近年、XR技術はゲームやエンタメ業界だけのものではなくなっています。XRのビジネス活用が進んでいるのです。そのためビジネス向けXR市場の成長が見込まれています。デロイトトーマツミック経済研究所の予測によると、2026年度には1兆円を優に超えると考えられています。

今回は、なぜXRのビジネス活用が進むのか、実際にビジネスの現場でXR技術が使えそうな場面はどこなのか解説していきます。とくに「カスタマーエクスペリエンス」と「従業員エクスペリエンス」の二つを向上させるためにXRを活用できる場面9つを紹介するので参考にしてください。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

XRとは

最初に、XRとは何なのか簡単にまとめておきましょう。XRとはクロスリアリティの略で、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)の総称です。それぞれ4つは異なった技術ですが、組み合わされて使用されることも多く、現在は各技術をはっきり区別するのが難しくなってきました。そこでビジュアルを処理する技術の総称として、XRが使われるようになってきたのです。

※XRはExtended Realityの略とされることもあります。

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)の違い

4つの技術の特徴を以下にまとめておきます。

各XR技術VR(仮想現実)AR(拡張現実)MR(複合現実)SR(代替現実)
特徴仮想世界を現実のように体験できる。360度の仮想世界を一人称視点で楽しめる現実世界に仮想世界を重ねて体験できる技術ARより密接に現実世界と仮想世界の情報を複合させる現実とは違う映像、音声、その他の感覚を現実であるかのように認識させる技術。時間、嗅覚、触覚体験を入れ替えられる
デバイスヘッドマウントディスプレイ、スマートフォンとセットのVRゴーグルスマートフォン、タブレット、ヘッドマウントディスプレイ、スマートグラス(※Webブラウザ上での利用も可能)スマートグラス、ヘッドマウントディスプレイヘッドマウントディスプレイ、センサーデバイス
ビジネス活用VR内での3Dデザインの共有とチーム制作、VRミーティング、VRオフィス、VR研修遠隔診療、家具店で家具の購入後をイメージしてもらうために活用、オンラインショッピング展示会、フィールドワークで現場作業を遠隔地から確認、建物を建設予定地に表示させる資料館、博物館、心理療法、消防士のトレーニング、手術のトレーニング

参考情報:SRのビジネス活用例 https://www.tttechrec.com/uncategorized/just-like-the-simulations-substitution-reality-3/

※現在、ビジネスの現場で使用されるヘッドマウントディスプレイは、国内企業が独自開発したものや、Meta社の「Meta Quest Pro」が多い。

XRはゲームからビジネス活用へ

VRは1930年代にフライトシミュレーター用に使われていましたが、1990年代にゲームコンテンツに使用されることで徐々に認知度が高まりました。2016年にポケモンGOが世界的にヒットすると一気にARの認知度が高まり、VR専用のハードウェアなども販売されるようになります。

当時はまだゲームやエンタメ業界での活用でしたが、近年ビジネス活用が進みます。その背景にあるのがDXです

国内外でDXが進むことで、データの収集と管理が容易になりました。各企業は「せっかく収集したデータをもっと効果的に活用したい」と思うようになります。

そこでVRやARを使ったマニュアル作成、遠隔サポートの実施、MRを使った3Dモデルの制作などが始まっていきます。同時にヘッドマウントディスプレイなどのハードウェアの低価格化や多様化ハンドトラッキング機能の向上が重なり、各方面でXRのビジネス活用が進んでいるのです。

Apple社がヘッドマウントディスプレイを近々発表するのではないかと予測されています。もしAppleによるXRデバイスが発売されるなら、XR技術はより市場へ浸透していくことでしょう。

開発ツールもゲームからビジネス用途へ 

XRの開発ツールもゲーム開発でメインで使われてきた「Unity」や「UnrealEngine」がビジネス用途でも活用され始めています。たとえば、UnrealEngineは不動産のPR、自動車の設計、宇宙開発などさまざまな分野で活用されているのです。

参考情報:ポッドキャスト「ゲームエンジンと産業はどう関わっていくのか、ヒストリアの佐々木社長に訊く

ビジネスでXR技術が使えそうな場面9つ

XR技術がビジネスで使えそうな場面を「カスタマーエクスペリエンス」と「従業員エクスペリエンス」の2つに分けて確認しておきましょう。

カスタマーエクスペリエンス

カスタマーエクスペリエンスを向上させるためにXRが使えそうな場面を紹介します。

1. カスタマーサポート

WIFIルーターの設置、トラブル発生時にARを使ってお客さまを遠隔サポート。ARとAIの活用でトラブルの解決法がわかるオンラインマニュアルの作成。

参考情報:カスタマーサポート向けAR遠隔サポートプラットフォーム「CareAR/ゼロックス

2.オンライン接客

メタバースでの買い物体験。部屋にいながらスマートフォンを動かし、360度のショーケースを見てショッピングができる。手元を画像共有して行うオンラインレッスン。

3.バーチャルツア

新しい物件の内装や家具をXRで再現する。質感、奥行き、太陽光などを詳細にチェックできる。オフィスで従業員がいる様子なども再現できるため、動線のデザインが容易。

4.3Dバーチャル試着

リアル店舗でバーチャルフィッティングミラーを使い簡単に試着体験ができる。在庫がなくても試着が可能な点が評価されている。

従業員エクスペリエンス

XR技術は従業員エクスペリエンスを向上させるためにも活躍します。

5.遠隔サポート

現場作業を行っている新人スタッフをスマートフォン、タブレット、スマートグラスを通して本社にいるベテラン技術者が遠隔サポート。

参考情報:設備保全向けAR遠隔サポートプラットフォーム「CareAR/ゼロックス

6.製造業

プロダクトの維持管理、新製品のXRを用いた共同開発、製品の品質管理

上記のデロイトトーマツミック経済研究所の調査では、製造業が最も多くXRを活用している。

7.医療分野

手術シミュレーション、医療機器のメンテナンス、都市部と郊外の医師の共同作業

8.教育・トレーニング

本社とリモートワーカーが一緒にトレーニングできる。遠隔地にいる専門家による研修が可能。

9.製品開発

テスターにヘッドマウントディスプレイを付けてもらい、自動車の内装の使い勝手や安全性をチェック。CT用など大型医療機器のデザインチェック。

最後に

ゲームからビジネスへの活用が進むXR技術は、カスタマーエクスペリエンスを向上させるために貢献します。購入した機器のトラブルをARマニュアルを見ながら解決したり、カスタマーサポートのオペレーターに遠隔サポートをしてもらって解決したりできます。自宅に居ながらにしてのショッピング、リアル店舗にいながら希望の商品を好きなだけ試着してみることができます。家を建てる際の内装をバーチャル体験することも可能です。

従業員エクスペリエンスを向上させるためにもXRは活躍します。新人スタッフは遠隔地にいるベテラン技術者からのサポートを受けながら安心して作業ができます。場所にとらわれずに研修やトレーニングが行えるため、従業員のスキルアップやキャリアアップを実現できるでしょう。

XRといっても技術は多岐にわたるので「どこから手を付けたらよいかわからない」と思われるかもしれません。まずは必要な機器が少なくて済むARの導入から始めてみることをおすすめします。ARをカスタマーサポートや設備保全で運用するには、スマートフォンやタブレットがあれば十分です。最新AR遠隔サポートプラットフォームは、ノーコードで運用できるので専門知識が不要なのも安心して導入できるポイントです。

XR技術をビジネス活用することによって、カスタマーエクスペリエンスと従業員エクスペリエンスを次のステップへ向上させていきましょう。