去る2023年は、「ウィズコロナ」から「アフターコロナ」へと舵をきった変化の大きい年でした。以前のような世界的パンデミックになることはなく、さまざまな面でアフターコロナによる変化は落ち着いてきています。
そのような潮流の中、働き方について見直す企業は少なくありません。たとえばコールセンター業界は、コロナ禍において迅速に「在宅ワーク」を導入した業界でした。しかし今、在宅コールセンターを継続するか検討するかもしれません。コロナが沈静化してきたかたわらで、人材不足や採用難といった問題が深刻化しているからです。そのため、在宅オペレーターが一つの働き方として定着しきたものの、2024年においても引き続き採用していくかどうかは、喫緊の検討内容となるでしょう。
この記事では、「在宅オペレーターを継続するかどうか」という観点で、在宅オペレーター制度の有用性と4つのメリットを解説します。また、在宅オペレーターを成功させるポイントも紹介しますので、2024年の働き方について検討している方はぜひ参考にしてください。
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「在宅オペレーター」という働き方の有用性
世界的なパンデミックや感染の再拡大が懸念される裏で、多くの企業が人材不足や採用難といった問題に苦しんでいます。まさに「一難去ってはまた一難」です。
コールセンターが人材不足や採用難といった難所を乗り越えていくには、人材確保における変化や見直しが求められます。コールセンタージャパン2023年11月号で、「コールセンターにおける人材確保には抜本的な見直しが必要である」と指摘されているとおりです。「抜本的な見直し」に関して、同紙は具体的に以下の3点を挙げています。
- 採用戦略の見直し
- 早期離職の予防
- 長く働ける環境の構築
上記3つを実現していく上で、「在宅オペレーター」は有効策です。
「在宅での働き方を確立しようがしまいが、コールセンターのオペレーターが『不人気職』であることは変わらないだろう。本当に物理的な働き方が人材確保の大きな分かれ道になるんだろうか」と思われるでしょうか。
在宅オペレーターは、人材確保において重要な以下の3つのポイントを押さえられます。
- 「働き方」「雇用条件」を見直し、職場の魅力を上げる
- ライフステージによって働き方を選べるようにする
- 働き続けたくなる環境を作る
現在でも有効な在宅オペレーターのメリットをもう少し深堀してみましょう。
在宅オペレーターのメリット4つ
アフターコロナに伴い、在宅ワークや在宅オペレーターをやめる企業/コールセンターはたしかに存在しています。では「2024年も在宅オペレーターを継続・強化するべきだ」と言える具体的メリットは何でしょうか。4つのメリットを紹介します。
即戦力になる「潜在人材」へアプローチできる
在宅オペレーターは、概して場所や時間に縛られることなく働けるのが最大の特徴であり長所です。そのため、以下のような人たちに特にニーズが高いと言えます。
- 育児・介護中
- ひとり親世帯
- 持病・障がいがある
- 月に15~20時間であれば働ける
例に挙げたような条件をもつ人たちは、現在ではシニアや女性が多く、在宅だからこそ獲得できる「潜在人材」です。
潜在人材の中には、オペレーター経験や接客経験のある人、ビジネスマナーを身につけている人のような、即戦力となる存在が見込まれます。潜在人材にとって、働き方の柔軟性は大きな魅力です。
たとえば、沖縄セルラー電話株式会社/株式会社アサイアン/株式会社KDDIエボルバによる『遠隔地在住者の「在宅コールセンター/コンタクトセンター」雇用にかかる通信・セキュリティ・人材育成の課題解消』実証を見ると、以下の3つが子育てと仕事の両立に関する課題としてあがっています。
- 帰宅時間
- 職場と自宅の距離(通勤時間)
- 家庭の事情に合わせた勤務時間の柔軟な調整
この結果から、「勤務時間の調整が可能である在宅であれば働ける」というニーズの高さは明白です。
在宅オペレーターによってニーズに合致した働き方を提供できれば、競合他社よりも「魅力的な企業」「働きやすい/働いてみたい企業」としての認知が広がります。
また、「在宅オペレーターは場所に縛られない」という強みがあるからこそ、採用の門戸を全国区へ広げることが可能です。採用が全国区に広がれば、求職者の母数増加を期待できます。それだけでなく、時給の高騰が激しい都市部に比べて、低い賃金で優秀な人材確保ができたり、地方自治体が積極的に取り組む雇用促進に貢献し、地方創生へ寄与できたりといったメリットがあります。いわゆる「企業力」の強化につながるのです。
コロナ禍を経て、ワークライフバランスを重視する人は増加しています。ウィルオブ・ワークのコールアンドオフィスデザイン事業部 アウトソーシング営業部 部長の中村吾武氏は、最近の求職者についてコールセンタージャパン2023年11月号にて以下のように分析しています。
給与ややりがいよりも働き方の優先順位が高い。休みが取りやすいか、在宅勤務が可能か、副業が可能かなどの視点で職場を選ぶ求職者が増えています。
コールセンタージャパン2023年11月号
加えて、在宅勤務が可能な募集に対する反応は、1.2~1.5倍ほどにもなると説明しています。在宅オペレーターという働き方が確立されているなら、求職者の応募ハードルは下がり、魅力的な募集として認識されるということです。
採用効率とコストの適正化が見込める
在宅オペレーターは、コールセンターの繁閑期に合わせたフレキシブルな人材配置が見込める存在です。そのため、コールセンターは閑散期の余剰人員や繁忙期の人手不足にアプローチしやすくなり、コストの適正化とオペレーターのモチベーション維持、顧客満足度の維持にアプローチできます。
ライフイベントによる離職を予防できる
従業員たちに長く働いて欲しいと望むなら、各従業員のライフイベントに寄り添うことは必要不可欠です。
2022年に厚生労働省が実施した雇用動向調査によれば、「結婚、出産、育児、介護、看護」といったライフイベントによる男性の離職率は8.9%、女性は13.4%です。この離職率は男女ともに前年比で増加しています。
ライフイベントに合わせた柔軟な働き方ができる企業か否かは、新規採用だけでなく離職予防の観点で大きなポイントとなります。
BCP対策になる
普段から在宅オペレーターが安定稼働できているなら、自然災害やパンデミックといった緊急事態の際に迅速に対応することができ、BCP対策として効果的です。たとえば、コールセンターはインフラ関連の問い合わせ窓口となっていることが多く、災害発生時にはセンターの早期復旧と事業継続、安定稼働が要求されます。
コールセンターは有事の際に一刻も早い稼働を期待される一方、従業員の安全を確保しなければいけません。オペレーターたちに危険の伴う出社を求めずとも業務を再開できるのは、在宅オペレーター制度の大きな強みです。
日常的に在宅オペレーター制度へのシステム的環境と、従業員たちの精神的・技術的準備が整っていれば、いざという時に過度に動じることなく対応していけます。
システムの側面では、クラウド型コンタクトセンターシステムが効果的です。
▶参考情報:クラウド型コンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
記憶に新しいとおり、2024年は多くの人の日常を奪い衝撃を与える幕開けとなりました。コールセンターとして突発的な災害へどのように対策するかを考え、事前に準備しておくことは、ショックの大きい新年を迎えた私たちにとって急務です。
在宅オペレーターは「キツい」
ここまでで、在宅オペレーターのメリットを紹介しました。とはいえ、最近の業界動向を見て「全面出社に切り替える企業が増えてきている。今年はどの企業も全面出社の傾向が強まるのではないか」と思われるかもしれません。
たしかに、国内外を問わず「全面出社に切り替えた」「テレワークをやめた」といった内容のニュースやインタビュー記事を目にする機会が増えました。しかし、「在宅ワークを完全に廃止した」という企業は多くありません。
「コールセンター白書2022」の163ページに掲載されているデータを見ると、実に80%以上の企業が在宅コールセンターの常態化を見据えています。現在は拠点運営に戻している企業であっても「災害時やパンデミック時のみ運用する予定」「BCPの手段としていつでも在宅シフトにできるようにする方針」と回答しています。約9割の企業において「在宅コールセンター」というニュースタイルを捨てる気はないということです。
同紙では、この結果について以下のように分析しています。
「あくまでコロナ禍での緊急避難的な取り組みで、拠点運営に完全に戻す」という企業はゼロだった。すなわち、すべての企業が何らかのカタチで在宅コールセンターの継続を計画しているということになる。
コールセンター白書2022
先のデータからわかるように、コロナが沈静化したからといって「在宅○○」を完全廃止するなら、競合他社から後れをとり、多様で優秀な人材を取られるリスクが高まります。
とはいえ、「在宅オペレーターの制度を導入・継続している=優秀な人材が集まってくる」「成功する」というわけではありません。
たしかに在宅オペレーターのニーズは高く、企業と働き手の双方に数々のメリットをもたらす一方、在宅オペレーター経験者たちは「在宅オペレーターはキツい」と語ります。中でも「キツい要素」として多く挙げられていたのが以下の2点です。
- 孤独感
- 同僚・上司への咄嗟の質問・相談ができない不安
上の2点を考えると、概してオペレーターケアの重要度が測れます。ここからは、オペレーターケアに効果的な3つの策を説明します。
SVへのエスカレーション方法を明確化し周知徹底する
1つ目は必ず押さえるべき点ポイントと言っても過言ではありません。在宅オペレーターが自己解決できなかったり、お客さまから「別のオペレーター/上司に代わってほしい」と要求されたりした場合のフローを必ず決めておきましょう。たとえば、以下のように決めておけます。
- 電話は必ず折り返しにする
- 緊急度に応じてSVへチャットあるいは電話で質問する
ただ決めるだけでなく、在宅オペレーターひとりひとりが必ずフローを把握・実施できるようにしてください。また、SVが在宅オペレーターに対して可能な限りタイムラグなく対応できるように準備することも忘れてはいけません。
「トライアル」でギャップを防ぐ
「在宅オペレーター」は一般的に、「柔軟に働けて楽」「育児や介護をしながらでも働けるからストレスフリー」のようなポジティブなイメージが付きものです。
「コールセンターのオペレーター」にありがちなネガティブイメージや不人気職というレッテルが貼られていないのは良いことです。しかし、現実とは若干のズレが伴うプラスイメージをもたれていると、「いざ働いてみたら思ったよりもキツい」と思われてしまいます。理想と現実のギャップが大きければ大きいほど、在宅オペレーターのモチベーション低下や離職につながります。
ギャップを埋めるための一対策として、採用前の段階で「トライアル期間」を設けることができます。事前に在宅オペレーターを体験してもらうことは、採用希望者と企業の両社にとって効果的です。実際に在宅勤務を体験することで、在宅に伴う具体的な問題点が見えたり、実務のイメージを鮮明にできたりします。在宅オペレーターへの心構えをもつことができるので、採用前後でのイメージギャップを最小限に抑えることが可能です。
一つの具体例を紹介します。オリックス生命保険は、入社前にクレーム対応の電話を聞かせたうえ、クレーム対応研修についても事前に説明しています。また、体験会では実際のオペレーションシステムを使ってロールプレイングを行っています。こうした取り組みにより、充実した組織的サポート環境を理解してもらうことができ、くすぶる不安を拭うことが可能です。(出典:コールセンタージャパン2023年11月号)
在宅オペレーターの継続を成功させるにあたっては、まず在宅特有のリスクやデメリットを正確に理解してもらいましょう。その上で、マイナス面に対する企業のサポート体制をアピールすることがポイントです。在宅オペレーターたちが現実的でない期待や理想を抱いてしまうことを防ぎ、イメージギャップによるストレス、それに伴う離職という負のループを断ち切ることが重要です。
ツールを活用したコミュニケーションの活性化
在宅オペレーターの孤立を回避するためには、チャットやウェブツールを駆使したコミュニケーションの確立が求められます。
社員用の掲示板や雑談用チャットルームのような、ラフに活用できるコミュニケーションの場の設置は有効策です。それでも強い孤独感を感じるオペレーターがいたり、悩みを解決できていなかったりするようであれば、定期的な出社によるメンタルケアを検討してください。
最後に
「在宅」や「テレワーク」は、パンデミックをきっかけに急激に普及した働き方です。コロナがひとまず沈静化したとはいえ、働き手にとって「在宅」のニーズは依然大きく、むしろ高まっています。
私たちが潜在的に持っていた「在宅はコロナ禍における限定的な働き方」という認識を改め、「今後当たり前になる働き方」として捉えながら、環境整備や企業アピールをしていくべきフェーズに入っています。