アメリカで2月2日にApple Vsion Proが発売されました。AppleはVision Proのことを「VRゴーグル」とか「VRヘッドセット」とは呼んでいません。「空間コンピューティングデバイス」と呼んでいます。

さらに、メタバースでも「空間コンピューティング」という言葉が使われています。最近よく耳にするようになった空間コンピューティングとは何なのでしょうか。

今回は、空間コンピューティングそのものにフォーカスを当てて、空間コンピューティングが今後のビジネスにどのようなメリットを生じさせるのか、すでにどのような分野で活用されているのかを紹介していきます。「空間コンピューティングを自社で活用できるかどうか」「活用にあたり自社にどのようなメリットがあるか」を検討する際の参考にしてください。 

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「空間コンピューティング」とは

「空間コンピューティング」(Spatial computing)という発想自体は決して目新しいものではありません。現在、「空間コンピューティング」に関して統一された厳密な定義があるわけではありませんが、一部では「機械、人、モノの動きと、その環境をデジタル化し、さまざまな作用と相互作用を実現して最適化する技術」と説明されています。 近年急激な発展を見せているVRやAR、MRといった技術も全て含めて「空間コンピューティング」として説明することができます。 

今年になって空間コンピューティングが話題になっている理由の一つは、6月にApple社がAppleVisionProを発表した際に「空間コンピューティング」という言葉が使われたからです。また、5Gの登場やスマートフォンの進化といった技術革新によって、空間コンピューティングがより容易に実現可能になったという側面があります。 

空間コンピューティングが4つの業界へもたらすビジネスメリット 

「空間コンピューティングをフル活用しようとすると、AppleVisionPro然り何かしらの専用デバイスありきになるのではないか」と心配になるかもしれません。また、「空間コンピューティングが具体的にどのような分野で活用できそうなのかが分からない。自社には関係ないかもしれない」と思っている方もいるでしょう。ビジネスメリットが不明瞭だと考えておられる方も少なくはないのでしょうか。

空間コンピューティングがすでに日常化しつつある一例として、ARの実用化を挙げることができます。ここからは、空間コンピューティングの一つのかたちであるAR技術が、どのように実用化されているのか業界ごとに紹介していきます。空間コンピューティングの活用によって、顧客体験をどのように改善・向上できるのか、作業効率や安全性をどのように高められるのかといったビジネスメリットを探るヒントにしてください。

医療

医療業界における空間コンピューティングの活用は、トレーニングの効率化医療機器保守の効率化という面で特に注目されています。

トレーニングの分野でARを活用することにより、3Dモデルを利用して体や器官といった複雑な内容について理解しやすくなることが期待されていたり、より実地に近い環境での外科手術のトレーニング実施が期待されたりしています。

ARの活用は、他にもリモートでのヘルスケアスケアを実現可能にしたり、病状や治療計画の可視化を図ったりという効果ももたらしています。空間コンピューティングは、医療業界の飛躍的進歩に大きく関与しているのです。これからも関与していくことは明白です。

医療機器保守の分野においても、ARは業務効率化やコスト削減に大きく寄与しています。たとえば、最新のARソリューションを利用すると、日常点検の時点で次に行うべき部品交換やメーカー対応を自動で予測できます。また、日に日に高度化する医療機器について、メンテナンスに関わる臨床工学技士の負担を軽減させることも可能です。

これらは、大規模かつ高額な修理や医療事故を防止し、従業員満足度を向上させていきます。結果、業務は効率化され、スタッフのトレーニングにコストをかけられ、組織として患者さまからの信頼性獲得・維持・向上に繋がります。

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建築

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建築業界におけるARの活用は、日本のみならずアメリカで積極的に採用されています。アメリカでは、新築施工時のユースケースが多い傾向です。とくに大規模建設や社会福祉施設といった都市の印象を左右したり、近隣に大きな影響を及ぼしたりする際の新築工事でARが活躍しています。

建築物のイメージをARによる3Dで視覚化し、建設作業へ取りかかる前段階で関係者との念入りな打ち合わせや、建築スケジュールの組み立てが容易になります。

日本国内では、特定のアプリがインストールされた端末を使ってモデルルームを歩くと、所定の位置で音声ナレーションが流れ、内見者が実際の生活をイメージしながら見学できるという事例があります。

いずれの場合も、近隣住民や施設、関係する地域や国の担当者との円滑で正確なコミュニケーションに役立ち、よりスムーズで無駄のない建築作業を行っていけるメリットをもたらします。

建築業界では人手不足が大きな問題となっているので、可能な限り人的コストを削減し、無駄を省いていくことは急務となっています。

アパレル

virtual fitting room – woman trying on shoes online with digital tablet

アパレル業界でのAR活用例としては、最近耳にするようになった「バーチャル試着」がトレンドです。バーチャル試着では、等身大の自分の姿に合わせてモニター上で試着ができます。顧客と商品のミスマッチを予防することができ、返品率やクレームの減少が見込めます。

「似合うかどうか」「実用的かどうか」といった判断もしやすくなるので、購入の意思決定のスピードを早めたり、高倍率そのものを向上させたりといった効果を期待できます。

オンラインでの買い物は、「試着できない」を最大の理由として避けられることがありますが、この点でのハードルと実用性が変わるため、顧客体験と顧客満足度の向上に大きな効果を発揮するはずです。

アパレル業界でのAR活用は、H&Mのようなファストファッションブランドから、GUCCIのようなラグジュアリーブランドにいたるまで広がりを見せ始めています。とはいえ、まだまだ一般化していないのが現状です。ですから、ARを活用する早めの挑戦はプロモーション効果を生み出します。

製造

製造業におけるAR活用のメリットは、多岐にわたって多く存在します。時間的、人的、金銭的コストのカットや、SDGsへの取り組み・実現、市場の拡大、高いROIの実現、従業員満足度の向上といったメリットです。かなり魅力的なメリットが並んでいるのではないでしょうか。

AR活用のシーン例の一つに、製品設計、コンポーネント、および製造プロセスをARでテストするというものが挙げられます。これにより、試作品製作のコストカット、製品開発プロセス全体をより迅速かつ費用対効果の高い方法へと改善していくことが可能です。

また、設備保全の側面でも強力な効果をもちます。最新のARソリューションは、遠隔で保守業務を行うための強力なツールとなります。遠隔で保守業務が行えると、必然的に現場派遣にかかるコストはカットされ、場所や状況次第で必要となる技術者の身の安全も確保できます。「きつい、汚い、危険」の3Kとされる製造業において、高いEXの実現が見込めるということです。

スマートグラスはもちろん、ドローンやパソコン、スマートフォン、タブレットといったさまざまなデバイスで利用できるARソリューションを選ぶことが、遠隔業務をより正確、かつ迅速、安全に行うポイントです。

派遣業務の減少は、SDGsへの取り組み・実現にも繋がります。事実として、年間約4,500kgのCO2削減になっている例があります。SDGsへの取り組みは環境に配慮した企業としての対外的アピールとして有効であるだけでなく、人材採用の点でもプラスに働き、ゆくゆくは人材不足問題へのアプローチにも直結するので、大変重要な要素です。

また、遠隔での保全業務が確実に行えるようになると、市場をより拡大することが可能です。海外への進出も夢ではありません。加えて、ARソリューションを検討する際には、高いROIを実現できるかどうかの計算も忘れないでください。

検討しようと思うソリューションのROIが高いかを判断するものさしとして、1年間の活用で約4億円のコストカットを図れたソリューションがあります。これを基準として、今検討しているソリューションによって得られるROIが高いかどうかを判断するのは良いかもしれません。

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最後に

さまざまな業界でARが空間コンピューティングとして活用されていることを紹介しました。いずれの業界や活用法においても、「現地にいなければできない」「現地で行わなければ効率が悪い」「実物がなければ無理」と思われていたことをARで可能にしていたのではないでしょうか。

しかし、現実には空間コンピューティングの活用によって、困難/不可能/理想と思われていたことが実現しています。空間コンピューティングの浸透は、仮想と現実の融合を加速させると考えて間違いないでしょう。ゆえに業務スタイルに関するパラダイムシフトが始まっていると言えます。

ARやVRを始めるとする空間コンピューティングに関して、具体的な活用ビジョンを描いていないと、近いうちに業界全体から置いて行かれてしまうリスクがあります。BtoCに関しては、現在はまだ顧客側への端末普及やAR、VRといった技術への受け入れ姿勢の構築といった課題が残っています。関連端末が高額であるといった問題もあります。しかし、市場は確実に大きくなると見込まれています。

企業として現実にも仮想にも置いて行かれず、二つの空間をよりシームレスに渡り歩いて活用することを目指したいものです。

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