2024年は、震災の痛ましいニュースでスタートしました。

令和6年能登半島地震により被災された皆様、ご家族、関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と被災地の一日も早い復興を願っております。

そんな2024年ですが、世界を見渡すと、様々な技術の革新が期待される年となることでしょう…なんていうのは毎年言われていることだとは思いますが、去年の生成AIの大躍進がさらなる技術革新と業務上の大きな転換点を迎えるであろうことは容易に予測できます。

これまで以上にますますカスタマー・エクスペリエンスが重要視されている中で、AIや自然言語処理(NLP)、それらをベースとした解析ツールやソリューションの台頭などはもう単なるトレンドの域を超えています。すでにインフラ化しつつあり、業界を構築する必需品となっています。

企業・顧客間コミュニケーションはよりパーソナライズする方向にシフトしており、効率的かつ文脈を意識したコミュニケーションが企業には求められています。そしてそれを実現させる事のできる技術も態勢も整いつつあります。

本記事では、2024年に注目すべきコンタクトセンター業界における6つのトレンドを予測してみます。そしてそのトレンドの根拠となる技術が、シームレスで顧客の視点に立ったサービス、CXの構築・提供にいかに絡んでくるのか、考察してみたいと思います。

執筆の際には、Gartnerの調査レポートGartnerのアンケート調査United Call Centersの調査研究といった海外レポートを参考にしています。

1. AIと自動化のさらなる普及

やはりどうしたって外すことのできないAI。2024年は、AIがコンタクトセンターにおいてさらに重要なプレイヤーとなるであろうというのは、誰も否定できないのではないでしょうか。枯れた技術と言われていたチャットボットを不死鳥のごとく蘇らせたのは生成AIですし、顧客ニーズを予測する高度なアルゴリズムに至るまで、AIは業務合理化の最右翼です。

またAIは業務自動化とも密接に結びついており、より複雑なタスク処理、応答時間の短縮化など、業務効率を高める上ですでに欠かせないパーツとなっています。

Gartnerの調査レポートによると、カスタマーサービスやサポートにかかわる企業の8割が、オペレータの生産性とCX向上を目的として生成AIを業務に取り込むようになるだろうと予測しています。また38%が、大規模言語モデル(LLM)をベースとした取り組みを検討しているとのこと。

そして消費者側においても、顧客サービスのニーズを満たすためのAI使用を支持していることも、United Call Centersの調査から明らかになっています。

もちろんAIよりもマンツーマンでのリアルタイムサポートのほうが信頼度は高いとしてはいるものの、AIに任せられるタスクやオペレーションも多く存在しており、注文確認、予約、データ照合などが自動化されています。

AIはこれからますますわたしたちの生活に入り込んでいきます。というより、すでにそうなっています。わたしたちが毎日使うアプリの多くにすでに組み込まれていて、特にカスタマーサービスなどの業界では浸透し始めています。消費者や顧客がAIに「慣れていく」につれ、企業のカスタマーサービスやCX戦略も柔軟に変えていく必要があります。新しい手段や戦術を、機敏に、そして柔軟に検討して導入することが必要となっています。

2. CX重視

コンタクトセンターにおいては、AIがますます重要な存在になっていくことは確かですが、一方で、「人間のオペレータがAIに取って代わられるのではないか」ということもまことしやかに、様々なメディアで取り上げられているトピックです。

ワークフォース最適化プラットフォームを提供するCalabrio社のデイブ・ホークストラ氏は、次のように語っています。

「AIによりセンターのオペレータは職を失うだろうというのは一般的な懸念ですが、意外なことに、コンタクトセンター管理者の70%は、オペレータの数は増加するだろうと考えています。これは、AIが人間のオペレータをサポートしていくという方向性、そして効率的に顧客をサポートすることに熟練した、経験を積んだオペレータの需要が高まっているのだということを表していると思います。」

顧客オリエンテッドな流れは、カスタマーサービスに関わらずすべてのビジネスで重要なファクターとなっていますが、コンタクトセンターにとってもそれは同じです。これまで、スムーズで顧客を満足させるCXは差別化要因として非常に重要だと位置づけられていましたが、その路線は2024年も強まることと思われます。しかもAIなどの技術が、今後のCX改善には必須技術となってくるでしょうし、そのためにはそうした技術を柔軟に取り込むだけでなく、新技術導入にまつわるリスクの管理や倫理的なガイドラインの策定なども、企業にとって必要な取り組みとなってくるはずです。

3. オムニチャネルコミュニケーション

オムニチャネルについては多方面ですでに言い尽くされた感がありますが、2024年においてもやはりオムニチャネルコミュニケーションの必要性・重要性は高まるだろうと考えられます。

シームレスかつ効率的なCXの構築は、消費者が当然のごとく企業に期待するものです。なぜなら、消費者がコミュニケーションをとるチャネルが多岐にわたっており、SNSやメッセージングなど、消費者は各々自分が好むチャネルで企業とコミュニケーションを取ります。それに応えるだけでなく、顧客一人ひとりの満足度やロイヤルティを向上させるのであれば、オムニチャネルコミュニケーションは必然的に実現されていなければなりません。

オムニチャネルには様々なメリットがあります。

顧客の「すぐに対応してほしい」という要求に答えられますし、複数のチャネル上で顧客対応をシームレスに実施することが可能となります。会話型AIやセルフサービス型ソリューションの導入も併せて、質の高い、直感的なCXを設計できます。対応にまつわる顧客との不要なストレスも、オムニチャネルベースの顧客体験・カスタマーサービスであれば、極力減らせます。何よりも、顧客中心、顧客の嗜好を汲み取ったオムニチャネル型CX設計・実装により、企業はより満足度の高い、効果的なカスタマーサービスを展開することができます。

4. セキュリティ・プライバシーの向上

生成AIの導入に伴って、コンタクトセンターが扱う顧客情報やデータはより膨大な量になっていきます。そうした膨大なデータを扱う上で非常に大切になってくるのが、やはりセキュリティ。

生成AIは完全なものではありません。よく知られているように、ハルシネーションや機密データの漏洩など、懸念点もあります。したがって、より高度なセキュリティプロトコルを導入し、コンプライアンスをしっかりと確保することは、このAI全盛の時代において顧客からの信頼を勝ち得る上で不可欠なポイントです。AIがよりドミナントになっている中で、これは決して避けて通ることのできない道でしょう。

一方で、コンタクトセンターには、顧客の個人情報やデータを守るために、データの安全対策のより一層の強化が求められます。暗号化の向上やデータハンドリングにおける安全性の確保が含まれます。AIはセキュリティ上の脅威を早く見つけ出すことにも活用できます。またクラウドベースのソリューションが主流となってきている昨今、クラウドのセキュリティも最優先検討事項です。従業員に対するセキュリティトレーニング、サイバー攻撃の脅威等に関する教育も非常に重要です。

5. EX(従業員体験)の向上

従業員満足度の高さがCXの高さに直結していることをよく理解しているコンタクトセンターは、人材投資を増加させる傾向にあります。

幸い、昨今では、業務効率化や生産性向上を目指すのにぴったりな最新技術を導入することができます。これには、効果的なコールの振り分けが可能となるAIや機械学習の統合、決まったタスクや繰り返し行われるオペレーションの自動化などが含まれます。こうした技術により、従業員のストレスを減らすことに加え、より複雑で要求度の高い顧客、経験が求められる対応に従業員リソースを振り分けることが可能となります。

近年注目されている「従業員のリスキリング」ですが、従業員のためのスキルアッププログラムやトレーニングにリソースを割くことも大切な視点です。人材不足や人材を大切にするという観点からも、自分のキャリアアップがしっかりとサポートされていると感じる従業員はより積極的に仕事に取り組み、より良いカスタマーサービスの提供に努めようとする傾向があるため、最終的には企業価値を上げることに貢献します。

従業員のメンタルサポートも忘れてはいけないポイントです。

カスハラなども社会的問題として認知度が上がっている中で、コンタクトセンターは働きにくい職場環境、そして離職率の高い職種として認知されてしまっているという事実があります。企業の多くがメンタルサポートに投資するようになる可能性が高くなっています。ウェルネスプログラムやカウンセリングシステムなどが含まれますが、こうした取り組みはCXにもプラスの影響を与えます。働きやすい環境で、ストレスをあまり感じることなく働けている従業員は、一般的に、顧客に対して熱心かつ共感的で、顧客の問題解決に尽くす傾向が高いからです。

6. 音声認識・自然言語理解技術の統合

音声認識と自然言語理解技術の統合により、より自然で、ストレスの少ない音声ベースの顧客対応を実現できます。そして、問い合わせの迅速化とCXの向上が促進できます。

Gartnerの調査レポート内で同社のアナリスト、ドリュー・クラウス氏によれば、「顧客は、自分が使用するアプリでより自然に対話することを望んでいます。OpenAIのChatGPTやMicrosoftのCopilotといった、大規模言語モデルベースのアプリの登場で、その流れはますます主流になっています」とのことです。

同氏は、効率性の向上とそういった顧客の期待に応えるため、会話型ユーザーインターフェース(CUI)が今後ますます重要になると考えています。そうした文脈においては、今後、従来の音声応答システムだったIVRは、そのあり方が変化する、またはいずれ消えていくということも考えられます。

最後に

2024年、コンタクトセンターが注目するべき主なトレンドとして、AIと自動化を使って効率を上げ、顧客体験を充実させること、さまざまなチャネルを通じたスムーズな対話を実現すること、そしてセキュリティ、プライバシー、従業員の体験への大きな投資、という予測ができます。これらの技術革新と戦略を利用することで、コンタクトセンターは、顧客に合わせたサービスの向上、顧客の労力削減、あらゆる顧客接点においてリアルタイムで共感的なサービスを提供することが可能になります。

興味深い点として、2024年に予想されるトレンドとそれを実現できる技術を俯瞰してみると、最終的に「CXのパーソナライズ」にすべて共通しているという事実が浮かび上がってきます。

データドリブン型アプローチにより、顧客の過去の行動やインサイト、嗜好を理解することが一層容易になります。顧客に合わせたサービスの提供につながりますし、CXをより豊かで有意義なものに変えるための一歩ともなります。オムニチャネルコミュニケーションを通じて、企業は顧客が好むチャネルによるシームレスな体験を提供できるようになりますし、顧客はどこからでも企業にアクセスできます。

企業との結びつきがより個人的となり、顧客満足度やロイヤルティの向上につながります。AIと自動化、音声認識・自然言語技術の統合は、サービスの迅速化に大きく貢献します。これらの要素はすべて、顧客一人一人のニーズと好みに応じたパーソナライズされた体験を生み出すことに寄与しているという点において、すべて共通しています。

TPIJでは今年も、顧客接点に関する有益な情報を発信してまいります。どうぞよろしくお願い致します。

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