてクラウドは確実にアドバンテージをもっています。

しかし、クラウドに対してオンプレミスが完全に劣っているというわけではありません。そのため、すべての企業、すべてのコールセンターにおいてクラウドがベストな選択肢だとは言いきれないでしょう。

既存のオンプレミス環境を急に「捨てる」となると、顧客体験を損なうリスクが伴います。クラウドファーストについては慎重に検討する必要があります。

「オンプレミスを急に捨てることはできない」「既存のオンプレミスのメリットを享受しているので、今すぐクラウド化する必要性があまりない」と感じる場合、クラウドシフトを焦る必要はないでしょう。あくまでも選択肢のひとつとして見なしてください。顧客体験を損なわずにクラウドシフトできる方法やタイミングを見きわめることが重要です。

最後に、第三の選択肢として「ハイブリッドクラウド」を紹介します。

「ハイブリッドクラウド」とは:
プライベートクラウド、パブリッククラウド、オンプレミスなど、いくつかのサービスを組み合わせて良いところ取りしながら使うクラウドのこと。それぞれのもつメリット、デメリットを活かしながら補完しあえる。

「いいとこ取りができるならハイブリッドクラウドこそベスト」と思われますか。「いいとこ取り」と聞くと最高の選択肢に思えるかもしれません。

しかし、ハイブリッドクラウドでは複数のサービスを同時に使用することになるため、システム構成や運用・管理が複雑になるリスクがあります。

コールセンターの心臓部であるコールセンターシステムは、絶対の安定性を前提としながら、迅速な変化を求められる場合があります。クラウドシフトへ舵をきるかどうかも例外ではありません。

センターが下した決断の結果が顧客体験としてお客さまに影響するからこそ、クラウドシフトするかしないか、どれほどの規模でどんなスピード感で行うかは慎重に検討しなければいけません。そのため、クラウドシフトを担当している人や、システム選別者にはリテラシーの高さが求められます。

参考情報:クラウドに最適化されているコンタクトセンターシステム「Bright Pattern

最後に

オンプレミスかクラウドかの論争は本当に決着がつかない問題です。むしろ、「ハイブリッドクラウド」という別の選択肢が出てきています。市場の動きにならって「クラウドファーストの波に乗れば正解」と言えないだけに、どの選択肢を選ぶかは引き続き各センターにおける問題となります。

それぞれにメリットとデメリットがあり、センターによって求める機能や条件が異なるからこそ、「ひとつの正解」あるいは「ベスト」が存在しません。

「オンプレミスかクラウドかハイブリッドクラウドか」の視点ではなく、「自社が求める条件や機能に最適なのはどれか」の視点で、自社にとってのベストな選択肢を見つけていきましょう。