気がつけばもう師走、あっという間の2023年。みなさんにとって2023年はどんな年でしたか?
日本でも、H3ロケットの打ち上げ失敗、WBCで日本が14年ぶりに優勝、谷村新司さんや坂本龍一さんの逝去、広島でG7サミット開催、記録的な猛暑、インボイス制度開始、相次ぐクマ被害…思い返すと様々なニュースがありました。
顧客接点やCX関連に目を向けると、何と言っても今年は生成AI完全開花の年でした。ChatGPTなどの生成AIが日本でも急速に普及し始め、それに呼応するように日本政府もAI戦略会議を開催して、AIに関する政策の方向性の議論を開始しています。
AI技術は顧客とのコミュニケーションを大きく変革して、ビジネスの世界に新しい可能性をもたらしました。一方で著作権侵害の問題や様々な業界で「仕事がなくなる」という懸念など、話題には事欠きません。
しかし大きな流れとして、すでに多数の企業が生成AIを活用して、顧客のニーズに応える新たな方法を模索しています。
そこで今回のエントリでは、2023年の海外における顧客接点・CXのトレンドを振り返って、来年以降の流れを予測するヒントやインサイトを探ってみます。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニュー(CBA)が解説します。
2023年に「顧客接点」が抱えた問題とは
まず、コンタクトセンター・顧客接点界隈で企業が主に直面していた問題についておさらいしましょう。
高い離職率
離職率が高い職場としてあげつらわれることが多いコンタクトセンター。しっかりとしたナレッジ共有システム、それに基づく教育・研修プログラムが確立されていないと、従業員を保持することは難しくなります。従業員が成長する機会をしっかりと提供できていなければ、ナレッジばかりか将来的な財務損失につながりかねません。
遅れるDX
顧客対応の際に必須となる「情報検索」ですが、多くのコンタクトセンターのオペレータがここに時間を取られすぎていると訴えています。突き詰めるとこれは、資料や文書などが適切にデジタル化されていないことに起因しています。
この部分のDX化が不十分だと、オペレータの離職につながるばかりでなく、対応の長時間化から、顧客離れも引き起こしてしまいます。そして最終的には、収益の損失と組織の低成長という好ましくない結果につながります。
顧客向けセルフサービスモデルの不在
顧客が望んでいるのはオペレータとのおしゃべりではなく、問題の解決です。自分で問題を解決できるセルフサービスモデルが構築されていれば、一時解決率の改善や顧客体験の向上を実現できます。
遅れるソーシャルメディアチャネル対応
企業・顧客間コミュニケーションにおいても普及が著しいソーシャルメディア・SNS。ソーシャルメディア上での企業による迅速な対応は、ブランディングや顧客ロイヤリティの向上につながります。
ワークフロー最適化
顧客対応データ解析や機械学習に対応したツールを活用したワークフローの最適化は、どのコンタクトセンターでも課題になっています。顧客の商品購入やサポート依頼などの方法に関する重要なデータを収集して適切に分析することで、企業は将来における顧客の購入予測を立てられるだけでなく、クレーム客にいかに対応するべきかという戦略を立てることができます。
2023年、海外トレンド「これがアツかった!」
米国のカスタマーサービスQAエキスパートのSQMによれば、こうした背景の中で2023年中に際立ったトレンドを10個リストアップしています。
1. 自動化
自動化には、運用効率の向上、コスト削減、そして顧客サービスの改善という3つの大きなメリットがあります。
簡単な問い合わせやデータ入力などのルーチン作業を自動化することで、人間のオペレータはより複雑な対話に専念できるようになります。これは応答時間の短縮につながるだけでなく、エラーのリスクを減らし、サービスの品質を保持することにも寄与します。
具体的な自動化の例としては、
- AI駆動のチャットボットやバーチャルアシスタントを使った即時対応
- スキルや過去の対話に基づいて最適なオペレータに通話を自動的に振り分けるシステム
- 顧客満足度や好みに関するデータを分析することでよりパーソナライズされたサービスを提供する仕組み
などがあります。
2. セルフサービス化
若い世代ほど、速さと利便性を顧客対応に求めます。セルフサービスは、顧客自ら問題を解決することができ、オペレータとの直接コミュニケーションの必要性を減らす一方で、問題解決を迅速化します。例として以下のユースケースが挙げられます。
- チャットボットを使い、オペレータとリアルタイムで話さずに支援を受ける
- IVRシステムで、通話者がメニューから選択して一般的な質問に答えを見つける
- オンラインのナレッジベースやFAQで、独立して問題を解決するための情報を提供
- 顧客ポータルやモバイルアプリを通じて、アカウントの状況を確認し、注文の追跡や返品・キャンセルを独立して行う
3. オムニチャネルサポート
いまさらオムニチャネル?と思うことなかれ。オムニチャネルサポートの目的は、すべてが統合された顧客体験を生み出し、顧客が望むチャネルで、複数チャネルにまたがったとしても文脈を引き継いだシームレスな対話を実現することです。
つまり、顧客が異なるチャネル(ウェブサイト、IVR、チャット、電話など)を併用した場合、直前のチャネルでのやり取りを引き継ぐことができます。
オペレータ側からすると、メール、チャット、電話サポートが単一のダッシュボードに統合されており、どのチャネルでもやり取りをサポートできるため、顧客体験を損なうことがありません。
4. CX向上のためのパーソナライズ
顧客を惹きつけるのは、個別にパーソナライズされた顧客体験です。顧客が個人として価値を感じ、企業から理解されていると感じられれば、顧客満足度とロイヤリティを向上することができます。パーソナライズの例として、
- 顧客データとCRMシステムを活用した総合的な顧客プロファイルの提供
- AIによる顧客の過去の行動や好みに基づくカスタマイズされた商品やサービスのサジェスト
- 顧客の名前で呼びかけ、重要な節目を認識することで、より意味のあるポジティブな体験を作り出す
などが挙げられます。
5. チャネルとしてのソーシャルメディア・SNS対応
企業・顧客間コミュニケーションに普及が著しいソーシャルメディア・SNS・メッセンジャーアプリ。サポートを求めたり問い合わせたりする場合に現代の顧客は、SNSがメインチャネルとなりつつあります。よって企業には、即時性と利便性が求められるようになります。
6. プロアクティブな顧客対応
問題が起こる前に対処するプロアクティブなアプローチが重要視され始めています。データ分析によって顧客の行動を把握し、問題の釣行を早期に察知する…そうしたアプローチにより、問題が大きくなる前に解決策や情報を顧客に提供することができるようになります。
例として、サービス遅延や問題を顧客に通知したり、コンタクトセンターへの問い合わせ後にフォローアップを実施して顧客満足度を確認したりすることが挙げられます。
7. AI導入
これはもう言わずもがなですよね。AIや生成AIを顧客対応・コンタクトセンターシステムに組み込む企業やBPOが急増しています。人間のような会話を可能にする自然言語処理を備えた生成AIを利用して、日常的な問い合わせに対応できるようなシステムを構築することにより、コスト面でのメリット、顧客体験向上面でのメリットなど、大きな効率化が見込めることになります。
例として、企業のウェブサイトやメッセージングアプリに設置されたチャットボットが、一般的な質問への回答、アカウント関連の問い合わせ対応、トラブルシューティングを案内します。また、AIベースのIVRシステムにより、オペレータの介入なしで口座の確認や予約スケジュールの設定などの問い合わせの自動処理が実現します。
8. 顧客に寄り添った対応
顧客対応やカスタマーサービスには、問題解決以上のことが関係してきます。顧客が共感できるか、そして強く長期的な関係を築けるかどうかも重要なポイントです。コンペティティブな昨今のビジネス環境において、顧客に寄り添えるかどうかというポイントは、顧客との感情的な結びつきや良い関係の構築面で大きな影響を与えます。
例えば、アクティブリスニング、共感的な対応、不要なエスカレーションを減らす施策、対話中の顧客の感情測定としてセンチメント分析ツールを導入することで、オペレータがリアルタイムで適切に対応をアジャストする、といったことなどが含まれます。
9. 顧客フィードバックの自動化
顧客フィードバックの自動化により、顧客の意見を収集して分析するプロセスを簡略化できます。加えて、顧客体験をより広範囲に把握できるようになります。
10. ネガティブレビュー
ソーシャルメディアとオンラインレビューの力が増していく中で、否定的な顧客対応は以前よりも大きな影響を及ぼすようになりました。不満を持つ顧客が悪評を広めるのがより簡単になっており、企業の評判や収益に多大な影響を与える可能性があります。迅速な対応がなければ、悪評がソーシャルメディアで拡散し、YelpやGoogleのようなプラットフォームでの評価を下げることがあります。
顧客側には他の選択肢が多くあるため、一度の悪い体験で競合他社に移ることも容易に考えられます。日本でも悪質クレーマーによる影響が大きな問題となっています。従業員を守り、ブランドへの影響を最小化するためにも、効果的なカスハラ対策を実施する必要性があります。
2024年のトレンド予測に大切なポイント
2023年に見られた10のトレンドをベースに、2024年以降を予測していく上で大切なポイントを探っていきます。
人とAIのバランスを保つ
これまでもそしてこれからも一層の活用が進むであろうAIですが、生成AIの普及に伴い、ここ2,3年で注目度が一気に急上昇しています。そして、AI技術を導入する際の実際のメリットと過剰な煽りによる宣伝なのかの見分けがつきにくくなっています。
一つ確実に言えることとして、どんなに最先端のAI技術であっても、それが人間と連携していなければ顧客体験の向上は望めません。現状、最終的な判断は人間が下すべきだからです。
しかしAIと人間がうまくコラボすれば、互いに知識・学習を深め、効率を高める強力なパートナーシップを組むことが可能となります。AIは従業員を置き換えるものではなく、従業員をサポートするものです。
したがって、顧客体験や従業員体験の自動化を検討する場合には、慎重になる必要があります。ただ「新しいから」という理由だけで技術を導入するのはすぐさま失敗に陥ります。
自社にとって最も適したものが何なのかしっかりと検討することが重要です。AIと人間のバランス最適化は、2024年以降も顧客と重要員のシームレスな体験を実現させるキーポイントとなるはずです。
顧客をより深く把握する
顧客の問い合わせや問題、お悩みをスムーズに解決するために欠かせないのは、コールリーズンを深く理解することです。オペレータが顧客のニーズを予測できるようにすれば、効率的な顧客対応と迅速な問題解決につながります。顧客がどうしてコンタクトセンターにサポートを求めてきたのか、その背後にある背景や文脈、そしてモチベーションを深く掘り下げることで、よりプロアクティグな顧客体験を提供できます。
顧客の行動を理解することは重要です。顧客対応における「文脈の理解」を通じて、顧客にとって最良の体験を作り出すことができ、これまでになかった顧客体験の革新をもたらすことができるはずです。それこそAIやオムニチャネルなど、最先端のテクノロジーを活用することで顧客理解を深め、ビジネスをより一層成長させることができます。
目的意識を持って進める(パーパスドリブン)
現代の顧客は、企業がどのようにビジネスを行っているのかに重きを置いています。企業の姿勢や企業が発信する情報から、多角的に企業を評価します。これには、その企業がどのように従業員を扱っているか、製品の調達先、環境面での影響、そして社会への貢献度も含まれています。
消費者は、自分たちと価値観を共有できる企業を支持しています。Z世代などの若い顧客層の購買力が増すにつれ、ブランドに目的を持たせることの重要性が高まっています。コミュニティ、環境、顧客の生活にポジティブな影響を与える方向性を探り、コストを意識しつつ、目的意識を持ってビジネスを進めていく。企業には、そんなアプローチが求められています。
フレキシブルな業務環境を構築する
多くの企業は、実際に思っているほどフレキシブルではなかったりしがちです。「この会社はフレキシブルだ!」と叫ぶためには、まず従業員の経験を最優先に捉える必要があります。優れた人材を確保して維持するためには、フレキシブルで自由な業務環境を従業員に提供する必要があるからです。
フレキシブルな業務環境を構築し、優秀な従業員が優先的にシフトを選択できるようにすることで、心のゆとりと時間が生まれるだけでなく、パートタイムの従業員や在宅など、幅広い労働力にリーチすることが可能となります。結果として、離職率の低い職場を作り出すことができ、企業にとっては大きなコスト削減につながります。
最後に
2023年のトレンドを振り返り、2024年以降の流れを予測してみました。今年のCCCRM東京でも生成AIの活用が大きなトピックとなっていましたが、この流れは来年以降もより加速することと思われます。
一方で、生成AIについては、セキュリティやハルシネーションに関する懸念が完全に払拭されているわけではありません。いかにAIに悪さをさせず、安心活用することができるか。顧客対応の最前線で、いかにAIを顧客相手に活用できるか。AIをテキスト処理や要約生成のみでの活用という足踏み状態から、いかにして一歩を踏み出すのか。そんなトピックも見え隠れします。
AIの安心活用に向けた取り組みや技術革新はすでに進んでいます。たとえば、前回のエントリでフォーカスされたRAG技術はその一つです。クレンジングされたデータをクローズドな環境で学習に使用することで、特定のデータベースを検索してLLMに正確な回答を生成させる。そんな流れがすでに始まっています。
ちなみに筆者は個人的に、そのうちAIというのは「消える」のではないかと考えています。「オワコン」という意味で消えるのではありません。今まで以上に一般化が進み、企業から個人へ活用の幅が広がり、インフラとして普及していくという意味で、「目に見えなくなる」と考えています。このあたり、またTPIJで取り上げたいと考えています。いずれにしろ、来年以降に私達の目の前にはどんな世界線が広がっているのか。とても楽しみです。