昨年、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成したことは、サービス業に従事される皆さまの記憶に新しいことでしょう。また、任天堂が「修理サービス規定/保証規格」に「カスタマーハラスメント」の項目を初めて盛り込んだことも話題になりました。
これらを機に急激に浸透した「カスハラ」(カスタマーハラスメント)という言葉と危機感は、多くの企業が直面していたカスハラに立ち向かう転換点となりました。この記事では、コールセンターにおけるカスハラがどういうものかを分析し、どのようにオペレーターを守るのか7つのポイントに分けて紹介していきます。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
カスハラとクレームとの違い
「カスハラ」(カスタマーハラスメント)の定義とは何でしょうか。「クレーム」との明確な違いはあるのでしょうか。
厚生労働省が出している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を見ると、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当なものであって、当該手段・様態により、労働者の就業環境が害されるもの」とまとめられています。
クレームとの違いを一言でまとめるならば、顧客の指摘に不当または過剰な要求があるかどうかです。
「苦情やクレーム=カスハラ」ではなく、「カスハラ=苦情やクレーム」というわけでもありません。しかし、行きすぎた苦情やクレームはカスハラに該当します。
とはいえ、クレームとカスハラの境界線の見極めは難しいものです。カスハラかどうかを判断する尺度の一つとしては以下が挙げられます。
- 顧客等の要求内容に妥当性はあるか
- 要求を実現するための手段・様態が社会通念に照らして相当な範囲か
カスハラに該当する事例にはどんなものがあるか、カスハラにどんな特徴があるのかを知っていると、カスハラかどうかを見極める点で助けになります。「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を見ると、これまでさまざまな企業が顧客から受けた迷惑行為の内容と比率がデータ化されています。
最多は拘束的な行動ですが、続いて精神的な攻撃が多く、脅迫や暴行・傷害といった行動は犯罪になる内容のものです。
ここでカスハラとなる具体的な例を少しだけ紹介します。
- 「ネットに書く」といって脅す
- 電話で1時間以上拘束する
- 不合理な特別待遇や金品の要求をする
- 謝罪の強要
上記はあくまでもほんの一例です。「カスハラはこういうもの」といった杓子定規的な判断をすることなく、むしろさまざまな性質があると再確認しておきましょう。当然、内容も深刻度もまちまちで、全ての要素が異なります。
最近では、弁護士など専門知識をもった人が、これまでの実例を基に、多くのカスハラに見られる言動をブログなどで発信しています。
カスハラに対して各オペレーターの許容度が違うことも忘れないでください。同じような内容のカスハラ対応で、「Aさんはうまく対応できたのにBさんはできなかった。顧客対応スキルの差によるのかもしれない」「Aさんはストレスに感じているようだが、Bさんは特に気にしていないようだ。Bさんの方がカスハラ対応に適任だ」といった判断をしないようにしましょう。
カスハラはコールセンターの貴重なオペレーターを流出させるリスクを持ちます。実際、日本労働組合総連合会の調査によると、カスハラを受けたオペレーターのうち76.4%が「生活に変化があった」としており、そのうち38.2%の人が「出勤が憂鬱になった」と回答しています。
もしそのまま欠勤・退職となってしまえば、完全に人材流出を引き起こします。仮に流出しなかったとしても、該当オペレーターがこれまでと変わらないモチベーションや集中力を維持して働くことは困難です。連鎖的に、業務効率の低下、業務ミスが頻発すると考えられます。
「カスハラ対応も含めてオペレーターのスキルの見せ所」「現場のプロの仕事」といってカスハラ対応をコールセンターに丸投げしないでください。もしカスハラ対応が理想通りにできなかったとしても、オペレーターのスキルや対応が原因とは考えないようにしましょう。「責められている」とオペレーターが感じてしまうならば、オペレーターの人材流出を促進しかねないからです。
カスハラ対応にまつわる全てをコールセンターに丸投げするのは、もはや現実的ではありません。過去3年間にハラスメント相談があった企業のうち、カスハラに該当する企業の割合は実に92.7%であり、カスハラが私たちの身近に迫った問題であることを痛感させられます。もはやコールセンターだけ、果てはオペレーター個人で立ち向かっていける問題規模ではありません。
カスハラ対応でオペレーター守る方法7つ
ここからは、企業としてオペレーターを守るためにどんなことができるのか7つの策を紹介します。
1. カスハラに対する認識の統一
まず、カスハラに対する社内での認識を統一してください。カスハラは通常のクレームや苦情とは違い、「主に嫌がらせを目的とするものであるということ、だからこそ特定のオペレーター対応に責任があるわけではないこと」を、各オペレーターやSV、そして組織上層部の人たちの共通認識としましょう。カスハラは「ハラスメント」であって、「いじめ」や「いやがらせ」と同等の意味を持つ行為です。
カスハラが発生した時には、「一人で抱え込まず、すぐに上長へエスカレーションして良い。むしろするべき」という雰囲気も徹底しましょう。なるべくオペレーターが一人で解決できる方が良い/すごいという雰囲気があると、オペレーター一人に負担が集中するだけでなく、かえって問題を複雑化させてしまったり、長期化させてしまったりするリスクがあります。
「カスハラには必ずコールセンターのスタッフ全員、企業全体で立ち向かう」というスタンスを持ちましょう。「お客さまは神様」の精神を全てのケースで意識・体現できる時代ではなくなって来ているからです。
2. マニュアル・フローの作成・周知
もしこれまでにカスハラやそれに近いお客さま対応がなかったとしても、いざというときのためにカスハラ対応のためのマニュアルやフローを作成しておきましょう。備えあれば憂いなしです。
作ったマニュアルやフローは、早いうちにオペレーターへ周知徹底し、レビューを聞くようにしてください。作ったマニュアルがオペレーターにとって分かりやすく実用的であるかどうかレビューしてもらい、必要があれば修正や追記を施すようにしましょう。
株式会社エス・ピー・ネットワークが実施した「カスタマーハラスメント実態調査(2021年)」のデータによれば、顧客対応全般に関するマニュアルを作成していると回答している人はわずか3割でした。企業におけるマニュアル作成が進んでいないことが明らかです。加えて、カスハラ対応について内容が詳細かつ十分だと回答した人はたった3割強となっています。作成するマニュアルが、オペレーターにとって「内容的不足がある」と思われないようにしたいものです。
カスハラ対応に関するマニュアルを作成するときには、具体的なNGワードや通話時間の目安など、誰もが明確にカスハラかそうでないかを見分けられる基準付きのマニュアル作りを目指してください。カスハラに対するオペレーターの許容度が異なるので、オペレーター本人がカスハラだと気づかない、または必要以上に頑張ってしまう可能性があるからです。作成済みのマニュアルが、カスハラに気づくための指針を明確にしているかどうか今一度確認しましょう。
マニュアルやフローを作成したら、それを使ってシミュレーションすることもカスハラ対応への事前準備として効果的です。独自で研修プログラムを実施するのも良いでしょう。カスハラ対応は突発的に生じます。相手の言動次第では、オペレーターが落ち着いて対応することが困難になる時もあるはずです。いざというときに落ち着いて正しい対応ができるよう日頃から準備・練習しておくなら、オペレーターを守るだけでなく、コールセンター全体のカスハラ対応を一貫できます。
カスハラ対応における準備が万端であれば、オペレーターの安心感に繋がります。オペレーターが企業への安心感・信頼感を強められれば、必然的に帰属意識が促されます。一般的に離職率が高いとされるコールセンターにとって、人材流出に関するリスクマネジメントができるのは大きなメリットです。
3. 業界に合ったカスハラ対応を行う
現在、特定の業界に限ることなくカスハラ対応や対策が注目を浴びているので、さまざまな企業のカスハラ対応とその効果が話題になります。当然、「○○社のカスハラ対応はとても良い。自社でも同じようにしたい」と思う策がいくつも見つかるかもしれません。
しかし、目に留まった策が本当に自社に合っているのかを検討してください。業界違いのカスハラ対応をそのまま取り入れると、かえってカスハラを生み出す引き金になる可能性もあります。
業界違いのカスハラ対応を闇雲に取り入れてしまうならば、同じ業界内での足並みが大きくズレてしまい、「○○社はやってくれたのに、△△社はやってくれない」といった評判や、文句の言われ方をする可能性があります。
これまでの自社の対応の仕方やフロー、カスハラの事例、同じ業界の事例を今一度分析し、何が適切な対応かを明確にしてください。
4. 同業他社との情報交換・共有
前のポイントでも触れた点ですが、同じ業界内でカスハラ対応の足並みを揃えることは重要です。「競合他社と情報交換するなんて、損になるのでは?」と心配になるかもしれません。しかし、カスハラを無くしたい、カスハラから従業員を守りたいという願いは、業種に関わりなく共通で持っている認識ではないでしょうか。
現代はSNSが大変活発で、誰でもどこからでも意見や情報を発信できます。「カスハラ加速の要因はSNS」とも言われるほどなので、SNSの影響力を無視できません。
企業によってカスハラへの対応が大きく異なってしまうと、既出のような「○○社はやってくれたのに△△社はやってくれなかった」「○○社の対応は他社と比べてひどい」といった評判を立てられやすくなります。そのような評判がSNSによって拡散されると、既存顧客の目につくこともあれば、潜在顧客の目についてブランドへのイメージを一方的に下げられてしまう恐れもあります。せっかく企業が整えている顧客接点の前段階で、関わりを断ち切られてしまいかねません。
また、SNSで悪評が立ってしまうと、一つの企業にカスハラが集中する可能性もあります。同じ業界内で企業が足並みを揃えていれば、そもそもカスハラを生み出さない、起きたカスハラを業界として許さないという環境を作ることができます。
5. カスハラ対応を企業として明文化する
企業としてのカスハラ対応が決まれば、それを企業ページや製品ページなど、お客さまの目に留まりやすい場所に明記してください。カスハラ対応の一つとして、もしも「オペレーターがカスハラだと判断した場合、即座にオペレーター側からの切電/終話を行う」または「取引停止の措置をとる」と決めるならば、その旨を明確にページへ記載しましょう。
企業がカスハラへの対応を明文化していると、そもそもカスハラを「寄せ付けない」、または「抑制する」という効果を期待できます。実際にカスハラへ対応する際にも、企業ページに明記していることを盾として毅然とした対応を取りやすくなります。
企業としてのカスハラ対応の明文化と共に、必要なときには警察との協力や法的措置をいとわないことも記載しておくと、カスハラをする可能性があるお客さまに対して「牽制」することが可能です。
非通知で悪質なカスハラが行われる場合、相手を特定するには警察の協力が必須となります。また、カスハラが行きすぎた場合は、脅迫罪・恐喝罪・強要罪・威力業務妨害罪・不退去罪等に該当するので、企業としては法的に戦うこともできます。
6. カスハラ発生にすぐに気づける・対応できる環境を整える
カスハラの一例に、「対応を録音してSNSで拡散する」といった脅しがあります。こうした脅しの対応例の一つとして、「オペレーター側も録音する旨を伝える」が挙げられます。しかし、いざカスハラが起きてから録音を始めると、肝心な言動が記録に残らないかもしれません。
日頃からサービス向上を主な目的として録音を行っていれば、カスハラ発生の前後のコミュニケーションを漏れなく記録することが可能です。最近では、オペレーターへ電話が繋がる前に、会話を録音する旨を(自動音声によって)伝えられる例も少なくありません。電話が始まる前に録音の予告がなされると、カスハラの抑制も期待できます。
日頃から電話対応を録音していると、カスハラ対策以外にもメリットがあります。オペレーターの対応の品質管理(対応の採点や改善、分析等)ができたり、オペレーターの聞き逃しや聞き間違いを防げたり、顧客の意見を社内に共有できたりします。つまり、コールセンターとしてのみならず、企業としてサービスや製品の改善・向上に生かせるということです。
今や多くのコールセンターが、マルチチャネル、またはオムニチャネルに対応しています。だからこそ、全チャネルにおいてSVが常に状況をモニタリングし、必要なときにスムーズにヘルプに入れる環境を作っておくことは、カスハラ発生時のスムーズなエスカレーションやオペレーターへのサポートに欠かせません。
多機能なコールセンターシステムには「SV機能」が搭載されているものもあります。
■最新のSV機能には以下のような機能が含まれます。
- 全チャネルに渡るリアルタイムレポート
- 音声通話とチャットでのモニタリングとサポート機能
- モニタリング時にリアルタイムで評価付け
- オペレーターの対応履歴の追跡
- キャンペーン業務のリアルタイムモニタリング
■カスハラ対応に直接役に立つ機能としては、以下のような機能があります。
- モニタリングをしながらアラートを検知することができる
- ウィスパリング/ささやきによって、オペレーターとSVの間だけでチャット・通話ができる(顧客に内容が見えることも聞こえることもない)
- 三者通話/割り込みの機能によって、SVがオペレーターと顧客の会話に割り込み、三者でのチャット・通話が可能
カスハラ対応に関してのマニュアルやフローをどれだけ完璧にしていても、問題発生にすぐ気がついて対応できる環境が整っていなければ、意味がありません。必要なときにマニュアルやフローを使ってオペレーターを守るために、コールセンターの環境整備に気を配るようにしましょう。
参考情報:カスハラ対応がしやすいコールセンターシステム「Bright Pattern」
7. カスハラを生み出す原因を減らす
ここまではカスハラ発生に備えた対策や、カスハラが起きた際にオペレーターを守る方法を紹介してきました。とはいえ、そもそもカスハラを0にすることが理想です。
カスハラは何をきっかけに起きるのでしょうか。
カスハラのきっかけについて上のグラフデータをご覧ください。「勘違いや嫌がらせ」の次にきっかけになりやすいのは、約4割の「商品やサービスへの不満」です。
もしコールセンターとして「サービス」を改善するならカスハラの原因を減らせることになります。
カスハラの原因を減らす方法
カスタマーサービスの分野において、カスハラを生み出す原因を減らすためにできることを3つ紹介します。
1. オムニチャネル対応にする
マルチチャネルを採用している企業はかなり増えていますが、次はぜひオムニチャネル対応へとワンランク上げてください。もしもお客さまにとって都合の良いチャネルが使えなかったり、チャネルの切り替えがうまくいかなかったりすると、お客さまにとっての不満の一つとなってしまいカスハラへ繋がる可能性を作ってしまいます。ですから、マルチチャネルであることは必須です。
マルチチャネルで終わりにしてしまうと、多くの場合チャネル切り替え時にオペレーターが変わってしまって、サポートして欲しい内容を一から話し直す必要が生じます。説明のやり直しはお客さまにとってタイムロスになりますし、状況を説明し直す手間もかかります。そもそも問い合わせてきているお客さまは、すでに何かしら困っていて、解決のためにカスタマーサポートを利用しようとしています。問い合わせをしてきている時点で一手間かかっていることを忘れないようにしましょう。
困りごと解決のために一手間をかけているにも関わらず、さらに手間をかける必要が生じるなら、とても「エフォートレス」とはほど遠い状況になります。当然、お客さまの気分を害する可能性、カスハラへと発展する可能性も上がってしまいます。
チャネルの多様化と、それに伴うニーズの多様化に対して手っ取り早く対応できる一つの方法がオムニチャネルです。カスタマーサポートがオムニチャネルで展開できていれば、チャネルを切り替えてもオペレーターが変わらないようにしつつ、話を継続していけます。
カスタマーサポートをオムニチャネル対応にする現実的な方法は、コールセンターシステムをオムニチャネル対応のものにすることです。オムニチャネル対応のコールセンターシステムを選定するときには、なるべく多くのシステム(CRMやSNSなど)とシームレスに連携できるものを選ぶようにしてください。
日本ではLINEのニーズが非常に高まっているので、「LINE連携できるコールセンターシステム」という選定条件があっても良いかもしれません。
参考情報:LINE、Facebook、Twitterなど多くのSNSと連携できるコールセンターシステム「Bright Pattern」
2. 電話以外のカスタマーサポート体制を築く
コールセンターでカスハラが起きる原因の一つとして、「オペレーターの顔が見えない=人間味を感じない」という理由が考えられます。「人間味」を感じにくいからこそ、オペレーターを便利な道具のように扱ってしまうのかもしれません。
また、相手がシニア層であった場合には、「聞こえない」「うまく状況を説明できない/理解してもらえない」といった身体的なものに起因するイライラの積み重ねからカスハラを誘発する場合もあります。
オフラインでのサポートに比べて、家や出先からでもカスタマーサポートを受けられる電話サポートは非常に利便性が高いと言えます。利便性は損ねず、かつ「人間味」を提供できるカスタマーサポートの形として、オンライン接客ツールは非常に有効です。
最新のオンライン接客ツールは、ウェブブラウザのみで利用可能となっており、それでいてプライバシーを守りながら豊富なコブラウズ機能(画面共有、入力支援、教諭画面での書き込み、ドキュメントプッシュなど)を搭載しています。
オンライン接客のサービスがあると、電話越しでは情報の伝達が困難な内容のサポートに対しても、視覚的にサポートを行うことが可能です。また、オペレーターが画面をONにしていれば、対面サポートのようにして表情や身振りによってホスピタリティを示すことが容易になります。
オペレーターからのホスピタリティが分かりやすいと、お客さまがオペレーターに対する「人間味」を感じやすくなり、道具のように扱ってカスハラへ繋がるリスクを下げられるだけでなく、サポートに対する顧客満足度の向上も見込めます。
オンライン接客であれば、相手の表情や身振りの変化から、オペレーターが顧客の感情変化(特に焦りや怒りといったマイナスの変化)を察知しやすくなります。顧客のちょっとした表情を「見る」ことができます。
相手のリアルタイムな様子を見れれば、ある程度はオペレーター側で会話の雰囲気をコントロールすることが可能です。相手が気分を害してしまう前に適切な対応を取れるので、手遅れになってクレームへとなり、クレームがカスハラになり…という事態を防ぎやすくなります。
また、実店舗がある場合には、複雑なサポートを無理に電話やオンラインサポートで解決させようとせずに、オフラインでの解決を促すことも積極的に行ってください。
ただ店舗へ促すだけだと、「面倒に思われた」「邪険にされた」といったマイナスのイメージを持たれる可能性があるので、お客さまの近くに店舗があるか、そこで必要とするサービスが受けられるのか、持って行くべき物や書類があるかといった補足情報も細かくお伝えするようにしましょう。
3. 顧客の自己解決率を上げる
そもそもコールセンターへ電話をかけるような困りごとが起きなければ、コールセンターで発生するカスハラは予防できます。よく顧客満足度向上のために自己解決率向上が謳われますが、カスハラ予防の面でも自己解決率向上は鍵を握ります。
自己解決率向上のために、定期的なFAQの整備や、製品マニュアルの見直しを行うのは効果的です。
例えば、物理的製品(電子端末や家電など)を扱っている企業においては、紙のマニュアルから電子的マニュアルに変えるだけでも、顧客の自己解決をより助けやすくなります。一般的な電子マニュアルは、紙のマニュアルをデータ化してネットワーク上で運用できるようにしたものや、動画コンテンツとしてのマニュアルのことを指します。しかし、近年急激に日常生活へと活用され始めているAIやARを活用すると、電子マニュアルの一歩先をいくマニュアルの作成・運用が可能です。
AI・ARを搭載したソリューションを活用してマニュアル作成をしていると、お客さまがスマホやタブレットなどのカメラで製品を写しながら、何をしたら良いのか3Dで視覚的に見られます。
たとえば、「製品の右下にあるレバーを時計回りに回す」とテキストで説明するのではなく、カメラをかざしただけで該当する部品をAR機能でポイントし、レバーをどちらに回せば良いのか矢印で案内できます。
セットアップの仕方や起こり得る不具合を見越して事前に録画・説明をする動画マニュアルとは異なり、お客さまの手元に「今」ある製品をモデルにして、「今」起きている困りごとに対処するためのマニュアル作成が実現します。
AR機能によって、お客さまが何をどうするべきなのかを視覚的に説明し、操作や作業が正しく行われたかをAIが判断するので、言わば「オーダーメイドのマニュアル」がお客さまの手元に常にあると言えます。
参考情報:AI・ARを活用したソリューションの例「CareAR/Xerox」
パーソナライズされたマニュアルが手元にあれば、FAQから該当する質問を探したり、専門用語が使われがちなマニュアルを読み解いたり、ネットで正否の分からない情報を探したり…といった手間を省きつつ、企業からの最も信頼できる製品説明を確認できます。
お客さまがコールセンターに電話をかけてくる前の段階でエフォートレスを実現し、スムーズな自己解決が達成されれば顧客満足度の向上が見込めます。もちろん、コールセンターへ電話がかかってくることもないので、カスハラへ繋がる電話の母数を減らすことが可能です。
オペレーターをカスハラから守る最終手段を用意する
ここまでで、カスハラ対応からオペレーターを守るためにできることをご紹介してきました。しかし、「どれだけ予防・対策をしても、カスハラが0になることはないのではないか」「カスハラに対する各オペレーターのストレス度合いは異なるから、全オペレーターにとってベストと言える『守り』はないのではないか」という心配もあるでしょう。
実際、どれだけ予防・準備をしたとしても、残念ながらカスハラが起きるときには起きてしまいますし、対応したオペレーターも少なからず精神的ダメージを負ってしまいます。
オペレーターを気遣い、オペレーターを守りたいと思うのであればこそ、最終手段として部署移動や転職といった道を企業として用意しておきましょう。また、それがカスハラに対しての「逃げ」や「敗北」といった負のイメージを本人と周りが持たないように注意してください。部署移動や転職が、オペレーターにとって「後ろめたいこと」になってしまうと、最終手段が実質使えなくなってしまい、オペレーターの心身の健康に支障をきたしかねません。
最終手段の用意も然り、企業一丸となってオペレーターを守れるカスハラ対応の準備ができていれば、その企業はオペレーターにとって安心できる職場として認識されやすく、人材確保の面でも企業イメージの面でのプラスに働きやすくなります。
一部では、コールセンター業務が企業全体の中で比較的立場が弱く、特に上層部からは放置されがちという現状があります。「他の部署と比べて直接利益を生む業務ではない」と思われがちだったからかもしれません。しかし、「ないがしろにされがちなコールセンター業務に対して、企業が手厚くサポートをしている」と対外的に示されれば、むしろ企業に明確に利益をもたらす業務・部署へと変わる可能性が高まります。
離職率が高く人材確保が困難なコールセンター業界では、優秀な人材はまさに取り合いです。今いる優秀なオペレーターを大切にしつつ、新たな人材から選んでもらえる企業になるには、オペレーターをどれだけ大切にしているかが一つ重要になってきます。
また、もしも企業が適切にオペレーターを保護していなかった場合、被害者である従業員がのちのち会社へ責任追及をすることも可能です。事実、被害者が企業を相手に裁判を起こし、被害者側の勝訴に終わっている例も存在しています。逆に、企業として対策を講じていたからこそ、企業側の勝訴となった例もあります。
参考情報:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf (17ページ)
残念ながらカスハラ被害に遭ってしまったオペレーターが、以後どうするのか(部署移動するかしないか、離職するかしないかなど)は本人が決定することです。しかし、企業としてはオペレーターの福祉を常に最大限に考えて守り続ける必要があります。
最後に
繰り返しになりますが、企業はカスハラに対してあくまでもオペレーターを守ることを最優先に考えてください。オペレーターがいないことには、顧客満足度向上やロイヤルカスタマーの新規獲得が困難になるからです。
カスハラが1件発生しただけでも、オペレーターたちは「次は我が身」と思って疲弊していきます。ましてその1件で「オペレーターは会社に守ってもらえない」と感じるなら、いよいよ離職リスクは高まります。
カスハラの十分な予防はもちろんのこと、カスハラ発生時に「企業が自分たちを守ってくれる体制がしっかりある」と全員が感じられることが重要です。カスハラは増加・悪質化の一途をたどっています。一刻も早く現在のカスハラ対応を見直し、より万全を期すようにしてください。