医療機器保守サービスを行う医療機器メーカーや医療システムベンダーは、より効率的なサポートの運用方法を考えています。もし「人件費や出張コストを抑えた保守サービス」「よりスピーディで的確な修理サービス」を行えるのであれば、企業メリットだけではなく、現場の医療機関のためにもなるからです。
今回は、医療機器保守サービスを効率化させるAIやARの最新事情について解説していきます。海外で話題の「サービスの前倒し」というアプローチの仕方についても紹介するので参考にしてください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
業務の効率化ができる「ARサービス」の提供をしています。
詳しくは資料で紹介しているのでご覧ください。
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医療機器を安全に使う3つのポイント
医療機器保守サービスにおいて、効率化やスピードを求めすぎるのは危険です。安全を最優先にしなければいけないからです。そこで重要になるのが以下にあげる3つのポイントです。
- 日常点検(医療機関で実施)
- 保守点検(医療機器メーカー、ベンダーが実施)
- 修理対応(医療機器メーカー、ベンダーが実施)
これら3つのポイントは、現場で医療機器を安全に使い続けるのに必要です。
まず、実際に機器を使用する現場での日常点検が必要になります。さらに、医療機器メーカーやベンダーが定期的に行う保守点検、そしてトラブルが発生したときの修理対応が必要になります。
しかし現実には、これら全てを正確に、効率的に継続していくのは簡単ではありません。
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医療機器保守サービスが抱える課題
医療機器保守サービスを実施していく面で、メーカーやベンダーが直面する課題は主に6つです。
- 日常点検を行う医療機関スタッフのトレーニングが大変
- 保守を実際に行う業者への委託コストが高い
- メンテナンス要員を派遣するための日程調整に時間がかかる
- トラブル発生から修理対応までの時間が長くなってしまう
- 24時間365日サポートにしたいがコスト的に非現実
- 保守サービスに費やしている人員とコストを開発や営業に回したい
医療機器メーカーやベンダーが上記の問題を解決するために採用している一つの方法は、保守サービスをアウトソーシングすることです。24時間体制のヘルプデスクや、全国に技術者を派遣する拠点を持っているアウトソーサーへ委託する方法が多く採用されています。
それでも、医療機器保守サービスを委託するだけでは解決しない課題があります。
アウトソーシング医療機器保守サービスの特徴と残る課題
一般的なアウトソーシング医療機器保守サービスの種類は3つです。
- ヘルプデスクサービス
- 24時間監視サービス
- 保守・修理サービス
ヘルプデスクサービスでは、医療機器に関する問い合わせや故障受付を24時間体制で行われます。24時間監視サービスでは技術者がリモートで監視を行います。さらに、保守やトラブルの対処のために、全国各地の拠点からスタッフの手配をしてくれます。もちろん各アウトソーサーによってサービスの詳細は異なります。
しかし、提供される各サービスには限界があります。
ヘルプデスクでの対応は、あくまでも口頭でのマニュアルを見ながらの電話サポートまでです。24時間監視サービスも、故障の兆候や発生を素早く見つけるまでであり、事前に予測するところまでには至っていません。
保守・修理サービスは、技術者を現場に派遣する方法が基本なため、日程調整に時間がかかってしまいます。派遣される技術者が問題を解決するまでは、病院で機器を使用することができません。現場に負担がかかり、病院から催促を受ける医療機器メーカーの対応も大変になります。
では医療機器保守サービスの最先端を行く海外では、どのようにこれらの課題に対処しているのでしょうか。
サービスの「前倒し」というアプローチ
欧米では、医療機器保守サービスの現場をはじめ、スタッフを派遣して機器メンテナンスを行う業界で「シフトワークレフト(Shift work left)」という用語が使われ始めています。シフトワークレフトとは、「技術者が現場に派遣されてから提供する『サービス』そのものを前倒しして提供しよう」という考え方です。
もともとシフトレフト(shift left)という用語は、IT業界で使われていました。ソフトウェア開発において、通常は開発期間の中期・後期で行っていたセキュリティテストなどの工程を前倒しして実施することを表す用語です。このシフトレフトの考え方を、保守サービスの現場に応用させたのが「シフトワークレフト」です。
従来の保守サービスは、以下の流れで行われていました。
トラブル発生➡ユーザーによる自己解決の試み➡ヘルプデスクでの対応➡技術者へのエスカレーション➡技術者を現場へ派遣
トラブルが発生すると、まず現場でユーザーが自ら機器の問題を解決しようとします。それでも無理な場合、ヘルプデスクへ問い合わせます。ヘルプデスクの一時対応で問題が解決しないときには、技術者へ対応が切り替わり、専門的なサポートが電話で行われます。
依然として問題が続くときには、最後の手段として技術者が現場へ派遣されます。派遣された技術者は、機器の状況を確認し、問題の原因を特定し、必要な修理を行って問題を解決します。
シフトワークレフトでは、技術者が現場で行うはずの「機器の状態を確認すること」「問題の原因を発見して修正すること」といったサービスを前倒しで提供していきます。つまり、ユーザー自身が機器の状態をチェックし、問題の原因を発見できるようにするのです。
それでも解決しなければ、ヘルプデスクで技術者が原因の特定と修正をリモートで行います。
AIとARを使って、ユーザーの自己解決、ヘルプデスクからのリモートサポートを行っていくのです。
最先端のAI/AR医療機器保守サービスの特徴
「シフトワークレフト」のアプローチを採用している最新のAI/AR医療機器保守サービスには、3つの特徴があります。
- AIでユーザーの自己解決をサポート
- ARによるリモートサポート
- AIでトラブルを事前予測
それぞれの特徴を見ていきましょう。
AIでユーザーの自己解決をサポート
ユーザーがスマートフォンやタブレットを医療機器にかざすと、AIが機器のモデルと状態を検出してくれます。日常点検であれば、どこをチェックすべきか、トラブル発生時であれば何をどの順番で確認すべきか教えてくれます。
AR対応の矢印やコメントでガイドしてくれるのでわかりやすく、機器に詳しくないユーザーでもフォローしやすいのが特徴です。
AIが搭載されていますから、正しい手順で機器を操作しているかを同時に確認してくれます。
日常点検を行う病院スタッフが、機器に詳しくなくても点検手順をすぐに理解できます。トラブルが発生しても、病院スタッフが原因特定や調整を行っていけます。AIとARで自己解決率が向上していくのです。
ARによるリモートサポート
自己解決できない場合は、すぐ技術者からのリモートサポートを受けられます。
技術者は現場にいる病院スタッフのスマートフォンなどの端末から、トラブルが起きている機器の状態を正確に把握できます。ARツールで故障個所の指摘、直すための操作を病院スタッフへ的確に指示できます。
AIでトラブルを事前予測
可能であればトラブルは起きてほしくないものです。最新のAI/AR医療機器保守サービスでは、AIが日常点検の際に機器モデルを見極めてくれます。
該当する機器の故障や修理などの履歴情報と現在の情報データを組み合わせます。トラブルが発生する前の段階で、問題を発見できるようサポートしてくれるのです。
医療機器保守サービスにAI/ARを活用すると何が変わる?
医療機器保守サービスにAI/ARを活用することによって、従来の保守サービスから何が変わるのでしょうか。
誰でも医療機器の管理ができる
スマートフォンやタブレットをかざせば、自動でAIが機器の型番を特定し、テキストや動画で日常点検の方法やトラブル対処法を教えてくれます。結果として、製品知識が限られている病院スタッフが、点検、保守、修理を行うことができるのです。
トラブルの解決時間を短縮
もちろん病院スタッフがすべての問題に対処できるわけではありません。しかしビデオ通話で技術者からのサポートをすぐに受けられるので、問題解決の時間を大幅に短縮できます。
ARを使うため、技術者は指示が出しやすく、病院スタッフはどこをどのように操作すべきかがわかりやすくなります。双方にストレスなくトラブルシューティングをしていけます。トラブルで機器が使えない時間が短くなるので、病院業務に負荷がかかりません。
効率的な保守トレーニングを実現
医療機器保守サービスにARを活用することで、効率的な保守トレーニングを行っていけます。新たな機能が追加されたり、機器の入れ替えを行ったりしたときに、リモートで病院スタッフのトレーニングを行えます。
医療メーカーやベンダーが派遣する若手技術者のトレーニングも効率的に行えるでしょう。ベテラン技術者は現場で働く若手技術者をリモートでサポートできます。
ベテラン技術者のナレッジをテキスト化や動画化し、AI/ARツールに一元化しておけば、、若手技術者は現場でナレッジを参照しながら作業を行えます。ベテランと若手の世代交代をスムーズに進めていけるでしょう。
補足:AI/AR搭載の機器メンテナンスサービス・プラットフォーム「CareAR/Xerox」
米ゼロックス社が提供するCareARは、シフトワークレフトを可能にするプラットフォームです。CareARには主な3つの機能があります。
CareARアシスト
ユーザーや派遣スタッフがどこにいようと、拡張現実(AR)によるスムーズな視覚的なサポートをベテラン技術者が遠隔で提供できます。
CareARインストラクト
ひと目でわかるAR対応の指示を自動で表示してくれます。ユーザーは表示される指示に従えばよいだけなので、手順を抜かすなどのミスを防げます。
CareARインサイト
スマートフォンやタブレットを製品にかざせば、製品詳細やサービス履歴が表示されます。修理対象のモデルに関する豊富なテキストや動画のデータが表示されるため、ユーザー、現場にいる技術者がより適切な判断を下せます。
最後に
効率的な医療機器保守サービスは、AIとARを搭載しているツールで実現できます。派遣される技術者が最終的にトラブルを解決できるのであれば、技術者が提供できる「サービス」を前倒しして提供しようという「シフトワークレフト」の考え方をAIとARで実現していくのです。
「具体的にどのようにするのかイメージできない」と感じるかもしれません。実際に行うことは、「ユーザーの自己解決精度をAIで高めること」「技術者によるリモートサポートをARで分かりやすくすること」です。「トラブルが発生するのを未然に防ぐためAIを活用すること」も行います。
最新のAI/AR搭載の機器メンテナンスサービスは、既存のマニュアルをドラッグアンドドロップで活用できるなど、導入と運用が簡単なのが特徴です。
時間と人件費がかかる従来の医療機器保守サービスから、効率的で医療現場の業務を妨げない保守サービスへとアップデートさせていきましょう。