2011年アメリカの大手百貨店が行ったとされるオムニチャネル戦略。オムニチャネルは、コロナ禍における市場の変化に対応していく上でも大きな役割を果たしました。オムニチャネルの一般化がますます進む中、オムニチャネルのもたらすメリットは多様化しています。
この記事では、オムニチャネルの代表的なメリット4つに加え、業界で話題になっている「カスタマーハラスメント予防」という新たなメリットについて解説します。オムニチャネルによる成果を最大化するポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニュー(CBA)が解説します。
コンタクトセンターにおけるオムニチャネルの必要性
「チャネルが多様化している」とはよく言われますが、今必要なのは本当にオムニチャネルでしょうか。オムニチャネルと類似した戦略としては、「マルチチャネル」(=複数のチャネルがある状態)や「O2O」(=オンラインから店舗などのオフラインへ消費者の行動を促す施策)などがあります。「マルチチャネルやO2Oではダメなのか」と思われるかもしれません。オムニチャネルのメリットについて紹介する前に、まずはオムニチャネルの必要性について解説します。
まず、オムニチャネルの市場規模から見てみましょう。
2019年12月に株式会社野村総合研究所が発表した「ITナビゲーター2020年版」によれば、オムニチャネルコマースの市場が再来年には80.6兆円に達すると予想されています。
しかし、コロナ禍の影響もありチャネルの多様性はますます拡大しているのが現状です。そのため、オムニチャネルの市場規模は既存の予想値よりもさらに大きくなっていると考えられます。
次に、顧客のニーズという側面から考えます。
「コールセンター白書2022」の141ページには、メール、有人チャット、チャットボット/LINEボットといったチャネルを活用した理由がグラフでまとめられています。顧客がチャネルを選択する決め手になっている要素は、利便性、スピード感、わかりやすい誘導です。
しかしこれらの要素は流動的なもので、顧客の求める利便性は常に変化します。
ついさっきメールで問い合わせてきたお客さまが、継続してメールを使うとは限りません。チャネルにとらわれずに顧客情報の管理をしていないと、お客さまはチャネル変更によってかえって不便な体験をすることになります。地続きの問い合わせが、チャネル変更によって途切れてしまい、1から説明しなおさらなければいけなくなるからです。
そのため、「マルチチャネルやO2Oでも多様なチャネルに対応できる」と思っていると、市場に追いつけなくなるだけでなく、顧客からの不満が噴出するリスクが高まってしまいます。マルチチャネルで満足することは、お客さまにとってエフォートレスではないのです。
オムニチャネルによって複数チャネルのデータを統合し、一貫性のあるサービスを提供することは、顧客満足度向上をはかる現実的な一歩です。とくに、コンタクトセンターにおけるオムニチャネル化は非常に重要です。なぜでしょうか。
オムニチャネルのメリット
コンタクトセンターにおけるオムニチャネル化の重要性を考えるにあたり、オムニチャネルの代表的なメリットを4つ取り上げます。
チャネルにとらわれず一貫したサービスレベルを維持できる
オムニチャネル化するなら、チャネルをまたいで情報を共有できるので、各チャネルのサービスレベルを均一化することが可能です。
お客さまがどのチャネルでコンタクトセンターにアクセスしても、チャネルの違いによる応対品質の差を生まずに済みます。利用チャネルが変わる度に、お客さまに問い合わせ内容を繰り返していただく必要はありません。シームレスな顧客体験が提供できるので、総合的に顧客満足度の向上が見込めます。
顧客にとっての利便性が向上する
マルチチャネルを含め企業が複数のチャネルに対応していると、顧客にとって都合の良い時間や場所、端末からコンタクトセンターへアクセスすることが可能です。加えて、オムニチャネルでデータが一元管理できていれば、オペレーターは過去を含めた顧客情報を全て把握できます。
そのため、お客さまに今までの購入情報や問い合わせ内容についてヒアリングする必要はありません。繰り返し聞かれたり説明したりしなくて良いので、お客さまは非常にスムーズにサービスを受けられます。オムニチャネルであれば、顧客の利便性を維持・向上しつつ、エフォートレスな顧客体験が提供可能です。
データを活用しやすい
データが一元管理できていると、顧客ひとりひとりに寄り添い、よりパーソナライズしたマーケティングが実現できます。
顧客の購買情報や、製品・サービス購入の検討過程を把握できるので、顧客が求めている情報をピンポイントかつジャストタイミングで提供可能です。お客さまのインサイトを見きわめたり、ニーズの高い情報やサービスを提供したりする際に役立ちます。また、新たなチャネルの必要性に気がつくことができます。
施策が成功すれば、お客さまの購入意欲向上に繋がり、売り上げ拡大へと直結します。オムニチャネルによってデータベースが構築されれば、対応品質の向上や新サービスの開発にも役立てられます。
機会損失の削減
とくにECの運営をしている企業にとって「オムニチャネルに対応しているかどうか」は売り上げに直結する問題です。
たとえば、店舗とECの在庫がシームレスに連携できていると、在庫状況に応じて相互に案内しあうことができ、ブランドとしての機会損失を削減できます。検討段階にいるお客さまに対しては、データに基づきパーソナライズしたアプローチが可能なので、購入前の離脱リスクを下げることが可能です。
オムニチャネルは「カスハラ防止」にも役立つ
ここまででオムニチャネルの代表的なメリットを4つ紹介しました。ここからは、「オムニチャネルの現在地」とも言えるもう一つの新たなメリットをします。
新たなメリットは「カスタマーハラスメントの防止」です。「カスハラ」の原因の一つは「顧客の不満」です。
具体的には「メールで問い合わせたのにまた説明させられる」「チャットで言ったことをまた言わせるのか」といった不満です。これらはチャネルの一元管理、つまりコンタクトセンターのオムニチャネル化によって解決することが可能です。
とはいえ、オムニチャネルによってカスハラを完全に予防することは難しいでしょう。すでにオムニチャネル化しているコールセンター/コンタクトセンターにおいてですら、思ったようにカスハラを防止できないことが悩みの種となっています。
そのため、オムニチャネルによるデータの一元管理に加えて、コンタクトセンターシステムが持つプラスαの機能がカスハラ予防に役立ちます。
たとえば、音声認識AIを活用した「顧客の感情分析」や「NGワードの検知」といった機能です。AIによって強化されたオムニチャネル対応コンタクトセンターシステムは、オペレーターの業務を効率的にサポートするだけではなく、リスクを察知してオペレーターをカスハラから守ったり、代わりに対応したりすることができます。
オムニチャネルが「販売促進につなげる戦略」から一歩踏み出し、新たな現在地を獲得している好例です。
オムニチャネルのメリットを最大化するポイント
オムニチャネルが新たなメリットを持ち、現在地を更新していく中にあって、成果を最大化するポイントは何でしょうか。最後に、オムニチャネルの成果を最大化するための4つのポイントを紹介します。「すでにオムニチャネル化しているけど、なんだか成果が物足りない…」と感じている方はぜひ参考にしてください。
顧客接点を増やす
オムニチャネルを最大限に活かすには、電話やメールのみならず、SNSやWebサイト、公式アプリのように多様な顧客接点を設けるべきです。具体的な例を挙げるなら、国内で高い利用率を誇るLINEへの対応は重要です。
NTTドコモモバイル社会研究所が発表している「2023年一般向けモバイル動向調査」を見ると、現在は10~60代における8~9割がLINEを利用しています。幅広い年齢層にとって馴染みのあるチャネルであることが明白です。
また、Mobilus SupportTech Labが発表した「消費者のLINE公式アカウント利用実態調査2022」では、「企業やお店、自治体などとのコミュニケーション手段として、LINE公式アカウントは便利だと思いますか?」という問いに対して、8割以上の人が「はい」と回答しています。
便利である理由については、「履歴に残る」「問い合わせが簡単にできる」「電話をしなくても質問できる」などが挙げられています。カスタマーサービスにおけるオムニチャネル化…とりわけLINEヘの対応は、今の日本市場においてニーズが大きく馴染み深いということです。
オムニチャネルに最適化されたコンタクトセンターシステムを活用する
コンタクトセンターをオムニチャネル化していても、チャネルごとにシステムが別個に存在しているようでは成果を発揮できません。オペレーターがスピーディーかつ正確に情報を把握できないからです。
オムニチャネルの成果を最大限に発揮するには、オムニチャネルに最適化されたコンタクトセンターシステムを活用しましょう。
▶参考情報:オムニチャネル対応&カスハラ防止に役立つコンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
全社・全チャネルでの認識の統一
「コンタクトセンターにおけるオムニチャネルが重要」とは言ったものの、オムニチャネルはコンタクトセンターだけのメリットを追求するものではありません。
オムニチャネルによって収集・管理するデータや、オムニチャネルによって得られるメリットを活かす全社的な取り組みが求められます。
PDCAサイクルを回す
PDCAサイクルとは:ひとことで言うならば、仕事のクオリティを高めるための考え方。Plan(計画)→Do(実行)→Check(測定・評価)→Action(対策・改善)の4つのプロセスを繰り返し、業務を継続的に改善していく方法のこと。
テンポ良くPDCAを回していくことは、オムニチャネルによって一元化されたデータを活かす上で非常に効果的です。せっかく豊富で多様なデータを収集できても、循環・活用されなければ宝の持ち腐れになってしまうからです。
オムニチャネルを確立するには多くのコストがかかり、結果が出るには時間がかかります。必要になるコストと時間は「オムニチャネルのデメリット」とも言われますが、PDCAサイクルを回すことにより売り上げは拡大し、費用対効果も向上していきます。
最後に
これまでのオムニチャネルは、販売促進や顧客満足度向上を主な目的として注目・活用されてきました。しかし、今後はカスタマーハラスメントの予防や、オペレーターの保護における効果が見込まれます。
オムニチャネルは、マルチチャネルやO2Oでは届かないメリットへ手が届くのです。オムニチャネルの現在地は着実に進んでいます。