ベテランオペレータの鈴木さん。今日も複雑なクレーム対応に追われています。そのお客さまはサイト上で何度も手続きを試みたもののことごとく失敗してしまうため、電話で連絡してこられました。電話なのでお互いどの画面のどのフィールドなのか、手続きのどの部分にボトルネックが発生しているのか分かりづらく、サポートが進みません。10年前だったらここで「詰み」でした。でももしAIアシスタントが「お客さまは**の画面で操作に詰まっているようです」と、行動履歴を表示してアシストしてくれれば、解決に大きく前進します。

こうした情景はすでに実現しつつあり、未来の話ではありません。顧客の要求は高度化の一途をたどり、人材不足は深刻化するばかりです。そして多くの企業が解決策としてAIに着目する中で、期待した成果が出ていないという声も少なくありません。なぜなら、AIは単なるコストカットツールではないからです。それどころか、CXを改善してより顧客満足度を向上させ、スムーズなコミュニケーションを実現させる大きな可能性があるテクノロジーです。

本記事では、AIの圧倒的な情報処理能力と、人間にしかできない温かみのある対応を掛け合わせることで生まれる「パーソナライゼーション」というシナジー効果を実現する方法を、具体的なシナリオ・実践ステップとともにご紹介します。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

この記事が解決するお悩み

「画一的な対応では顧客満足度が上がらず、差別化できない…」

「お客さま一人ひとりに合わせようとすると、オペレータが疲弊してしまう…」

「AIでパーソナライズしたいが、逆に人間味のない対応にならないか不安だ…」

 

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なぜ今、パーソナライゼーションが生命線なのか

かつて消費者は、「モノ」を求めていましたが、今は異なります。商品やサービスを通じて得られる自分だけの「コト」、つまり「体験」に価値を見いだす時代になっています。コロナ禍でより一層この方向性が加速しました。そしてこの大きな変化こそ、パーソナライゼーションが企業の生き残る道となった最大の理由と言えます。とくに海外ではその流れが顕著になっています。少しデータを紐解いてみましょう。

顧客の期待は高まり続けており、留まるところを知らない

顧客は自分を理解してほしいと思っています。自分事として捉えたいのです。したがって、自分を一個人としてきちんとした対応を実施してくれるブランドと感情的なつながりを求めています。

マッキンゼーの調査によると、実に消費者の71%が企業に対してパーソナライズされた対応を期待しており、その期待が満たされない場合、76%もの人々が不満を感じるとのこと。

収益に直結する最重要戦略となっている

パーソナライゼーションはコストではなく、企業の収益に直結する投資とみなされるようになっています。

Forresterによれば、消費者の77%は、パーソナライゼーションを取り入れている企業やブランドを積極的に選ぶ傾向にあり、他者に勧め、より多く出費する意思があるということがわかっています。また、AIを活用したレコメンドエンジン市場は2025年までに120億ドルに達すると予測されていますし、パーソナライゼーションソフトウェア市場も2027年までに27億ドルに達すると見込まれています。

効率性を最大化するデータ活用につながる

パーソナライズを取り込んだ顧客対応は、コンタクトセンターでの応対品質向上のみならず、マーケティングや営業活動における効率性を劇的に改善します。

たとえば、件名をパーソナライズしたメールは、そうでないものと比較して開封率が26%も高く、セグメント化されたキャンペーンだけでメール経由の収益が760%増加したというデータもあります。

こうした背景により、あらゆる顧客接点、とくに本音のコミュニケーションが発生するコンタクトセンターにおいて、いかにパーソナライズされた体験を提供できるかというのは、企業の競争優位性を決定づける上で非常に大きな要因となっています。

パーソナライゼーションはオペレータを疲弊させる?

確かに、今の時代においてパーソナライゼーションに対応することは必須だと言えるでしょう。しかしながら、これを従来の方法、つまりオペレータだけに頼って実現しようとすると、人材不足という問題と相まって、必ず壁にぶつかります。なぜなら、本当のパーソナライゼーションの実現には、人間の能力を超越する2つの要素が必要だからです。

情報処理能力

顧客一人ひとりの過去の購入履歴サイト閲覧行動過去の問い合わせ内容などの膨大な情報を、通話開始から数秒以内に思い出して、理解し、最適な対応を判断する必要があります。これを記憶力と手動検索だけで行うのはもはや不可能です。

精神的キャパシティー

複雑化する問い合わせや「当たりの強い客・クレーム客」に対応すべく常に冷静さと共感性を維持し続けるのは、大きな感情労働です。どんなベテランでも、一日に何十件も繰り返せば、心身ともに疲弊してしまいます。

この2要素を、人海戦術でなんとかしようとしてもすぐに限界に達します。やればやるほど現場が疲弊するというジレンマに陥ってしまうのです。

「AI✗人間オペレータ」でジレンマを解消する!

このジレンマを解消する強力なサポーターが、AIテクノロジーです。でもここに、人間が組み合わさるとより大きなシナジー効果を発揮できます。AIと人間の強みを組み合わせたハイブリッド型の協業モデルにより、お互いの弱点を補い、能力を高め合う新たなチームの形が生まれます。

AIが担う役割:人間の「脳」と「記憶」の拡張
人間の苦手な大量の情報処理を一手に引き受けます。膨大な顧客データを瞬時に解析して、オペレータが必要とする情報を必要なタイミングで要約して提示します。反復的な事務作業も自動化して、人間を煩わしさから開放します。

人間が担う役割:AIにはない直感や心による価値創造
AIが整理した情報を活用して、人間にしかできない「共感」「クリエイティブな提案」「信頼関係の構築」に集中します。AIというアシスタントのサポートを受けることで、心に余裕が生まれ、質の高い顧客対応が可能となります。

そしてこのモデルを現場に落とし込むと、AIはオペレータを監視するのではなく、隣でサポートするいわば副操縦士のような存在になります。

操縦士であるオペレータが顧客との対話という最も重要な業務に集中できるよう、副操縦士のAIは以下のような支援をリアルタイムで実施します。

  • 状況把握のサポート

着信と同時にその顧客の履歴を要約して表示、「***の件で3日前にもお電話いただいています」のような情報を即座に把握可能。

  • 最適なルートの提案

会話の内容を分析して、「Bプランを提案するのが最適」「この質問に最適なのはこのFAQ」などの形で、次の最適なアクションを提案。

  • レポート業務の自動化

通話内容の要約や応対履歴の入力を自動化。オペレータは面倒な後処理業務から解放。次の顧客対応にスムーズに移動。

このように、AIが副操縦士として支援を行うことで初めて、オペレータは疲弊することなく、むしろ自身の能力が拡張されたような感覚で、高度なパーソナライゼーションを結果的に実現できるようになるのです。

AIパーソナライゼーションの3つのシナリオ

AIがオペレータの副操縦士として機能すると、顧客体験が劇的に変化します。これまで、理想に過ぎなかった応対が現実のものになります。以下で、代表的な3つのシナリオをご紹介します。

1. プロアクティブな(先回り)体験

ビフォー:顧客はウェブサイトで幾度も迷った挙げ句、諦めてコンタクトセンターに電話するしかなかった。

アフター:AIが「お客さまが料金ページで5分以上滞在しています」とオペレータにアラート。オペレータは「料金プランでお困りですか?」と最適なタイミングで声掛け。問題が深刻化する前に、先回りして解決。

2. シームレスな(途切れない)体験

ビフォー:チャットで長いやり取りをした後に電話に切り替えると「ご用件を最初からお伺いします」と言われ、しかも本人確認で同じような質問を何度もされ、顧客はうんざり。

アフター:AIがチャットの内容を瞬時に要約してオペレータに表示。オペレータは「チャットでお話いただいた件ですね」と即座に会話を引き継ぐ。声紋認識により、本人確認も数秒で完了。顧客は安心感を抱き、より本質的な相談をし、オペレータは人間オペレータとして本領を発揮する。

3. 共感的な体験

ビフォー:経験の浅いオペレータが、マニュアル通りの案内しかできず、感情的になった顧客の怒りを増幅。

アフター:AIが顧客のトーンから強い不満を検知して、「まずはお詫びと共感の言葉を伝えましょう」とアシスト。オペレータは落ち着いて対応。カスハラに対してもメンタルを削るような対応を強いることなく、オペレータを的確にサポート。

パーソナライゼーションを実現するロードマップ

こんなシナリオはもう実現されつつあります。しかしどこから手を付ければ良いのか迷ってしまうかもしれません。以下のステップが実践的です。

顧客が求めてくる価値を理解し、データ戦略を立てる

顧客が本当に価値を感じることは何か?を理解する:
パーソナライゼーションは、様々な形を取ります。最初に「自社の顧客が最も価値を感じるパーソナライゼーションは何か」を深く理解することから始めます。過去の履歴を完全に把握したうえでのスムーズな対応でしょうか?それとも、個々のニーズに合わせた的確なオファーや働きかけでしょうか?この顧客視点の目標設定がブレない軸となります。

継続的なデータ戦略を構築する:
そしてその目標を実現するために不可欠となるデータ基盤を整備します。データはAI活用のライフラインです。意味のあるパーソナライゼーションを生み出すインサイトの源泉です。顧客データが、ウェブ、電話、チャットといったチャネルや、サポート、マーケティングといった部門を超えて、リアルタイムでシームレスに連携する「継続的なデータ戦略」を構築しましょう。

AIでオペレータ体験を向上させる

副操縦士でオペレータを支援する:
AIを活用して、オペレータ体験を向上させることが大切です。オペレータに副操縦士となるAIツールやソリューションを提供して能力を拡張します。

具体的なアシストを提供する:
通話中に必要な情報を瞬時に提示する、あるいは過去の最も成功した応対をAIが学習してすべての応対品質を向上させるためのヒントをリアルタイムで提供します。オペレータが成功体験を積むことが、結果として最高のパーソナライゼーションへとつながります。

スモールスタートで効果を測定し、小さな成功体験を基に拡張する

PoCで効果を可視化する:
一斉導入ではなく、特定のチームで実証実験を行うのが望ましいです。応対時間の短縮率や顧客満足度スコアの変化といった指標で効果を測定して、費用対効果を明確にします。

成功を基に段階的に展開:
この小さな成功事例と、現場から得られたフィードバックを基に、機能や適用範囲を段階的に拡張していきます。これが失敗のリスクを最小限に抑えて着実に変革していく鍵です。

▶パーソナライゼーションを実現するAIコンタクトセンターシステム「Bright Pattern」

最後に

本記事では、現代のビジネスにおいてパーソナライゼーションがなぜ不可欠なのか、そしてそれを実現するために人間だけで奮闘することの限界と、その限界を突破する「AI✗人間」の協業モデルについて解説してきました。

AIは、人間の仕事を奪う機械ではありません。むしろ、人間を面倒で退屈な作業から解放し、人間にしかできない、より人間らしい仕事に集中させてくれるパートナーです。

高度なAIが可能にする「ハイパー・パーソナライゼーション」を提供する企業が、これからの時代に求められています。AIという「副操縦士」と共に、お客さま一人ひとりをファンに変える、新しい時代の顧客体験を、今日から実現していきませんか。