誰しも、スマホやタブレットなど、お気に入りのデバイスをお使いのことと思います。当然のことながら、電子デバイスというものはバッテリーがないと動きません。バッテリーの充電が完全に切れてしまえば、うんともすんとも言わなくなってしまいます。
これって、実はわたしたち人間にも共通しているかもしれません。つまり、フィジカル面とメンタル面で、エネルギーというバッテリーを誰しも積んでいます。エネルギーがなくなるに連れ、機能が低下し、反応が遅れ、全体的なパフォーマンスが落ちていきます。やがては、無気力になってしまい、バッテリーを再充電しても、元に戻らなくなることがあるかもしれません。
企業にとっても、「燃え尽き」というのは大きな問題です。とくに、当ブログ「TPIJ」でフォーカスしている「顧客接点」において、この「燃え尽き」という問題は切っても切り離せません。なぜなら、顧客接点ではお客さまとの摩擦が生じやすく、それがストレスとなり、じわじわとオペレーターの心と体に影響を与えるからです。コンタクトセンターのオペレーターにとっては、この問題が顕著に現れることがあるでしょう。
TPIJでは過去に、離職率についての記事が掲載されていますが、今回の記事では「燃え尽き」というテーマに焦点を絞り、とくに顧客接点としてのコンタクトセンターにおける「燃え尽き」を防ぐためのヒントを探ってみたいと思います。
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燃え尽き症候群とは?
心身共に疲弊し、燃え尽きてしまう…それが燃え尽き症候群です。長期にわたる仕事のストレスが引き金となり、重圧や無力感、不安などの症状が姿を現します。燃え尽き症候群は、決して軽視できるものではありません。精神的な病としてのうつ病や不安症だけでなく、身体的な病気まで現れかねないからです。心臓疾患などもその一例です。
残念なことに、カスタマーサービスに関わる人材が燃え尽きるというケースは少なくありません。カスタマーサービス業務は感情に大きな負荷をかける仕事で、常に流れの中で結果を求められるためです。
コンタクトセンターにおける燃え尽き問題
そしてコンタクトセンターにおけるオペレーターの燃え尽き問題も、顧客接点を抱えるさまざまな企業にとって無視することのできないトピックです。
実際、当ブログでもよく参考にしているSQMグループの調査によると、米国のコンタクトセンターやコールセンター市場の8割を超える専門家が、「オペレーターの燃え尽きをいかにして予防するのか」が業界でも最大の課題の一つであることに完全同意(63%)するかある程度同意(25%)しています。この点でさらなる追加調査を実施した結果、2022年ではオペレーターの離職率が過去最高を記録していることがわかりました。 「オペレーターの燃え尽き」というのが、離職率を上げている主な要因の一つであることが明らかとなっています。
それもそのはず、コンタクトセンターのオペレーターの業務にはストレスフルなものが多いことはよく知られていますし、多くのオペレーターがその業務により燃え尽きに陥りやすいことが指摘されています。
たとえばSQMの調査によると、約63%のオペレーターが過去一年以内に業務上の「バーンアウト」を経験したことがあると回答したとのこと。コンタクトセンターを管理する側からしても、オペレーターや人材の燃え尽き問題には頭を悩ませており、予防および回復のためのソリューションを常に探し回っているという状況のようです。
また注目すべきは、燃え尽きがある特定の年齢層ではなく、さまざまな年齢層において発生しているということです。コンタクトセンターという顧客接点において顧客対応担当者やオペレーターたちは、さまざまな悩み=問題=ストレスを抱えたお客さまと対峙します。ストレスは伝染するので、お客さまのストレスがオペレーターへと伝染していきます。とくに新型コロナウイルスの感染拡大の「置き土産」として、よりストレスの溜まった顧客に対応しなければいけなくなったという点は無視できないポイントでしょう。より怒りっぽくなった顧客を相手にしないといけなくなったオペレーターには、これまで以上のプレッシャーとストレスが掛かるというものです。
さらに、世界的に見てもコンタクトセンターは女性オペレーターの比率が高く、共感的なスクリプトにより顧客とコミュニケーションを取ることに長けているとされていることからも、女性が多く活躍できる職場であると言われています。しかし、感情労働が求められるにも関わらず報酬が不適切であることや見過ごされてしまうこともあり、これも燃え尽き症候群の要因となる可能性があります。
オペレーターという人材は、コンタクトセンターにとって財産です。大切にしていかねばなりません。ここに失敗してしまうと、コンタクトセンター自体の燃え尽きにもなりかねません。
そこで、オペレーターやSVといった従業員を対象として、毎月または半年ごとにアンケート調査を実施しているコンタクトセンターや顧客対応企業も少なくなりません。そうすることで、普段のオペレーターの燃え尽きレベルがどの程度かを測定することができます。アンケートにはどんな設問を含められるでしょうか?
オペレーターが燃え尽き? ― 7つの「質問」と要因
SQMグループでは、以下の7つの質問が有効だという調査を出しています。
- 最近、仕事上で燃え尽きを感じたことがありますか?
- コンタクトセンターで働くことにどの程度満足していますか?
- 同僚とは仲良く働けていますか?
- 上司は仲良く働けていますか?
- 会社からのサポートは十分だと感じますか?
- ワークライフバランスは取れていますか?
- 仕事上で成長する機会を与えられていると感じますか?
仕事上の燃え尽きを経験するオペレーターは、ワークライフバランスや家庭内での問題、経済的な問題、仕事に関連したストレスなどが複合的に影響していることがあります。以下にコンサルティング企業のGALLUPがまとめた「従業員を燃え尽きに追いやる要因:TOP5」を挙げてみます。
- 不当な扱いを受けている。
- 理不尽な仕事量を抱えている。
- 自分の担当業務や責任範囲が明確ではない。
- 上司からのサポートがなく、コミュニケーションに問題がある。
- 理不尽な時間的成約を受けている。
コンタクトセンターが燃え尽きると…
コンタクトセンターが燃え尽きるとき、それはオペレーター、SV、マネージャー、そして管理運用に従事するスタッフのエネルギーが枯渇し、疲労していて、全てに対してネガティブになってしまっており、心が仕事から離れてしまっているときです。コンタクトセンターにおける燃え尽き問題は、とくにコロナ禍で大きく、著しく増加してきました。したがって、以下のような症状がオペレーターに観察された場合は、燃え尽きのサインとして要注意です。
- 仕事や業務に対して、極端に批判的になっている。
- 仕事に来ることが難しそうで、センターに来ても仕事を始めるまで時間がかかっている。
- 同僚やお客さまに対して、イライラしたり怒りっぽくなったりしている。
- 無気力に見える(エネルギーが切れている状態)。
- 業務に集中できていない。
- 達成していることを素直に喜べない。
- 仕事に幻滅している雰囲気がする。
- 食べることや飲むこと(アルコール)、または薬を服用することで仕事上のストレスを紛らわしている。
- 睡眠習慣があまり良くない。
- 慢性的に腹痛や頭痛など、体の何処かに痛みを抱えている。
では、「燃え尽き」を防ぐためにどんなことができるでしょうか。
コンタクトセンターが燃え尽きないように:7つのヒント
コンタクトセンターの燃え尽きを予防するために役立つ7つのヒントを紹介します。
オペレーターの「燃え尽き」を認識する
上で引用したGALLUPによると、フルタイムで働く人材の2/3が燃え尽きを経験しているとのことです。オペレーターが燃え尽きを感じたのであれば、上司や人事部と共有することが必要です。そうすることにネガティブな影響はないのだと従業員を安心させることが大切です。
またSVやマネージャーに対するトレーニングを通じて、燃え尽きの兆候を認識する能力を高めることも必要です。とくに上長にあたる人材は、オペレーターの燃え尽きに責任がある可能性もでてくるため、各オペレーターの燃え尽きレベルをきちんと認識することは非常に重要な要素となるでしょう。燃え尽きが認識されることで、はじめて回復に向けた取り組みへの一歩をふみだすことができます。
「自分ケア」を忘れない
オペレーターに「自分自身を適度にケアすること」をしっかりと認識してもらい、そのための必要な方策を策定することが必要です。以下の7つのステップが必須となるでしょう。
- しっかりと休息を取る。リラックスすることで、リセット効果を得ることができます。リラックスとリセットは、燃え尽きに対する特効薬です。
- セルフケアの実践。健康的な食事、十分な睡眠、定期的な運動習慣の3つでセルフケアを実践しましょう
- こまめに休憩を取る。一日のうち、5-10分程度の休憩を取ることで、疲れを癒やせます。こまめな休憩でリセットを。
- ワークライフバランスを整える。とくにリモートワークスタイルの場合、ワークライフバランスを能動的に整えることが重要になってきます。
- 精神を落ち着かせる。体のリラックスと同時に思考もリラックスさせましょう。ストレッチなどが有効です。
- 「ガス抜きの場」を作る。安心して自分の感情を吐き出せる場や仲間を確保して、ストレスをみんなで発散することが必要です。
- 専門家のサポートを得る。心療内科や精神科といった専門家からのサポートを受ける必要性について積極的に検討することも、燃え尽きにブレーキをかける一助となります。
オペレーターが、顧客対応中にリアルタイムでサポートを受けられるようにする
より複雑で、不満を抱えた顧客、そして理不尽な顧客に対応する必要のあるオペレーターは、その対応途中で適宜サポートを受けられると、自分はサポートされている・守られていると感じることができます。そしてそれは、安心感や自信となり、その後の対応に反映されていきます。
「やる気」を上げる
オペレーターやコンタクトセンターの従業員は、自分たちの提供している顧客サービスが評価されていると感じる必要があります。従業員のエンゲージメントの向上につながり、やる気が上がります。やる気が上がると、離職率や燃え尽き率が下がります。
オペレーターの対応を表彰するシステムなども効果的です。それが給与などに反映されるような、インセンティブシステムとなれば、より効果が上がります。
風通しの良いコミュニケーションを築く
コンタクトセンターのストレスレベルは、ピークタイムなど、非常に高くなるときがあります。そしてそういうときこそ、チーム内またSVやマネージャーとコミュニケーションを密にする必要があります。的確なコーチングやチームミーティング、セッションなどの機会を増やすことが結果としてコミュニケーションの機会を増やすことに繋がります。
負荷の高い時期というのは、オペレーターが批判的になったり、いらいらしたりしがちです。または冷笑的になったりもするでしょう。SVやマネージャーが、オペレーターのそういったサインを的確にとらえて、その裏にある本当の意味を理解すべくオペレーターとコミュニケーションを取ることにより、燃え尽きを防ぐことができます。
従業員トレーニング・教育
負荷を乗り越えられるだけのスキルやナレッジを培うことも大切です。それが浅いと、お客さまが対応に不満を感じる要素となってしまい、結果としてストレスフルな対応を引き起こされます。そのため、トレーニングを適切に実施することが必要です。しっかりとしてトレーニングプログラムなしに顧客満足度や初回解決率が改善した企業はほとんど存在しません。
SVのオペレーターへのコーチングに対応したトレーニングや、既存・新人オペレーターに対するトレーニング提供は一考に値する一つの方法です。また顧客満足度の高いオペレーターをコーチングメンターとして採用し、新入社員教育やパフォーマンスの低いオペレーターに対する「テコ入れ教育」や、ヒアリングなどに活用することもできます。
テクノロジーの導入
優れたCXを提供することのできるテクノロジーやソリューションを導入することで、オペレーターの顧客対応の質レベルを引き上げることができます。その際、統一型のコンタクトセンタープラットフォームかどうか、CRMとの統合が可能か、ナレッジマネジメントツールは活用できるかどうか、などの視点が重要になってきます。
信頼できるベンダーとつながることが成功への近道かもしれません。もちろんこの部分、弊社にご相談いただければ、いつでもお手伝いいたしますのでどうぞお気軽にお問い合わせいただければと思います。
参考:現場で使いやすいと評価されているコンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
最後に
この記事を執筆しながら、去年末にコロナに感染したときのことを思い出しました。メインの症状は一週間ちょっとでおさまったのですが、体の怠さが抜けるのに1ヶ月以上かかったんです。ただひたすら怠く、やる気が出ない。動きたくない。何も考えたくない。結構大変でした。
でも発見もありました。回復してからは、仕事中に、少しこまめに休憩を取ることにしたのです。まさに今回オススメされている方法を取るようにしたわけですね。すると、結構短い休憩でも「リセット」できることに気づきました。体のリセットだけでなく、メンタル面でもリセットできることがわかりました。それ以来、休憩を挟むことを自分のスケジュールに組み込むようにしています。
もちろん、今回フォーカスした燃え尽き症候群とコロナやインフルエンザのような病気と一緒くたに扱うことはできませんが、企業にとっても個人にとっても、「体が資本なのだ」ということは一つの真理のような気がします。
それでなくても昨今では人材不足が大きな問題として取り上げられています。ポジティブな企業文化、風通しの良いコミュニケーション、従業員を認めて、成果を評価し、トレーニングを施すことで、人材という大切なアセットを守る取り組みが今後ますます必要になってくることでしょう。今回シェアした燃え尽きを防ぐための7つのヒントを元に、そのリスクを低減する行動をとることで、従業員のエンゲージメントを維持することができます。
燃え尽きの認識を高めることと適切な予防策を講じることは、従業員の健康と生産性を維持して、顧客接点のより良い改善につなげるだけでなく、自社ビジネスを継続的かつ持続可能なものにするために不可欠なことと言えます。