多くの企業にとって、独自性を活かしたカスタマーサービスを提供するコンタクトセンター。しかし新型コロナウイルス感染拡大により、オペレーターの高い離職率が問題になったり在宅勤務へ大きくシフトしたりなど、コンタクトセンターという顧客接点に大きなインパクトがもたらされました。

これまでに経験したことのない状況に首尾よく対応できる技術やメソッドがなかったため、コンタクトセンター、ヘルプデスク、問い合わせ対応部署などがコロナ前と同様の顧客サービスを提供することは困難でした。でもそれは、これまでに目を向けることのなかった、もしくは生まれていなかった、新たな技術に注目するのに良い期間だったと言えるかもしれません。

3年に渡るコロナ禍を経て、多くの企業がパフォーマンス向上に役立つ新しいコンタクトセンター技術を意欲的に取り入れています。変化したのは企業だけではありません。IVRやウェブサイト上でのセルフサービス、メール、SNS、ビデオチャットやチャットボットなど、ありとあらゆるチャネルを通じて企業とつながることが、消費者層でも当たり前になってきました。

会話のとっかかりはTwitterやインスタ、そのあとはLINE、さっと済ませたい場合には電話という具合に、複数の顧客接点チャネルが使われているだけでなく、そのチャネル間をシームレスに移動しつつ対話を継続できることがスタンダードになっているのです。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

「コンタクトセンター技術」には何が含まれるか?

「コンタクトセンター技術」と一口に言っても、その範囲は大変幅広いものです。自動着信呼分配装置(ACD)、コンピューターテレフォニー統合、インテリジェントコールバック、通話録音、AI、顧客管理、人材管理、IVRやビデオコールなど、あらゆることを行う幅広いハードとソフトの両方を含んでいます。

そして、自社ニーズに合ったコンタクトセンター技術を導入することは、カスタマーサービスや顧客体験の質、顧客満足度、また従業員の体験や働くことに対する満足度の向上、コストの節約などを実現する際にも必要不可欠です。

コンタクセンター技術のトレンド4つ

そんなコンタクトセンター技術ですが、最近のトレンドとしてどのような流れが見られるのでしょうか?

カスタマーサービスQAのスペシャリストであるSQMグループの調査によると、95%の企業が、「顧客サービスの大幅改善には新たな技術の導入が必要である」と考えていることが明らかになっています。

さらに、SQMグループによると、企業が今後数年間の顧客サービス提供の改善において、新たな技術を導入する最も重要な分野として、以下の4つが挙げられています。

  1. アナリティクスおよびレポーティング
  2. オムニチャネルインテグレーション
  3. AI
  4. セルフサービス

これらのエリアに新技術を実装するメリットは何でしょうか。企業がより効率的・効果的に顧客サービスを提供できます。カスタマーサービスの手段をイノベートするのに非常に役立ちます。そのため4つの技術はトレンドエリアとしてしっかりと押さえておきたいポイントです。

カバーしておきたい4つのトレンドエリア

顧客サービスの向上、オペレーターの離職率のコントロール、運用コストを抑えるために鍵となるコンタクトセンター技術について、さらに深く掘り下げてみましょう。

1. アナリティクスおよびレポーティング

アナリティクスやレポーティングの要となるのは、データです。顧客とオペレーターのデータを取得して分析することで、センター全体のパフォーマンスを評価し、改善に向けた新しいインサイトを発見することに繋がります。したがって、コンタクトセンターのアナリティクスおよびレポーティングでは、顧客対応のデータと、コールや対話を処理するオペレーター、そしてそのパフォーマンスデータの収集と分析が必要となります。

データの収集や分析は、カスタマイズや自動化が可能です。そうして収集・分析されたデータは、一時解決率や顧客満足度、通話あたりのコスト、平均処理時間、呼量、保留時間といった主なKPIに関するインサイトを共有することのできるレポートとしてサマライズできます。こういったデータの供給元は、以下のような部分が考えられます。

  • コンタクトセンター自体(平均処理時間、呼量)
  • ヘルプデスク
  • 顧客調査・アンケート
  • 従業員調査・アンケート
  • 顧客とのチャット・メール
  • CRM
  • IVR
  • イベントログ

コンタクトセンターとしてのパフォーマンスを分析する方法は複数存在しますが、そこはまさに採用されるハードとソフトに依存している部分です。そういったハードとソフトは、機能やメリット、そして特徴がそれぞれ異なります。そしてここが、まさに新しい技術がしのぎを削っている部分です。例えば…

音声(AI)分析:

アルゴリズムを使用した、リアルタイムでの通話監視や通話録音による顧客感情のモニタリング、トーンの分析などが含まれます。AIをここに導入することで、顧客体験の分析やレポーティングをより効率的に実行することができます。

テキスト分析:

メールやチャット、ソーシャルメディアなど、テキストベースの顧客接点でお客さまと対話する企業にとっては、この分析法は必須技術です。

パフォーマンス分析:

この方法においては、KPIパフォーマンスのリアルタイム・過去の記録を参照できるダッシュボードが使用されます。ここでは、KPIや指標を表示するデータレポートが提供され、オペレーターやSVのパフォーマンス監視、また改善に貢献します。

オムニチャネル分析:

同じ問い合わせや問題を解決するため、複数の顧客接点(チャネル)を利用しているお客さまを評価するのに使用される方法です。2つ以上の顧客接点を使用している場合、チャネル間のシームレスな体験や、より良いカスタマージャーニーを実現させるために不可欠です。

2. オムニチャネルインテグレーション

すべてのチャネルで、シームレスな顧客対応や対話、どのチャネルでも同レベルで顧客体験を実現できることがオムニチャネルであると定義するとしましょう。すると、問い合わせてくるお客さまはチャネルを乗り換えるたびに最初から対話をスタートさせる必要がないため、チャネルをまたいだシームレスな体験ができます。

この部分がシームレスでないと、顧客満足度は極端に下がってしまいます。チャネルをまたいだ瞬間、お客さまは最初から問い合わせをやり直さなければいけなくなるからです。たとえば、同じ問い合わせや問題を解決するために、2つ以上のチャネルを使用した場合、単一のチャネルを体験している顧客と比較して、顧客満足度は61%低下するという調査もあります。

お客さまが複数のチャネルを望む場合、シームレスなオムニチャネル体験でないといけません。でないと、顧客満足度は著しく低下します。

2つ以上のチャネルを利用した顧客満足度が低い場合、特定のチャネルでの体験低下要素が関連している可能性が非常に高いと言えます。したがって、オムニチャネル体験のあるべき姿=シームレスな体験を実現できる技術が必須となります。

参考情報:オムニチャネル対応クラウドコンタクトセンターシステム「Bright Pattern

3. セルフサービス

顧客接点やチャネルが1つしかない場合に、顧客満足度が高くなる傾向があることがわかっています。その理由は、2つ以上のチャネルを利用した場合の労力に比べて、単一チャネルを利用する際の労力は少なくて済むからです。

多くの顧客が、マルチチャネルを通じた問題解決に必要な労力が「高かった」と感じているという調査もあります。

また最近の顧客の傾向として、企業組織の誰もが責任を持って問題解決に取り組んでくれないと感じている人々も多く、自らが問題解決の責任を負わなければならないと感じているようです。セルフサービスのチャネルや顧客接点を充実化させるのは、今後の課題となるのではないでしょうか。

4. AI

説明の必要はないかもしれませんが、AIというエリアについても一言。AIの登場により、サービスの自動化+パーソナライズが実現でき、業務のあり方や顧客との対話に劇的な変化が起きています。AIは人間の話す言語を認識し、人間にとって自然に理解できる言葉で返答することができるため、会話形AIは、最初に顧客が企業にコンタクトする部分に導入されます。

たとえば近年、AIをベースとした自然な会話ができるチャットボットやバーチャルオペレーターが多くのコンタクトセンターで起用されています。ChatGPTに代表される生成型AIの登場により、人間と自然に会話できるチャットボットの開発に拍車がかかっており、より高機能なチャットボットの導入が進むと思われます。またAIは、顧客満足度やコーチングの改善に必要となる感情分析にも大いに力を発揮します。

ここまでで、カバーしておきたい4つのエリアを見てきました。簡単に各項目をまとめておきましょう。

アナリティクスおよびレポーティングでは、顧客対応データとオペレーターのパフォーマンスデータを収集し分析することが重要です。このデータの収集と分析によって、コンタクトセンター全体のパフォーマンス評価や改善のためのインサイトが得られます。

オムニチャネルインテグレーションでは、顧客が複数のチャネルを使ってコンタクトセンターと対話する際に、シームレスな体験を提供することが目標です。顧客がチャネルを切り替えても対話を継続できるため、顧客満足度が向上します。

セルフサービスは、顧客が自分自身で問題を解決できるようにするためのテクノロジーです。IVRやウェブサイト上でのセルフサービス、チャットボットなどが含まれます。顧客が自分の時間に合わせて情報を取得したり問題を解決したりできるため、効率性と顧客満足度の向上に寄与します。

そしてAIは、音声分析やテキスト分析などの方法を通じて顧客体験の向上に役立ちます。AIを活用することで、リアルタイムの通話監視や顧客感情のモニタリング、トーン分析などが可能になります。

最後に

今回の記事では、コンタクトセンター技術の最新トレンドとしてカバーしたいエリア4つとして、アナリティクスおよびレポーティング、オムニチャネルインテグレーション、セルフサービス、そしてAIの4つのエリアに注目しました。

とは言え、新しい技術が登場するたび、驚かされたり戸惑ったりしてしまうのが我々人間の悲しい性というもの。

たとえば今回見てきた4つのエリアに共通する技術として、人工知能がすぐ浮かびますが、「AI」とか「人工知能」って聞くと、ちょっと胸がザワついちゃったりしませんか?特にコンタクトセンターのオペレーターやスーパーバイザーであれば、仕事がなくなるのではないか、置き換えられてしまうのではないかと考えてしまうかもしれません。

野村総研の発表によると、日本の労働人口の約49%が、人工知能やロボット技術の発達に伴って、そうした技術と代替可能になるとのこと。この「置換率」については多くの人が懐疑的に見てはいますが、AI技術は着々と進化を遂げています。

自分が翻訳するよりも、自分が書く文章よりも、自分が思いつくアイディアよりも良いと思えるものを、AIはポンポンと出力し続けます。まさに愚直。「Regenerate(再生成)」ボタンが押され、ひたすらアイディア出しをさせられても、愚直に出力を続けることができるのがAI。

一方で我々人間はどうでしょうか。感情や気分にムラがあるため、どうしたっていろんなところに影響が出てきます。「1週間前に頼んでおいたアレ、どうなってる?」「えっと、一応目は通しましたが、形にするにはもう少し時間がかかりますね…」「明日の会議で使うんだけど」「え、聞いてません」「いや言ったよ」「言われてません」斯々然々。

AIやロボットはそんな事言いません。ただひたすら、言われたことをやり続けます。

このあいだ入ったファミレスでは、人間のウェイターではなく配膳ロボットがテキパキと料理を運んでいました。店長にちょっと話しかけると、ロボットが導入されてからクレームが少なくなったのと、ロボットはどんなお客さんでも料理を運んでくれるので仲間として最高なんです、と語っていました。その言葉に、新しい技術との良い付き合い方のヒントが隠されているような気がします。

つまり、新しい技術を導入すると、振り回されることはあるかもしれません。しかし、トレーニングを経て最新技術を使う側に回ることで、より「楽になれる」のです。もちろんそれは、「課題を洗い出し、そのニーズに合った技術を選定して導入し、適切なトレーニングを経てから」使う側に回った場合ではありますが。

企業も同様に、新しい技術を採用し、トレーニングを受けて使う側に回ることで、顧客サービスの向上やオペレーターの離職率の抑制、運用コストの削減など、さまざまな利益を得ることができるはずです。また、新たに生まれた業務ニーズに対応するために、適切に人材を配置することで、持続的な成長を続けることができるでしょう。

コールセンターの比較の仕方