地方へのコールセンター進出は一時のピークを越えました。当初は、運用コストの低さが魅力で地方へ進出したものの、現在は、全国的な時給の上昇トレンドゆえに採算性の安定化に難しさを感じているコールセンターが増えています。人材不足に悩まされている拠点もあります。
今回は、地方へ進出して一定期間が過ぎ、コールセンター運営をステップアップしようとする際に直面する課題3つを取り上げます。生成AIとコンタクトセンターシステムとの連携による解決策も紹介するので参考にしてください。
最後には、地方コールセンターのステップアップに役立つ生成AIの使い方4つも紹介するのでご覧ください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
地方のコールセンターが直面する3つの課題
地方コールセンターを運用しているBPOからときどき耳にするのが、「地方では短期の自治体業務ばかりで今以上の利益向上が難しい」「自治体業務を効率的に運用しつつ、もう一つの事業の柱を立てたい」という声です。
さらに、「地方にいながらも、本社の経営陣が掲げる社会貢献というビジョンを推し進めていきたい」というコメントも聞かれます。
課題をまとめると以下の3つに分類できるでしょう。
①自治体業務を効率化させたい
よく聞かれるコメント:「短期事業の立ち上げ時に、放棄呼が多いので何とかしたい」「情報漏洩によって自治体の信頼を失いたくない」「コールセンターの対応ミスが増えると、自治体の負担が増えるので迷惑をかける」
②自治体以外の案件を獲得したい
よく聞かれるコメント:「自治体事業以外の売り上げの柱を立てたい」「地元雇用をもっと増やしたい」「地方活性化の大規模プロジェクトを活用して、地元事業を支援したい」
③社会貢献したい
よく聞かれるコメント:「脱炭素を推進していることをアピールする必要がある」「クライアント企業のDXに貢献したい」「少子高齢化の傾向に何らかの対策をしなければならない」
上記の課題を解決することは、採算性の安定化につながります。さらに、地元の優秀な人材から「働きたくなる職場」とみてもらえることに貢献します。では、一つ一つの課題をどのように解決できるか考えていきましょう。
地方コールセンターが自治体業務を効率化させる方法
地方にあるコールセンターの収益の柱が、自治体業務であるということは多々あります。では、どのように現在の業務を効率化させ、自治体からの信頼を強化していけるでしょうか。5つの解決策を考えてみましょう。
①後処理時間を短縮する
自治体業務の場合は、席数を減らすというよりは、受注した席数の中で、できるだけ多くの呼数に対応していくことが求められます。人員を減らす効率化より、オペレーター一人当たりの呼数を向上させる効率化が求められるのです。
そこで注目したいのが、「後処理時間を短縮させる効率化」です。コンタクトセンターシステムと生成AIを連携させることで後処理時間を短くできます。生成AIに、会話履歴のテキスト化と会話内容の要約を任せるのです。
一般的な平均後処理時間は6.6分と言われていますが、ChatGPTなどの生成AIと組み合わせると45秒程度まで短縮可能です。
コールセンターで役立つ生成AIについては、後ほど詳しく解説します。
後処理時間を短縮できれば、短期事業が多い自治体業務において、オペレーターの習熟時間を早められます。一番入電が多くなる立ち上げ当初の、放棄呼を減らしていけます。
②各種申し込みのデジタル申請への対応を強化する
現在、地方自治体は各種申し込みのデジタル化を推し進めています。そのためデジタル申請をサポートすることがコールセンターには求められます。
コールセンターシステムのビデオチャット機能を活用したり、映像サポートツールを活用したりできるでしょう。相手のプライバシーを守るマスキング機能や説明をわかりやすくするアノテーション機能がついているツールは役立ちます。
デジタル申請のサポートを強化することで、ひとつの問い合わせに対する対応時間を短縮できます。映像サポートのノウハウが蓄積されていけば、離島や過疎地への医療サポートの面でも貢献できるかもしれません。
③セキュリティを強化する
広い視野でみるとセキュリティの向上は効率化に欠かせません。情報漏洩が起きると、問題の対応に多くの人員と時間が割かれてしまうからです。
セキュリティを強化するには、最新eKYCツールの活用が役立ちます。お客さまには「生態認証」、オペレーターには「二要素認証」を使うなどして、社外と社内の両方のセキュリティ強化をすることができるでしょう。
情報漏洩のリスクを可能な限り下げておくことで、自治体からの信頼を得られますし、問題発生時の業務圧迫を未然に防げます。
④より正確な案内を目指す
地方自治体は、コールセンターの「住民対応スキル」を重視しています。
住民にとっては、業務がBPOへ委託されているからといって、問い合わせた先のオペレーターは自治体の窓口そのものです。オペレーターに親身な態度で、正確な案内をしてもらうことを期待しています。
住民の期待に応えるためには、オペレーターが適切なナレッジを参照できる体制を作っておくことがコールセンター側に求められます。オペレーターは質問に応えるのに必要なナレッジがあらかじめわかっていれば、余裕をもって落ち着いた対応ができます。
オペレーターに適切なナレッジを提供するには、コンタクトセンターシステムと生成AIを連携させ、AIに回答の提案をしてもらうことができるでしょう。生成AIによるオペレーター用FAQの自動生成も、正確な案内をすることに貢献します。
自治体業務に、正確な案内は必須です。ミスが少ないほど給付金などを迅速に住民へ届けることができます。案内ミスを減らした分だけ、官公庁や自治体職員への負担を減らせることにつながります。
⑤チャネルを複数持つ
問い合わせに住民が使うチャネルは、多様化が進んでいます。電話だけでなく、LINE、Webサイトのチャット、SMSが使われるようになっています。
チャネルごとにしか対応できない「点」のコールセンターシステムではなく、さまざまなチャネルをまたがって対応ができる「線」のコンタクトセンターシステムを活用しましょう。
マルチチャネル対応ではなく、オムニチャネル対応のシステムを活用してください。
問い合わせた人が好むチャネルで対応できることは、住民の満足度向上につながります。各チャネルでシームレスな対応ができることにより、効率的な運用が実現します。
地方のコールセンターが自治体以外の案件を獲得する方法
たとえ自治体案件が安定して受注できているとしても、今後大きな利益の向上は見込めないかもしれません。地方のコールセンターがステップアップしていくには、自治体業務を行いつつ、民間企業からも受注するもう一つの事業の柱を確立することが必要となるでしょう。
地方のコールセンターが自治体以外の案件を獲得するために役立つ3つの方法について解説します。
①地元の大学など教育機関と連携
地元大学などの教育機関と連携することができます。教育機関は入学の時期に問い合わせが最も多く、繁忙期となります。しかし似たような問い合わせが多い傾向があります。
そこでコンタクトセンターシステムのビジュアルIVR機能や、会話型IVR機能で効率的に対応する方法を提案できるでしょう。さらに繁忙期に合わせて席数の増減が簡単なクラウド型コンタクトセンターシステムを活用することもできます。ビデオチャット機能があるコンタクトセンターシステムであれば、地方の教育機関が課題として掲げている離島や、過疎地の学習サポートに貢献できます。
地元の教育機関と連携することで、地元雇用の拡大や地域への貢献を実現できます。
コールセンターが地元大学やスポーツチームと連携してくれることを、地方自治体は高く評価します。自治体との関係強化にもつながり、さらなる事業連携が進むかもしれません。
▶参考情報:「委託自治体の声 ~熊本県~創造的復興における頼もしい存在です!」
②地元の観光名所と連携
地方にあるコールセンターだからこそ、地元の観光名所と連携していけるでしょう。
宿泊施設やツアー会社と連携し、最新のコンタクトセンターシステムで観光客向けの「LINE対応」を行ったり、外国人向けに「WeChat」や「WhatsApp」といったメッセージングアプリ対応を行ったりできます。
生成AIによる多言語FAQを用意して、訪れる外国人観光客のサポートを効率よく行うことも可能です。
地元のオペレーターを採用することで、熱のこもったホスピタリティのある対応を実現できるでしょう。地域の雇用拡大や経済の活性化に貢献できます。
③地元の大規模プロジェクトを活用
地方経済を活性化させるために、官民一体の大規模プロジェクトが立ち上がることがあります。
たとえば、北海道では、ラピダス株式会社が半導体新工場を建設する5兆円規模のプロジェクト立ち上がりました。九州でも、台湾TSMCが中心となるシリコンアイランド九州プロジェクトが進められています。
地方の大規模プロジェクトには、複数のテック企業や交通インフラ事業者が関係します。さまざまな企業から中長期的な案件を受注することができる機会です。
カスタマーサポートの最新ツールである「ARサービス管理プラットフォーム」などを使って案件の受注を目指すことができるでしょう。
地方のコールセンターが社会貢献する方法
コールセンターが地方にあったとしても、本社が掲げる社会的使命を達成したり、社会貢献を推し進めたりする責任を免れるわけではありません。
社会貢献に地道に取り組んでいくことで、地域の信頼を得、地元雇用を促進していけます。地方で取り組むからこそ、注目されてメディアに取り上げられることもあるでしょう。具体的に、どのように社会貢献を推し進められるのか3つの方法を解説します。
①「脱炭素」を進める
SDGsという言葉が注目されていますが、実際に多くの企業が取り組むのは「脱炭素」です。コールセンターとして、どのように脱炭素を促進できるでしょうか。
カスタマーサポートにおける出張サービスを「ARサービス管理プラットフォーム」の活用で減らしていけます。ARを活用した遠隔サポートを実施すれば、出張のたびに使用する営業車のCO2排出量を減らせます。
さらに、ベルシステム24の島根県や兵庫県のコールセンターでは、再生可能エネルギーを導入しています。
▶参考情報:「ベルシステム24、気候変動方針での中期目標の対象施設である自社センターおよびデータセンターへ再生可能エネルギー導入」
②自治体や地元企業の「DX」をサポートする
地方自治体や地元企業の「DX」を推し進めていくことも、社会貢献の一環です。DX化が進むことで、地元住民や企業で働く社員の満足度が向上していくからです。
たとえば地方自治体は、多言語対応に苦慮することがあります。
そこで生成AIによる多言語FAQの自動作成を活用することができるでしょう。生成AIを活用して、外国人の住民や観光客に、地元情報を多言語発信していけます。さらに、災害情報の提供や避難所の情報提供も効率的に行えるようになります。
地元企業の通販サイトのお問い合わせチャネルが、電話とメールだけだった場合、地方コールセンターはDXにどのように貢献できるでしょうか。LINE対応やWebチャットによる対応の提案ができます。
さらに、地元企業の通販サイトでよくみられるのが、サイトの一部のページは多言語対応しているものの、肝心のFAQは日本語のみといった作りです。この場合、生成AIによる多言語FAQの活用が有効です。
③「少子高齢化」に対処する
少子高齢化は社会問題となっています。コールセンターとしてどのように問題解決に取り組めるでしょうか。
最新のコンタクトセンターシステムはクラウド型なので、拠点と在宅の両方で働くハイブリッドワークを簡単に実現していけます。ハイブリッドワークを採用するなら、退職したベテランや子育てママとう人材を有効活用していけます。
「ARサービス管理プラットフォーム」を活用するなら、ベテラン技術者の有効活用も可能になります。たとえば、ARを使った遠隔サポートをすることで、一人の技術者が複数個所のカスタマーサポートを実行できます。
最新ツールを採用することにより、少子高齢化が進んでも、少人数で質の高いサービスが提供できる体制を作っていけるでしょう。
コールセンターが活用したい4つの生成AIの使い方
生成AIツールがあふれていますが、コールセンターで実用化できる使い方とは何でしょうか。弊社が提供している「カスタマーサービス用・生成AIシステムパッケージ4種類」を紹介します。コールセンターで生成AIを活用する際の参考にしてください。
パッケージの内容は以下の通りです。
- 「通話音声のテキスト化」
- 「要約」
- 「回答のリアルタイムサジェスト」
- 「FAQ自動生成」
それぞれのパッケージを簡単に紹介します。
1.「通話音声のテキスト化」
通話内容を元にしてAIで業務処理を行うにあたり、まず通話音声をテキスト化することが基本となります。
いまお使いのコンタクトセンターシステム(PBX, CTI等)にテキスト化の機能がない場合には、テキスト化処理をする必要があります。弊社では、通話音声のテキスト化は、リアルタイム(ストリーム)でも、録音ファイルからでも行えます。
テキスト化には、以下のエンジンをお選びいただけます。
- Amazon Transcribe
- OpenAI Whisper
- Azure Speech to Text
- Google Speech-to-Text
- IBM Watson
2.「要約」
オペレーターとお客さまの通話内容など、任意のテキストを生成AIが要約します。要約は連携したCRMに保存したり、オペレーターへの回答サジェストの生成に利用したりできます。FAQ生成ソースやトレーニング教材として活用することも可能です。
回答生成のAIモデルには、Azure OpenAIやOpenAIなどをお選びいただけます。
3.「回答のリアルタイムサジェスト」
オペレーターとお客さまの通話内容からリアルタイムに質問内容を導き出し、社内に蓄積したナレッジから関連情報を自動検索し、関連情報をベースにお客さまへの回答を生成してリアルタイムにオペレーターへ提示できます。
社内ナレッジの検索には、以下の方法をお選びいただけます。
- Amazon Kendra
- Azure Cognitive Search
- ベクトルDB
※生成AIの運用で最も心配されるのは、ハルシネーションとも呼ばれる「AIのもっともらしいウソ」です 。弊社では、ハルシネーション対策を、検索データの限定と回答生成のチューニングで行います。
4.「FAQ自動生成」
オペレーターとお客さまの通話内容をテキスト化したデータをもとに、FAQを自動作成します。このパッケージでは以下のことが可能になります。
- 作成したFAQを既存のFAQとマージする
- オペレータの回答元となる社内ナレッジに追加する
- Webページやチャットボットとして展開する
AIによって生成されたQ&Aの「FAQへのグループ化(クラスタリング)」、「既存のFAQとの突合やマージ」は、OpenAIのベクトル化機能をベースにして自動で行えます。また通話スクリプト以外に、コンタクトリーズンなど関連データが保存されている場合、それらをFAQ生成のカテゴリ分類に活用することも可能です。
「コールセンターにおける生成AIの活用」について、お気軽にご相談ください。生成AIの「仕組み」から「何が実現できるか」まで丁寧に説明させていただきます。
最後に
地方へ進出したコールセンターが一定期間を過ぎ、さらなる収益化などステップアップを目指す際に直面する課題を3つ取り上げました。「自治体業務の効率化」「自治体以外の案件の獲得」「社会貢献」です。
いずれの課題の解決策にも、コンタクトセンターシステムと生成AIの連携が効果的です。生成AIによってオペレーターの後処理業務を簡素化させたり、FAQの自動生成で顧客の自己解決率を向上させたりできます。
最新コンタクトセンターシステムと生成AIを活用することで、顧客満足度と従業員満足度を同時に向上させていきましょう。