近年、カスタマーサービスの分野で注目されている考え方が「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」です。略して「CXM」と言われることがあります。

顧客のニーズが多様化し、サービスも多様化する時代に、企業が収益を確保し続けるためには必要不可欠な手法です。実際、カインズをはじめカスタマーサービス業界の各社が、カスタマーエクスペリエンスマネジメントに取り組んでいます。

今回はカスタマーエクスペリエンスマネジメントとは何なのか、この手法を実践するために注力すべき3つの分野とはどこなのかについて解説します。失敗しないために気をつけるべき2つのポイントも取り上げているので参考にしてください。

この記事が解決するお悩み

カスタマーエクスペリエンスを向上せよ」と言われても何をしたら良いの

どこに注力したら良いのかわからない

カスタマーエクスペリエンスを向上させて会社の売り上げに貢献したい

カスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)とは

カスタマーエクスペリエンスマネジメントとは、顧客体験を管理し、改善していくことです。この手法は、製品やサービスといった企業が提供するプロダクトの「機能」だけでなく、プロダクトの「価値」の向上に取り組みます。

たとえば、自社製品をより安く、より高スペックにしていくことだけに目を向けません。顧客がプロダクトを利用した時に体験する「驚き」「安心感」「満足感」といった価値を向上させることに注力します。

結果として、顧客が企業と中長期的な関係を築き、収益を上げ続けられるようにするのです。

今、カスタマーエクスペリエンスマネジメントが注目されている理由

少子高齢化により国内市場は成長が鈍くなっています。そのため一度獲得した顧客を手放すことのリスクが高くなりました。

サブスクリプションビジネスが成功する市場環境ともいえます。「ずっと愛されるブランド」として、顧客と中長期的な関係を築いていくことが成功のカギになっているのです。

さらに、顧客の側も、企業側もアクセスできる情報が大いに増えました

顧客はプロダクトに関する情報をWeb、SNS、コミュニティから得られるようになりました。一方、企業は顧客の購買までの動線、購入後の「お客さまの声」、カスタマーサービスに関する評価といった細かな情報を取得できます。

企業が取得したデータを分析すれば、比較的正確に顧客のニーズを把握できます。そして、把握したニーズをもとに顧客が必要としているサービスを提供していきます。もちろん顧客は企業が提供する体験を好ましいと感じます。結果、一度購入したプロダクトの利用を続け、なおかつ企業についてポジティブな情報を発信してくれるのです。

これからの時代に収益を上げ続けるには、個人の経験や勘だけでなく、情報をもとに顧客の体験を形作っていくカスタマーエクスペリエンスマネジメントが必要となります。

CRMとの違い

混乱しやすいのが、カスタマーリレーションシップマネジメント (CRM)との違いです。CXMとCRMは何が違うのでしょうか。

CRMは、企業と顧客の関係を管理するために使うシステムや手法のことです。営業、カスタマーサービス、マーケティングのために「顧客情報を管理する」というアプローチです。重きを置いているのは企業側の利便性です。

CXM顧客の利便性に重きを置いています。顧客体験が損なわれず、むしろ向上させていくために取り組む手法のことです。

ただしどちらがより重要かということではありません。CXMを実現するためにはCRMが不可欠です。

カスタマーエクスペリエンスマネジメントとして取り組める3つの分野

ではカスタマーエクスペリエンスマネジメントとして何をしたら良いのでしょうか。とくにカスタマーサービスの中で実践できることは何でしょうか。以下に挙げる3つの分野でできることを考えていきましょう。

  • 応対前
  • 応対中
  • 応対後

各分野で取り組めることを解説します。

応対前

顧客が企業に問い合わせてくる前に、カスタマーエクスペリエンスマネジメントが実践できるポイントを見ていきます。

自己解決チャネル

カスタマーサービスの分野で、顧客が自己解決できるような施策を設けることは急務です。採用難、人材不足が進む中で、顧客体験を損なわないために必須な施策といえます。

自己解決チャネルとして、チャットボイスボットFAQなどを充実させましょう。

リソースマネジメント

コールセンターでは呼量が増えるタイミングに必要な人員を確保できないといったことがあります。どんなに気をつけていても適切な人員配置をすることは難しいものです。そこで、大切なのがリソースマネジメントです。

顧客を待たせないコールバック予約を導入する企業が増えています

事前に顧客が予約した時間帯に企業側から電話をかけるため、顧客がオペレーターにつながるまで延々と電話口で待つストレスを減らせます。電話が特定の時間に集中することがないため、人員配置がしやすくなります。

参考情報:リソースマネジメントがしやすいコールセンターシステム「Bright Pattern」

Webの動線分析

顧客は企業に問い合わせる前に、Webであらかじめリサーチしています。最近は、顧客がWebサイト上でどのような動きをしたのか分析することができます。

たとえば、プロダクトの料金ページを見た後の問い合わせが多い場合、料金ページの情報が不足していると考えられます。FAQを見た後に問い合わせているなら、FAQの内容を調整すれば顧客が費やす問い合わせのための手間を減らせます。もしくは、顧客がつまずいているページにチャットボットを配置することで、顧客体験を向上させることができるでしょう。

応対中

カスタマーエクスペリエンスマネジメントとして「応対中」に取り組めることにも目を向けましょう。

オペレーターアシスタント

音声認識AIと生成AIを活用し、オペレーターをアシストする取り組みを始められます。

最新ツールであれば、オペレーターとお客さまの通話内容をAIに解析させ、リアルタイムに必要なナレッジを提示させることができます。

顧客側は、ベテランオペレーターでも新人オペレーターでも同程度のサービスを体験できます。スピーディに正確な返答を得られるので顧客満足度が向上します。

テキストチャネル

オペレーターによるテキストチャネルを採用する企業が増えています。いわゆる有人チャットです。

チャット対応時に、テンプレートを活用することによって一人で複数の顧客対応が可能になります。お客さまを待たせないため、顧客体験の向上に効果的です。

チャット中にお客さまを端末の前に縛り付けない「メッセージング」の採用も進んでいます。

遠隔サポート

コロナ禍の期間中にカスタマーサービスの手段として定着したのが、遠隔サポートです。遠隔サポートとは、ビデオ通話で顧客をサポートする手段のことです。

最近はオペレーターの顔出しに関する抵抗感を和らげるために、アバター接客も増えてきています。

ホスピタリティへの注力

プロダクト過多な時代なので、顧客は「丁寧で迅速なサービス」を体験しただけでは感動しません。よりパーソナライズされた応対である「ホスピタリティ」を体験した時に感動します。

ホスピタリティを前提とした「適応型サービス」や「コンサルティング型営業」を実施していきましょう。

営業力の強化

カスタマーエクスペリエンスマネジメントでは、顧客体験を向上させつつも、同時に収益も確保していかなければなりません。そこで大切になるのが「営業力の強化」です。

とくにコールリーズンをしっかり把握した上で実施する「パーソナライズされた営業力」を強化する必要があります。

応対後

お客さまの応対が終わった後も、カスタマーエクスペリエンスマネジメントは続きます。応対後に何をしたら良いでしょうか。

VOC分析

コールセンターで把握した「お客さまの声」であるVOCを有効活用しましょう。

VOCによってお客さまのプロダクトへの不満を知ることができます。その声をもとにプロダクトを改善していくことで、顧客満足度は向上していきます。

クオリティマネジメント

オペレーターが提供するサービスのクオリティマネジメントが不十分だと、顧客体験は低下していきます。

クオリティをチェックすべきサービスには、応対品質、接続品質、運用品質、処理品質といった4つがあります。中でもカスタマーエクスペリエンスに直結する「応対品質」から優先して分析・改善していきましょう。

カスタマーエクスペリエンスマネジメントがもたらすメリット

時間、労力、コストをかけてカスタマーエクスペリエンスマネジメントをする価値はあるのでしょうか。2つのメリットがあることを覚えておきましょう。

ファンの獲得

カスタマーエクスペリエンスマネジメントを実施していくことで、自社プロダクトのファンを獲得できます。顧客は、購入時や購入後に感動すると、企業のファンとして口コミを発信してくれます。

「この商品を買って生活が快適になった」「いろんな機能の使い方を購入後も教えてくれるからますます便利!」「使用中にトラブルがあってもすぐに解決できた」「この会社以外の商品はもう買わないかも」といった口コミです。

広告費をかけなくてもプロダクトの認知度を高め、集客していけます。

値下げ競争からの脱却

自社プロダクトのファンが醸成されてくると、競合他社との不要な価格競争をしなくて良くなります

なぜならファンはプロダクトの「価格」だけを気に入って利用しているわけではないからです。プロダクトを購入して得られる「体験」が気に入っているため、安易に他社へ乗り換えません。

注意すべきポイント

注意しないと、せっかく積み上げてきたカスタマーエクスペリエンスマネジメントの成果を台無しにしてしまうことがあります。気をつけるべきポイントは、過度なコスト削減と、無理なチャネル数の増設です。

コスト削減

オペレーターをはじめとする「人材」や「システム」に費やすコストを無理に削減すると、サービスの品質が低下し、結果として良質な顧客体験が犠牲となります。

コスト削減を実施する際には、顧客体験が本当に損なわれない削減になるのかどうかを分析しましょう。

チャネル数の増設

チャネルが増えるということは、そこで対応する人材が必要になるということです。一見、「チャネルが増えると顧客接点が増え、顧客は便利になるだろう」と思えます。しかし十分な人材がいなければ満足な応対はできません。

チャネルを増やす際には、人材の確保ができるかどうか、そもそも顧客が本当に求めているチャネルかどうかを検討してください。

事例

カスタマーエクスペリエンスマネジメントに取り組むことで、成果を出している企業の事例を紹介します。

カインズ

カインズは顧客体験向上を目指し、ECサイト、モバイルアプリ、売り場案内ロボット、従業員用の在庫検索アプリなどを次々採用しています。さらに、コールセンターの改善にも着手しました。CRM(Salesforce Service Cloud)と、クラウド型コンタクトセンターシステム(Amazon Connect)を連携させ、応対時間を従来より2.8分も短縮させています。

参考資料:https://special.nikkeibp.co.jp/atcl/ONB/21/aws0423/?P=2

三井住友カード

三井住友カードでは、カードをずっと使い続けてもらうために、顧客のストレスを無くする「フリクションレス」に取り組んでいます。オペレーターが顧客の話をよく聞くこと、顧客へのインタビューの機会を設けること、カード入会画面で離脱率が高い場所を特定し改善することを行なっています。

参考資料:https://contentsquare.com/jp-jp/blog/cx-circle-tokyo-2023-smcc-qsai-cx/

ベネッセコーポレーション

ベネッセコーポレーションでは、顧客に対し、「電話しないで自分で解決してね」と思わせかねないFAQやWebフォームの改善だけに注力するのではなく、オペレーターによる応対にも力を入れるようにしています。ノンボイスチャネルの運用、在宅オペレーターの拡充に取り組んでいるのです。とくにLINE対応の効率化に取り組んでいます。

参考資料:https://www.tmj.jp/column/column_18538/

最後に

カスタマーサービスという切り口で、カスタマーエクスペリエンスマネジメントについて考えてきました。

カスタマーエクスペリエンスマネジメントが実践できる3つの分野は、お客さまに応対する前、応対中、応対後に分けられます。各分野で分析・改善できる分野を取り上げました。

何から取り組んだら良いかわからない時には、今すぐ改善しやすい箇所を探してみましょう。また、現在開発競争が激しい生成AIを活用できる分野も見つけましょう。すぐに取り掛かれるポイントからスタートすると同時に、今後定着する生成AIを活用するノウハウも蓄積していきたいものです。

カスタマーエクスペリエンスマネジメントに取り組むことで、プロダクトの価格やスペックだけでなく、プロダクトを通しての感動体験を与えられる企業として成長していきましょう。