スマホやPCでインターネットを利用していると、こんな経験をしたことはありませんか?

ちょっと前に検索していた内容に酷似した広告が表示される。一度購入したことのある商品に関連して、「あなたへのおすすめ商品」として別の関連商品がサジェストされる。これまで視聴した映画や楽曲に似たもの、同年代のコンテンツが表示される。「いいね」した投稿やフォローしたユーザーと関連の高いコンテンツやおすすめユーザーがフィードに表示される。過去に読んだニュース記事と関連するニュースが表示される。

そう、顧客一人ひとりに合わせた「パーソナライズ」または「パーソナライゼーション」という仕組みです。この仕組みは、ECサイトのレコメンド機能や、ニュースサイトの興味ある記事、音楽・映画ストリーミングサービスのサジェスト、モバイルアプリの通知やオンライン広告など、もう今では顧客体験向上の戦略として、当たり前の存在として認知されていると言っても過言ではありません。

たとえば旅行業界では、旅行プランのキュレーションやオーダーメイドプランに対する需要が高まっており、ユニークでパーソナライズされた体験の提供が欠かせません。Future Market Insights のリサーチによると、旅行市場におけるカスタマイズ需要は急速に成長しており、2022年から2032年までの予測範囲内における年平均成長率は17.8%で増加すると見られています。旅行業という切り口におけるカスタマイズとパーソナライゼーションの世界市場は、2032年までに6億2071万ドルに達するとも予測されているのです。

ところがそこへきて今、そのパーソナライゼーションに、大きな変化が生じています。「ハイパーパーソナライゼーション」というキーワードを耳にしたことはおありでしょうか?

AI技術の台頭が著しい昨今、顧客と企業の間のコミュニケーションはますます多様化しています。そのうえ、スピーディーでスムーズ、そしてシームレスなコミュニケーションが強く求められるようになってきました。こうした中で、「従来のパーソナライゼーションでは足りない」という状況が生まれています。

顧客は、「より自分の好みに即したパーソナライゼーション」を求めるようになっており、企業は「リアルタイム」で最適な対応をしなければ、競合からの差別化を図ることが難しくなっています。

今回はこの新たなキーワードに注目して、AI時代にふさわしい新常識として、いかにこの「ハイパーパーソナライゼーション」が顧客対応を再定義し得るのかを見ていきます。基本的な概念から、それを支える技術、顧客接点にもたらすベネフィットや事例、導入に向けた戦略など、2つの記事で幅広く解説していきます。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

この記事が解決するお悩み

最近耳にする「ハイパーパーソナライゼーション」について押さえておきたい

ハイパーパーソナライゼーションについて聞かれても、一言で説明できない

顧客体験を向上させるソリューションについて、一つでも多く知っておきたい

 

イベントカレンダー

 

ハイパーパーソナライゼーションとは?

ハイパーパーソナライゼーションとは一体何なのでしょうか?一言で言い表すとしたら、「超個別最適化」と言えるかもしれません。

ここで基本的にコアとなるのは、「リアルタイム性」と「高度なカスタマイズ」です。

従来のパーソナライゼーションは、限られた情報に基づいて顧客を大まかにカテゴライズしていました。たとえば、顧客の年齢や過去の購入履歴、興味関心といった基本情報をもとにしてメールや広告がカスタマイズされていました。しかしこの方法では、あくまで「過去のデータに基づいた対応」にとどまってしまい、リアルタイムでの変化に対応することができません。

一方でハイパーパーソナライゼーションでは、各顧客の年齢や性別などの基本情報に加え、閲覧履歴やウェブ上での行動データ、購買履歴、興味関心、ライフスタイルに関する好み、そして何よりもリアルタイムデータを活用し、顧客が今この瞬間に求めているものを的確に提供することが可能になっています。たとえば、

  • 顧客の問い合わせ履歴やウェブサイト上の行動を即時に解析し、最適な回答をサジェスト
  • チャットボットが顧客の感情を分析し、適切な対応を自動選択
  • CRMと連携して、過去の履歴をもとに営業が提案すべき最適なアクションをサジェスト

こうした対応が可能になってきます。

「パーソナライゼーション」と「ハイパーパーソナライゼーション」の違い

「違いがいまいちよくわからない」と思われる方も多いかもしれません。そこで、両者の違いを比較表にしてみました。

 パーソナライゼーションハイパーパーソナライゼーション
定義過去の顧客データをもとに、個別に最適化された体験を提供する過去データに加え、リアルタイムデータを活用して、その瞬間ごとに最適な体験を提供する
データ活用過去の購買履歴や基本的な趣味嗜好データを活用リアルタイムデータ(位置情報、時間帯、天候、直近の行動など)を組み合わせる
カスタマイズレベルユーザーをセグメント化して、類似した行動をするグループ単位でパーソナライズ個々の状況に応じて、完全に個別化された体験を提供
活用技術基本的なアルゴリズムやルールベースのセグメンテーションAI、機械学習、予測分析を活用して、顧客のニーズをリアルタイムで予測
エンゲージメントレベル顧客の過去データを活用しているため、リアルタイムの変化には対応しづらく、やや機械的に感じる向きもリアルタイムでの行動や状況に対応できるため、顧客対応が自然で対話的に感じられる
具体例過去の宿泊履歴をもとに、次回の宿泊割引をメールで送付過去の購買履歴に基づいて、商品をサイト上でレコメンド旅行先にいる顧客に対し、現在の滞在エリアのイベント情報や割引をリアルタイムでオファー訪問者の現在の閲覧履歴や天候、トレンドを分析し、今必要な商品をサジェストする
顧客への影響一定の効果はあるが、完全に個別化されているとは感じにくい「自分に特化した対応を受けている」と実感できるため、満足度・ロイヤルティが向上
  • パーソナライゼーションは過去データを活用し、グループ単位で最適化された体験を提供
  • ハイパーパーソナライゼーションは、リアルタイムデータやAIを活用することで、個々の顧客にその時その時で最適な体験を提供

カスタマーサポートという切り口で「従来のパーソナライゼーション」と「ハイパーパーソナライゼーション」見た場合、以下のような違いが生まれます。

従来のパーソナライゼーション

「こないだ買ったロボット掃除機、ルート作成でいつも失敗する箇所があるんだよな、初期不良かな?」一週間前にカスタマーサポートに問い合わせました。再度連絡すると、サポート担当者は過去の問い合わせ履歴を見ながら対応してくれます。しかしそれ以上の情報が提供されることはなく、「前回対応を踏まえて対応する」ことにとどまります。

  • 過去データを活用した対応
  • 現在の状況や新しいニーズの変化は考慮・反映されない

ハイパーパーソナライゼーション

問い合わせをする前の顧客の行動データが活用されます。

  • 「FAQをどれくらい閲覧したのか」
  • 「どの商品を検討しているのか」
  • 「過去の購買履歴やチャット履歴」

などがリアルタイムで分析されます。そしてサポートチャットを開くと、「以前***についてお調べ頂いたようです。解決済みですか?」や「最近閲覧された商品に関するFAQはこちらです」と、顧客のニーズに基づきリアルタイムで「先回り対応」をしてくれます。

  • 問い合わせ前の行動データを活用して、適切なサポートを事前に準備
  • リアルタイムに状況を分析して、解決をよりスムーズに
  • 先回りして「気の利いた対応」を提供

パーソナライゼーションでは「おすすめしてくれるんだ」程度の体験が、ハイパーパーソナライゼーションでは「そうそう、これが必要だった、わかってるじゃん!」という、より高度で直感的な体験が生み出されます。単なる過去データの活用ではなく、リアルタイムのデータを組み合わせることで「超個別最適化」が実現していきます。

ではこのハイパーパーソナライゼーションを支えているのは、どんな技術なのでしょうか。

ハイパーパーソナライゼーションを支える6つのテクノロジー

ハイパーパーソナライゼーションによって、顧客一人ひとりのニーズや趣味嗜好に合わせた体験を企業は総合的にプロデュースしていけます。その実現には、複数の先進的なテクノロジーが密接に連携しています。データ収集から解析、そしてコンテンツ生成まで一貫して超個別最適化というアプローチをサポートしているのです。

ここでは、ハイパーパーソナライゼーションを支える重要度の高い6つの技術を中心に解説していきます。

1. ビッグデータ技術・リアルタイムデータ分析

膨大なデータを効率よく収集し、保存、分析するための基盤として必須になる技術です。ビッグデータは、顧客のニーズや傾向について深いインサイト得るためのいわば「原材料」となり、より正確で的確なパーソナライゼーションを可能にしてくれます。ウェブサイトを訪問したときの顧客の行動を分析することで、適切なコンテンツや商品の提案をしていくことにつながっていきます。

2. 顧客データプラットフォーム(CDP)

各チャネル(WEB、店舗、SNSなど)から収集した顧客情報を一元的に管理するシステムです。CDPによって顧客の購買履歴や行動パターン、嗜好など、さまざまな情報を統合的に把握することができるようになり、最適なサービス提供を実現します。

3. AIと機械学習

これがないと始まらないといえるほどの必須技術です。AIは膨大なデータを基に、顧客が何を求めているかを予測して最適な提案やオファーを全自動で生成してくれます。そしてそのAI機能に欠かせないのが、データからパターンを学習して予測を行うための機械学習です。AIは機械学習を通じて顧客のニーズを予測し、それに沿った提案を実行していくのです。最新のAIエージェントは予測と実行の両方を行っていきます。

4. 生成AI

これも見過ごすことのできない技術です。生成AIは顧客の過去の行動や嗜好を学習して、個別に最適化されたコンテンツやメッセージをリアルタイムかつ自動で生成します。よりパーソナルで魅力的なコミュニケーションを実現することができるだけでなく、顧客体験をいわば色鮮やかに脚色していきます。

5. マルチチャネル統合

オンライン、モバイル、実店舗、SNS、メール、コンタクトセンター対応など、どの顧客接点でも一貫した体験を提供するためのシステムです。顧客がどのチャネルを利用しても、同じ質の高いサービスや情報を受け取ることが出来るため、顧客エンゲージメントがより一層強化されます。

6. プライバシーとデータセキュリティ

ハイパーパーソナライゼーションの実現には、大量の個人データを処理する必要があります。そのため、GDPRなどの法規制に準拠し、データの暗号化やアクセス制御などを通じて、顧客の信頼を得る必要があります。

最後に

では、ハイパーパーソナライゼーションがもたらす効果についても考えてみましょう。次の記事では、ハイパーパーソナライゼーションが顧客と企業の両方に与える7つのメリットを解説します。すでにこの技術を導入しているNetflixやSpotifyの実例も紹介していますので、ぜひご覧ください。