ウィズコロナからアフターコロナへと切り替わってから早くも1年が見えてきました。パンデミックが始まってからというもの、ほぼ全ての自治体がコロナ関連の業務に追われ、迅速かつ慎重で正確な対応を求められてきました。

アフターコロナになった2024年は、感染症にまつわる対応や変化がさらなる落ち着きを取り戻すことを願います。しかし、自治体が言わば「暇になる」ことはありません。

最近では、DX化がますます強く推奨されるようになっています。代表例は「ガバメントクラウドへの移行」です。では、「ガバメントクラウド」とは何でしょうか。これにより自治体向けBPO市場は縮小してしまうのでしょうか

本記事の前半では、ガバメントクラウドにまつわる現状と問題点を解説します。記事の後半では、自治体業務の効率をアップさせつつ行政サービスを充実させるのに役立つ「総合コールセンター」について紹介します。

この記事がおすすめの方
・「自治体にはこれからどのようなニーズがあるのだろう」と情報収集をしているBPO企業の方
・「行政サービスをもっと良くしたい」「DX化しながらもっと市民の満足度を向上させていきたい」「自治体業務の効率を上げたい」と思っている全国の自治体関係者の方

自治体業務にまつわるBPO市場は縮小する?

今年(2024年)から来年(2025年)にかけては、自治体のDX化がとくに進む年になるでしょう。

国内の自治体は、2021年9月に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」により、住民基本台帳や国民年金、介護保険などに関わる20の基幹業務について、2025年度末までに標準化したシステムへの移行が義務づけられているからです。

システム移行にあたり、政府は「ガバメントクラウド」の活用を推奨しています。

「ガバメントクラウド」とは:
行政に関わる業務システムを、統一されたクラウド上に集約した政府共通のクラウドサービス利用環境のこと。政府(デジタル庁)は、原則2025年度末までに、全国の地方公共団体の20業務を管理するシステムを標準準拠システムに移行させる方針を打ち出している。2024年1月現在、ガバメントクラウド活用は努力義務。

2024年はガバメントクラウド活用を含め、2025年度末を目指して多くの自治体がシステム移行を始めたり、移行のための準備を整えたりすると予想されています。自治体が全国的に大きく動き出すことが予想される一方で、自治体向けBPO企業は縮小傾向を見せています。

コロナ禍でいわば「特需」となり、急拡大した自治体業務のBPO市場。しかし、「2023年度以降は反動で縮小に転じるのではないか」との見込みが立てられています。2024年度も例外ではありません。

参照:矢野研究所「自治体業務アウトソーシング市場規模推移・予測」

矢野研究所が2023年9月15日に公開した「自治体業務アウトソーシング市場規模推移・予測」を見ると、2022年から2023年の一年間で半分ほどの市場規模縮小が予想されていました。

同研究所によれば、BPO市場の縮小にはコロナ禍の反動に加え、先ほどの「ガバメントクラウドへの移行」による影響が以下のように指摘されています。

「政府共通システム基盤「ガバメントクラウド」を活用した自治体基幹業務システムの統一・標準化の影響によって、住民からの電子申請の割合が増えてくれば、職員の対応範囲が広がる一方で、自治体業務アウトソーシングの利用は減少することになる。」

矢野研究所「自治体業務アウトソーシング市場規模推移・予測」

しかし、ガバメントクラウドへの移行には少なからず問題が生じています。少なくとも大きく分けて2つの問題です。

予想以上にかかるコスト

現在政府がガバメントクラウドとして選定しているクラウド提供事業者は、外資系の4社(Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azure(Azure)、Oracle Cloud Infrastructure(OCI))と、2023年11月に要件付きにて選定された「さくらインターネット」の全5社です。

外資系クラウド提供事業者が選定された2021年10月や2022年10月と現在を比較すると、現在は円安に大きく振り切っています。そのため、外資系ベンダーに頼る際にかかる移行コストは、当初の想定よりかなり大きく膨らみます。ベンダー側のリソースひっ迫によるコストアップも懸念されているので、予想以上のコストがかかることは免れないでしょう。

クラウドロックインへの懸念拡大

単一のクラウドサービスにより自社の環境が縛られる状況(=クラウドロックイン)への懸念が拡大しています。クラウドロックイン状態で、もしサービスの利用条件や料金形態が変われば、運用コストが変わるだけでなく、ビジネスの柔軟性にも大きく影響します。クラウドロックインへの懸念は近年の課題となっています。

このように、ガバメントクラウドによる迅速な標準化は雲行きが怪しくなってきています。2025年度末が目視圏内になった今、多くの自治体において「どこのクラウドサービスを利用するのか」「かさむコストをどの分野でカットしていくか」が懸案事項になってきます。

それに伴って、「自社の業務をアウトソースするか否か」「何をどれだけアウトソースするか」といったアウトソーシングに関する現状の見直しが行われるでしょう。

では、本当にBPO市場は縮小していくのでしょうか。ガバメントクラウドによる市場への影響は、依然として大きな変化が見込まれます。しかし、別の分野において自治体向けBPOのニーズは確実に上がっています。

高まる「総合コールセンター」のニーズ

自治体におけるDX化が推進される一方、地域密着型で何よりもホスピタリティを重視しなければいけないという自治体の前提は変わりません。一般的に行政サービスは人同士での対応が基本となるので、DX化が進んでも窓口業務がなくなることはないと予想されています。

現時点で市職員と市民における接点の多くは、窓口業務や電話などによるサポートです。そのため、行政サービスに関する顧客満足度ならぬ「市民満足度」を維持向上させるには、業務の効率化と市民のニーズに合わせたサービス展開が必要不可欠となります。

総務省による上のグラフを見ると、自治体の職員数は全国的に右肩下がりになっている現状がうかがえます。しかし、減少する職員数とは反比例するように、住民のニーズや自治体が対応しなければいけない業務は日に日に多様化しています。

そのため、「どの課に問い合わせたら良いのか分からない」「課をたらい回しにされる」「夜間や土日にも対応して欲しい」といった市民からの声が噴出するのです。

限られたリソースの中でより効率良くより柔軟に質の高いサービスを提供していくのは困難を極めてきています。

  • 職員数の減少(=人手不足)
  • 市民のニーズが多様化

大きく分けて2つの問題を背景として今注目されているのが「総合コールセンター」です。

「総合コールセンター」とは:
市民からの電話、ファックス、メール、SNSなど、窓口以外での問い合わせを一元化するサービス。多くの場合、BPOコールセンターに委託の上で運営されている。現在注目されているとはいえ、取り組みとしては決して新しくない。例えば、2003年の時点で北海道では試験的にサービスが開始されている。

参考情報:https://www.soumu.go.jp/iken/pdf/051108_2_23.pdf

総合コールセンターのメリット4つ

各自治体は各地域の要です。中でも市民との接点になる行政サービスは、市の「顔」と言えます。「顔」になる窓口業務を外部委託するとなると、「サービスレベルが低下するのではないか」「かえって業務が回らなくなるのではないか」と心配されるかもしれません。ここからは、総合コールセンターのメリットを4つ紹介します。

市業務の効率化

総合コールセンターがあると市各課の呼量が削減でき、各課による電話対応事務が効率化されます。これにより本来の業務である市役所窓口での市民対応や事務処理に集中することができるので、サービスの質向上に取り組むことができます。

これは一つのリスクヘッジになります。事務処理中における電話対応は、事務ミスを誘発するリスクをもつからです。外部委託することによる業務効率やサービスレベルの低下といった心配はいりません。

常時最新情報にアップデート

窓口を一元化することで問い合わせ内容の傾向を正確に把握することができます。これによりFAQを常にアップデートしていくことが可能となり、市民にとってより実用的なFAQへと更新していけます。また、行政サービスのニーズを分析することに役立てられるので、市民が抱く隠れたニーズにアプローチすることが可能となり、より高い市民満足度の獲得・維持に貢献できます。

閉庁時間の利用

外部委託しながらの総合コールセンター運用であれば、休日や時間外といった閉庁している時の対応が可能です。市民ひとりひとりが多様な働き方をするようになったので、「閉庁している時間でも頼れる場所がある」というのは大きなメリットです。

災害時に柔軟に対応できる

市民からの問い合わせ窓口を「物理的窓口」と「非物理的窓口」で設置できていると、災害などの緊急時に柔軟に対応することができます。総合コールセンターの運営企業が災害現場から遠いなら、公共インフラとして迅速な稼働が見込めます。

参考情報:災害時に強いオムニチャネル対応コールセンターシステム「Bright Pattern」

また、総合コールセンターによって業務効率化が図れていると、能登半島地震に際して実施されているような「対口支援」といった、他地域における災害支援に柔軟に対応可能です。

「対口支援」とは:
大規模災害発生時に、被災地自治体と都道府県・政令指定都市をペアにする方式。担当団体が自己完結的に支援を行うので、より迅速な対応が可能になる。

参考情報:総務省「大災害に「対口支援」方式を制度化へ」

対口支援実施時には、各自治体から職員が被災地へ支援に行くため、通常時に比べてさらに自治体職員が減少します。国内における災害発生時には被災地支援が最優先となりますが、だからといって当市をないがしろにして良いわけではありません。

総合コールセンターによって業務を効率化し、限られたリソースで安定的に問い合わせ対応ができる環境を整えておけば、一時的に通常より手薄になる当市の行政業務を犠牲にしなくて済みます。結果として被災地支援に集中することも可能です。

総合コールセンターの成功事例

ここまでで総合コールセンターのメリットを説明してきました。最後に、すでに総合コールセンターを活用している自治体をいくつか紹介します。自分の所属する自治体で運用する時をイメージしながらご覧ください。

〈倉敷市:倉敷なんでもコール〉

市民からの問い合わせは、各課で個別に対応していた倉敷市。市民から行政サービスに関する改善要望の声を聞き、総合コールセンターを導入しました。総合コールセンター導入前は、市民から「なかなかつながらない」との苦情が相次ぎ、職員からは「担当外の質問があり困っている」との声が寄せられていました。

抜本的な解決を図り、倉敷市が掲げる「市民顧客主義」を実現する策として採用されたのが総合コールセンターの設置です。

総合コールセンターを設定してからは、10年で9割以上の問い合わせがコールセンター内で完結するようになりました。市民からの問い合わせ対応に追われていた職員たちは本来の業務に集中できるようになり、「業務に集中できるようになった」として庁内でも高評価を得ています。9割以上の市民が倉敷市のコールセンターに満足していると回答していることから、総合コールセンターの運用が市民サービスの向上につながっていることは明らかです。

参考情報:倉敷なんでもコール

〈神戸市〉

阪神淡路大震災という固有の事情を抱える神戸市。人手不足はどの自治体においても共通の課題ですが、神戸市では震災に端を発する財政危機を乗り越えるために、20年間で職員数を33%削減しました。しかし、市の人口と職員の仕事量は増加し、業務効率化が追いつかない状況でした。

平成30年度に策定された「働き方改革ロードマップ」で挙げられた「電話問い合わせへの応対」に取り組むべく、総合コールセンターを導入。

総合コールセンターは、朝8時から夜9時まで年中無休で稼働しており、市が準備したFAQを活用してオペレーターが各問い合わせへ応対します。市の担当職員と連携し、応対履歴からFAQの追加・変更を行い、内容を充実させることで、完結率と市民の満足度向上につなげています。

市職員ではないオペレーターによる市民対応について、神戸市 行財政局 業務改革専門官 兼 働き方改革推進プロジェクトリーダーの有坂氏は以下のようにコメントしています。「オペレーターの方々は、市のイベントや業務について職員よりも詳しいかもしれません(笑)」外部委託における総合コールセンターの運用ですが、市民対応の品質が決して低くないことがうかがえます。

参考情報:「神戸市総合コールセンターポータルサイト」

総合コールセンターを導入している自治体は、倉敷市と神戸市の他にもたくさんあります。

たとえば…

仙台市「杜の都おしえてコール」

藤沢市「藤沢市コンタクトセンター」

横須賀市「横須賀市コールセンター」

川崎市「サンキューコールかわさき」

大阪市「なにわコール」

最後に

ガバメントクラウドへの移行をはじめ、自治体を取り巻くDX化は日々進んでいます。生成AIを行政サービスで本格活用する動きも見られます。

多くの変化が見られますが、行政サービスが市民ファーストであり、何よりもホスピタリティを求められることは不変です。

デジタル化と寄り添いの両立こそ、市民から愛される自治体になるカギとなるでしょう。