新型コロナウイルスのパンデミックを機に、コールセンターにおける在宅オペレーター制度や自動化ソリューションが急速に普及しました。最近では、これらの施策は人手不足や採用難への対策として注目されることが多く、「BCP対策」としての目的意識は一時期より薄れています。
人手不足や採用難は深刻化し続ける一方ですが、エッセンシャルワークの一つであるコールセンターは、決してBCP対策をおろそかにしてはいけません。
しかし、近頃では「コールセンター=エッセンシャルワーク」という社会的価値を毀損しかねない不祥事が多く発生しています。そのため、コールセンターの社会的価値を確立し続けるためにBCP対策の見直し・強化が重要になります。
この記事では、自然災害、感染症、システム障害に注目し、具体的に行える9つのBCP対策を紹介します。
■この記事がおすすめの方
・BCP対策の総点検をしたいと考えている方
・コールセンターのBCP対策として具体的にどんなことができるのかを検討中の方
・どのBCP対策にコストやリソースを傾けるべきか悩んでいる方
今コールセンターのBCP対策を強化すべき理由
コールセンターにおけるBCP対策はどの程度行うべきでしょうか。「緊急事態」といえばさまざまですが、とりわけ自然災害や感染症発生の場合、コールセンターは顧客や地域にとって命綱あるいは駆け込み寺となるポジションです。
インフラ系の窓口になったり、商品やサービスによっては有事の時こそニーズが高まったりします。だからこそ、不測の事態が発生した際には迅速かつ安定的な稼働が期待されます。
加えて、コールセンターでは機密性の高い情報を膨大に保持・管理しているケースが多いので、(災害発生時ですら)高い水準でのセキュリティが要求され、原因に関係なくシステム障害は最小限かつ最低限にしなければいけません。
これらの点を考えると、コールセンターにおける「つながらない」は、企業のブランドイメージ低下や信頼の損失を引き起こすリスクがあります。これは平時でも緊急時でも変わりません。
「不測の事態だから仕方がない」が通用しない業界だからこそ、BCP対策が必要不可欠なのです。「不測の事態」にオペレーターを何が何でもオフィスへ出勤させるというのは現実的でないので、リソースや場所が限られるとしてもセンター業務を継続させる策が必要となります。
上の図表は、総務省が公開している「平成26年以降に発生した主な災害」です。
大雨の発生頻度や、それにともなう土砂災害は増加傾向にあり、今後30年以内の大地震発生確率は70%以上と推定されています。
頻発化・激甚化の傾向が見られる自然災害や、パンデミック、(内部要因/外部要因を含む)システム障害といった不測の事態が年々増加している日本において、コールセンターは一刻も早いBCP対策強化を迫られています。
コールセンターで行うBCP対策9選
コールセンターが行うべきBCP対策として、具体的にどんなことができるでしょうか。ここからはコールセンターが押さえるべき9つの対策を紹介します。それぞれを以下の3つにジャンル分けして解説します。
- 運営面
- 設備・システム面
- 新たにニーズが高まった対策
現在実施している対策と照らしてチェックシートのように使ったり、バランス良くBCP対策を行うためのアイデアを探したりする際にお役立てください。
【運営面】運営拠点の分散(=マルチサイト化)
地震や水害など、広範囲の該当地域一体が大打撃を受ける災害に対しては、拠点の分散が有効です。しかし、ただマルチサイト化すれば良いというわけではありません。エリア選択がポイントです。
たとえば「東日本と西日本」のように遠距離で分散させるなら、BCP対策としてより強力な効果を発揮します。
一例を紹介します。株式会社もしもしホットラインは、東日本大震災において東北エリアの一部拠点が被害を受け、拠点移転の必要に迫られました。しかし、鹿児島などの西日本エリアに拠点があったため、東日本大震災に伴う緊急対応業務を西日本エリアにて代替できました。
▶出典:https://ccaj.or.jp/ccajnews/pdf/ccajnews181.pdf
もしもしホットラインのように、国内で遠距離の分散が実現できていると、特定地域のセンターが運営できなくなっても業務を引き継ぐことが可能です。
とはいえ、有事の際にスムーズに業務を引き継ぐには、全拠点で運用が標準化されていることが重要になります。
すでに複数拠点での運営ができているコールセンターは、システムやルール、マニュアルなどが標準化できているか見直しましょう。今後のマルチサイト化を検討している方は、マルチサイト化へと取り組みと平行して、運営に関わる要素の標準化を行うと効率的です。
【運営面】アウトソーシング
アウトソーシングによるコールセンター運用は、インハウス型に比べるとBCP対策がしやすい形態です。
自社だけでマルチサイト化するのが現実的でない場合は、コールセンター業務全般あるいは緊急時に優先度の高い業務のみアウトソーシングするという選択肢があります。
緊急時に優先順位の高い業務をアウトソースできていると、災害やシステム障害が発生した際、センターの全面停止リスクや被害を最小限に抑えられます。
【運営面】拠点の閉鎖・全面リモートへの切り替え基準を決める
災害時には、センターの被害状況や各オペレーターの安否、公共交通機関や道路の状況などを加味して、センターへの出勤有無を判断しなければいけません。
感染症の場合は、地域での感染状況や各自治体からの指示などを考慮して出勤の有無を決定したり、オペレーター数の間引き、時差出勤の実施をしたりすることになります。
災害やパンデミック発生時の出勤に関する決定は迅速さが求められます。そのため、即時確認・決定が求められる項目と、判断する上で参考にできるウェブページ/アプリ/ニュースなどを事前にリストアップしたり、必要な対応やルールを明文化したりすることは効果的です。
事前に用意ができていれば、従業員が足並みを揃えつつ落ち着いて動くことができるので、緊急時における社内の混乱を防ぎやすくなります。社内での混乱を最低限に抑えられれば、より優先度の高い連絡や手続きをスムーズに行っていけます。結果として、企業イメージの維持向上、従業員と顧客からの信頼の獲得が見込めます。
【運営面】指示系統の決定
有事の際、誰に指示を仰げば良いのかを決めておくことは重要です。
各従業員が同僚や直轄の上司、あるいは管理職に個別で連絡するとなると、いたるところで連絡が飛び交い、しまいには伝言ゲームのような現象が生じ、伝達される内容の正確性が落ちかねません。
場合によってはそれが従業員の安否に関わるケースもあります。「どのようなときに誰に何のツールで確認するのか」を決めておくことは、組織として迅速に動く点で抑えるべきポイントの一つです。
【設備・システム面】備蓄品の用意・感染症対策の継続
パンデミック発生時、密閉空間であるコールセンターにおいて恐ろしいのはクラスターの発生です。
新型コロナウイルスの際にはNTTドコモのコールセンターにおいてクラスターが発生し、一時的に運営が停止されたケースがありました。
▶出展:https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/detail/20200312_00_m.html
コロナによってパンデミックの恐怖と対策について学んだ私たちは、日頃からできる感染対策(定期的な換気、アルコール消毒の徹底、オペレーター同士のディスタンスの確保など)を今後も継続的に実施することで、次にいつ起きるか分からないパンデミックに備えることができます。
また、災害発生時のために備蓄品の充実化を検討してください。関東圏において大きな災害が発生した場合、焦って移動することはかえって危険だと言われます。そのため、被害の状況や復旧あるいは支援の見通しが立つまでは、従業員や近隣の人とセンターで一定期間一緒にいる可能性があります。
感染対策と同じく、今のうちにできる準備を整えておくなら、いざというときにリスクや不安を最低限に抑えることができ、企業として社会的に優先するべきアクションを起こしやすい環境が作れます。
【設備・システム面】クラウド型のコールセンターシステム活用
コールセンターシステムには、クラウド型とオンプレミス型の2つがあります。クラウド型とオンプレ型にはそれぞれでメリット・デメリットがありますが、BCP対策の観点ではクラウドの方が強力です。
オンプレのシステムを使っていると、災害によってセンターが甚大な被害を受けた場合に業務の継続・復旧が限りなく不可能になります。また、パンデミック発生時には、無理にでもセンターへ出勤しなければいけません。
平時から在宅ワークを導入するかは別として、いざというときにリモートで業務を継続するのであれば、コールセンターシステムをクラウド型にしておくと良いでしょう。
▶BCP対策向けクラウド型コールセンターシステム「Bright Pattern」
【設備・システム面】予備の通信手段や代替システムの準備
ITシステムに大きく依存している現在のコールセンターは、通常時には利便性が高い一方、システム障害に対して非常に弱い一面をもちます。対策無し、あるいは対策が十分ではない場合、業務が完全停止に追い込まれかねません。
そのため、よく推奨される定期的なシステムメンテナンス、データのバックアップ、サイバーセキュリティの強化に加え、予備の通信手段や代替システムの準備があると強力なBCP対策として効果的です。これらをファシリティマネジメントの一環として行っていれば、システム障害への対策のみならず、災害時にも有効です。
【新たにニーズが高まった対策】ノンボイス化やセルフサービス化
現在、ノンボイス化やセルフサービス化は人手不足や業務効率化の文脈で全面的に推奨されます。しかし、これらはBCP対策としても実際的です。
たとえば、オペレーターが出勤できない場合や、電話回線がダウンしている場合に、顧客とのコミュニケーションやコールセンターの運営が継続しやすくなります。
回線がダウンせず電話対応が可能だとしても、有事の際には呼量が予測値を超えて急激に増加する可能性があります。
そのため、自動応答やセルフサービスが充実していれば、オペレーターが落ち着いて対応を行うことができ、顧客の身体的・精神的福祉に寄り添いやすくなります。
また、日頃からノンボイスチャネルやセルフサービスが利活用されていれば、ユーザー側が戸惑うことがありません。ノンボイス化やセルフサービス化は、なるべく早く取りかかることがポイントとなります。
【新たにニーズが高まった対策】在宅オペレーター制度の導入・定着
在宅オペレーターは、コロナのパンデミックを境に急激に普及した働き方です。今ではBCP対策としての価値が見いだされ、総務省が推奨する対策の一つとなっています。
日頃から在宅オペレーター制度を採用できていると、システム的環境とスタッフの精神的・技術的準備が整うので、有事での安定的に業務を継続したり、迅速にセンターを復旧させたりしやすくなります。
オペレーターを守るBCP対策とは
ここまでで9つのBCP対策について紹介しました。センターによっては、「BCP対策はすでに万全なので、あとはオペレーターに頑張ってもらえれば問題ない。コールセンターとしてやるべきことはやっている」と思われるかもしれません。
この視点には一点だけ大切な点が見落とされています。それは、オペレーターのケアとサポートです。運営面や設備・環境面での準備が万全でも、オペレーターのケアとサポートを二の次にしてはいけません。
「ただの精神論だ」と思わないでください。なぜなら、オペレーター自身、あるいはオペレーターの身近な家族が被災者・被害者になっているかもしれないからです。
不安を抱えつつも出勤・業務遂行をしている可能性があることを忘れないようにしましょう。適切なケアやサポートがされないままに出勤や業務継続を強要するなら、オペレーターやその家族の身体的・精神的健康を害するリスクがあります。過度なストレスによる体調不良や離職、最悪の場合は命に関わることを覚えておきたいと思います。
反対に、BCP対策の中にオペレーターのケアとサポートが含まれているなら、採用時に求職者にとって魅力的なポイントとなるでしょう。
有事の際にエッセンシャルワークとなるコールセンターは、何よりもまず従業員の安全確保を最優先すべきです。従業員の精神的・身体的健康を守れずして、 顧客や地域の人を守ることはできないでしょう。また、万が一の際には労災として扱われる可能性もあるので、法的処置が必要となる事態を避ける上でも、従業員への手厚いケア・サポートは欠かせないと言えます。
最後に
BCP対策において重要なのは、リスクと損害を最小限に抑え、業務の継続や早期復旧を目指すことです。基本的に感染症や災害、システム障害は自分たちでコントロールできません。そのため、BCP対策を完璧にしたからといって根本原因がなくなるわけでも、コールセンターの問題が0になるわけでもありません。起き得る事柄を予想した上で事前に対策を徹底しつつ、不測の事態に対して現実な見方をしておくことは、BCP対策において大切です。
万全なBCP対策にはある程度のコストがかかります。経営陣から「コールセンターはコストセンターだ」と言われないために、BCP対策に費やすコストを最低限に抑えなければいけないかもしれません。
ただ、対策が十分ではない状態でいざ災害が発生すると、事前にかけるコスト以上の損失を被るリスクがあります。平時から対策をしているなら、長い目で見たときのコストカットにつながるということを覚えておきましょう。
また、BCP対策が強固であればあるほど、顧客や従業員からの信頼が厚くなるので、顧客満足度/従業員満足度の獲得や、センターへの帰属意識醸成、ロイヤルティの獲得といったメリットが見込めます。
コロナが落ち着きを見せ、水害などが本格化する前の時期に、ぜひBCP対策について見直してみましょう。