「音声認識AI」や「対話型AI」は、カスタマーサービスの分野で以前から活用されてきました。しかし「生成AI」の登場とともに、急速な速さでAIが進化しています。毎週のように生成AIプロダクトの出現、プロダクトのバージョンアップについての情報が押し寄せてきます。

生成AIは加速度的に進歩しています。しかし、カスタマーサービスの現場で生成AIを運用する取り組みはまだ始まったばかりです。事実、多くの企業やBPOは、「生成AIの運用を開始した」というよりも、「プロジェクト自体を開始した」という状態です。

参考情報:ベネッセ、生成AIによるコンタクトセンター改革プロジェクト、自動応答やオペレーター支援など

そのため、カスタマーサービスの現場からは「生成AIをどう使えばよいのかわからない」という声を耳にします。同時に「生成AIのもっともらしいウソ(ハルシネーション)が心配」といった声を聞くこともあります。

CXMコンサルティング社長の秋山紀郎氏は、リスクの少ない生成AIの活用について以下のようにコメントしています(コールセンタージャパン2023年6月号18ページ)。

「まずはセンター内、社内利用、BtoBで導入し、顧客とのコミュニケーションは、社会環境や消費者のリテラシーなど、さまざまな条件がクリアされてからの話」

秋山氏がコメントしている通り、「まずは、ハルシネーションの影響が少ないセンター内、社内での利用から始める」というのが各企業で共通している考え方です。

では、コールセンター内や社内でどのように生成AIを活用していけるのでしょうか。今回はリスクが少ない3つの運用方法を紹介します。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

通話音声のテキスト化

具体的な運用方法について紹介する前に、「通話音声のテキスト化」について説明しておきます。

カスタマーサービスの現場で生成AIを活用するためにまず必要なのが、「通話音声のテキスト化」になります。通話音声をテキスト化してからでないと、AIに業務を行ってもらえないからです。

もし今使っているコールセンターシステム(PBX、CTIなど)にテキスト化の機能がないのであれば、テキスト化処理システムを導入する必要があります。

最新のコールセンターシステムでは、音声のテキスト化を「AmiVoice」や「OpenAI Whisper」といったエンジンを使って行います。

補足:AmiVoiceとOpenAI Whisperの違い

OpenAI Whisperは、無料で利用できるサービスです(※)。AmiVoiceは、有料のサービスであり、利用料金や契約期間などの制約があります。

※APIの利用が無料。音声データ1分あたり、0.006ドルが必要(2023年4月の時点)。約1時間の音声ファイルだと約60円で利用可能。ほかのサービスだと1時間当たり1500円前後は必要。

Whisperは、多言語に対応しており、日本語だけでなく、英語や中国語などの音声もテキスト化できます。一方、AmiVoiceは、日本語が得意なサービスです。

Whisperは、Webブラウザ上で簡単に利用できるサービスです。AmiVoiceは、専用のソフトウェアをインストールする必要があり、利用環境によっては設定や操作が複雑になることがあります。

WhisperとAmiVoiceを比較すると、Whisperのほうがコスト言語利便性の面で優れています。もちろん良い点ばかりではありません。環境ノイズに影響されやすく、日本語の音声認識の精度が劣る部分があります(※)。ただし、Whisperはまだ開発段階のサービスです。音声認識の精度や安定性は定期的にアップデートされていくでしょう。

※AmiVoiceには、話者分離(Speaker Diarization)の機能があります。Whisperの場合は、事前に別プログラムで話者分離をする必要があります。

弊社のテキスト化処理システム

弊社が提供する「通話音声のテキスト化」サービスは、リアルタイム(ストリーム)でも、録音ファイルからでも行えます。音声テキスト化(STT:Speech to Text)のエンジンは以下から選んでいただけます。

  • Amazon Transcribe
  • OpenAI Whisper
  • Azure Speech to Text
  • Google Speech-to-Text
  • IBM Watson

リスクの少ない生成AIの活用法1:「要約」

コールセンターにおける「リスクが少ない生成AIの活用法」の一つ目は、オペレーターとお客さまの通話内容を要約する作業をAIにさせるというものです。

要約した内容は、KintoneセールスフォースなどのCRMへ保存できます。

さらに、オペレーターへの回答サジェストの生成に利用したり、FAQの生成に利用したりすることも可能です。

生成AIによる「要約」のメリット 

生成AIに顧客応対の要約をさせることで、オペレーターの後処理時間を短縮できます。実は、オペレーターの業務が煩雑化しているため、後処理時間は長くなる傾向にあります。

2015年の平均後処理時間は5.3分でしたが、2021年には6.5分と1分以上も増えています(参照:コールセンター白書2022年)。

しかし、ChatGPTなどのコールセンターシステムと連携させれば、後処理時間は45秒に短縮できます。1分もかけずに、「対話要約」「対応の良かった点」「対応の改善できる点」をCRMに記録できるのです。

後処理時間が短くなることで、オペレーターの1時間当たりの対応件数も向上させていけます。

補足:実際に運用が始まっているのは要約などの社内運用

国内のエンタープライズ企業では、要約から生成AIの現場での運用をスタートさせています。

参考情報:生成AIで電話対応を自動要約 JR西日本のコールセンター

弊社の「要約」システム

弊社の「要約」システムは、生成AIモデルとしてGPT以外もお選びいただけます。さらに、要約の評価指標として、以下の指標を用いることができます。

  1. ベクトル-コサイン類似度
  2. QAGS (Question Answering and Generation for Summarization)

生成AIによる要約に加えて、オペレーターやSVのフィードバックを保存する仕組みを追加できます。結果として、継続的なチューニングをしていけます。

構成例は以下をご覧ください。

リスクの少ない生成AIの活用法2:「回答のリアルタイムサジェスト」

「回答のリアルタイムサジェスト」とは、お客さまの質問に対する答えを生成AIに作ってもらうというものです。

回答までの流れは以下の通りです。

  1. オペレータとお客さまの通話内容をAIに解析させ、リアルタイムに質問内容を導き出す
  2. 社内に蓄積したナレッジから関連情報を自動検索し、関連情報をベースにお客さまへの回答をリアルタイムに生成

生成AIによる「回答のリアルタイムサジェスト」のメリット 

近年、オペレーターの業務負担を減らし、従業員満足度を向上させるために業務支援ツールが注目されています。入れ替わりが多いオペレーターの専門知識や問題解決能力を補うために、ナレッジツールでオペレーターを支援するという考え方がトレンドです。

生成AIによる「回答のリアルタイムサジェスト」を用意することによって、オペレーターによる専門知識や問題解決能力の偏りを解消できます。

回答を探すストレスからオペレーターを解放できますし、回答時間の短縮を実現できます。従業員満足度に加え、顧客満足度も向上させていけるでしょう。

弊社の「回答のリアルタイムサジェスト」システム:

生成AIによる社内のナレッジ検索システムは、以下から選択できます。

  • Amazon Kendra
  • Azure Cognitive Search
  • ベクトルDB

回答生成のAIモデルは、GPT以外も選べます。

構成例は以下をご覧ください。

リスクの少ない生成AIの活用法3:「FAQ自動生成」

「FAQ自動生成」とはその名の通り、生成AIがFAQを自動で作ってくれるということです。生成AIが、通話内容のテキストデータを解析し、FAQを自動作成していきます。

作成したFAQを既存の社内FAQと統合したり、オペレータの回答元となる社内ナレッジに追加したりすることが可能です。運用が安定してくれば、社内活用だけでなく、顧客向けのWebページや、チャットボットとして展開していけるでしょう。

生成AIによる「FAQ自動生成」のメリット 

コールセンター白書2022の調査によると、オペレーター向けのFAQを用意しているコールセンターは62%に上ります。しかしFAQの更新が課題となっています。

同調査によると、「FAQなどのナレッジベースの更新をSVが兼務している」と答えたのは全体の45%でした。

FAQの更新作業を生成AIに任せられれば、SVの負担を軽減できます。とくに、単純な問い合わせが多いコールセンター、質問の種類が多いコールセンターにオススメの活用法です。

弊社の「FAQ自動生成」システム

弊社のシステムでは、AIによって生成されたQ&AをFAQ形式にグループ化していきます。既存のFAQとの統合も、OpenAIのベクトル化機能をベースにして自動で行っていけます

通話スクリプト以外に、コンタクトリーズンなどの関連データが保存されている場合、コンタクトリーズンをFAQのカテゴリ分類に活用することが可能です。

構成例は以下をご覧ください。

※生成AIにFAQを作らせると「もっともらしいウソ(ハルシネーション)」が心配と思われることでしょう。弊社では、ハルシネーション対策を、検索データの限定回答生成のチューニングで行います。

最後に

現時点で、「生成AIを現場で安全に使うにはどうしたらよいか」という問いへの回答は、「社内利用からスタートする」になります。具体的には、以下の3つの業務を生成AIへ任せられるでしょう。

  • オペレーターの顧客対応を要約する業務
  • 顧客からの質問にオペレーターが回答できるようサポートする業務
  • FAQを生成・更新する業務

「AIに詳しい人材がいないけど、導入と運用をしていけるか心配」と感じるかもしれません。弊社では生成AIの導入と運用をセールスエンジニアが丁寧にサポートしていける体制があります。まずはお気軽にお問い合わせください。

リスクが少ない方法で生成AIを活用することにより、コールセンター運営の効率化や、ベテランオペレーター頼みの体制を解消することができます。さらに、従業員満足度と顧客満足度も同時に向上させていけるでしょう。