チャットコマースとは、企業と消費者がチャットをしながら自社プロダクトをおすすめしたり、問合せ対応したりするサービスのことです。英語のChat(会話)とCommerce(商取引)を組み合わせた言葉です。オンライン上で1対1の接客ができる手段として世界的に注目されている手法です。

今回はチャットコマース先進企業が2021年に行った調査を基に、市場の動向とトレンドについて考えていきます。

チャットコマースの市場について理解を深め、今の消費者を本当に満足させる接客とは何か分析していきましょう。

高まるチャットコマースの需要

今回参考にするのは、米国のチャットコマース先進企業であるLivePerson社が2021年9月に行った調査です。調査対象は、世界6カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、オーストラリア)の5172人(18歳以上)の消費者です。

実施された調査を通して見えてきたのは、チャットコマースの需要が高まっている現状です。

チャットコマースの需要を表すグラフ

「電話でなくテキストメッセージのサービスがあったほうが、その企業と取引をする可能性が高くなりますか?」の問いに74%が肯定的な答えをしています。
「サイトを見たりメッセージで返答を受け取ったりしたほうが、購入につながりやすいですか?」には、77%がYesと答えました。
「サイトを見たりチャットをしながら商品を買ったりしますか?」に対しては、83%がYesと答えています。

上記のアンケートからわかるのは、世界中の消費者がテキストベースで企業とコミュニケーションを取りたいと願っていることです。購入時にメッセージングを利用できるブランドが好まれること、購入に繋がりやすいことも読み取れます。

現在の消費者は、ただ商品に関する疑問に答えてもらったり、注文した商品の追跡番号を調べたりするだけではなく、チャットを通じてこれまで以上にブランドとコミュニケーションを取りたいと願っているのです。
実際、顧客がチャットをしながらサイトを閲覧したり、購入できたりするブランドのほうが、競合他社より優位に立っています。

チャットコマースの方法3つ

補足情報として、チャットコマースの主要な方法を3つ簡単に紹介します。

チャットボット

チャットボットとは、チャット(chat)をロボット(bot)が実行するプログラムのことです。チャットボットには二つの種類があります。AIチャットボットとシナリオ・チャットボットです。

有人チャット

有人チャットとは、人間の担当者が問合せにチャットで対応するサービスのことです。

メッセージング

メッセージングとは、非同期のチャット、つまりWebサイト上でもLINEのようにセッションが切れないチャットサービスのことです。
▶参考情報:https://event.cba-japan.com/messaging/

数字で見るチャットコマースのメリット

チャットコマースに力を入れる最大のメリットは、顧客の一人一人にパーソナライズしたサービスを提供できることです。

チャットコマースのパーソナライズが人気であることを表すグラフ
エンゲージメントが高い企業から購入したいことを示す統計

調査を実施したときに「パーソナライズされた方法で自分と対話してくれる企業と取引する可能性が高い」と答えたのは86%でした。
「個人的なつながりを感じるブランドから購入する可能性が高い」と答えたのも79%でした。

つまり消費者の全体的な傾向として、パーソナライズしたサービスを提供してくれる企業を高く評価していることがわかります。消費者の信頼を得る鍵になるのは、パーソナライズされたサービスの提供です。

しかしパーソナライズされたサービスを提供するのにネックとなるのが、Cookie(クッキー)の制約です。

消費者はCookieによって個人情報を収集されることに警戒心を持っています。

クッキーを嫌がる消費者の統計
個人情報の提供を嫌がらない消費者の統計

「ウェブサイトが自分の行動を把握するためにCookie(クッキー)を使用することを懸念している」と答えたのは76%でした。

注目したいのは「メッセージングで企業から直接尋ねられた場合、個人情報を共有することに抵抗はない」と答えたのが62%だったという点です。

大多数の消費者は、自分の情報を追跡するためにCookieを使用するブランドは信用しませんが、メッセージで個人情報を尋ねてくるブランドは信用すると回答しているのです。
Cookieでいつの間にか個人情報をトラッキングされることには抵抗があるものの、任意でメッセージングを使って尋ねられることには抵抗がないことが読み取れます。

さらに多くの消費者は、ブランドがメッセージングで積極的に働きかけてくることに抵抗がないと答えています。58%の消費者が、自分にカスタマイズされたセールやクーポン、オファーをメッセージで知らせてくれるブランドに好感を持っていると回答しているのです。

ここから見えてくるのは、チャットコマースの一連の流れです。
まず企業はチャットを通して顧客の情報を収集します。その後、集めた情報を活かしてメールやチャットで、パーソナライズされた顧客に有益な情報を発信していくのです。

自分に有益な情報を受け取るためであれば、消費者は個人情報が使われることを気にしない傾向があるとわかります。

チャットコマースで実現するカスタマーサービスの事例を動画でご覧になれます。フォード社の事例です。

チャットコマースのトレンド

チャットコマースのトレンドはチャットボットです。シナリオ型のチャットボットやAIを搭載したチャットボットが市場に浸透しています。

チャットボットの好感度を表す統計

一つ目の表をみると、チャットボットに対する消費者の好感度が2020年よりも2倍になっています。チャットボットのスピード、手軽さ、効率性が市場から評価されているのです。

二つ目の表では、2020年に比べて2021年のほうが、4つの分野で消費者がチャットボットに慣れてきているとわかります。

  1. 契約
  2. 商品の再注文
  3. 消費動向の予測
  4. プレゼントをする日のリマインド

3つ目や4つ目の分野など、顧客はパーソナライズされた情報をチャットボットから提供されることに慣れてきています。背景にはAIチャットボットを利用する機会が増えたこと、各企業のチャットボット運用の質が向上したことが関係しているでしょう。
結果として、チャットボットの使い勝手が良いと利用者から評価されているのです。

今後は、シナリオ型のチャットボットより、柔軟にパーソナライズされたサービスを提供できるAI型チャットボットの採用が進んでいくことでしょう。

最後に

AIチャットボット、メッセージングを中心としたチャットコマースは、カスタマーサクセスに大きく貢献します。しかしチャットコマースは単にカスタマーケアの質を高めるだけではありません。
購買や契約を促してリードする面においてもチャットコマースは主要な働きをしていくことでしょう。