「ドロイド」という言葉をご存知ですか?SF映画に出てくるAIを備えた機械で、銀河や別の惑星で人間や異星人の生活を支えます。ドロイドと言ったら真っ先に思い浮かぶのが、往年の名作スター・ウォーズシリーズで活躍する「迷」ドロイドコンビ、C-3POとR2-D2という方も多いのでは。

C-3POとR2-D2は、主人公のルークやレイア、ハン・ソロなどの登場人物が直面する数々のピンチを協力して乗り越え、銀河の命運を左右する瞬間に幾度となく立ち会ってきた、シリーズ屈指の人気ドロイドです。C-3POは、600万を超える宇宙言語を自在に操るだけでなく、礼儀や文化的なプロトコルにも精通しており、常に丁寧かつ慎重なコミュニケーションを心がける気配り上手。時に過剰すぎるそのリアクションに仲間は困惑したり呆れたりですが、確実に信頼される存在です。

一方の無口ながらも働き者のR2-D2は、宇宙船のシステム修復から重要データの解析・暗号解除まで器用にこなす問題解決型ドロイド。危機的状況でもパニックにならず、機転と行動力で仲間を救う頼れる相棒です。

この2体のドロイドに共通する点、それは「人間と協働する」ということです。

指示通りに動く「機械」ではなく、状況を読み、関係者をサポートし、時に人間の感情を動かす。そんな協働性も、彼らの持つ魅力の一つかもしれません。そして、身近な顧客接点であるコンタクトセンターの現場においても、そんな「人間と協働できる担い手」を求めるニーズが確かに存在しています。

英国でのある調査記事によると、「78%の消費者が、カスタマーサービスの対応にストレスを感じており、多くが人間味のあるしっかりとした対応をしてもらっていない、話を聞いてもらえない」と感じているとのことです。

もちろんコンタクトセンターのオペレータや経営者にすべての責任を押し付けることはできませんが、仮にそんな不満を解消できるC-3POやR2-D2のような存在がオペレータの隣にいるとしたらー。顧客対応やCX、顧客満足度、ブランディングなど、劇的に変化していくと思われます。実はその未来、もう「遠い銀河系の話」ではありません。現代において、AI技術と業務改革の波は、すでに「人間と協働するドロイド」を現実のものとしつつあるのです。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

この記事が解決するお悩み

「AIエージェント元年」と言われているが、何から着手すればよいかわからない

「AIで効率化」を目指したが、かえって人間味が失われ、顧客から「冷たい対応」と言われるようになった

「AI対応性(AI Readiness)」という概念は聞くが、自社の現状評価や改善方法がわからない

 

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2025年、ドロイドはもうあなたのそばに。

顧客からの要望にC-3POが的確に応え、多言語通訳もこなし、そしてR2-D2が手際よくトラブルを解決してくれるー。そんなコンタクトセンターの世界線は、すぐそこにやって来ています。それを具体的に実現しているのが、近年発展著しいAI技術です。

C-3POが得意とする言語処理は、今やAIの中核技術の一つです。自然言語処理(NLP)により、AIは単に文字を認識するだけでなく、文脈やそこに織り込まれている感情や微妙な言い回しについても分析できるようになっています。つまり、「より人間らしい会話ができるようになってきた」、ということです。そしてこれにより、世界中の顧客に対して多言語・24時間対応を提供することが現実的になってきました。

また人間らしさが実現できているということは、顧客が感じる不安の低減につながっているということでもあります。

すでに音声系AIソリューションにより、特定の個人の声やクセを学習して顧客対応することができています。その自然さは、AIオペレータと人間のオペレータがいつ切り替わったのか聞き分けがつかないほどのレベルとなっており、技術の高さのほどとこれからの活用に対する期待の高さが伺えます。

一方、R2-D2は自律的に動き、その過程で必要なタスクを自ら割り出して実行し、問題を解決に導きます。従来のチャットボットのように「聞かれたことに答える」というシングルタスクで受け身ではありません。

そして近年市場を賑わせているAIエージェントは、顧客の発言や行動履歴、過去の問い合わせ情報、さらには関連システムの情報までを横断的に検索・分析して、根本原因を複数押さえたうえで最適なアクションを自律的にサジェストしたり実行できたりする能力を備えています。

こうしたサポートは、顧客対応を迅速化させます。

少し古い情報で恐縮ですが、「63%のサービス担当者が、AIによって対応スピードが上がったと実感している」というSalesforceの調査もあります。また、顧客体験と満足度の確実な向上も見込めますし、何よりこうした技術はすでに運用段階に入っています。

たとえば、音声AIは、顧客の話すトーンやスピード、抑揚を読み取りながら、より自然な会話を可能にしていますし、感情分析を通じて、顧客の一連の話の背後にある「感情」を察知して、対応内容やトーンなどをリアルタイムで調整することもできます。

顧客は怒っているのか、不安なのか、不満なのか、それとも困っているのか。空気すら読めるようになったAIが人間と協働するー。コンタクトセンター市場は今や、そのような時代に突入しています。そして2025年、彼らがセンターの新たな仲間になる準備は、着々と整いつつあります。

「ドロイド」が変える、CXの日常。

コンタクトセンターにC-3POがいるとしたら、どんな形でオペレータをサポートしているのでしょうか?

AIチャットボットが一つの解として挙げられます。

600万の言語を操るC-3POのように、NLPと膨大なデータを学習したAIにより、人間と変わらないレベルのスムーズな会話が実現できるチャットボットが登場しており、チャットボットの最大の利点である、365日・24時間対応により、国籍やタイムゾーンを超えて世界中の顧客を相手にできます。

まさにC-3POのように、あらゆる場面で顧客の要望に答えることができるAIチャットボットは、カスタマーサービスや顧客接点において必須の存在になりつつあるのです。

このようなAIチャットボット市場は、すでに150億ドル規模に達しており、2029年までに3倍以上に成長するという予測も見逃せません。

R2-D2がコンタクトセンターにいたらどうでしょうか?彼の特徴は、C-3POとは対象的に、(表現はするけれど)言葉を語らず周囲の状況を瞬時に察知して、的確な行動を自律的に取るところ。そんなR2-D2のスピリットを受け継ぐのが、近年進歩著しいプロアクティブなAIエージェントでしょう。

たとえばFAQなどのナレッジの検索。リアルタイムで顧客対応を解析しながら、膨大なデータを検索してその特定のトピックに関連した的確な情報をサジェスト。問題が顕在化する前に先回りして解決策を提示する。顧客の履歴や過去のやり取りから次に必要となる支援を予測して、解決に導きます。

こうしたAI活用を軸に据えたセンター運用はもはや一部の先進企業だけの取り組みではありません。

2023年のGartnerの予測によると、2025年までに8割のカスタマーサービス組織がAIを活用すると言われていました。

AIはもはや特別なオプションではありません。CX戦略の標準装備になりつつあるのです。

とはいえ、ドロイドたちがすべてを解決してくれるわけではありません。映画の中でも、彼らだけで逆境を打破するわけではありませんでした。鍵となるのは、「人とドロイドの協働」です。

コンタクトセンターに落とし込んだ場合、たとえばドロイドは、定型的な問い合わせへの即応、FAQからの情報抽出、大量のデータ分析、初期段階の感情判断、トレンドトピックの抽出などを高速かつ正確に実行します。一方で人間のオペレータは、共感的な対応、イレギュラーな問題解決や最終的な判断と提案に集中します。

ここで浮かび上がってくるのが、AIは主役ではなく、優秀な副操縦士である、ということ。顧客とのやり取りの途中で、関連情報やナレッジを提示するといった、役立つアシストをリアルタイムでしてくれる存在です。これによりオペレータは、時間を取られがちな作業や判断の迷いから解放され、より深い共感と的確な対応に自身のリソースを集中させることができるようになります。

つまり、ドロイドもといAIと人間とのチームワークによって効率化が達成されるのです。さらに、より理解のある、そしてパーソナライズされた体験を顧客に提供できるようになっていきます。あたかも、C-3POやR2-D2がそばでサポートしてくれるような、そんなCXの世界線がすでに広がっています。

AI活用に潜むダークサイド、そしてコンタクトセンターのデス・スター化に気をつけよ。

銀河を守るジェダイたちが常に警戒していたのが、強力な力であるフォースの裏に潜む「ダークサイド」です。実はこのダークサイド、カスタマーサービスやAI活用にも潜んでいるのです。AIによる顧客対応は確実に進歩を遂げていますが、バラ色の世界が広がっているわけではありません。

AI活用に潜むダークサイドと、私たちはしっかりと向き合う必要があります。気をつけねばならないダークサイドにはどんなものがあるのでしょうか?

まずは、AIにも限界があるという事実をしっかりと認識しておく必要があります。AIは、論理には強くても、人間の感情を揺らぎや曖昧さも含めて、すべてを理解するまでには至っていません。まだ不完全です。

たとえば、皮肉交じりの発言や、表面上の言葉と本心にギャップがある場合など、微妙な感情のニュアンスを読み違えることで逆にユーザーのストレスを高めてしまう可能性があります。人間同士でも感情のニュアンスや言外の意味を読むことはなかなか難しく、すれ違いが発生することが多々あるものです。そのすれ違いやギャップがドラマティックなストーリーを生んだりもしますが…すべてが丸く収まることはまずありません。

実際、「41%のユーザーが、AIが自分の意図を正しく理解してくれてるとは思えないと、不満を感じている」というZendeskの調査もあります。

しっかり意図を汲んでもらえていないー。この共感の欠如が、CXの価値を大きく損ねてしまいます。

AIは大量のデータがあってこそ真価を発揮します。顧客の属性、行動履歴、過去のやり取り、クレームの内容など、こうしたデータはAIにとって燃料であり武器です。同時にここには、セキュリティの懸念が常に存在しているところです。

70%のユーザーが、AIによるデータの不適切な利用に懸念を抱いている」という調査結果もあります。

データを預かるということは、単に保管しておけばよいというものではありません。情報を守る責任があります。倫理面でのコンプライアンスなしにAIを運用することは非常に危険です。3年かけて築いた信頼でさえ、崩れるときはたった3秒で崩れてしまいます。

また、効率化にもダークサイドが。確かに効率化は、コンタクトセンターがAI導入に求める最大のメリット、そして目的と言えます。

でも効率化の追求が行き過ぎると、顧客が求めている「温かみ」とか「納得感」、そして「安心感」が失われてしまい、人間味の薄い冷たい対応になってしまう危険性があります。

AIを活用し始めたのに、前よりも冷たい印象が強くなってしまい、結局何も解決に至らない、という印象を与えてしまった場合、それはダークサイドに堕ちつつあるということです。

AI導入に失敗したコンタクトセンターは、さながら、強大な力を持ちながら自己破滅を招いた銀河帝国の宇宙要塞「デス・スター」と化します。

つまり、膨大な投資を行い、最新のAIソリューションやツールを取り揃えたにも関わらず、顧客満足度は低下、オペレータやSVなど現場の人材は疲弊、ブランディングは失墜し、事業競争力も失われてしまう。このようなデス・スター化は、決して現実感の薄いものではありません。

その原因は、準備なきAI導入にあります。

  • 課題の洗い出し・目標設定なきまま導入だけを急ぐ
  • 部署横断の連携がなく、全社的視点が欠落
  • トレーニング不足で現場は混乱
  • 成果を確認できず、使われないAI

こうした断片的なAI導入アプローチは、まさにデス・スター化へまっしぐらとなります。いくらフォースが強力だとしても、活かし方がわからなければ、成功へ導くことはできません。

ではどうすればダークサイドに堕ちず、デス・スター化を避けて、本当の意味での効率化を実現してCXも向上させることにつながるAI活用ができるのでしょうか?

その鍵となるのが、近頃よく耳にすることの多いAI Readiness(AIレディネス)、つまり「AI対応性」を高めることです。

2025年、「AI対応性」でコンタクトセンターを覚醒!

銀河を守るジェダイになるための修行において根本的に必要なものは、ライトセーバーの使い方でもフォースをコントロールするメンタリティでもありません。まず大切なもの、それは「内なる準備」です。実はこれ、現代のビジネス環境におけるAI活用にもまったくもって通じる話なのです。

2023年、多くの企業が生成AIやAIチャットボットの価値を「発見」しました。2024年、生成AI活用の流れが一気に加速して、PoCや実験的導入が次々に実施されました。そして2025年は、AI活用を本格化してAIを軸に置いた顧客対応・センター運用を実行に移して成果を出すフェーズです。

したがって2025年は、企業が「AI対応性」を高める一歩を踏み出すのに最適なタイミングなのです。

「AI対応性」とは、単にAIやAIツールを導入できるかどうか、ではありません。組織全体として、AI活用のベネフィットを最大限に引き出す準備ができているかどうか、を示すインデックスです。

ツールやテクノロジーを導入することができるキャパシティだけでなく、人、企業文化、業務プロセス、倫理面、データ周りなど、すべてが揃って初めて、AIというフォースの真価が発揮できるのです。

そしてコンタクトセンターは、まさにAI対応性を高める実践の場として最適です。なぜなら、

  • (生身の人間を対象とした)顧客接点という最前線である
  • テキスト・音声などAI活用に適したデータが大量に存在する
  • 明確なKPIがあるため、効果検証がしやすい
  • 顧客満足度という成果に直結している

からです。

コンタクトセンターの「AI対応性」を高めるロードマップー4つのステップ

コンタクトセンターの「AI対応性」を高めるロードマップー4つのステップについて見ていきます。

ステップ1:成熟性評価ー現状を知る

まず、現状を知ることが第一歩となります。自組織のAI活用の現状、組織・企業文化、技術・データインフラ、管理体制などをあらゆる観点で評価します。このステップの最終目標は、課題を洗い出す部分にあります。課題を特定せずにAI活用から先走ったとしても「デス・スター化」へつながってしまいます。ステップ1の自己評価は非常に重要です。どのAIを使うかの前に、どうAIを使うか、ということを考えるからです。

ステップ2:戦略策定ーロードマップを描く

評価結果とそこで浮かび上がった課題に基づいて、何のために・どこからスタートさせるか、を明確にします。ユースケースを想定・選定する、導入ステップをデザインする、必要なリソースを計算する、期待される成果を具体的に見据えるなど、実行可能なAI戦略をこのステップで策定します。ここで重要なのが、スモールスタートと導入後のスケーラビリティです。小さく始めて、大きく育てる。そのロードマップが成功への秘訣です。

ステップ3:人材改革ーAIを活用できる人材を育てる

どれほどAIが強力だとしても、それを使って業務やビジネスに活かすのは人間です。扱う側が活用法を知らなければ、宝の持ち腐れ。そこで必要になってくるのが、従業員の的確なAI教育です。スキルトレーニングやAIとの協働を前向きに捉えられるような意識の醸成など、マインドを変化させるためのチェンジマネジメントが必要です。AIは人材を置き換える敵ではなく、ともに働く仲間です。チームメイトです。協働できる環境整備は必須です。

ステップ4:データ基盤・ガバナンス整備ー安全にAIを活用するために

そして最後に欠かせないのが、AIを安心・安全に活用するための環境です。

  • 質の高いデータの収集・整理
  • セキュアなITインフラの構築
  • AI倫理に則った利用方針と運用体制の確立

きちんと整備された環境があってこそ、AI活用がビジネス成長につながります

これらのステップを踏んで、段階的に「AI対応性」を高めていく過程で、AIをどう活用するかのロードマップが自然とできあがるはずです。

新たなる希望:ドロイドと人間が協働するコンタクトセンターの世界線

丁寧で博識なC-3PO、そして機転が利いてプロアクティブなR2-D2。AI技術により、そんなドロイドが今や、コンタクトセンターでも見られる時代となっています。しかし、AIは万能ではありません。それさえ導入しておけば、最新のツールを使うだけでCXが劇的に改善するようなことは決してありません。

本当の意味でのイノベーションは、技術・戦略・組織・人材・プロセスが一体となった時に実現します。

チャットボット、感情分析、予測AI、生成AI…確かにこれらは非常に強力なツールですが、それだけでは不十分です。重要なのは、人間が持つ専門知識や経験、共感力や想像力と、AIの能力、スピード、正確性や分析力を融合させることです。そこにこそ、人とドロイドが共に働く世界へのドアが開いているはずです。

AI技術の発展ですでに実現されているC-3POの親身で礼儀正しい対応が人間オペレータの共感力をより高みへ押し上げ、R2-D2が人間のオペレータをプロアクティブに支援することで人間オペレータのスキルが引き上げられ、最終的にAIと人が協働することでより質の高いCXを実現できるーそんなコンタクトセンターがすでに実現し始めているのです。

でもその実現とベネフィットの最大化には、企業やセンターの「AI対応性」を高めること、そして人・組織・仕組み・文化すべての面で準備が整っていることが重要です。そうなってはじめて、ドロイドたちが人間の能力を拡張し、人間がより人間らしい価値を提供して発揮できる、新たなる希望が見えてきます。

したがって、どのAIを導入すべきか?ではなく、AIと人間が共に働く準備はできているのか?という問いかけは、これからのコンタクトセンター構築の戦略として重要な示唆を与えるはずです。