コンタクトセンターやカスタマーサービス業界でもぐんぐん頭角を現しているAI。たしかに生成AIはすでに市民権を得ていますし、AIが見せつけたポテンシャルは、コスト削減や人手不足といったコロナ禍が浮き彫りにした企業の問題や課題のソリューションとして、実に魅力的に映ります。

たしかに、ビジネスプロセスの効率化、顧客サービスの向上、さらには新たなビジネスモデルの創出まで、これまで人間がやってきた様々な業務にAIが進出してきており、実際AIを導入することで、データ分析やコンテンツ生成、顧客対応など、多岐にわたる分野で最適化が実現しています。顧客接点を多く抱えるカスタマーサービスやサポート業界も例外ではありません。

しかし一方で、コンタクトセンターでは、以下のようなシナリオが現実のものになりつつあります

お客さま:今月の請求額についてちょっとお聞きしたいんですが…

ボイスボット:こんにちは!ご請求額に関してお困りのことがございましたら、ぜひお手伝いさせてください。お客さま番号とお客さまが抱えておられる問題についてお知らせください。

お客さま:番号は****で、今月の請求額がちょっと高すぎると思って電話しました。

ボイスボット:左様ですね!お問い合わせくださりありがとうございます。ご不便、申し訳ありません。お調べいたします。お客さまのステータスを確認するため、少々お時間が必要となります。

お客さま:(時間かかりそうだなあ…)えっと、じゃあ担当者の方と直に話したいんですが?

ボイスボット:左様ですね!お問い合わせくださりありがとうございます。弊社担当者にお繋ぎする前に、お客さまのステータスを確認する必要がございます。お客さまの詳細情報を確認させていただきます。

お客さま:(AIは嫌だな、話が遅い…)今この段階で担当者に繋いでもらうことはできないんですか?ボットと話すのはちょっと信用できない気がして。

満を持して導入したAIベースのボイスボットや自動化システムに対して、コンタクトしてきたお客さまが懐疑的に感じるというのは、新しいテクノロジーに抵抗感のある世代に特によく見られる話です。

今回の記事では、そうしたAI時代にお客さまとの信頼関係を構築する際に直面する問題と、どのようにそういった問題を乗り越えるか、または問題の影響を最小化するのかについて、ヒントを見ていきたいと思います。

まずは、そもそもどのようにAIがコンタクトセンターで活用されているのかをおさえておきましょう。

コンタクトセンターにおけるAI活用の実態

コンタクトセンターにおけるAI活用という文脈においては、AIとは、我々人間のように考えたり学んだりする能力をコンピュータによりシミュレートして実現する技術と言うことができるかもしれません。機械学習や特別なアルゴリズムを使用して実現させます。こうしたAIテクノロジーにより、人間のオペレーターを自動でサポートするボットやバーチャルオペレーターのような、いわゆる「お手伝いさん」を作ることができます。

人間の代わりにお客さまからの質問に答えたり、お客さまが抱える問題を解決したりできるだけでなく、同じような繰り返し業務やお客さま各々に合わせた対応をすることもできるため、人間のオペレーターはこれまでに加えてより良い決定を下すことができるというわけです。AIベースのツールやソリューションの典型例として、以下が挙げられます。

チャットボット・バーチャルオペレーター:お客さまからのお問い合わせにリアルタイムで対応。人間のオペレーターが、より複雑な問題やケースに対応できるように助ける。また、お客さまが自分で解決策に到達できるようにするセルフサービスを促進。

予測分析:膨大なデータを素早く分析。ニーズやインテント、顧客が期待することを予測する。  

感情分析:顧客の音声から、現在の状況を分析。ネガティブな雰囲気にいち早くフラグを立て、SVの適切なカットインを促すことで、CX全体をポジティブに保つ。

応対業務の効率化:対応内容に応じてAIが回答の優先度を自動改善、必要な情報を画面上にリアルタイムでサジェスト。

ルーティング:問い合わせ内容やオペレーターのスキルなどに応じて、自動的かつ正確にルーティング。

本人確認の自動化:声紋認証などで、個人を特定して、電話による本人確認の時間や手間を削減するだけでなく、セキュリティも強化。

ここで注意したいのは、「AIは人間を完全に代替するものではない」ということです。むしろ、人間の労働力を補う優れたツール、サポートとして機能するということを理解しておく必要があります。

たとえば、顧客応対業務の効率化を目指してAIツールを導入し、オペレーターにリアルタイムで応対内容のサジェストを表示させるシステムを構築する企業が増えています。カスタマーサービスという仕事の持つ本質からすれば、人間のオペレーターによる顧客対応への関与をAIで機械的に置き換えることではなく、むしろ顧客対応という仕事のフローを再構築していることにほかなりません。

加えて、AIや生成AIなどの新しいテクノロジーを導入することの目的についてもしっかりと抑えておく必要があります。なぜなら、そういった新たなテクノロジーの導入が顧客との信頼関係を阻害する結果になってしまうのは、顧客との信頼関係を築くことが重要なファクターとなるコンタクトセンターにおいて絶対に避けるべきことだからです。

信頼関係により、企業は顧客満足度やロイヤリティ、そして自社ビジネスの成長が促進されます。顧客がAIベースのシステムでもより一層の信頼感を得てくれるのであれば、将来の顧客離れを防ぐことができます。

結果として効率化の達成、生産性の向上、運営コストの削減などを実現できることになります。これまでに実施されたいくつかの研究によれば、AIに対する顧客の信頼度は、コンタクトセンターにおけるAIシステム導入・構築を成功させられるかどうかの大切な要素となっています。

ではそんなAI時代に顧客と信頼関係を築くときに、どんな点が問題またはフリクションとなってくるのかを見ていきましょう。

AI時代に顧客と信頼関係を築く際に直面する課題とは?

AIのとてつもなく大きな可能性を持ってしても、顧客と信頼関係を築くのはそんな簡単なことではありません。何しろお客さまというのは、感情のある生身の人間ですから、いつでもこちらの思ったとおりに行動したり反応したりすることはありません。どんな課題が存在するのでしょうか?

透明性の担保

お客さまはしばしば、「見えないこと」にフラストレーションを感じがちです。AIといういわば「ブラックボックス」により自分が対応されていて、その複雑さを目の当たりにすると、お客さまの懐疑心が誘発されてしまうかもしれません。自分に関するデータがどのように処理され使用されるのかについて、100%理解するのは不可能です。この部分の不透明性をいかにして払拭し、透明性を担保できるかは非常に大切です。

テクノロジーに対する恐怖感の克服

AI技術は比較的新しい技術分野であり、相手が見えないのに人間ぽい正確な反応が返ってくることから、多くの顧客がちょっとした恐怖心を抱いています(不気味の谷)。その「恐怖心」を取り除いてあげることも課題の一つです。

セキュリティの強化

「AI=機械」という考えから、システムが扱い処理する機密データが本当に機密性を保って扱われているのかどうかという懸念をお客さまから払拭するには、どんなセキュリティ対策を取っているのかについてしっかりと情報提供する必要があります。この部分を怠ると、顧客との信頼関係を築くのは著しく困難になります。

「AIに置き換えられるのでは?」という恐怖感の払拭

オペレーターサイドにも、AIに対する恐怖感というのは等しく存在します。その典型例が、「AIが人間の仕事を奪ってしまうのではないか」という懸念です。こうした懸念や不安はAIに対する抵抗感として表面化します。

「AIは人間の業務を手伝ってくれるのだ」「結果として自分の業務が楽になる」「時間を有効に使える」「フォーカスしたいタスクにフォーカスできる」などのポジティブ面をしっかりと打ち出す必要があります。それだけでなく、そういった面を実際に体験させてあげる必要があります。

パーソナライズの実現

顧客接点におけるパーソナライズされた対応は、企業と顧客の関係を近くするだけでなく、信頼感をも深めます。しかしその対応が、AIという機械めいたものによりなされているということを意識させられると、共感しにくくなることにより、お客さまは少し引き気味になるかもしれません。

たとえば本記事冒頭部分のシナリオのように、コンタクトしてきたお客さまがボイスボットによる対応を受けた時、相手が人間ではないという感覚から、自分のニーズはどこまで理解されるのか瞬間的に不安になるのです。そしてそのような感覚や考え方こそが、AIに対する抵抗感をうみ、AIが牽引する顧客対応に対する信頼感を阻害してしまうことにつながっていきます。

こうした課題を克服することで、AI時代に顧客と信頼関係を強固にすることにつながるわけですが、そうするための4つの必須ポイント探っていきます。

AI時代に顧客と信頼関係を築くために必須な4つのポイント

とにかくもう、認めてしまったほうが良いのかもしれません。お客さまというのは、AIに懐疑的だしAIを信頼することはない、と。すでに考えてきたとおり、やはり「AIというよくわからない機械やアルゴリズムに対する漠然とした不安」があるからです。

それでもこうした課題は、乗り越えることができます。早速、そうするための「4つの堅実な戦略」を見ていきましょう。それぞれ、「3つの具体的なアクション」がありますので、お見逃しなく。 

AIアルゴリズムの透明性を強化する 

顧客と信頼関係を築く上で最大の障壁は、「AI=ブラックボックス」という感覚です。そこで、信頼関係構築の第一歩として、AIベースのシステムに関する透明性を高めることが必要です。つまり、そのAIはなぜ使用されているのか、どのように動くのか、意思決定プロセスはどのようなものなのか、お客さまがイメージしやすいようにしておく、ということです。 

  1. AIの意思決定プロセスを理解できるようにする 
  1. AIが収集するデータと、なぜ収集するのかその理由を伝える 
  1. データの機密性とプライバシー、そしてセキュリティを確保するために講じている対策を詳細に説明する 

これらの方策は、企業秘密を明かすものではありません。むしろ大切なのは、こうしたプロセスや内部構造を理解しやすいようにしておくことで、AIという新たなテクノロジーの普及に向けて尽力しているという企業姿勢を打ち出すことができる、という点です。 

AIのメリットをお客さまに知って体験してもらう 

AIを活用することのメリットを知ってもらうのは非常に有益です。人は、「メリットがある」と納得したものには、信頼感を抱くものです。したがって、問題解決におけるAI活用のポジティブな面を強調するのは、お客さまにとってもメリットになります。 

  1. AIにより、自分の待ち時間やムダな時間がいかに削減されるかを伝える 
  1. そして業務によっては人間がするよりも高い精度を保てることを伝える 
  1. AIベースのシステムがどのように24時間365日稼働し続けているか、それによって常時サポートが実現されているかを解説する 

AI活用の現実的で定量的なメリットを明らかにすることで、AIに対する「不安」から「受け入れ」へ、お客さまをナビゲートすることができます。 

AIと人間の相互コラボで顧客体験をパーソナライズ 

コンタクトセンターという顧客接点において大切な目標の一つに、顧客との信頼関係を築くというものがあります。AIは、人間同士の感情の繋がりを代替するものではありません。むしろ、AIを活用して対応プロセスを迅速化し、人間にしかできない対応によりフォーカスすることで、パーソナライズを実現できます。AIと人間による「ハイブリッドな顧客対応がAI時代の標準」ということになります。 

  1. 定型的で単純な問い合わせにはAIを積極活用する 
  1. 複雑でデリケートな問題には、スキルのある人間のオペレーターを積極活用する 
  1. AI対応に満足できないお客さま向けに、人間のオペレーターにスムーズに接続する仕組みを実装する 

こうしたハイブリッドアプローチが、これからの標準になっていくのではないかと考えます。 

AIの有効性・効果性を実証する 

AIが持つ力と可能性が、これまでのCXをどのように変革するのか、そしてより人間味のあるCXを実現することにつながるのかをお客さまに実証していくのも大切なポイントです。そうするには、やはりスムーズなAIベースの対応システムをお客さま自身に体験していただくことが一番の近道です。AIを取り入れ、実装して、効果的な顧客対応システムを運用する。大切なポイントです。 

  1. AIがシンプルで効果的なカスタマージャーニーを作り出せるようにする 
  1. AIが人間のオペレーターと同等かそれ以上に顧客対応を実施できることを実証する 
  1. AIベースの顧客対応システムを体験したお客さまから、フィードバックをいただく 

こうしたヒントを踏まえながら、自社のAI導入・実装・運用戦略を構築していくことをオススメいたします。 

最後に

コンタクトセンターやカスタマーサービス、顧客接点における企業・顧客間コミュニケーションのあり方を根本的に変革しているAI技術。AIは新しい技術であり、様々な方向性で注目を集める技術でもあることから、取るべき戦略を間違えてしまうと、これまで培ってきた信頼関係を崩すことにもなりかねません。AIを駆使しつつ顧客との絆を強化し、お客さまの期待を超えるサービスを提供し続けるためにも、今回の記事で注目したポイントを戦略ヒントとしてご活用いただければ幸いです。 

AIは人間の敵でもなければ、すべての人間を置き換えてしまう恐怖マシーンでもありません。あくまでAIは人間とコラボすることでその真価を発揮します。そして、最高の顧客体験を提供します。AIが単純な問い合わせや効果的なルーティング、顧客によるセルフサービスを実現し、人間は複雑なケースや対応案件で、より一層人間味のある対応を提供する。そんなハイブリッドアプローチにより、AIの効率性と人間の感情的な部分を効果的に加味した顧客対応により、CXは格段に向上するだけでなく、パーソナライズも実現できます。 

お客さまの琴線に触れる、心に響くサービスを提供すること。お客さまの心を理解しようと努力すること。ニーズに応える努力をすること。そもそも、企業活動の本質は、AIが登場しようがしまいが、変わっていません。顧客との信頼関係を築き、深め、育てる企業の旅はこれからも続きます。その旅が続く限り、AIは人間の強力なパートナーとしてわたしたちをサポートし続けるはずです。