パンデミックをきっかけに、コールセンターは「エッセンシャルワーク」「顧客接点の最前線」といったポジティブなイメージが広まりました。一方で、多様化するチャネルへの対応やBCP対策、継続的な運用にはコストがかかります。 

そのため、とくに管理職の間で「コストセンター」としてのイメージが払拭できていない場合が少なくありません。コールセンターの働きは、営業などと比べて可視化されにくく、かかっているコストが目立ってしまうことが一つの原因です。 

しかし、コールセンターをイメージ面でも実績面でも「プロフィットセンター化」する動きは高まっています

コールセンターは間違いなく顧客接点の最前線であり、お客さまとのコミュニケーションの要です。顧客とのコミュニケーションや、顧客満足度を重視する企業であればこそ、コールセンターへの投資価値を過小評価しないようにしましょう。 

この記事では、コールセンターへ投資するメリットを4つ説明し、具体的に何へ投資ができるか5つの例を紹介します。 

この記事が解決するお悩み

「コールセンターはコストセンター」という考えを払拭し、プロフィットセンターへと価値を押し上げたい

企業の管理者に、コールセンターへの投資メリットを理解してもらいたい

コールセンターをプロフィットセンターにするため、効果性の高い投資をしたい

コールセンターへの投資メリット4つ

コールセンターがプロフィットセンター化を目指すと、アプローチ方法はさまざまです。

他部署との連携強化や人材確保といった、「人」にまつわるアプローチもあれば、KPIの設定や戦略の浸透といった「運営」にまつわるアプローチもあります。いずれのアプローチの場合も、事前投資が必要となります。

しかし、コールセンターそのものは本来利益を生み出すものではないので、投資どころかコストカットを求められるのが現状かもしれません。そこで、まずはコールセンターに投資をするメリットについて明確にしましょう。

ここからは、代表的な4つのメリットを紹介します。

決裁権をもつ上司へ投資価値をアピールする際や、自身が投資メリットについて再確認にしたい時にお役立てください。

顧客満足度と従業員満足度の向上に寄与する

顧客接点の最前線であるコールセンターに十分な投資がされていると、カスタマーサポートの質の向上に大きく貢献し、顧客満足度向上に寄与できます。

たとえば、電話がつながるまでの時間の短縮や、コールバックによる業務の効率化、多様化するチャネルへの柔軟な対応など、顧客満足度に直結する要素のクオリティアップが可能です。

多くのコールセンターは、より良い顧客体験を提供するために具体的なKPIを設定しています。重視するKPIには、以下のようなものがあります。

  • 放棄呼率/応答率
  • 平均応答時間
  • ミス率
  • NPS
  • オペレーターのモニタリングに基づく対応品質

いずれも品質や生産性を推し量るのに有効な数値です。

しかし、顧客体験を向上させつつプロフィットセンター化を目指すのであれば、より重視するべき指標があります。

コールセンター白書2023」では、コールセンターが放棄呼率/応答率を最重視する傾向を「応答率信仰の根強さ」として指摘しています。コールセンターにおいて「つながらない」という事象はなるべく避けなければいけません。とはいえ、応答率には「つながるまでの顧客体験」が考慮されていないという点を忘れないようにしましょう。

電話がつながるまでの待ち時間が1分でも10分でも、「応答率」としてひとまとめにされれば同じ数値になります。しかし、待ち時間が大幅に違うので、顧客満足度においては大きな違いが発生します。

では、至る所で強調される顧客満足度に関するKPIはどうでしょうか。

「コールセンター白書2023」の調べによれば、顧客満足度を最重視しているのはわずか11%です。

顧客満足度向上を目標にさまざまな取り組みを行いますが、数値化される顧客満足度をKPIとして重視するセンターは少ないのです。

プロフィットセンターを目指すなら、応答率からさらに一歩踏み込んでサービスレベルにて結果を測定するようにしましょう。

従業員満足度の観点からは、在宅オペレーター制度の確立や、フォローアップ体制においての投資が効果的です。労働環境の整備は、従業員満足度へと直結します。従業員満足度の向上は、顧客満足の維持向上へつながります。プロフィットセンターを目指すなら、各オペレーターと企業の協力関係や意識の統一は欠かせません。

コールセンターへ適切な投資がなされていると、お客さまと従業員のそれぞれの満足度向上にアプローチできるので、顧客ロイヤルティの獲得や離職予防といった別のメリットへと連鎖していきます。

顧客ロイヤルティの獲得

日常生活にまつわるほぼ全てのものが値上げしていく中、センターの運営を継続していくにはコストカットは必要不可欠です。しかし、コストカットの裏で、実は「カスタマーカット」をしていることはないでしょうか。

Accenture Life Trends 2024を見ると、37%の人が「多くの企業がより良い顧客体験よりも、より高い利益を優先している」と感じており、40%が「コスト上昇分を顧客に転嫁するために値上げを計画している」と回答しています。

同レポートの調査結果によれば、「顧客として大切にされていない」と感じる大きな要素は、以下の二つです。

  • カスタマーサポートにつながらない、対応が悪い(47%)
  • 顧客としての自分の声やクレームを無視された(41%)

上記の2つは、コールセンターの在り方によって解消できます。

今よりも電話のつながりやすい環境を整えたり、各オペレーターが余裕をもって対応できる環境を整えたりするなら、不満を感じる47%の人に寄り添うことができます。

コールセンターは、継続利用までを見据えたダブルファネル・マーケティングのカギを握ります。VOCの収集と活用、顧客との円滑なコミュニケーションが求められます。

センターへ寄せられるVOCについては、必ずしもお客さまから要求された通りにすることが「正解」なわけではありません。中には、企業として応えることが難しい内容や、カスタマーハラスメントに抵触するような内容が含まれている可能性があるからです。

ポイントは、あくまでも企業がお客さまの声を認識していて、可能な限り応えようとしているという姿勢が伝わることです。お客さまから上がった声に時差が生じないよう、対応へのスピード感も重視しましょう。

VOCの有効活用例:ローソン 

大手コンビニエンスストアのローソンは、公式サイトにて「お客様の声からうまれた取り組み」のページを開設しています。これにより、VOCに基づく改善活動を対外的にアピールできています。その効果として、SNS上では当該ページに関するポジティブな声が挙がるようになっています。

出典:「コールセンタージャパン2024年1月号」

カスタマーサクセスの実現

カスタマーサポートが多様化と複雑化を極める中、カスタマーサクセスの重要度が高まり続けています。カスタマーサポートからカスタマーサクセスの実現へと踏み出す企業は少なくありません。

しかし、カスタマーサクセスを着実に実現していくには、継続的なコスト投資が必要となります。投資した結果が、売上率や利益率、顧客ロイヤルティとして数値化されるには、予想以上の時間がかかるからです。

VOCが一番集まるコールセンターへ投資がなされていると、カスタマーサクセスの施策がより実用的になります。カスタマーサポートに比べて「攻め」の姿勢を特徴とするカスタマーサクセスですが、攻めていける環境が整っているかどうかが非常に重要です。カスタマーサクセスを目指そうにも、効果的に攻める材料や手段、リソースがなければ攻められないからです。

他分野への再投資が可能になる

「コールセンターへの投資」は、必ずしも永続的なコストアップではありません。

たとえ一時的にコストアップを感じたとしても、基本的にはコストの適正化を前提として投資を行います。そのため、投資によるコストの適正化で浮いた費用を、別の分野(新規人材の確保や新たな技術など)へ再投資することが可能になります。

結果として、企業全体として適切な投資が行われ、良い循環が生まれていくのです。

プロフィットセンター化のためにコールセンターがとるべき5つのアクション

「投資メリットはあるので、プロフィットセンター化のために投資しよう」と言っても、コールセンターが投資を検討するべき分野はさまざまです。しかも、期待できる効果は多岐にわたります。

ここからは、プロフィットセンター化のためにコールセンターが検討できる5つのアクションについて解説します。

コールセンターシステムの見直し

コールセンターがシステムに投資するのは、決して珍しいアイディアではありません。しかし、今は良質なコールセンターシステムが多く存在するので、システムの選択段階において的確にポイントを押さえて投資対効果を上げることが重要です。

以下は、投資対効果アップに直結するコールセンターシステムの機能一覧です。

  • オムニチャネル対応のクラウド型
  • 高い拡張性
  • AI対応
  • プレディクティブコール対応

参考情報:投資効果が高いコールセンターシステム「Bright Pattern

上記の条件を満たすシステムを選ぶと、顧客体験を改善できるだけでなく、限られたリソースの中で業務効率化、長期的な視点でのコストカットが実現でき、プロフィットセンターへと大きく前進できます。

センター運営の見直し|インハウスという選択肢

コールセンターの運営そのものを見直すと、リソースやコストをより最適化できます。たとえば、現在アウトソーシングをメインに運営しているセンターは、「インハウス型」の運営を検討できます。

インハウスはアウトソーシングに比べるとコストがかかるとされています。しかし、インハウスには以下のようなメリットがあります。

  • ナレッジの蓄積・共有がしやすい
  • サービス、製品、業務の改善がしやすい
  • 問い合わせに柔軟かつ迅速に対応できる
  • 管理・運営が透明

いずれのメリットも、顧客接点の最前線に位置するコールセンターが、カスタマージャーニーのトリとして役目を果たす上で必要な要素です。

在宅オペレーター制度継続のための整備

パンデミックを機に急速にニーズの拡大を見せたのが、在宅オペレーター制度です。パンデミックが一段落した現在でも、以下のようなメリットゆえに価値が見いだされ続けています。

  • 「潜在人材」(女性/育児・介護中の人/ひとり親世帯/持病・障がいのある人/月で働ける時間に制限がある人など)にアプローチできる
  • 採用効率とコストの適正化が見込める
  • ライフイベント(結婚、出産、育児、介護、看護など)による離職を予防できる
  • BCP対策ができる

オペレーター教育の強化

問い合わせ対応の品質管理においては、オペレーター対応の「平準化」がもっとも大切です。そのためには、新人研修、フォローアップ研修、キャリア・スキルアップ研修など、スキルレベルに応じた教育体制が必要となります。

オペレーター教育に適切な投資がされると、応対品質の平準化やボトムアップが図れるだけでなく、オペレーターのキャリア構築を支援できます。

オペレーターのキャリア構築支援は、業界での正社員採用増加に伴う評価・昇進の制度化を背景に、新たな離職予防策として重視されています。そのため、人材確保の観点でも大きなメリットです。

「コールセンター白書2023」によれば、今後実施予定の離職予防策として「キャリア支援制度を設ける/強化する」という回答は30.7%。2022年の23.1%と比べると大きく上回っています。コールセンター業界全体として強化している取り組みと言えます。

オペレーター支援ツールの活用

「平準化」を図る上で、オペレーター支援ツールへの投資は非常に効果的です。

電話をかけるお客さまは、オペレーターの経験値や知識量、問題解決力などに応じてオペレーターを選ぶことはできません。そのため、さまざまな支援ツールを利活用することで、オペレーターによる応対レベルのバラツキを最小限にすることが重要です。

多くのコールセンターが、すでにオペレーター支援ツールを活用しています。

「コールセンター白書2023」を見ると、更新頻度の差はあるもののトータルで93%がトークスクリプトを活用していて、「オペレーター向けFAQ」については、70%が「用意して随時アップデートしている」と回答しています。

オペレーター支援ツールの一例はFAQです。FAQは、コールセンターの「自動化」の中核的存在を担い、平準化において必要不可欠なツールと言っても過言ではありません。具体的には、精度向上を目指したFAQ分析ツールの導入や、FAQを自動生成できるAIの利活用などを検討できます。

オペレーターがより快適かつ効率的に業務を行えるような投資がされると、従業員満足度と顧客満足度の両方が向上し、コールセンターがプロフィットセンター化しやすくなります。

プロフィットセンター化への成功事例:ローソン

ここまでで、コールセンターへの投資メリットと、具体的に投資するべき分野について説明してきました。コールセンターへの投資についてよりイメージをはっきりさせるため、最後に投資成功例としてローソンの例を紹介します。

コールセンタージャパン2024年1月号には、コンビニエンスストア大手のローソンの事例が載せられています。

ローソンでは社員向けヘルプデスク、カスタマー向けデスク、加盟店向けデスクを運営しています。2016年には「コンタクトセンター統括部」が発足され、2022年には社長直轄組織として「CS推進室」に改称されました。

2016年にコンタクトセンター統括部として統合するまでは、以下のような課題があったといいます。

  • 部門ことのVOC管理により、他部署への十分な共有ができず、企業全体として顧客満足度向上につながっていなかった
  • 他部署の忙しさに対する配慮やコスト、リソースの問題がつきまとい、全社レベルでの改善を進めにくい環境だった

上のような課題を解決しVOCを有効活用するべく、各部門と連携し、積極的なシステム改修に取り組みました。CS推進室は、IT投資に向けて以下のような取り組みも行っています。

  • 関係各部門責任者とのVOC会議を毎週実施し、顧客・店舗から届く意見や要望の情報交換
  • 急を要するシステムトラブルにおける改善サイクルの短縮

これらの取り組みの結果、入電数は加盟店デスクで2割程度の削減カスタマーデスクにおいては7割以上の削減を実現しました。

最後に

多くのものの値段が高騰する中、コールセンター運営においてコストカットに注目しがちなのは仕方のないことです。しかし、コストカットの裏に潜むカスタマーカットには気をつけましょう。投資するべきコストを適正化し、無駄は省きつつ、最短距離でプロフィットセンターを目指したいものです。