国内の民間病院、診療所、歯科医院の経営陣は、患者への十分なケアと収支の改善といった課題に取り組んでいます。

しかし「患者を手厚くサポートしたいが医療従事者が足りない」「外来が減っているので訪問診療を増やしたいが人手不足が深刻」といった問題があります。当の医療従事者たちは「雑務が多すぎて患者をサポートする時間が足りない」とも感じています。

AIによってどのように課題を解決できるでしょうか。今回は米国デジタルヘルスケアの最新トレンド5つと、病院経営に役立つAI活用法を解説します。最後に、最先端の対話型AIデジタルヒューマンを紹介しますのでご覧ください。

【2021年】海外デジタルヘルスケアのトレンド5つ

2020年末にCOVID-19のワクチンが登場しました。引き続き2021年のヘルスケア業界はCOVID-19の影響を受け続けるでしょう。
ここではデジタルヘルスケアという分野に絞って、米国のトレンドがどうなっているのか解説します。

AI導入による節約効果

アクセンチュア社の調査によると、ヘルスケアのAIシステムは、2026年までに米国だけで年間1,500億ドルの「節約」効果があると予想されています。そのため今後5年以内に世界のヘルスケア業界におけるAIのニーズは増加し、AI産業は340億ドル以上の規模になると考えられているのです。

ヘルスケアに関連するAIシステムの進歩は目覚ましいものがあります。たとえばCOVID-19への取り組みにAIが活用されています。科学者たちは、無症状の患者であっても、咳の音を録音しただけで病気を診断できるようなアルゴリズムの開発に取り組んでいるのです。

ほかにもロボット支援手術、バーチャル看護師、管理者のワークフロー支援、不正行為の検出、投薬ミスの削減へAIが活用されています。メンタルヘルスケア分野へも対話型AIが導入されています。

医療従事者の業務量を削減し、仕事の正確性を向上させ、患者のケアに役立つAIへの投資はこれからも加速していくでしょう。

医療機関向けチャットボットの導入が増加

米国ではロックダウン時に多くの医療機関がチャットボットを導入しました。COVID-19に関する情報を提供するCDCのウェブサイトでは、Microsoft Healthcare社のチャットボットが導入されており、ユーザーが苦しんでいる症状について尋ねることができるようになっています。

しかしヘルスケアにおいてチャットボットは必ずしも患者のニーズを満たすわけではありません。人間は他者からの気配り、配慮、共感を必要とするからです。文字だけのやり取りになるチャットボットでは、人間味のある対話をすることに限界があります。

UneeQ社の世論調査では、42%の企業がチャットボットに人間味を与えたいと考えていることがわかりました。今後デジタルヒューマンのようなAIアバターを活用したチャットボットが採用されていくでしょう。

医療従事者の燃え尽き症候群がクローズアップ

パンデミックにより、医療従事者の燃え尽き症候群が世界的に急増しています。燃え尽き症候群とは、単なる過労ではなく、長い休みを取っても解消できないほどの過労のことです。

燃え尽き症候群を研究するMentemia社によると、「バーンアウト(燃え尽き症候群)はすぐに治る一時的な病気ではなく、慢性的な病気に似ている」とのことです。

2020年に行われた調査では、米国の医師43%、麻酔科医54%が燃え尽き症候群に苦しんでいると報告されています。2013年の調査では26%の医師が燃え尽き症候群だと回答していますから、パンデミック後に急増していることがわかります。

病院の経営陣は医療従事者の燃え尽き症候群を早急に解決しなければなりません。

なぜなら燃え尽き症候群になった医師たちは仕事をやめてしまうからです。
2013年の調査では、28%が燃え尽きた結果、2年以内に仕事を辞めるつもりだと答えました。その2年後には、その約半数(13%)が実際に退職しています。

米国の医療業界では、患者の需要に対応するため2026年までに1,160万人の臨床医を確保しなければなりません。医師の退職が続けば人材確保のために多大のコストと時間が奪われます。

医療従事者の燃え尽き症候群に対応するためAIの活用が始まっています。患者へ食事のアドバイスをしたり薬の効能を説明したりするAIアシスタント、AIチャットボット、対話型AIデジタルヒューマンが注目されているのです。

国内でもAIの役割について同じ認識が持たれています。

「看護の世界でもAIやロボットが活躍するに違いない。精神面をケアするのは人間が主となろうが、見守りにはAIが使える。また、意思表示の困難な患者とのコミュニケーション支援もAIでできる。」

AI白書 2019

オンライン診療の拡大

パンデミックが始まり爆発的に普及した技術といえば、ビデオ会議です。ヘルスケア業界においても同じです。
2020年の第一四半期には、ビデオ会議システムを使ったオンライン診療の利用者が前年より50%も増加しました。今後もこの傾向は続くでしょう。

パンデミック中に約1650万人の米国市民が初めてオンライン診療を利用しました。この中に含まれているのはリスクの低い患者だけではありません。69%が慢性疾患や複合慢性疾患を抱える患者です。
しかし88%が「もう一度利用したい」と回答しています。オンライン診療の何が評価されているのでしょうか。実際にオンライン診療を利用した人のうち94%が「オンライン診療の便利さ、手軽さに満足した」とコメントしています。

オンライン診療を評価しているのは患者だけではありません。医師たちもこのシステムを気に入っています。4人のうち3人の医師が「状況さえ整えばオンライン診療を拡大していきたい」と考えているのです。

メンタルヘルステックへの注目が高まる

ロックダウン、ソーシャルディスタンス、リモートワークがメンタルヘルスに悪影響を与えることが明らかになってきています。そのため多くの企業が従業員のメンタルヘルスケアに力を入れはじめているようです。

PwC社とコンサルティング契約をしている企業のうち62%が従業員へ2020年に新たな健康特典を与え、8%がメンタルヘルスやストレスケアのために特典を与えました。

AIを使ったメンタルヘルステックの注目も高まっています。たとえばAIを採用した健康アプリが人気です。食事、歩数、体重、睡眠などを記録し、改善点などをAIが提案してくれるアプリが急速に普及しています。

さらに対話型AIデジタルヒューマンの活用も始まっています。この点については次の項目で詳しく解説します。

メンタルヘルスにおける対話型AIの可能性

メンタルヘルスに悪影響を及ぼす原因のひとつは孤独です。孤独を感じているのはテレワークをする在宅ワーカーだけでなく、高齢者も含まれます
米国では高齢者の約28%が一人暮らしをしています。週に一回ほど介護職員から家庭訪問を受けたり電話を受けたりしていますが、孤独を感じることに変わりはありません。

孤独を解消するために医療機関が患者との接点を増やせればよいですが、人材不足のために思うようなケアができないのが現状です。そこで対話型AIが注目されています。
現在、対話型AIの技術は進歩しており、SiriやAlexaで実証されているように、ある程度自然な会話ができます。デジタルヒューマンなどの対話型AIを「セラピスト」として活用する事例が増えているのです。
メンタルヘルスケアに対話型AIを導入するメリットについて見てみましょう。

対話型AIセラピストのメリット1. アクセシビリティ

孤独対策に対話型AIデジタルヒューマンを活用するメリットは、必要としているときにいつでも利用できるアクセシビリティの高さです。

たとえば孤独を感じる深夜に、友人や家族、また介護士はすぐ話し相手になれるわけではありません。しかし対話型AIであればすぐに対応できます。しかもデジタルヒューマンは人間的な表情を示せるのでテクノロジーが苦手な高齢者でも話しかけやすくなっています。

デジタルヒューマンが70以上の言語に対応していることもアクセシビリティの高さに寄与しています。CDCによると、移民は孤独を感じやすい傾向にあります。対話型AIデジタルヒューマンであれば言語の壁がないので気軽に話しかけられます。

対話型AIセラピストのメリット2. 信頼関係

意外に思われるかもしれませんが、人間のセラピストよりAIのセラピストのほうが信頼関係を築きやすいケースがあります。それは第三者に知られたくない理由で孤独を感じているケースです。

南カリフォルニア大学(USC)の研究によると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ兵士は、バーチャルセラピストに症状を打ち明ける可能性が非常に高いことがわかりました。研究に参加した退役軍人は、バーチャルセラピスト「エリー」に心理的安全を感じ、多くの会話を交わしました。結果として、いくつものPTSDの兆候を発見できました。

AIによるセラピーを受ける人は、デジタルヒューマンが自分を裁かないこと、自分の味方であるとの意識を強く持つことが研究で証明されています。

対話型AIセラピストのメリット3. 汎用性

対話型AIの汎用性の高さもメリットです。デジタルヒューマンなどの対話型AIはメンタルヘルスケアにおいて次の用途で活用できます。

  • ユーザーとの雑談
  • イベントへの勧誘
  • 医学的なアドバイス

ユーザーとただ会話をするために活用できます。地域や施設のイベントへの勧誘にも有効です。
食事、運動、投薬、睡眠などの医学的アドバイスを与えるためにも対話型AIは役立ちます。

【国内】病院の経営陣がAI導入に取り組むべき理由 

国内における民間医療法人の経営は厳しい状態です。
2020年10月に発表された日本銀行金融機構局のレポート「医療機関経営を巡る環境変化」では、病院の経営について次のように分析されています。

「医療機関のうち民間医療機関についてみると、約2~3割程度が
赤字経営と言われている。」

福祉医療機構「2018年度医療法人の経営状況について」(2020年1月10日)

人材不足も深刻です。2010年のデータとなりますが、欧米と比較した100病床あたりの医師病院従事者数は以下のとおりです。

本記事作成(参考「SPEEDA、”4割が赤字、病院経営の実態と対策”」)

日本は欧米と比べて患者に対する医療従事者の数が極端に少ないことがわかります。国内の病院経営の加太に取り組むために何が役立つでしょうか。

「赤字経営の改善」「人材不足の解消」「患者への手厚いケア」、これらの課題を解消するために米国ではAIを活用しています。

米国の事例をみながら、国内の病院がAI導入に取り組むべき3つの理由を検証しましょう。

AIが患者のニーズを満たす

米国Optum Research社の「2020年AI調査」によると、医療機関の経営陣55%がAIへの投資は患者のためだと答えています。AIが患者の治療体験を向上させること、健康を向上させることを目指しているのです。

国内でも介護の分野においてAIの活用が進んでいます。AI白書2019からいくつか国内事例を紹介します。
「エイアイビューライフ」はAI搭載の介護ロボットを開発しています。学習検知型アルゴリズムを用いて、徘徊、排泄を予測し通知するシステムです。
「芙蓉ディベロップメント株式会社」は、高齢者の体温、脈拍、血圧をAIが解析し、異常値を検知するサービスを発売しています。
「ワイズマン」は高齢者のおむつ利用を最適化するAIを提供します。適切な吸収量やサイズのおむつをAIが提案することで交換回数を減らす取り組みです。

コスト削減になる

経営が厳しい病院がAIを導入するには、システムが手頃な価格でなければなりません。米国の医療機関経営者57%は、AIへの投資による節約効果で、導入から2年の間に投資分を回収できると計算しています。

アクセンチュア社の分析もその予測を支持しています。さまざまなヘルスケアAI技術のトップ10だけを見ても、2026年までに年間約1,500億ドルの節約効果があると予測しているのです。

節約効果が最も高いのは、AIを活用したロボット支援手術(400億ドル)、バーチャル看護師(200億ドル)、業務効率改善(180億ドル)です。

医療従事者の雇用創出につながる

「AIを導入したら医療従事者の雇用が減る」と多くの人は心配します。しかし病院の経営陣56%は、AIは医療従事者の雇用を創出すると認識しています。
すでにAIを導入してメリットを実感している経営陣の76%も、AIが雇用創出につながると答えています。

なぜAIの導入が雇用創出につながるのでしょうか。AIが単純作業から医療従事者を開放するからです。
たとえば対話型AIデジタルヒューマンは、シンプルな会話タスクから医療従事者を開放します。看護師がより重要な患者に集中するための時間とエネルギーを確保できるようサポートします。

AIが事務作業を効率的に行なうことで、雑務から看護師たちを開放します。

医療従事者の43%が燃え尽き症候群に苦しんでいる中、AIは労働環境を改善するソリューションとなります。過酷な労働ゆえに医師や看護師が退職するのを止め、新たな人材確保を容易にしてくれます。

最後に

病院の経営陣が考えるのは、「健全な経営」と「患者への手厚いケア」を両立させることです。
AIを活用することで限られた数の医療従事者を、よりケアが必要な患者へ割り振ることができます。業務が効率化されるので、人材確保にコストをかけなくても、日々の雑務と患者のサポートの両方を行っていける体制を作れます。

「外来が減っているので訪問診療をしたいが人手が足りない」という課題には、AIで現在の人材リソースを有効活用すること、オンライン診療の技術を組み合わせることで解消していけるでしょう。
今回は米国の事例を中心に紹介しましたが、医療機関におけるAIの導入は世界中で進められています。AIを上手に活用することによって患者の命だけでなく、健康の心配も減らしていきましょう。

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