人手不足は、業界を問わず私たちを悩ませる大きな課題の一つです。その労働力人口の減少を背景に、近年では「従業員満足度」を重視する企業は少なくありません。コールセンター業界においては、オペレーターは離職率が高く不人気職と言われています。

しかし、本当に離職率の削減や人気職としての立場を確立することは難しいのでしょうか。業務の性質上、ストレスを完全に0にすることはほぼ不可能です。とはいえ、「従業員満足度が高い=ストレスが全くない」というわけではありません。

業務上やむを得ず受けるストレスをいかに和らげ、オペレーターが心地よく働ける環境を作るかが、従業員満足度に大きく関係します。しかし、従業員満足度を重視しつつ、コールセンターは顧客満足度も常に意識しなくてはいけません。従業員満足度と顧客満足度のどちらを優先するべきでしょうか。各満足度に優劣を付けるべきなのでしょうか。

この記事では、従業員満足度と顧客満足度の関係性にフォーカスし、コールセンターで従業員満足度を向上させる4つの方法を紹介します。

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・顧客満足度の向上に注力したいのに、採用難や人材流出といったリソース問題に悩まされて集中できない
・オペレーターの離職を予防しながら、確実に顧客満足度向上を狙いたい
・従業員満足度の重要性は認識しているものの、顧客満足度向上という観点では遠回りなのではないかと不安を感じている

従業員満足求めずして、顧客満足は得られず

顧客接点の最前線、もしくはトリであるコールセンターは、顧客満足度の向上を目指してあらゆる策を検討します。顧客満足度(CS)の向上を目指した施策は、以下のように企業、あるいはオペレーターが提供するサービスや、使用するシステムに関する改善案が大半です。

  • VOCに基づいたFAQやセルフサービスの展開・充実
  • オムニチャネル対応
  • オペレーターの教育
  • 応対品質の改善と均一化

例に挙げたような施策は、オペレーターのモチベーションやスキル、ホスピタリティに左右されます。従業員のモチベーションや向上心を支える一つは、従業員満足度(ES)です。

つまり、従業員満足度が高くなければ、顧客満足度向上に継続的アプローチをすることは難しいと言えます。

これは、1994年にハーバードビジネススクールのヘスケット教授とサッサー教授によって提唱された「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」(=従業員満足度・顧客満足度・企業利益の間には因果関係がある)によって裏付けられます。

他にも以下のようなデータがあります。

ESとCSとの間に、99%の因果関係が認められた(MICコミュニケーション、ウエスタン・ユーロピアン・マネー・センター銀行、メイジャーUSトラベル・サービス、ランク・ゼロックス)。
・ESが1%増加すると、CSが0.22%増加する(メリー・メイド社)。

出典:「カスタマー・ロイヤルティの経営―企業利益を高めるCS戦略」(ジェームス・L.ヘスケット他)

コールセンターのオペレーターは、顧客との間で気を遣うことやストレスを溜めることが多い職業とされています。いつカスタマーハラスメントに遭遇するかもわからないため、オペレーター業務は決して「ただ電話越しにお客さまの応対をする業務」ではありません。

現在、多くのコールセンターで重要な課題となっているのが人材不足、採用難、離職です。

コールセンター白書2023」では、新規人材が採りにくいからこそ、「辞めさせない取り組み」の重要性が強調されています。

離職理由はさまざまですが、総じて離職率を下げるためには従業員満足度の向上は欠かせません

顧客接点においてカギを握るポジションのコールセンターだからこそ、なによりも顧客満足度を重視するでしょう。しかし、迅速かつ長期的に顧客満足度向上を図りたいのであれば、従業員満足度の向上からアプローチするのが効果的です。

従業員満足度が上がれば、オペレーターは高いモチベーションを維持でき、提供するサービスの質やスキルのアップという点で間接的に顧客満足度の向上に寄与できるからです。

コールセンターで従業員満足度を向上させる4つの方法

「コールセンター白書2023」を見ると、離職予防の取り組みとして以下のような施策行われています。

  • 表彰制度
  • 人材教育プログラムの充実
  • ES調査の実施
  • ファシリティの充実

上記に加え、今後実施予定の離職予防策については以下の通りです。

  • 人材教育プログラムの充実
  • キャリア支援制度の設置・強化
  • 業務に対する評価とフィードバックの強化
  • 在宅制度の設置・拡充

いずれも業務に対する評価の可視化や、キャリア構築の支援働き方や労働環境の多様化が重視される傾向にあります。

興味深いのは、現状の取り組みにおける「時給アップ」の実施が24%にとどまったことです。そして、今後の実施予定についても14%でとどまっています。

コールセンター業界全体としてコストカットの課題が前提にありますが、それを加味しても「従業員満足度の獲得・向上=お金」でないことは明らかです。

しかし、いきなり従業員満足度の向上を掲げたところで、現状の円滑なコールセンター運用が長いと、「これから行う施策がかえって悪影響になるのではないか」と心配されるかもしれません。

従業員満足度向上を狙って業務効率やセンターの安定感を損なっては本末転倒です。そこで今回は、コールセンターシステムの見直しやAIの導入のような日常業務に直接的影響を及ぼすものではないものの、従業員満足度をアップする方法を4つ紹介します。

1. 現状を把握する

従業員満足度を高めるファーストステップは、現在地を正確に把握することです。

具体的に従業員がどの程度何に満足していて、今後どうなったらもっと満足度が上がるのかを把握しなければ、今後の効果的な取り組みを決めることはできません。もっとも手っ取り早く現在地を把握する方法としては、従業員向けに社内アンケートをとることです。

他には、eNPS(Employee Net Promoter Score)(=職場の推奨度を数値化するもの)という指標を活用することもできます。それぞれを平行して実施するなら、より現在地を正確に知ることができるでしょう。

2. 実現可能な業務目標の可視化

離職予防として取り組まれている表彰制度の推進や、業務に対する評価とフィードバックの強化を行っていくには、目指すべき指標や目標が従業員に明文化されていることが必要不可欠です。

SVや管理職側では、すでに業務の評価基準が明確かつ適切に設定されているかもしれません。しかし、その基準が各従業員から可視化されていないなら、オペレーターたちからすれば目に見えないものを追いかけているだけになってしまい、いずれ「燃え尽き」が生じかねません。

とはいえ、目標の可視化には「結果主義に陥る」ことや「ノルマとして認識される」というリスクがあります。評価する側とされる側の双方が、業務目標に対して正確な捉え方をすることがポイントです。

業務目標の可視化による表彰制度や評価・フィードバックの強化は、あくまでも従業員のモチベーションを高めたり、従業員満足度を向上させたりすることが目的です。そのため、掲げる目標は個人やチームが、無理ない範囲である程度意識・努力すれば達成可能である目標にすることが大切です。

3. 福利厚生の充実

福利厚生の充実度が、職場選びや離職の選択において決め手となることはないかもしれません。しかし、何かをきっかけに就職/離職を悩む従業員の背中を押す、もしくはとどめる要素としては十分効果が期待できます。

福利厚生の充実は、センター自体への付加価値として強力です。

従業員にとって福利厚生が充実しているなら、センターへの愛着が深まったり、出勤のモチベーションややりがいが高まったりといった効果が見込めます。

また、リファラル採用が重要になっている現在、センターでの労働環境が良い口コミとして拡散されるなら、従業員満足度の向上と同時に採用難へのアプローチが可能となります。

福利厚生の具体例をいくつか紹介します。あるセンターでは、休憩室に無料のマッサージチェアが設置されていたり、専門のマッサージ師が常駐しており、格安でプロのサービスを受けられたりします。

トランスコスモスやアルティウスリンクなどの大手コールセンターでは、お昼休憩だけでなく15分程度の小休憩(有給)制度が導入されています。

法律で定められていない休憩時間や設備だからこそ、各センターにおける「オペレーターファースト」な姿勢の見せ所です。仕事のしやすい環境は業務効率や集中力に直結し、休憩スペースの充実度はストレス軽減やオンオフの切り替えに貢献します。

福利厚生の充実は、一見すると顧客満足度向上には関係ないまたは遠回りのように思えますが、回り回って業務品質や効率の向上というかたちで反映されます。

4. 定期的な従業員満足度調査

調査方法としてはファーストステップとして挙げた現状把握と同じです。従業員満足度調査を定期的に行っていると、「よかれと思った取り組みが従業員には全然響いていなかった」「従業員にとってはもっと優先的に実現して欲しい要望があった」のような、管理者と従業員の意識の齟齬を最小限にすることができます。

同時に、社員のメンタルヘルスの状況を把握する助けとなります。

前回の回答から著しくスコアが下がっているなら、その期間に何か業務上あるいは対人関係において問題を抱えたのかもしれません。従業員からの生の意見の重要性は、顧客との間でVOCを重視するのと同様です。

調査を実施する際には、調査の目的やデータの活用分野を明確にし、回答内容に何のリスクもないことを明言することがポイントです。「率直な要望を提出したら怒られたり、減給されたりするのではないか」とオペレーターが不安を感じるなら、オペレーターからの率直で有益な情報をキャッチできなくなってしまいます。

加えて、一種のパワーハラスメントとなりかねないので注意が必要です。従業員満足度の把握において個人を特定する必要がないのであれば、アンケート等の回答を匿名制にする方が回答者に安心感を抱いてもらいやすくなります。

しかし、率直な意見をキャッチできる環境を整えると、時に率直すぎるような意見を受け取ることがあり得ます。そのため、センター管理者は従業員からの素の意見を現状として受け止めつつ、自身がストレスを抱えないように注意する必要があります。

最後に

日々の業務やコールセンターの体制そのものには影響させず、従業員満足度の向上にアプローチできる方法を4つ紹介しました。ストレートに顧客満足度向上を目的に掲げる策と比較すれば、結果が目に見えるのに多少の時間を要するかもしれません。

しかし、冒頭で紹介したとおり従業員満足度と顧客満足度には因果関係があります。電話越しで顔や姿が見えず、背景事情の詳細が分からないお客さまから率直な意見を聞くことは難しいですが、従業員は常に目の前にいて、必要なときにはいつでも率直な意見を聞くことができます。目に見える分、顧客満足度を上げるよりも従業員満足度を上げる方がチャレンジしやすいでしょう。

従業員満足度向上への取り組みは、人材不足や採用難、離職予防というコールセンターが抱えがちな問題にアプローチしつつ、もっとも実現したい顧客満足度向上を目指せる方法です。新入社員を迎える準備が始まるこの時期、ぜひ従業員満足度を向上させるための準備もしたいものです。