2021年の後半頃から人手不足が深刻化し、早2年と少しが経とうとしています。コールセンターの採用時給の高騰や採用難、離職率の高さといった問題は後を絶ちません。コロナ前に見られた人手不足とは違い、今回の人手不足は解消の要素がほぼ存在しません。

そのため、限られたリソースをいかに有効活用でき、オペレーターを離職させない(=リソースを減らさない)かが、現在のコールセンターの運営課題となっています。つまり「リソースマネジメント」です。

この記事では、改めてなぜリソースマネジメントが必要なのかを明確にしつつ、具体的にどのようなマネジメントが行えるのか4つの方法を紹介します。コールセンターの人手不足に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

この記事がおすすめの方
・解消の兆しがない人材不足に対して、一時しのぎではない対策を取りたい方
・リソースマネジメントといっても、具体的に何ができるのかを情報収集している方

コールセンターでリソースマネジメントが必要な理由

「リソースマネジメントが大切である」というのは、今に始まった新しい考え方ではありません。しかし、リソースマネジメントの重要度と緊急度は確実に高まっています。

リソースマネジメントがうまくできていないとどのような課題が発生するでしょうか。適正な人的マネジメントがされないと、人材不足に端を発する課題は以下のように五月雨式に発生してしまいます。

【コールセンターサイド】

  • 出勤率の高いオペレーター/歴が長いオペレーター/SVへの属人化
  • 現場の疲弊
  • オペレーターの意欲低下
  • 離職

【顧客サイド】

  • つながりにくい電話
  • たらい回しにされる非効率的な対応
  • 質の悪いサービスの提供
  • 顧客満足の低下
  • 顧客離れ

「コールセンタージャパン」2024年1月号12ページからの記事では、コールセンターはカスタマージャーニーにおける「大トリ」として位置づけられています。

本来ならば、コールセンターは一連のカスタマージャーニーで発生するネガティブな体験をリカバリーできる部署です。

しかし、大トリであるコールセンターが人材不足ゆえにトリとしての役割を果たせないとなると、顧客のカスタマージャーニーはネガティブな体験で終わってしまい、ロイヤルティの醸成にはつながりません。

逆に、コールセンターまでのカスタマージャーニーがポジティブな体験だったとしても、「トリ」でネガティブな体験へとひっくり返してしまうリスクがあります。カスタマーサポートを担うコールセンターとしては絶対に避けなければいけません。

人材不足に直面する多くのコールセンターは、「限られたリソースでより柔軟に最大限の成果を得たい」と望むはずです。また、顧客の不満として最も多い「つながりにくい」環境を回避しなければなりません。では、これらの条件をクリアできるどのようなリソースマネジメントがあるでしょうか。4つの具体策を紹介します。

コールセンターでできるリソースマネジメント4つ

人材不足を効率的に解消し、顧客をも満足させるリソースマネジメントの方法を4つ紹介します。

1. WFMツールの活用

コールセンターにおけるリソースマネジメントと聞くと、真っ先に浮かぶのが「WFMツールの導入」かもしれません。WFM(ワークフォース・マネジメント)ツールを活用すると、コールセンターの運営側とオペレーター側のそれぞれに以下のようなメリットが発生します。

〈運営側〉

  • 過去のデータを元に、呼量総数や必要な人員数と配置を予測・割り出すことができる
  • 上のデータを元に、時間帯や問い合わせ内容、対応スキルに応じたオペレーターのシフト調整・管理を行える
  • オペレーターのスキルを管理できる
  • オペレーター不足時には、必要なスキルをもつ登録スタッフをツール上でリストアップし、業務オファーを一括送信することができる

〈オペレーター側〉

  • シフト希望の登録ができる
  • 個人の端末からシフト表を確認できる
  • 勤怠に関して正確な管理がされる

ひとことに「WFMツール」といっても多くの製品が提供されています。WFMツールによっては操作が煩雑で、ツールを扱える担当者にかえって負担が集中したり属人化したりするリスクがあります。ツール選定時には、操作性の良さや手厚いサポートがあるものを選ぶようにしましょう。

WFMツールの活用にはいくつかのメリットがあります。複数拠点のコールセンターにおいてリソースを一元管理できるという強みです。拠点をまたいだリソース管理が実現すると、人員が不足しているチームにオペレーターを派遣したり、余剰人員を研修に充てたりすることができます。各拠点ではなく、センター全体として所持しているリソースを無駄なく使うことが可能です。

参考情報:コールセンタージャパン2024年2月号

しかし、WFMツールを含め、何かしらのシステムによるリソースマネジメントはコストが発生します。企業によっては、「コールセンターはコストセンター」という考えがいまだ払拭されておらず、リソースマネジメントにあまりコストがかけられていないかもしれません。

ここからはコストを抑えたリソースマネジメントについて紹介します。

2. 他部署と連携した呼量予測

「コールセンター白書2022」の74ページに掲載されているデータを見ると、約半数のコールセンターが「過去の呼量データをもとに、現場のマネジメントがExcelなどを利用して(呼量予測を)行っている」と回答しています。

過去の呼量データの活用は欠かせません。しかし、呼量には投下中のプロモーションや新製品数と売り上げなど、全ての企業活動が影響していることも忘れないようにしましょう。

コールセンター白書では、「呼量予測に際して他部署と連携を行っている企業は少ない」と指摘されています。結果として、約6割の企業が予測精度の低さを認識しています。より正確に呼量を予測し、精密な人材配置を実現するには、マーケティングや営業との連携が必要不可欠となります。

3. コールバック予約の実施

リソースが限られていると、オペレーターの人数に対する入電数のバランスを取るのが難しくなります。この課題に対して、コールバック予約は大変効果です。

コールバック予約によって「電話がつながるまで待つ」という顧客行動を防ぎ、呼量のピークタイムを分散し、限られたリソースを効率的に活用できるからです。「つながらないことに端を発してクレームが発生→現場が疲弊(→離職=リソースの減少)」という悪循環を払拭できることが最大のメリットと言えます。

ただし、コールバックの実施には注意が必要です。コールバックの予約時間は「10~12時/10時~11時」のように比較的幅のある「時間枠」での指定となるからです。「2時間近くも待たされた」と感じる顧客もいれば、1~2分程度の遅れでも「コールバックしてもらえなかった」感じる顧客もいるということです。いずれの場合も、顧客満足度の低下やクレームを引き起こすリスクがあります。

ここで、コールバック実施の成功例を紹介します。コールバック予約を全面採用している「さくらインターネット」では、予約枠を30分単位に短縮することで、コールバックにおける接続割合を80%まで向上させました。同社では、電話対応をコールバックのみに絞ることで、オペレーター数に合わせて予約件数を柔軟に調整できるようになっています。
(出典:コールセンタージャパン2023年4月号 p.21)

リソースマネジメントの観点からすると、オペレーターの稼働できる人数に合わせて呼量を柔軟に調整できるのは願ったり叶ったりです。

しかし、「さくらインターネットのようにコールバックを全面採用しつつ、予約枠を30分にすればリソースマネジメントが必ず成功する」というわけではありません。

コールバックによって顧客満足度を向上させるためには、「時間枠」の他に注意すべき点があります。コールバック後の対応フローです。コールバックした上で、担当のオペレーターが対応できずに転送するというフローは、顧客満足度を低下させるリスクがあります。

コールバック予約で失敗しないために役立つ方法

コールバック予約で失敗しないために役立つ方法を二つ紹介します。

三井住友カード:「オペレーターのマルチスキル化とテクノロジーの組み合わせ」
三井住友カードは、コールバックの実施に際してオペレーターのマルチスキル化をはかりました。各オペレーターが複数のスキルを身につけられるよう教育しつつ、必要なナレッジをレコメンドするナレッジマネジメント・システムを導入し、テクノロジーによる支援を行っています

さくらインターネット:「ビジュアルIVRの活用」
さくらインターネットは、ビジュアルIVRを実装し、解決したい内容に応じて最適なチャネル・FAQサイトに誘導する導線を構築しました。電話対応を希望する顧客は、公式サイト上からコールバックの予約手続きを行います。予約時には、ユーザーがオペレーターへ問い合わせたい内容を入力しているので、オペレーターはある程度の事前準備をした上で、自身が解決できそうな案件を選ぶことが可能です。

さくらインターネットの事例のように、IVRによって事前に各顧客の問い合わせ内容が把握できていれば、スキルや立場の点で適切なオペレーターがコールバック対応を行えます。コールバック後に別のオペレーターへ転送したり、SVへエスカレーションしたりする無駄を軽減できるので、顧客満足度向上が見込めます。

コールバック予約の実施によってリソースマネジメントを成功させていくには、さまざまなテクノロジーを組み合わせつつ、お客さまとオペレーターの双方にとってエフォートレスであることが重要です。

参考情報:IVR機能とコールバック予約機能に優れたコールセンターシステム「Bright Pattern

4. FAQなどのセルフサポートの強化

リソースマネジメントを行う上で抜本的アプローチとなるのが「呼量の削減」です。電話での問い合わせを減らすには、FAQやチャットボットなどを駆使したセルフサポートの強化が不可欠です。

「FAQの強化なんて使い古されてきたセルフサポートでしかないし、呼量削減の効果があまり見られないので、期待値は今さら高くない」と思われるでしょうか。

「コールセンター白書2022」によれば、コールセンターに電話をかけてきた顧客の約5割が、電話の前にネットで自己解決を試みています。しかし、探している情報が見つからなかったり、回答の説明や専門用語がわからなかったりすることで、自己解決による完結ができていません。

逆に、ネットによる自己解決ができれば、現在の受電数の約5割カットの見込みがあるということになります。自己解決率を向上させるカギは、顧客が確実に答えにたどりつける導線の整備と、FAQやチャットボットに有人対応と同レベルの解決力をもたせることです。

セルフサポートツールの解決力を有人対応と同レベルにするには、現在のコールリーズンの分析が必須です。コールリーズンを的確に把握できれば、どのような問題がなぜ解決できていないのかが明確になります。見えてくるボトルネックについて、FAQやチャットボットを地道にチューニングしていけば、顧客の自己解決率は向上し、コールセンターの呼量は削減されていくはずです。

ボトルネックの一例として、「FAQで使われている専門用語が顧客に理解されていない」という問題があるとしましょう。このボトルネックを解消するには、ユーザーが理解できる言葉への言い換えが必要となります。平易な言葉へ言い換えるための一案は、過去の問い合わせデータから顧客が使っている言葉を抽出していくことです。しかし、言葉の抽出には膨大な時間と労力を要します。リソースが限られた状況において現実的ではありません。そこで、生成AIの活用が効果的です。

たとえば、「金融/IT/ファッション…に詳しくない人にもわかりやすく」といったプロンプトで平易な表現への書き換えをリクエストすれば、ものの数秒で用語の言い換えが可能です。出力されたフレーズが自社の顧客にとって理解しやすいか否かを人間で判断すれば、「セルフサポートツールで解決できない」という問題からの効率的脱却が可能となります。

最後に

リソースマネジメントの具体案として挙げた呼量予測やスケジューリング、コンタクトリーズンの分析やレポートは、いずれAIへの置き換えが進むと予想されています。すでにこれらの機能を生成AIでアプリ化する動きが見られているようです。

リソースマネジメントがAIによって自動化できれば、限られたリソースでより効率的かつ精緻なマネジメントが実現できます。

しかし、AIによる自動化が始まる前からリソースマネジメントの土台ができていなければ、AIによる自動化の成果を正しく評価することができません。自動化を待ちつつ、今行えるリソースマネジメントに着手していくなら、来るAIでのリソースマネジメント時代に備えることができます。