救急医療の問題点は、電話が依然としてメインのコミュニケーション手段として用いられていることです。電話で医療従事者と救急隊の情報交換が行われています。もちろん電話は、安定性や普及率の観点からすると有用な救急医療のコミュニケーション手段です。しかし音声で伝えられる情報量には限界があります。

近年、5G(第5世代移動通信システム)の普及、4Kの高精細映像、AIやARを使った情報伝達などコミュニケーション技術の革新は目覚ましいものがあります。消防庁が公表した 「令和3年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書」では、5Gを活用した映像伝送のICT 技術を活用した救急業務の高度化が扱われました。このような状況の中で、電話頼みな救急医療の問題点を克服する解決策として、ビデオ通話の活用が注目されています。

今回は、電話がメインとなっている救急医療の3つの分野に着目します。そしてビデオ通話が救急医療における問題点をどのように解決するか検討していきます。最後には、「電話頼みの救急医療にビデオ通話を取り込みたい」「セキュリティを確保したビデオ通話を導入したい」ときに役立つツールの選び方を紹介するので参考にしてください。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

電話頼みな救急医療の問題点とは

救急医療において電話がメインで使用されているのは、以下の3つの分野です。

  • 電話相談事業
  • メディカルコントロール
  • トリアージ

各分野の現状と、電話使用の問題点を探っていきます。

救急利用の増大と多様化に「電話相談事業」で取り組む

救急自動車による救急出動件数及び搬送人員の推移
救急自動車による救急出動件数及び搬送人員の推移
引用:「令和3年中の救急出動件数等(速報値)」

救急利用の増大化と多様化は、救急搬送の効率化を妨げる大きな課題です。たとえば令和3年中の救急自動車による救急出動件数は 619 万 3,663 件(速報値)でした。前年よりも 26 万 386 件増(4.4パーセント増)です。令和2年は、コロナ禍による交通事故の減少などで一時的に救急出動件数は下がりました。しかし図を見ると、再び増加し始めていることがわかります。

そこで、救急出動の必要性を患者自身が判断するのを助けるため、電話相談事業が推進されてきました。たとえば「小児救急電話相談事業(#8000)」や「救急安心センター事業(♯7119)」といった番号です。

「小児救急電話相談事業(#8000)」は、#8000へダイヤルすると、小児科医師や看護師へ繋がります。相談者は医師から子供の症状に応じた適切な対処の仕方や、病院で受診すべきかどうか、すぐ救急車を呼ぶべきかのアドバイスを受けられます。「救急安心センター事業(♯7119)」も、急なケガや病気をした時に救急車を呼ぶべきかどうか相談できます。

しかし電話で伝えられる情報には限界があります。どの程度のケガなのか、病気の症状は具体的にどんなものなのか、どの程度けいれんしているかなどを正確に伝えるのは簡単ではありません。
急なケガや病気が発生したときに相談者は冷静ではないでしょう。その中で、医師の質問に合わせながら情報を整理して言葉だけで伝えることには限界があります。

電話による「メディカルコントロール」の実施

救急医療の現場では、電話によるメディカルコントロールが行われています。メディカルコントロールとは、患者が救急現場から医療機関へ搬送されるまでの時間を活用して、現場にいる救急救命士と医師が連携しながら適切な応急処置をしようという試みです。

医師が電話を使って救急救命士や救急隊員へ指示を出し、医学的な観点から現場で効果的な処置ができるようサポートします。結果として、患者の延命につながることを目指します。同時に救急救命士のスキルアップを実現させていきます。

しかし消防庁「メディカルコントロール体制のあり方」によると、課題のひとつは「医師による救急隊員への指示の適切さが十分ではない」ということです。たしかに1分1秒を争う緊迫した現場にいる救急隊員から音声で情報を聞き出し、医師が適切な指示を出していくのは簡単なことではありません。
電話だけでは医師が適切な処置を正確に判断するために、何回も質問せざるおえない状況が生じます。これでは医師と救急隊員の双方にストレスがかかってしまいます。

電話での「トリアージ」の難しさ

救急搬送の際に、「患者のたらい回し」を防ぐ目的で取り組まれているのがトリアージです。トリアージとは、患者の緊急度や重症度に応じて適切な搬送や処置を行うため、医師や看護師が治療の優先順位を決めることです。しかし優先度を正確に判定する難しさが課題になっています。

たとえば現場にいない医師が電話でトリアージを行うため(テレホントリアージと呼ばれる)、本当は重症であるにも関わらず、軽症と判断されるアンダートリアージが発生することがあります。
すぐに救急搬送されていれば助かったのに、アンダートリアージが原因で治療困難になるというケースが起きえます。ただし、アンダートリアージを恐れすぎると、軽症者を重症と判断して救急医療がひっ迫する事態が起きる難しさがあります。

音声だけで情報を伝達するテレホントリアージよりも、情報量の多いビデオ通話であれば判定の精度を上げていくことができるのではないでしょうか。

電話頼みな救急医療の解決策として進むビデオ通話

電話がメインになっている救急医療の問題点を解決するため、ビデオ通話ツールの開発や試用が実施されています。

たとえば株式会社 ドーンの「Live119」は、119番通報をしたときに消防指令センターとビデオ通話ができるツールとして開発されました。消防指令センターがSMSを発信者に送ることで、ビデオ通話を簡単に開始できます。発信者はスマートフォンのカメラを使って現場のビデオ映像を送り、状況を正確に伝えられます。

救急医療領域での活用に向けて、セキュリティーを担保したリアルタイム映像共有システムの共同研究を開始
引用:「救急医療領域での活用に向けて、セキュリティーを担保したリアルタイム映像共有システムの共同研究を開始

凸版印刷株式会社、北里大学、ソフトバンク株式会社も共同でリアルタイム映像共有システムを研究し始めました。この共同研究では、現場にいる救急隊員と病院にいる医療従事者がスマートフォンのカメラを使って映像を共有できる仕組み作りを目指していきます。ログインする医療従事者の資格チェックや、患者のプライバシーに配慮するなどのセキュリティ面にも配慮された取り組みです。

ビデオ通話を使ったツールや仕組みが開発・導入されていくなら、今まで以上に正確で安全な「電話相談事業」「メディカルコントロール」「トリアージ」を行っていくことができるでしょう。

救急医療の問題点の解決策「ビデオ通話システム」の選び方

「電話頼みになっている救急医療にビデオ通話を取り込みたい」「セキュリティを確保したビデオ通話を導入したい」場合、どのようにツールを選んだらよいでしょうか。システム選定の際に重要なポイントを解説します。

ビデオ通話システム

ビデオ通話システムを選ぶ際に重視すべきポイントは5つです。

  • アプリ不要
  • 信頼性と安定性
  • カスタマイズ性の高さ
  • Web RTC対応
  • コールセンターシステムとの連携のしやすさ

■アプリ不要であることは大切なポイントです。救急現場に偶然居合わせた通報者や、急な病気に対応すべき人にわざわざアプリをインストールしてもらう時間はありません。アプリのインストールが不要なビデオ通話システムを選びましょう。

■救急医療の現場では、ツールの信頼性と安定性が必須です。システム選定の際には、信頼性や安定性が求められる医療機関、金融機関、保険企業などですでに採用されているツールかどうか確認してください。これらの業界は何より信頼性と安定性を重視します。

■救急医療には特殊な要件定義があります。そのため、パッケージドソリューションでは対応が難しいでしょう。SDKベースのビデオ通話システムであれば、必要なカスタマイズが行えます。

■Web RTCとはWebブラウザ上で映像だけでなく、音声、テキストデータもリアルタイムでやり取りできる技術です。ビデオ通話システムといえども映像だけに対応しているのではなく、状況に応じて音声やテキストデータも使用できるほうが、さまざまな状況や用途に対応できます。

■救急医療の通報や相談を受けるセンターでは、何らかのコールセンターシステムを使っているかもしれません。いろいろなコールセンターシステムと連携可能なビデオ通話システムを選んでください。

参考:世界で実績のあるビデオ通話システム「LiveAssist(ライブアシスト)

セキュリティシステム

ビデオ通話システムを救急医療へ導入する際、問題になるのがセキュリティです。利用する医師の本人確認や、患者のプライバシーを担保するセキュリティを確立することが大切になります。カギとなるのは、通報者からビデオ通話を受ける医療従事者の本人確認をいかにスピーディに確実に行えるかです。

パスワードの使いまわしや、なりすましを防がなければなりません。安全性の高いセキュリティシステムを選ぶには、以下の点を覚えておいてください。

  • 使いまわせないパスワード
  • ユーザー認証規格SAML2.0対応
  • オンプレでもクラウドでも利用できる
  • 将来性が高い

■パスワードが簡単だと複数の人が同じパスワードを使いまわしてしまい、なりすましが可能になります。反対に複雑なパスワードにすると覚えきれないため、いざというときにログインができないトラブルが発生します。最新のセキュリティシステムでは、ワンタイムパスワードと顔認証などの生態認証を組み合わせる二要素認証が主流です。

■ユーザー認証規格SAML2.0は、Web上で本人確認をする標準規格です。SAML2.0はクッキーに依存しないで認証できるため、なりすましのリスクを大幅に軽減できます。必ずSAML2.0に対応しているツールかどうか確認してください。

■施設内のサーバーで運用するオンプレ型にも、クラウド上で運用するクラウド型にも対応しているセキュリティシステムは使い勝手が良いです。自治体の大規模施設、医療機関の小規模施設の両方に導入したいときには、オンプレとクラウドの両方に対応しているほうが運用がしやすくなります。

■将来性が高いセキュリティシステムとは、新しいセキュリティ技術が利用できるシステムであるかどうかということです。認証技術や規格は定期的に新しいタイプが出てきます。最新の技術へ簡単に切り替えられるプラットフォームタイプのセキュリティシステムのほうが長期間安全に利用していけます。

参考:後付けで二要素認証が導入しやすいJourney AI社のセキュリティシステム

ARシステム

ARを使った医師によるリモートサポート

前述しましたが、メディカルコントロールは救急医療の効率化だけを目的にしておらず、救急救命士や救急隊員のスキルアップも目的としています。そのため救急搬送の時だけではなく、平時からトレーニング目的で実施されることがあります。トレーニングは限られた時間の中で、病院実習や紙ベースのマニュアルを勉強していきます。もしARシステムを使用するなら、トレーニングの質を向上させたり、トレーニングの時間を短縮させたりすることができるでしょう。最新のARシステムでは何ができるでしょうか。

  • ARを使った医師によるリモートサポート
  • 現場にいる救急救命士がARで指示を受けられる

トレーニングを受ける救急隊のメンバーがどこにいようと、講師である医師は拡張現実(AR)によるスムーズな視覚的なサポートをどこからでも提供できます。受講生と講師の両方が、ARによる映像を通して同じ機器や患者を見ながら授業を進めることも可能です。

現場にいる救急救命士がARで指示を受けられる
現場にいる救急救命士がARで指示を受けられる

救急隊が現場で使用される新しい機器の使用を学ぶ場合、AR対応の指示をスマートフォンをかざしながら学んでいくことも可能です。

ARツールはリモートサポートが優れていますから、海外の医師や救急医療の専門家による講習を受けるのにも役立つでしょう。救命士たちのトレーニングだけではなく、AEDの使い方などを地域住民にトレーニングする際にも有効に活用できます。

参考:ドラッグアンドドロップで簡単に構築できるゼロックス社のARツール「CareAR

最後に

電話頼みな救急医療の問題点とは、伝えられる情報に限界があるということです。

救急医療が取り組む「電話相談事業」「メディカルコントロール」「トリアージ」では、依然として電話がメインのコミュニケーション手段として使われています。しかし電話なので医療従事者と患者、医師と救急隊員の情報伝達がうまくいかないことがあります。情報を正確に伝えよう、把握しようとするあまり時間がかかりすぎることもあります。

解決策はまずビデオ通話を導入することです。ビデオ通話システムやARシステムを活用していくことで、電話頼みの救急医療のDXを進めていけます。

救急医療の現場では、救急隊と医療従事者が患者の命を救うために全力で取り組んでいます。ビデオ通話を活用する仕組みを作り上げていくことで、現場の仕事が効率化するだけでなく、患者の命をより多く救えることにつながっていくのです。

「ITに詳しくなくても使えるビデオ通話ツール」「救急隊のトレーニングに活用できるビデオ通話ツール」「動作が安定しているビデオ通話ツール」について知りたいときには、株式会社コミュニケーションビジネスアヴェニューにご相談ください。