2025年も、気づけばもう残りわずか。AIが一層普及・定着した2025年でしたが、ある調査によれば98%の企業がAIを導入済みではあるものの、61%が「顧客対応はむしろ難しくなった」と回答しています。
一方で、83%の日本国内のCXリーダーがAIをCXの中核に据えることの重要性を明言してもいます。いずれにしろ、激動という言葉では言い表すことができないほど、生成AIがビジネスや生活に浸透し、私たちの業務や生活プロセスを根底から揺さぶった年であったことは間違いありません。
新しい技術は私たちの期待を膨らませますが、同時に不安ももたらします。現に、AIというと、「仕事がなくなる」「人間に取って代わる」という文脈で語られることが非常に多くなっています。現場の混乱も想像に難くありません。
本記事では、2025年に業界を席巻したトレンドを総ざらいして、現場で起きていた理想と現実のギャップに注目して、来る2026年に向けた競争戦略を俯瞰します。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
「2026年に向けて、コンタクトセンター戦略をどう描けばいい?」
「チャットや音声ログなどデータがバラバラで、AI活用の始め方がわからない」
「せっかくAIを導入したのに、現場が混乱して逆に大変になってしまった…」
TPIJが見据える、2025年5大トレンド

具体的に2025年の現場で何が起きていたのか、主要な5つの動きを見ていきましょう。
トレンド1:AIエージェントの本格的な台頭
わからないことを教えてくれる便利な「チャットサービス」から、ある程度のタスクをこなすエージェントへの変貌を遂げたAI。とくに生成AIを活用した音声・チャットの自動対応が、試行段階を経て本格運用へと進んだのが2025年の象徴的な変化でした。
単なるFAQ対応を超えて、センターの業務全体にAIが入り込み、オペレータの隣に常に優秀な副操縦士のいる状態が標準化しつつあります。「一次請けはAI>二次対応は人間」という境界線はもはや曖昧になりつつあります。
一言まとめ:「導入するか」ではなく「どこまで任せるか」
もはやAI導入が差別化となる時代ではありません。AIを軸に、コンタクトセンターや業務システムを再設計するのが標準となっています。つまりAIが成果を出すかどうかはプロンプト精度というよりも、「どの業務をAIに託すか」という設計性にかかっているのです。
トレンド2:インテリジェントWFMの加速
「人材不足」―コンタクトセンターが直面した大きなチャレンジの一つです。働き方の多様化、離職率の上昇、経験を持つ人材の不足、専門人材の枯渇…こういった要因が重なり、従来型の人材の需要予測やシフト管理では対応しきれなくなってきました。
こうした背景の元、AIを活用した人材管理(Workforce Management=WFM)やシフト最適化を実施するインテリジェントWFMが急速に広がっています。適正人数、適正スキル、適正配置を、経験や勘ではなく、データとAIによる動的最適化で実現する時代がすでにやってきています。
一言まとめ:人手不足は、運用努力ではなく仕組みで対抗する
人材管理やシフト管理は、現場の人間が「頑張って何とかする」領域ではなくなっています。AIとデータを活用して仕組みを再設計することが、最初に踏み出すべき一歩です。
トレンド3:VOC x データ統合―分断から統合へ
音声ログ、チャット履歴、CRM、FAQ、NPS―顧客データは依然として分断されがちなため、そのままではAIに十分な情報を渡せず、精度向上が期待できません。また、データの分断によりどこに問題があるのか見えなくなり、改善サイクルも遅くなってしまいます。
2025年、この課題に正面から取り組む企業が急増しました。VOCと顧客データを統合して、改善可能なインサイトに変換する基盤づくりが加速しました。AIを活用するための土台として、データ統合が競争力を左右するコアなテーマとなりつつあります。
一言まとめ:データは統合して初めて改善の武器になる
AI活用の成否を決めるのは、データと言っても過言ではありません。どれだけきれいで整ったデータを揃えられるか―AI活用はここに尽きる…のかもしれません。
トレンド4:パーソナライズが進むCX
データ統合とAI活用が進んだことにより、CXもよりパーソナライズされています。リアルタイムで顧客の背景を理解し、問い合わせ理由や過去の行動に応じて最適なメッセージや選択肢を提示する。あるいは、予兆データから「困る前に」案内を出す。
こうした、個別最適化された体験は、まさに顧客データのサイロ化が解消されAIがリアルタイムでコンテキストを理解できるようになったことにより実現しています。顧客は自分事化された対応を当然のものとして求めるようになってきています。
一言まとめ:「顧客」から「個客」へ
誰にでも同じ対応をする時代はもう過去のものに。「顧客体験」自体が競争力の指標となっています。でもそこには、AIの提案を顧客のトーンにあわせて調整する「人間力」が求められるのも確かです。
トレンド5:EX最適化とAIガバナンスの高度化
CXの質は、オペレータの負荷や体験をそのまま反映します。2025年は、ナレッジの自動生成、回答サジェスト、ACW削減など、「現場が楽になる仕組み」が飛躍的に拡大した年でした。
同時に、AI活用における安全性・説明責任・品質管理の重要性が増し、AIガバナンスの整備が企業価値の一部として認識されてきています。AI活用が進めば進むほど、責任ある運用と安全・安心性が問われる時代になっています。
一言まとめ:利便性と引き換えに、安心感の提供が求められている
現場の負荷を下げることが、品質向上・離職防止・改善スピード向上のすべてにつながります。また同時に、AIを活用している企業には、AIがなぜその回答をしたのか説明できる透明性が求められます。
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TPIJによるトレンド分析:期待と現実のギャップ

上記の5大トレンドを俯瞰すると、2025年は「AI導入の年」から「AI基点で再設計する年」へと転換したことが見えてきます。
華々しいトレンドワードへの期待(ハイプ)と、現場で直面している現実的な課題。この2つの摩擦が、コンタクトセンターに以下の三つの構造変化をもたらしたと見ることができるでしょう。
AI活用の成否は、「導入」ではなく「設計」で決まる
AIが成熟したことで、「導入しておけばなんとかなる」ということはもはや期待できません。成果を左右するのはプロンプトの工夫ではなく、業務をどう分解して、どのタスクをAIに任せるかという部分です。
2025年に直面した現実
多くの企業が、PoCでつまずいています。理由は単純です。AIにわたすデータが整っていない、業務プロセスがAI前提に作られていない。
そのままAIが導入された結果、以下のような問題が起きています。
- ハルシネーション
- 回答の不正確さ
- 業務フローとAIの役割不一致
つまり、AIへの期待が現実問題に打ち砕かれました。
2025年の構造変化
こうした現実により、一つのポイントが見えてきました。それは、AIに何を聞くか?ではなく、AIにどの仕事を任せるか、そしてどのデータを与えるか?という業務プロセスの再設計へのシフトが大切だということです。
人材不足が限界に達し、スキルレス運営が前提になる
離職、採用難、経験者不足…圧倒的に人が足りない―。AIはもちろんそこでも力を発揮します。AIアシストやナレッジ自動生成などにより、オペレータの負荷を確実に下げつつあるからです。とはいえ、そこには落とし穴もありました。
2025年に直面した現実
自動化は非常に便利である一方で、安易な自動化は「デジタル・ドゥーム・ループ」という負の連鎖を招きました。
- 問題解決できないボットに顧客が不満
- 苛立った顧客が有人窓口に
- その対応に疲れたオペレータが離職
さらに、日本の「おもてなし」文化においては、機械的な対応はブランドの毀損リスクに直結しています。
2025年の構造変化
そこでAIの役割は、人間の代わりを務めるというものではなく、人間の能力を拡張する存在へ再定義されました。回答作成、サマリー、根拠の提示など、技能部分をAIが肩代わりすることで、経験の浅いオペレータでも日本市場が求める高度な情緒的対応(おもてなし)に集中できるスキルレス運営が可能になりつつあります。
データ統合がすべての出発点になる
パーソナライズもプロアクティブCXも、AI精度向上、そして業務改善も、すべて一つの共通点からスタートします。それは、「データ」です。
2025年に直面した現実
トレンド3でも触れたとおり、バラバラのデータ(サイロ状態)がAI活用の足かせとなっています。多くのセンターや企業で、データが依然として散らばったままであるという問題が存在しています。
2025年の構造変化
データ統合が脚光を浴びた2025年。データ統合は、AI活用に必要な前提条件です。企業は、必要ならやる、ではなく、「これがないと始まらない」という認識を持つようになっています。つまり、CRM、VOC、ナレッジ、行動データを結びつけた、そしてさまざまなチャネルから入ってくるそうしたデータをシームレスに統合し、AIが読み解けるデータ基盤を整えることこそ、企業の最大の資産につながることが明らかになっています。
つまり、AI活用をすべての前提として、システムを再設計する時代が始まった、ということです。
2026年に備えよう:TPIJが予測する5つのキーワード

部分最適から、AIを軸とした全体最適の時代へ。2025年の構造変化は、単なる一過性のトレンドではないはずです。そこから、2026年以降のCS・CX、コンタクトセンター運営を形作る予兆が見えてきます。
AIが実務レベル浸透し、データ統合の不可避性が認識され、人材不足が深刻化した2025年。この流れを踏まえると、2026年のセンター運営は以下の5つのキーワードが中心軸になるのではないでしょうか。
キーワード1:AI完全統合オペレーション
これまではAIが個々のタスクを支援するフェーズでしたが、これからはAIが処理>記録>要約>分析>改善を一つの回路として、流れとしてつなげる完全統合オペレーションへと進みます。つまり、AIが単なる便利ツールではなく、運用インフラそのものになる世界です。
- 応対中のサジェスト
- 終話後の要約自動生成
- VOCの自動分類・解析
- 改善テーマの抽出
これらが途絶えることなく、一連の流れとして有機的につながります。
キーワード2:全録・全解析
音声データの価値はどんどん上がり続けています。録音というとこれまでは、証拠として残すものでしたが、生成AIの登場と発展により、「通話・会話・対応のすべてを記録して解析する(全録・全解析)」時代が到来しました。サンプリング抽出による一部の分析ではなく、AIがすべてのケース・チャネルでの会話をテキスト化・構造化することで、音声データはテキスト以上に顧客の本音が詰まったビッグデータへと変わります。
- VOCを100%把握:サイレントカスタマーの不満や隠れたニーズの発見
- 感情の可視化:文字だけでは追えない・見えない顧客の迷いや熱量の解析
- コンプライアンスの自動化:全通話のNGワードや必須案内の漏れ、カスハラをAIが監視
これらをリアルタイムに解析できる技術が標準化していきます。それに伴って、雑音の環境下でもクリアに会話を拾えるSTTエンジンや音声認識技術も市場に登場しています。きれいなデータを蓄積することが、AIの精度向上に直結しています。
キーワード3:プロアクティブCX
データ統合が進むことにより、2026年は顧客行動予測に基づく先回りのCX(プロアクティブCX)が主流になっていきます。
- 解約予兆を捉え、先にフォローを入れる(チャーンレートの抑制)
- つまずきそうなWeb画面でガイドを提示する
- 障害発生時に問い合わせが来る前に通知する
「問い合わせに反応する」時代は過去になる。企業は、顧客のこれからに対応する存在へと変わっていきます。
キーワード4:スキルレス・オペレーション
2025年に萌芽が見られた「スキルレス運営」は今後、本格化していきます。これは「スキルが不要になる」という意味ではありません。そうではなく、「高度なスキルをAIが補完し、誰でもベテラン並の対応が可能になる」という意味です。回答生成・要約・根拠表示まで自動化が進むことで、新人とベテランのパフォーマンス差が縮まります。
- 育成期間の短縮
- 応対品質の平準化
- 離職影響の最小化
上記のポイントが、個人の努力ではなく、構造的に解決・実現されていきます。スキル差は、AIで埋める。そういう時代です。
キーワード5:データxAIガバナンス統合
AIの高度活用が進むほど、「安全に使えるか」「説明できるか」というAIガバナンスの成熟度が、企業の信用そのものになっていきます。「データガバナンス」と「AIガバナンス」を一本化して運用する動きが本格化します。
- AIがなぜその回答をしたのか説明できるか
- モデルが勝手に劣化していないか
- データは適切に管理されているか
- 誤回答を検出して改善する仕組みがあるか
こうしたポイントが、選ばれる企業としての当たり前の基準になっていきます。AIを安全に使いこなせる仕組みの提供が、企業の優劣を分けるのです。
【実践】2026年に向けたチェックリスト!

これからの変化に備えて、今から着手できるアクションをまとめてみました。
- データの棚卸し:AIに与えるナレッジベースは最新ですか?ゴミデータはハルシネーションを生み出します。
- EXの見直し:AI導入の目的を人員削減ではなく、オペレータの負担軽減に設定していますか?
- 失敗することに対する許容:AI導入初期は必ずエラーが起きます。それを許容し、すぐに改善に動けるフレキシブルな文化がありますか?
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最後に:テクノロジーの手綱を、自分たちが握り続けるために。
「道具は使い手を選ばないが、結果は使い手で決まる」。
「何とかとハサミは使いよう」…なんてことを言うのはまあ冗談ですが、2025年のトレンドを振り返ると、改めてこの事実が浮かび上がるのではないでしょうか。
AI技術の発展には目覚ましいものがありますが、それに振り回されていては変化に対応することはできません。AIの下請けになるのではなく、自分たちがAIをパートナーとしてリードする。いや、「リード」するという言葉ももはや違うのかもしれません。AIをチームメンバーとしてコラボレートする。そこから得られる新たな気付きを改善につなげる。AIにできることはAIに任せ、人間は人間にできること、心や創造性のある仕事に集中する。
このループこそ、2026年の競争力の源泉となるはずです。そしてそのための環境づくりは、AIではなく私たち人間のミッションです。
皆様にとって来る2026年が、AIという翼を自在に操り、より高く飛躍する1年となることを願っています。TPIJもその転換を迎える皆様の伴走者として、新たな視点と具体的な戦略を今後も皆様に提供していきます。

















