オペレーターの離職防止や人材不足の文脈で推奨される取り組みは、休憩室などのインフラや設備の充実、シフト制や在宅オペレーターの導入といった働き方に関するものが一般的です。

しかし、オペレーターの離職理由として意外と多いのが「SV(スーパーバイザー)との関係性」

オペレーターにとって直属の上司となるSVとの良好な関係性は、オペレーターが働きやすい環境を作る点で重要な要素です。そのため、ロールモデルとなるSVの育成・確保は、センター全体で取り組むべき課題と言えます。

では、次世代のSVには何が求められているでしょうか。そして、次世代のSVを育成・確保していくために、センターとして何ができるでしょうか。「SVのリスキリング」をキーワードに、リスキリングの必要性と、SVが習得したい3つのスキルについて紹介します。

この記事が解決するお悩み

SVになる人材を育成/新規採用したいと思うのに、なかなかうまくいかない

SVになる人材育成のためにセンターとして取り組めることを模索している

コンタクトセンターの管理職に従事していて、センターの研修や教育制度について見直したい

なぜSVにリスキリングが必要なのか

SVといえば、多くの場合は優秀なオペレーターが昇格してSVになります。SVの主な業務内容としてすぐに思い浮かぶのは、「オペレーターのフォローや指導」かもしれません。

「すでに優秀なオペレーターが、SVとして他のオペレーターをフォロー/指導していく中で、あえてリスキリングする必要があるだろうか」と思われますか。

これからはSVにこそリスキリングが求められます。SVに求められる役割が変わってきているからです。では、そもそも従来のSVと、これからのSVに求められる役割では何が異なるのでしょうか。

「コールセンタージャパン」2024年3月号の特集記事によれば、今後のAI活用の流れを受けながら、SVの役割やミッションは変化すると指摘し、今後のSVについて以下のように書いています。

「オペレーションをもっとも熟知しているSVは、既存業務のデジタルへの置き換えや、ワークフローの再構築の最適任者であり、AI活用、DX推進の旗振り役として相応しい」

オペレーター職におけるスペシャリストであり、もっとも現場に近く現場を熟知しているSVは、既存の業務を棚卸ししDX推進していく上でキーパーソンとなります。

SV主軸でDXに取り組むなら、「業務の共通化や自動化は進んだけど、かえって業務が複雑化したような気がする」「従来のシステムやワークフローの方が良かった」といった「現場と管理職の意識のギャップ」を最小限に抑えることが期待できます。

これまでのSVは「オペレーターの指導や世話役」と認識されてきたかもしれません。しかし、今後はこれまでオペレーターとして蓄積してきた知識やノウハウを活かしながら、AI活用やDXの推進といった分野で先導していくことが求められます。

とはいえ、SV昇格への意欲をもつオペレーターが減少傾向にあることや、SVの求人募集に応募者が集まらないという課題を無視することはできません。

SVという役割に魅力を感じ、昇格を目標としてもらうには、育成・研修環境の整備が必要不可欠です。センター側がSVのためにキャリアパスを示していくなら、昇格するための過程と、昇格したあとのビジョンがより明確になり、SV候補者が安心感をもつことができるでしょう。

「コールセンター白書2023」のアンケートによれば、アンケート回答者の約1/3が、SVになるために「とくに研修やトレーニングを受ける機会はなかった」と回答しています。つまり、多くのセンターにおいてSVになるためのキャリアパスは曖昧だということです。

SVになるため、あるいはなったあとのリスキリング環境が整っているセンターは少ないと言えます。それでSVのリスキリング環境を整えることは、他のセンターとの差別化を図る上で有効であることがわかります。

では、どのようなスキルがリスキリングに役立つでしょうか。

SVがリスキリングで習得すべき3つのスキル

「コールセンター白書2023」の「今後、伸ばしたいスキル」に関するアンケートでは、以下のようなスキルが上位を占めました。

【実務を通して伸ばしていけると思うスキル】

  • 業務知識
  • 判断力
  • チームマネジメント

【研修や特別な指導を受けて、伸ばしていきたいスキル】

  • ITスキル
  • チームマネジメント
  • 企画力

SVに求められるスキルが多様化しつつ、現場がそれを肌で感じ取る中、「研修や特別な指導を受けて、伸ばしていきたいスキル」をリスキリングできるように環境整備していくことは大切です。上位3つに入っているスキルは、まさに次世代のSVたちに求められているスキルと言えます。

ここからは、SVがリスキリングで習得すべき3つのスキルについて掘り下げて紹介します。

ITリテラシー

「コールセンタージャパン」2024年3月号で、アイデミー執行役員 法人デジタル人材育成事業本部 本部長 金沢晶子氏は、「これからの時代を担う現場のリーダーには、“デジタルを推奨できる”ことを人材要件として加えるといい(中略)共通化や自動化が可能な業務がないかを考えたり、それを実現するために必要なプロダクト要件を定義するスキルなどが欠かせません」と語っています。

人材教育やモニタリングといった業務でもオンラインツールを活用するようになっている中、現場にもっとも近いSVがITリテラシーをもち、それを元にデジタルシフトを推進していくなら、実用的なローコスト・オペレーションを実現しやすくなるでしょう。

とはいえ、SVにエンジニアレベルのIT知識が求められているわけではありません。基本知識を学ぶリテラシー教育は大切ですが、むしろ現場目線でどのようなシステムやツールが必要なのかを的確に見きわめ、デジタルに置き換えていくための要件定義をできるスキルが求められます。

そのため、自分の業務とデジタル技術を結びつけるアウトプット型の研修や、ワークショップへの参加は効果的です。アウトプット型の研修をセンター内で設けたり、定期的にワークショップを開催したり、社外のものを活用したりするなら、より効率的かつ実践的に、SVが学べる機会を創出できます。

SVにITリテラシーがあれば、それをさらなる次世代に教育することができるので、センター全体のITリテラシー向上も期待でき、デジタル人材の継続的な育成が可能になります。

チームマネジメント

現代はなにかと「ハラスメント」が取り沙汰される時代です。指導の一環としておこなったつもりの叱責や精神論は、「パワハラ」(パワーハラスメント)と認識されるケースも多く、オペレーターへ直接教育をおこなう立場のSVは、とりわけ注意が求められます。

「ハラハラ」(ハラスメント・ハラスメント)による管理職の萎縮も社会問題となる中、いかなるハラスメントも起こさない/起こさせないようにするには、チーム内での密なコミュニケーションがカギを握ります。ハラスメントかどうかは当事者同士の認識のズレが原因となるケースが少なくないからです。

リソースマネジメントの観点から見たチームマネジメントはもちろん大切です。それだけでなく、SVとオペレーターが楽しく快適に業務をおこなっていける雰囲気作りという観点でのチームマネジメント力も重要です。オペレーターが仕事をしやすいと思えるかどうかは、センター全体の生産性や、顧客対応のクオリティにも影響するからです。

Great Place To Work Institute Japanの岡部宏章氏は、「コールセンタージャパン」2024年3月号にて、対Z世代について「本人が納得感を得られるまで、丁寧にコミュニケーションを重ねるマネジメントは欠かせません」と話しています。同記事の続く部分では、寄り添い型のマネジメントの重要性や、高い傾聴力が強調されています。

ひとことにチームマネジメントとは言っても、世代の入れ替わりとそれに伴う価値観の変化への対応も必要です。現場のマネジメントの難易度はますます高くなっていると言えます。そのため、SV向けに開催されているマネジメント力向上の研修や、新しい世代の傾向を知るためのセミナーなどの活用は有効です。

合わせて、SVとオペレーターが個人的にコミュニケーションをとる機会や、ツールをセンター全体として整えることも検討しましょう。センター全体で活発なコミュニケーションが取れているなら、より円滑でリラックスした雰囲気や関係性を築いていけます。お客さまや業務にまつわる内容の共有・引き継ぎがしやすくなり、結果として顧客満足度の向上にも寄与できます。

企画力・提案力

ここまでで、現状のオペレーションを熟知したSVには、センターの変化を推進する役割が求められると繰り返してきました。一方で、「SVから改善提案が出ない」と嘆くセンター長は多いようです。

しかし、見出しの冒頭で参照した「身につけたいスキル」に関するアンケート結果からわかるとおり、SV側もセンター管理者側からの期待に応えられないもどかしさを感じています。そして、応えるためのスキルを身につけたいと望んでいます。

センターに関する改善提案をおこなうには、企画力や提案力を身につける必要があります。従来通り「オペレーターの世話役」としてSV業務をおこなっているだけでは、「企画力・提案力」を身につけることは難しいでしょう。

企画力や提案力を磨くため、応対品質に関する定例会の開催や、研修の一環としてのディスカッションは効果的です。また、改善できる点を自由に書き込めるフォームの設置なども有効だと言えます。

NTTマーケティングアクトProCX CXソリューション部北陸センタ 金沢ビジネスOCNサービスセンタ ジョブマネージャーの橋爪由美氏は、「センター全体を巻き込む業界改善活動の風土作り」に力を入れているとし、カイゼン施策をフォームに投稿・見える化することを推進しました。結果として、フォームには年間1000件を超える投稿がされるようになっていると言います。
出典:「コールセンタージャパン」2024年3月号

このように、SVでなくとも改善策を提案できる環境があると、オペレーターのうちから企画力・提案力を磨くことに取り組め、SVになるための実践型のスキルアップが図れます。SV側も現場オペレーターからの声を収集し、それをセンター業務あるいは顧客対応に反映させていけるので、従業員体験と顧客体験の両方の向上が見込めます。

SVの将来性

SVについてネットやSNSを見ていると、「SVには将来性がない」「SVになったらキャリアは終わり」といった率直な不安の声を目にします。本当にSVに将来性があるかないかは別として、オペレーターの一定数がSVに対して抱いているキャリアイメージが明らかです。

「SVには将来性がない」と思われてしまう要因の1つに、「キャリアパス問題」が考えられます。具体的に言うなら、キャリアの停滞(キャリア・プラトー)を懸念しているのです。

SVになったは良いものの、そのあとのキャリアの先行きが不透明であったり、キャリアアップが実現できなかったりといった事態は珍しくありません。結果として、SVになった後にキャリアアップの可能性ややりがいを見い出せず、その立場から離れてしまうのです。

「コールセンター白書2023」でSVに尋ねた「今後のキャリアアップ志望」の結果を見ると、「コールセンター以外の部門への異動、または転職をしたい」がもっとも多い24%を記録しています。また、eNPSの数値も「−63」と決して高くない結果が出ていることから、SV本人にとってSVという役割があまり魅力的に思えていないことが明らかです。

では、本当にSVに将来性はないのでしょうか。

一部でもたれているイメージとは裏腹に、SVの将来性に関する実態はますます高まることが予想されます。しかし、従来の「オペレーターの世話役」を続けるなら、将来性を高めることは難しいかもしれません。経験の浅いオペレーターのフォローやサポートは、高性能なAIを活用したナレッジやIVR、ボットなどがおこなえるようになっているからです。

対して、ITリテラシーやチームマネジメント力、企画力・提案力を身につけたSVが、AIのような強力なサポーターを効率的に活用し、ファインチューニングしたりメンテナンスしたりしていくなら、現場にとって実用的かつフレンドリーなデジタルシフトが実現します。そのような人材こそ、将来性のある次世代のSVです。

生成AIを含む最新のテクノロジーが実用化され始める中、モチベーションが高く有能なSVのニーズと将来性は右肩上がりです。

現実はそうであるにも関わらず、「将来性がなさそう」というイメージの先走りによって、優秀な人材を育成できなかったり失ったりするのは避けたいものです。SVが体系立ててスキルアップでき、キャリアアップできる環境が整っていれば、SVという役割への魅力や将来性を向上させることができます。

最後に

この記事では、SVに求められる役割が変化していて、より高度なことをおこなうポジションになっていることを紹介しました。

SVの役割が変化しているのと同様に、コンタクトセンター側にもSVが学べてスキルアップできる機会の創出という点で変革が求められています。既存のオペレーターから育成するにも、SVを新規雇用するにも、業務に魅力を感じ、SVとして働きたいという意欲を持てる環境を整えることは必要不可欠です。

センター全体として、研修やセミナーの開催・参加、コミュニケーションの場の見直し、SVに任せる仕事の内容や量の最適化を図るようにしましょう。もっとも現場に近く、オペレーターたちに寄り添える頼りになる存在こそがSVです。オペレーターを大切にするためにも、まずはSVの在り方について見直してみるのはいかがでしょうか。