メッセージングは次世代チャットと呼ばれ、米国では2017年からエンタープライズを中心に導入が進んでいます。
今回は「メッセージングとは何?」「チャットと何が違うの」「メッセージングの効果がイメージできない」といった点に焦点を当てて解説します。

メッセージングの導入が、管理者と利用者の双方にどのようなメリットとデメリットがあるのかも説明するので参考にしてください。
最後には海外と国内のメッセージング導入事例を紹介します。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、15年間にわたり日本市場へローカライズしてきたCBAが解説します。

メッセージングとは 

メッセージングとは非同期が特徴のチャットです。「切れないチャット」と言われることもあります。チャットをしている双方が好きなタイミングで会話を始めることができ、中断も継続も都合が良いときにできることが特徴です。

LINEのようにリアルタイムでも、時間を開けながらでも、チャットを継続していけます。アプリに限定されず、企業のWebサイト上でもメッセージングが利用できることも大きな特徴です。一度会話が中断されても履歴が残りますし、他のプラットフォームからでも文脈を引き継いで会話を続けられます。

メッセージングの特徴は以下のとおりです。

  • お客さまが好きな時間に、好きな方法で問い合わせできる
  • さまざまなプラットフォームに導入可能
  • 継続的な会話ができる

メッセージングとチャットの違い

メッセージングとチャットは何が違うのでしょうか。以下の表から違いをご覧ください。

メッセージングとチャットの違い

注意したいのは、メッセージングが優れていてチャットが劣っているというわけではないことです。それぞれの特徴を活かしながら使い分けていけます。
各ツールの特徴を活かせるケースを見てみましょう。

チャットが最適なケース 

チャットの最大の特徴はリアルタイムでオペレーターと会話ができることです。お客様が必要としているサポートをすぐに受けられるメリットがあります。
そのためECサイトにおいて、お客さまが購入時にわからないことを問い合わせるといったケースが最適でしょう。購買意欲が高いタイミング、カゴ落ちを防げるタイミングでチャットは有効です。

業種に関係なくコンバージョンにつながる直前はチャットによるサポートが効果的です。

メッセージングが最適なケース 

メッセージングは問い合わせ全般に対応するのに最適です。お客さまにとって都合の良いタイミングで会話を続けていけるからです。しかも企業サイトで始めた会話を、LINEで続けることが可能です。チャネルが変わってもお客さまは同じ案件のサポートをずっと受けられます。

製品に関する不明点を問い合わせる、自分の登録情報に関する質問をするケースなどでメッセージングは活躍します。

メッセージングのメリット

続いてメッセージングのメリットを「利用者」「管理者」「担当者」という3つの分野に分けて考えてみましょう。

利用者のメリット 

メッセージングを利用するお客さまにとってメリットは3つあります。

  • スキマ時間に利用できる
  • 移動中でも利用できる
  • 都合の良いチャネルで会話を継続できる

お客様は一つの問い合わせに関する会話を都合の良い時間、場所、チャネルで継続していけます。時間、場所、チャネルが変わるごとに今までの履歴を担当者へ説明する必要がありません

メッセージングのメリットを生かした利用シーン

メッセージングのメリットが生かされる利用シーンを見てみましょう。

  • 会社員:会議と会議の間に担当者との会話を続けていける
  • 主婦:夕食を作る前後、食事の前後に会話を続けられる
  • 主婦:子供の宿題を見ている間に会話を続けられる
  • 学生:ゲームの区切りの良いところで会話を続けられる

管理者のメリット 

企業側にはメッセージングを導入するどんなメリットがあるのでしょうか。現場の管理者へのメリットを考えてみましょう。

  • オペレーターの待ち時間を削減
  • 問合せピークを分散できる
  • 研修期間の短期化
  • 離職率の低下
  • 顧客満足度の向上

それぞれのメリットについて説明します。

オペレーターの待ち時間を削減

メッセージングは対応がリアルタイムである必要がないので、オペレーターは最大40もの会話を同時に処理していけます。ある企業はメッセージングを活用することでオペレーターの効率化を電話の2倍、チャットの1.5倍以上にすることができました。

問合せピークを分散できる

メッセージングは非同期なので、お客さまは通常のピーク時(昼休み・終業後)以外にも問合せをしてきます。またお客さまがピーク時に問合せてきたとしても、企業からの返信はピーク時以外にすることが可能です。結果として問合せのピークを分散していけます。

研修期間の短期化

オペレーターは瞬時の対応をする必要がありません。社内FAQなどのナレッジを調べながら対応をしていけます。そのため初期研修で教える業務知識を減らすことができ、研修期間を短縮できます。

離職率の低下

オペレーターはお客さまからの問合せにひとつひとつ丁寧に対応できます。「即時対応をしなければいけない」「お客さんがイライラしてきた」などのプレッシャーから開放されます。オペレーターのストレスは軽減され、業務満足度が向上し、離職率が低下していきます。

顧客満足度の向上

お客さまは電話による問合せより、テキストによる問合せを好みます。ある通信事業者では、70%のお客さまが問合せのために「電話ボタン」ではなく「メッセージボタン」を選択しました。使い勝手の良いメッセージングは顧客満足度を向上させます。

70%のお客さまが問合せのために「電話ボタン」ではなく「メッセージボタン」を選択
70%のお客さまが問合せのために「電話ボタン」ではなく「メッセージボタン」を選択

担当者のメリット

メッセージングを使って実際に対応する担当者(オペレーター)のメリットは何でしょうか。

  • 業務の効率化
  • エスカレーションの減少

チャットと違いメッセージングでは、オペレーターはお客さまからの返信を待つ必要がないため、同時に複数の会話を効率的にこなしていけます。

メッセージングでは時間をかけてお客さまの問合せに対応できます。リサーチの時間を十分に持てるのでエスカレーションが減少します。
メッセージングを導入した大手ワイヤレスキャリアでは、エスカレーション率が10%から0.28%に減少した。

メッセージングによりエスカレーション率が10%から0.28%に減少
エスカレーション率が10%から0.28%に減少

メッセージングのデメリット

メッセージングにはデメリットもあります。

  • 即時返信を期待される
  • 設置場所が難しい
  • 担当者のトレーニングが特殊

各デメリットについて解説していきます。

即時返信を期待される

利用するお客さまはメッセージングとチャットの違いがわかりません。そのため直ぐに返信が帰ってくるものと期待します。
メッセージングを運用する際は、お客さまの返信時間に対する期待値を下げるようにしてください。「〇時間以内に返信します」「お問い合わせを多く頂戴しており、ご返信までにお時間を頂く場合がございます」といった自動返信を設定しておけるでしょう。

設置場所が難しい

お客さまが見つけやすい場所へメッセージングを設置してください。かなり探さないと見つけられない場所ではなく、トップページやよくある質問ページなどに設置しておくと良いでしょう。

担当者のトレーニングが特殊

メッセージングは音声対応ともメール対応とも違った技術が求められます。しかしテキストでお客さまと会話をすることから、音声対応と共通する部分が多々あります。研修の際には音声対応のマナーとともに、チャットにおけるトークマナー、最適な会話トーンなどを教えてください
自社でのトレーニングが難しいことがあるかもしれません。そのときはベンダーが提供するトレーニングサービスを活用することができるでしょう。

メッセージングの導入効果

メッセージングの技術は2015年頃から開発が進んでいますが、エンタープライズレベルで導入が加速したのは2017年です。米国を中心に日本でもメッセージングの活用が進んでいます。
いくつかの業界における導入効果を紹介します。

【旅行】ヴァージンアトランティック航空 

ヴァージンアトランティック航空は2018年にメッセージングを導入しました。問合せをしてきたお客さまにIVRでメッセージングを提案し、SMSでメッセージングをする方式です。

メッセージングを導入して6週間で以下の導入効果を経験しました。

  • 顧客満足度95%向上
  • メッセージングへ移行した問い合わせが前週比で20パーセント増加
  • オペレーターの100%がメッセージングに満足

【エンターテイメント】SKY UK社

ヨーロッパを代表するエンターテイメント企業 SKY UK社は2016年にメッセージングを導入しました。導入以降、SMS、Facebook Messenger、iOS、Androidのプラットフォームでメッセージングサービスを提供しています。

導入後12週間で感じた効果は次のとおりです。

  • メッセージング担当のオペレーター90%が満足
  • 音声対応と比較し2.2倍の効率化に成功
  • 音声対応途中に30%がメッセージングへ移行
  • 顧客満足度が常時80-90%以上

【銀行】Buddybank銀行 

2018年に立ち上げられたUniCredit銀行の子会社BuddybankはiPhoneアプリをベースにして運営する銀行です。FAQを設けずに全ての問合せ対応をメッセージングで処理しています。使用しているプラットフォームはApple Business Chatです。

導入効果はどのようなものでしょうか。

  • 顧客満足度95%
  • Apple Pay利用率92%
  • Buddybank銀行の顧客の76%はUniCredit銀行の新規顧客
  • お客さまの平均待ち時間30秒
  • 24時間対応が可能になった

【保険】MDabroad社

MDabroad社はAetna、Allianz、Zurichなどの業界最大手の医療保険会社と協力して、旅行者や外国人にリアルタイムの保険を提供しています。2017年にメッセージングを導入しました。
当時の課題は、多言語の医療専門家が、24時間年中無休でコンタクトセンターで対応しなければならないという効率の悪さでした。

メッセージングを導入することで次のような変化がありました。

  • WhatsAppを効率的に使ったサポート
  • WhatsApp IDとCRM連携により、パーソナライズされたアドバイスが可能に
  • 各オペレーターの生産性が18%向上

【国内】メッセージング活用事例

メッセージングは国内でも活用されるようになっています。たとえばKDDI株式会社AUは、Apple Business Chatを活用してメッセージングサービスを提供しています。iPhoneのメッセージアプリ「iMessage」からオペレーターへ問合せられるサービスです。他にもMy au、LINE、+メッセージなどからメッセージングが利用できるようにしています。

▶参考情報:https://www.au.com/support/inquiry/message/
https://time-space.kddi.com/au-kddi/20181109/2491

楽天モバイル株式会社も問合せ方法の一つにメッセージングを採用しています。楽天モバイルアプリをダウンロードすれば簡単に利用できます。
まずお客さまは問合せ内容を送信します。その後、オペレーターからの返信が届くとプッシュ通知が表示され、回答を読めるという流れです。

▶参考情報:https://dime.jp/genre/1131723/

データで見るメッセージングを導入すべき4つの理由

国内でも導入が進むメッセージングですが、もしかしたら「まだ様子を見よう」「もう少し普及してから動こう」と思われるかもしれません。しかし今からメッセージングの導入に向けて施策を進めていくべき理由が4つあります。

  • 電話アプリよりメッセージングアプリが人気
  • 電話は最後の選択肢
  • 電話からテキストへの移行が進む
  • テキスト対応は高評価

それぞれの理由をデータに基づいて考察していきます。

1. 電話アプリよりメッセージングアプリが人気

まず世界のトレンドをチェックします。米国LivePerson社が2017年9月に行った調査を参考にします。

この調査は米国、英国、フランス、ドイツ、日本、オーストラリアのZ世代(18から24歳)とミレニアル世代(25から34歳)の3200人以上を対象に行われました。さらに若い世代と比較するために35歳以上のアメリカ人1016人にも同じ質問がなされています。

「電話アプリとメッセージングアプリのどちらかだけを使える場合、どちらを選びますか」との質問
「電話アプリとメッセージングアプリのどちらかだけを使える場合、どちらを選びますか」との質問

「電話アプリとメッセージングアプリのどちらかだけを使える場合、どちらを選びますか」との質問がなされました。答えの結果を見てわかるのはZ世代とミレニアル世代の大部分が電話アプリよりメッセージング/SMSアプリを好むことです。
とくにトレンドの発生地である米国(73.4%)、英国(73%)と圧倒的にメッセージングが好まれていることが分析できます。

2. 電話は最後の選択肢

下の表を見ると、不明点があるとき、問い合わせるために使用されるツールの中で電話が一番最後の選択肢であることがわかります。

「不明点を探すときにどのツールを優先的に使いますか?」アプリかWebサイト/ライブメッセージかチャット/SNS/フリーダイヤル
「不明点を探すときにどのツールを優先的に使いますか?」アプリかWebサイト/ライブメッセージかチャット/SNS/フリーダイヤル

「不明点を探すときにどのツールを優先的に使いますか?」の問いに対し、すべての国で最初に使うのは企業のアプリかWebサイトでした。世界平均を見ると、次に多いのがライブメッセージかチャット、SNS、そして最後にフリーダイヤルとなっています。
興味深いのは日本では2番目の選択肢が電話であることです。今回の調査で日本の回答者のうち19.7%が答えを見つけるのに15分以上かけると答えています。日本人の忍耐強さが垣間見れる結果です。

3. 電話からテキストへの移行が進む

国内のデータも見てみましょう。コールセンター白書2021では、テキストベースのコミュニケーションが主流になりつつある現状について次にように分析しています。

非対面のコミュニケーション手段の中心は、すでに電話からメールやチャット、LINEなどのメッセンジャーに移行している。総務省が2021年2月に発表した調査結果「通信量から見た我が国の音声通信利用状況―令和元年度における利用状況」によると、2019年の国内音声トラフィックの通信回数は、2013年度と比較して、実に約17%も減少。このダウントレンドは加速するという味方が圧倒的に強い。

世界のトレンドだけでなく、国内でも電話よりテキストベースのコミュニケーションが一般的になってきていることが分析できます。

4. テキスト対応は高評価

企業からテキストによるサポートを受けたお客さまはどう感じているでしょうか。コールセンター白書2021によると「チャットやLINEなどでの顧客対応への印象」を尋ねるアンケートに対する答えが、「手軽なので好ましい―36%」「要件によっては好ましい―47%」となりました。有人チャットによるサービスを利用した人の83%が好印象だったことがわかります。

世界と国内におけるカスタマーサービスの主流はテキストベースになってきています。とくにアプリやWebサイトでのチャット、メッセージングはますます好まれるようになっていくでしょう。

最後に

メッセージングとは非同期のチャットのことです。主な特徴は、お客さまが好きな時間に都合の良い方法で問い合わせができたり、継続的なエンゲージメントを形成できたりすることです。
管理者へのメリットは、現場の業務効率化と顧客満足度を向上させられること、利用者へのメリットは企業へ問い合わせやすくなることです。

コールセンターへの問い合わせが多くて現場が逼迫している企業や、カスタマーエクスペリエンスを向上させる施策を探している企業は、メッセージングの導入を検討してみるとよいでしょう。
次世代チャットと呼ばれるメッセージングの活用により、お客さまと企業のコミュニケーションが新たなステージに入っていきます。