CX(カスタマーエクスペリエンス)戦略で重視されてきたのは購入体験、プロダクトの使用体験でした。しかし今は、カスタマーサポート体験の重要性が高まっています

なぜなら、お客さまが企業とかかわりを持ったあと、一番ストレスを抱えるのは、使用しているプロダクトにトラブルが発生するときだからです。トラブルの解決に時間がかかればかかるほど、お客さまの不満は高まっていきます。反対に、すぐ問題が解決すればお客さまは感動体験を得られます。

現在、米国では優れたカスタマーエクスペリエンスをトータルで提供できるように、カスタマーサポート体験も含めてCX戦略を作る流れが強まっています。これがSXM(Service Experience Management/サービス・エクスペリエンス・マネジメント)という考え方です。そしてSXMを実現するためにARツールが採用されています。

今回は、米国で始まっているSXMというCX戦略の新たなアプローチについて解説します。さらにSXMにARがなぜ欠かせないのかも説明します。CX戦略をより優れたものにするために参考にしてください。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

CX戦略に必要なのはSXMという考え方

今、米国のカスタマーサポート業界で注目されているのがSXMという考え方です。これまでCX(カスタマーエクスペリエンス)は、プロダクトの購入体験と使用体験が重視されてきましたが、今はカスタマーサポート体験も重要であると認識されてきています。

なぜカスタマーサポートが重要なのでしょうか。冒頭で述べたように、一つはお客さまがカスタマーサポートが必要になるときは一番ストレスがかかっているからです。

さらに、お客さまはプロダクトの購入、使用、カスタマーサポートのすべてを区別して考えていません。すべて企業が提供する一つのサービスととらえています。そのため、これらのサービスを融合して顧客体験をデザインしていこう、というのがSXMなのです。

SXMはCX戦略の本質です。Gartner社によるとCXは次のように定義されています。

「顧客との接点を設計し、顧客に対応していくことで、顧客の期待に応えたり期待を上回ったりできる。そのとき顧客の満足度、ロイヤルティ、信頼度は高まっていく」

What is Customer Experience?

Gartner社の定義によると、CX戦略で重要な顧客接点は、販売時だけと区別されていません。顧客接点の全般が重要なのです。つまり、お客さまがプロダクトを利用して疑問を抱くときや、トラブルが発生したときに生じる顧客接点がCXに含まれるということです。

それで、カスタマーサポートという顧客接点もデザインするSXMという考え方は、実は新しいものではなく、CXの本質であると言えるでしょう。

SXM(Service Experience Management/サービス・エクスペリエンス・マネジメント)とは
プロダクトを購入する体験や購入後の使用体験だけでなく、問題発生時のカスタマーサポート体験すべてを通して優れた体験ができるよう管理すること。顧客に感動する体験を提供できるようすべてのサービスをトータルでデザインするという考え方

参考情報:3 Reasons You Should Care About Service Experience Management
Announcing Service Experience Management (SXM)

自己解決率はSXMにおいて重要なポイント 

現在、インターネットの高速化やスマートフォンの普及によって、お客さまがアクセスできる情報は以前より増えています。ユーザーは企業のプロダクトについて今まで以上に賢いと言えるのです。そのため、お客さまが企業にわざわざ問い合わせず、自分で問題を解決できたほうが顧客満足は向上します。

SXMでは、自己解決率を高めるカスタマーサポートが重要になります。お客さまが容易に自己解決できるようなサービスが提供されているかいないかは、CX戦略が成功するか失敗するかの分かれ目になっていくでしょう。

カスタマーサポートを提供する従業員の年齢が年々上がっていることも自己解決率の向上に努めなければいけない理由の一つです。労働力の高齢化はCX戦略にとって障害となります。なぜならサービスを提供する従業員の年齢と顧客の年齢が離れていき、スキルギャップ、ナレッジギャップが発生してしまうからです。これでは顧客満足度を高めることはできません。

今からお客さまの自己解決率を高めていかなければ、先にSXMを取り入れた競合他社に大きな後れを取ることになるでしょう。

SXMがレビューに与える影響

SXMに取り組み、自己解決率の向上に努めていくならお客さまのレビューに良い影響を与えられます。現在、多くの人は企業のプロダクトを購入するか決める際に、ユーザーのレビューを参考にしています。もしお客さまに感動できるカスタマーサポート体験を提供できていれば、その感動をレビューに書き込んでくれるでしょう。反対に、不満やストレスを感じたなら、そのネガティブな感情がレビューに書き込まれてしまいます。

従来のCX戦略とSXMの違い

従来のCX戦略では、各部署が別々にCXの向上に取り組んできました。営業やマーケティングチームが、購入体験と使用体験を重視してサービスの向上に努めてきました。さらにコールセンターやWebを中心としたカスタマーサポートチームが、自分たちのサービスの質を高めようと努力してきました。また、現場スタッフによる訪問サービスを実施するチームも、独自の努力を行ってきました。

しかも、各チームで別々のシステムを使うケースが多く見られました。そのため顧客情報を一元化することができていません。結果、お客さまは問い合わせるときに各部署をたらいまわしにされたり、何度も同じ説明をしたりする必要があったのです。

SXMではこれら異なる部署で行われてきたサービスを、ひとまとまりに捉えます。どの部署も同じシステムを使い、お客さまの購入情報から問い合わせ履歴まですべてを一元管理します。

CX戦略において情報の一元化はますます重要になっていくでしょう。なぜなら、これまでCX向上のために分析する顧客情報は限られていました。一方、今はSNSアカウント、動画履歴、Web閲覧履歴、資産状況、選ぶサービスの好みなど多岐にわたる情報を分析しなければなりません。お客さまが利用する問い合わせるチャネルも多岐にわたっています。

今後、分析に使用する情報や問い合わせチャネルはさらに増えていくことでしょう。顧客情報管理の一元化は今から始めていかなければなりません。情報の一元化については後ほど詳しく解説します。

SXMでは現場のツールが重要

SXMで重視されるのは、従業員が使うツールです。多くのカスタマーサポートの現場では、使い勝手が悪い古いツールがそのまま使用されています。

もし従業員が現在使用しているツールに不満を持っているのであれば、注意してください。不満が高まっていくと、離職率が高くなるおそれがあるからです。採用率が落ちるリスクもあります。

なぜでしょうか。従業員は企業が使うツールやシステムを選ぶことはできませんが、働く場所を選ぶことはできるからです。売り手有利になっていく採用市場では、従業員が魅力的なツールを使えているか、従業員が効率的に働けているかが重要になってきます。

企業にとって、従業員はいわば新たなお客さまです。もし自社が7年や6年間も同じツールを使っているのであれば要注意です。過去数年以内に採用された従業員が、今のツールにどんな印象を持っているかリサーチしたほうが良いでしょう。従業員が満足できるツールを使用するなら、業務におけるストレスは減り、カスタマーサポートの質は結果的に上がっていくでしょう。SXMが実現していきます。

Z世代の従業員満足度を向上させることがSXMのカギ

Z世代はITリテラシーが高い傾向にあります。パソコンではなく、スマートフォンを使って育ってきました。オンラインゲームやSNSを使ってコミュニケーションをとることに慣れています。

覚えておきたいのは、Z世代は顧客としてだけではなく、従業員としても企業と関わってくるということです。現在、Z世代は世界の労働人口の24%を占めます。2030年には40%以上になると予測されています(上記の表参照)。

では、企業が運用しているツールはZ世代に対応しているものでしょうか。業務で使用するツールはZ世代が魅力を感じ、効率が良いと感じるツールでしょうか。

依然として現場にスタッフを派遣するサービスを重視し、出張サービスをいかに効率的にできるかをメインに考えているのであれば、数年後はZ世代の従業員や顧客に見放されてしまうかもしれません。

これからはスタッフを派遣する手前で、お客さまの問題を解決してあげることが必要です。前述しましたが、自己解決率の向上が必要なのです。

そして、お客さまが自己解決できないとしても、オンラインでカスタマーサポートが受けられ、問題解決できることが顧客満足度を向上させていきます。

ARツールを使ったカスタマーサポート業務は、Z世代の従業員にも魅力的に映るでしょう。遠隔サポートを行えるため、場所や時間に縛られないからです。仕事に縛られないライフスタイルを好むZ世代にぴったりのツールです。

米国では、すでにオンラインでのカスタマーサポートに力を入れ始めています。とくにARツールを使って、効率よくお客さまの問題を解決できるCX戦略が進められているのです。

Z世代について
・1995年から2000年代半ばに生まれた世代
・世界の労働人口の24%を占める、2025年には40%になると予測される
・テキストによるコミュニケーションを好む(SNS、SMS、Eメールなど)
・仕事に縛られないライフスタイルを好む(自分が好む時間と場所で働ける仕事を選ぶ)
・ソーシャルメディアを使い分ける

SXMはARで実現する

SXMのために米国で導入が進んでいるのが、ARツールです。ARツールを使用するカスタマーサポートの従業員は、コンタクトセンターにいるとしても、現場にいるとしても同じ場所にいるかのように働けます

現場スタッフが見ているものをコンタクトセンターのオペレーターも同じように見ることができるので、お互いのコミュニケーションがスムーズになります。

さらに、遠隔地にいるベテランの従業員がARツールを使って、現場スタッフを的確にサポートすることも可能です。

ARツールはさまざまな情報を視覚化してくれます。たとえば、コンタクトセンターからの指示を、スマートフォンを通して現場の製品上に描くことができます。結果、お客さまの問題をARで短時間のうちに分析・解決できるため、従業員もお客さまもストレスを経験しません。

コンタクトセンターと現場がワンチームとなって最良のサービスを提供できるのです。しかも従業員は最新ツールを使っているため満足感が高く、従業員体験(EX)も優れたものになっていきます。

顧客も使えるARツール
最新のARツールは顧客利用にも対応しています。お客さまがARツールを使うことで、自分のスマートフォンにトラブルシューティングが表示されます。ARツールを利用すれば、カスタマーサポートへ問い合わせずに自分で問題を解決できるのです。お客さまの自己解決率が向上します。

自己解決率が向上すれば、企業側は不必要な出張コストを減らせますし、危険な場所で従業員を働かせる頻度も減らしていけます。最新ARツールを利用していること、危険な作業が少ないことというのは、採用面でも有利なポイントです。

最新ARツール:ゼロックス社「CareAR」

CX戦略に欠かせない情報の一元化

SXMは、CX戦略において情報管理の大切さを思い起こさせてくれます。顧客と企業間の、どのタッチポイントにおいても情報が一元化されているべきという考え方です。

企業が陥りがちなのは、お客さまがプロダクトを購入するために訪れたWebサイトの情報、お客さまが問い合わせたチャットの内容、コンタクトセンターに問い合わせた履歴がそれぞれ別々に管理されているという状況です。いわゆる情報のサイロ化です。

一番危険なのは、各チームが管理している情報が、実際にお客さまのもとに訪れる現場スタッフに伝わっていない事態が発生することです。顧客にとって一番大切なタッチポイントになる現場スタッフが、顧客情報、サービス履歴などを何も知らないでサービスを提供することになってしまうのです。

これでは優れたCXは提供できません。この事態を防ぐために必要なのが、トータルでサービスを設計していくSXMという考え方です。

SXMのために使用されているのは、以下にあげる情報を一元化するシステムです。

  • オムニチャネルに対応したコンタクトセンターシステム
  • 簡単に情報の一元化できるヘルプデスクツール
  • コンタクトセンターと現場スタッフがワンチームで働けるARツール

最新ARツールで情報の一元化を進めよう

最新ARツールでは、サポート情報の一元管理が簡単にできます。

スマートフォンやタブレットから送信される映像を通して、リアルタイムで現場スタッフとコンタクトセンターのスタッフが情報を共有できます。製品に関するテキストマニュアルや、動画マニュアルもツール内で簡単に参照することが可能です。ベテランスタッフによる作業のコツなども、すべて同じツールに保存しておけます。

最新ARツールにはAIが搭載されており、ツール内に保管されている情報を自動で整理してくれます。現場スタッフがスマートフォンに製品を映し出せば、AIが製品を自動で識別し、必要なナレッジを表示していきます。

製品のアップデート履歴や修理履歴も一元化できます。しかも情報管理をドラッグアンドドロップで行っていけるのです。

最新ARツール:ゼロックス社「CareAR」

最後に

これからのCX戦略には、購入からカスタマーサポートまでを含めたトータルでサービスを管理するSXMという考え方が重要になります。

SXMで大切なのは、自己解決率を向上させること、情報を一元管理することです。これら2つのポイントを実現するのに役立つのが最新ARツールです。

ARツールを使ってカスタマーサポートを行っていくことは、Z世代の顧客と、Z世代の従業員を惹きつけるのに大切な要素でもあります。

SXMという考え方のもとに、これからの時代に合ったCX戦略を推し進めていきましょう。