コミュニケーションにおいて大切なのは、相手の気持ちや考えをきちんと理解すること。双方向でお互いの意見を確認しながら対話しないと、コミュニケーションは一方通行になり、話が通じなくなってしまいます。
相手の声に耳を傾け、そこで得られた情報やデータを元にこちらの対応をアジャストする。ビジネスの場では、お客様の声に耳を傾けるのは特に重要な項目です。最近でこそ「共感力」が強調されるようになってきていますが、カスタマーサービスや顧客接点を抱えるビジネスにおいても、「顧客の声」=Voice of the Customer (VOC)を有効に活用することに大きな注目が寄せられています。「VOCという顧客データをいかに効率的に活用していくか」、ビジネスのポテンシャルを最大化するためにも、VOCの有効活用は無視することのできないポイントです。
加えてマーケットは今やAI全盛時代。AIを顧客データに掛け合わせることで、「どのようにカスタマーサービスのポテンシャルを最大化できるのか」という部分にフォーカスを当てていきます。スターバックス、セールスフォースといった海外大手企業の事例も紹介するので参考にしてください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
Voice of the Customer (VOC)とは?
顧客の声=VOCとは、顧客のニーズや期待、サービスや製品に対する体験を理解するという目的で取得したフィードバックデータのことを指します。
VOCは、顧客満足度の向上やビジネスの成長に欠かせない貴重な情報源となります。このフィードバックは、さまざまな形式で収集されます。
たとえば、アンケート結果や調査データのような定量データ、自由記述やインタビュー内容といった定性データ、そしてコンタクトセンターでの会話を記録した音声データなど、多岐にわたります。加えて、メールやソーシャルメディア上のポスト、対応記録を文字起こししたテキストデータも重要です。
ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop, HITL)とVOC
VOCを正しく理解することは、顧客満足度の改善を目指す企業にとって不可欠です。とくにコンタクトセンターは顧客接点として機能するため、そこで蓄積される膨大なデータは、価値あるインサイトの宝庫とも言えます。
従来、こうした顧客データは手作業で分析されていましたが、手動で意味のあるパターンや感情を抽出するのは非常に時間がかかり、ミスのリスクも高まります。そこでゲームチェンジャーとなるのが、御存知のとおりAIです。今まさにAIは、この分野において、つまり企業がVOCを分析し活用する方法を、大きく劇的に変えつつあるのです。
たとえば、今まで対応内容を録音したものは、人手で文字起こししてテキスト化し、その内容を担当者が読みつつ評価したり有用なトピックをピックアップしたりしていました。
今では、音声認識機能を使ってリアルタイムでテキスト化し、テキストデータを生成AIに渡すことで簡単に要約データを作成できてしまいます。
その要約データをCRMに送ったり、AIによるオペレータへのサジェスト表示に利用したり、活用の幅が飛躍的に広がりました。このようにしてAIをベースとしたVOC解析は、自然言語処理や感情分析といった技術をもとに、コンタクトセンターの膨大なVOCデータを、すぐに活用できるインサイトに変換することができます。
VOC解析にAIを活用することのメリットは、主に以下の3点が挙げられます。
- 顧客満足度の向上
AIを活用して音声パターンやイントネーション、話し方のニュアンスを分析することで、コンタクトセンターは顧客の感情や満足度をより正確に把握できます。これにより、リアルタイムでサービス内容や問題解決のアプローチを調整し、迅速に顧客のニーズや不満に対応できるようになります。さらにAIは、顧客体験に影響を与えるパターンや繰り返し発生する問題を特定できるので、事前に対応策を講じることができ、プロアクティブなアプローチの実現につながるのです。結果として、顧客がより満足する体験を提供し、顧客満足度やポジティブなフィードバックを促進することができるようになります。 - 業務効率の向上
AIを使った音声分析は、コンタクトセンター業務の効率化に大きく貢献します。AIがリアルタイムでインサイトや実行可能なデータを提供することで、オペレータの対応時間が短縮され、業務スピードが大幅に向上。加えてAIは、オペレータに解決策をリアルタイムで提示したり、よくある質問には自動で応答したりすることも可能です。これにより、コール対応時間の大幅な短縮につながります。また、顧客の声から緊急性や感情を読み取り、重要な問題を優先的に処理できるため、業務全体が効率化されます。結果的に、オペレータの生産性が向上し、運営コストの削減にもつながるというわけです。 - パーソナライズされた顧客対応
AIを活用した音声分析により、これまで実現できなかったレベルのパーソナライズ対応が可能に。過去のやり取りや音声データを分析することで、顧客の好みや行動パターンを把握し、個別にカスタマイズされた対応が実施できるようになります。これにより、オペレータは顧客一人ひとりに合わせた対応や提案を行い、より顧客体験がパーソナライズされます。こうした丁寧な対応は、顧客が「大切にされている」と感じられるようにし、エンゲージメントや満足度をさらに高める効果があります。
▶VOC解析に役立つ音声認識プラットフォーム「Namitech」
VOC解析におけるAIの役割
AIは、顧客データの収集・分析・解釈を大規模かつ自動的に実行する役割を担っています。ここでは、とくに以下の2つのエリアでのAI活用を見てみましょう。
VOC収集にAIを活用する
自然言語処理(NLP)は、機械が人間の「話し言葉」や「書かれた言葉」を理解し、解釈するという技術です。VOCデータの収集にNLPを活用すると、ソーシャルメディアのコメントやカスタマーサポートの記録、オンラインレビューなど、さまざまなプラットフォームから自動的に顧客の声を収集して分析できるようになります。人の手を介さずに、重要なテーマを抽出し、フィードバックを効率的かつ網羅的に分類できる点が大きなメリットです。
さらに、AIを搭載したチャットボットは、VOCデータ収集をプロアクティブで動的なプロセスに変えます。リアルタイムで顧客と対話し、適切な質問を通じてフィードバックを集めることが可能です。人間らしい会話スタイルを再現できるため、顧客体験中にリアルタイムでフィードバックを得られるのも大きな魅力です。感情が反映された、より深いインサイトを得ることができます。
またNLPの一部である感情分析では、言葉の背後にある感情を読み取り、顧客の意見や感情、態度を自動的に判別します。フィードバックがポジティブなのか、ネガティブなのか、または中立的なのかを素早く分析し、全体的な感情を把握できるため、企業が適切なアクションを取る上で非常に役立つ情報が得られます。
VOC解析にAIを活用する
NLPを活用したテキスト分析は、自由形式で記述された顧客フィードバックを深く理解するために重要なツールとなります。
アンケートやソーシャルメディアのコメント、オンラインレビューなど、さまざまなソースからのテキストデータを分析し、VOCから価値あるインサイトを発見します。
テキスト分析を用いることで、パターンやテーマ、感情を自動的に抽出し、顧客の好みや不満点、顧客体験全体に関する情報を得ることができます。大量のフィードバックデータを効率的に処理し、質の高いインサイトを引き出すことが可能になるのです。
予測分析は、統計モデルや機械学習(ML)を用いて、過去や現在のVOCデータを分析し、未来の顧客行動やニーズ、トレンドを予測する方法です。
顧客の決定や満足度に影響を与える要因を理解することで、企業は市場の需要や顧客の好みを先読みし、潜在的な問題を事前に察知することができます。これにより、商品開発や顧客サービスの強化といったプロアクティブなビジネス戦略を立て、変化する顧客の期待にフレキシブルに対応できるようになります。
また、データ可視化もVOCデータ分析においては欠かすことのできないメソッドです。チャートやグラフ、ヒートマップを使い、複雑な分析結果を視覚的にわかりやすく提示します。
トレンドやパターン、異常な動きが一目で把握できるため、意思決定の立場にある当事者がデータの本質を直感的に理解し、迅速で適切な対応を取ることが可能です。AIによるデータ可視化は、加工前の生データから戦略的なアクションへとつなげるための強力なツールとして、VOCインサイトを共有し、数値に基づいた改善を企業全体で推進します。
▶VOC解析が得意な企業向けAIプラットフォーム「GIDR.ai」
海外大手3社のAIによるVOC戦略
すでにさまざまな業界で、企業によるAI活用が進んでおり、顧客体験の向上や製品開発、そして業務効率化が実現しています。ここで、海外における大手企業の事例を3つ見てましょう。
スターバックス
カフェチェーン大手スターバックスでは、モバイルアプリのデータとAIを組み合わせ、顧客の好みや行動を分析しています。このVOCデータに基づき、個別化されたマーケティングキャンペーンの展開やメニューの最適化、新店舗のロケーション選定などが実施されており、さらなる顧客満足度の向上を目指しています。また、AIを駆使したDeep Brew プログラムを通じて、同社は顧客体験をよりパーソナライズし、効率的な店舗運営を実現しています。
バンク・オブ・アメリカ
バンク・オブ・アメリカでは、AIをフル活用したバーチャルアシスタントEricaを導入。数百万に及ぶ顧客に、パーソナライズされた金融アドバイスを提供しています。Ericaは、取引履歴や顧客とのやり取りを分析し、個別のニーズに応じたカウンセリング提供に貢献しています。顧客はよりスマートな資産管理ができるようになっています。
セールスフォース
大手CRMソリューションプロバイダのセールスフォースは、Einstein AIプラットフォームにより複数チャネルで顧客フィードバックを分析。営業戦略やマーケティングメッセージ、カスタマーサービスの改善に役立つインサイトを提供しています。Einstein AIは、顧客の行動予測やトレンドの把握、FAQへの自動対応など、企業が効率よく顧客対応できる仕組みをサポートしています。
VOCにおけるAI活用の課題:「バイアス」と「倫理的配慮」
AIをVOC解析・戦略に活用することで、顧客理解の一層の深化やサービス向上の新たな可能性が広がるのは確かです。すでに市場は「AIを導入するか否か」ではなく、「導入したAIをいかに活用するべきか」を考えて動かなくてはいけないフェーズに入っています。生成AIを始めとするAI技術はもはや、「活用してなんぼ」なのです。
一方で、課題や倫理的な配慮の検討も必要となってきています。AIを正しく活用するためには、データのプライバシー保護や分析精度の確保、VOCから得られたインサイトの適切な活用と行った、複雑な要素をバランスよく考慮しなければなりません。
データの質とバイアス
まず考慮すべきなのがデータの質とバイアスです。AIはデータが与えられなければその真価を発揮することはありません。与えられたデータに基づいて結果を出すからです。
したがって、もしデータに誤りやバイアスが入り込んでいれば、分析結果も大きく偏ってしまいます。
ステレオタイプの強化や、特定の顧客層が無視されるといったネガティブな形で表面化してしまいます。また、皮肉や特定の文化特有の表現といった微妙なニュアンスをAIが正しく読み取れない時、誤った意思決定につながる可能性もあります。
大規模な自動化を促進する中で、顧客が期待するパーソナライズされた体験をどのように維持するかも難しい問題です。自動化に頼りすぎると、顧客が感じる「パーソナライズ」や「寄り添った個別対応」の質が低下するおそれがあります。
倫理的配慮
次に考えるべきは倫理面です。顧客のデータを扱う際には、個人情報の保護やプライバシー保護の観点による情報の取り扱い、そして顧客からしっかりと同意を求める体制の確立が非常に重要となってきます。
企業は、データの利用方法について透明性を保ち、コンプライアンスに準拠しながら、顧客に対して、情報取り扱いやプライバシーに関する説明責任を持つべきです。それはもちろんAIにも適用されるべきで、顧客からの信頼を維持するために、顧客一人ひとりが自身の個人情報がどのように使用されるのか明確に理解できる体制の確率が必須です。AIによる分析結果をどう活用するかについても、顧客を不必要に操作したりするのではなく、公正で顧客にとってメリットとベネフィットのある有益な企業行動を取ることが求められます。
こうした課題に対応するため、そして倫理的な基準を守るために、多くの企業では包括的なデータガバナンスを整備しています。それをもとに、AIシステムの監視やテストを継続的に実施しています。明確な倫理基準を設けることにより、顧客との信頼関係を築き、持続可能なビジネスの実現に向けた、実際的な取り組みが進んでいます。
最後に
AIを活用したVOC戦略は、企業と顧客のコミュニケーションのあり方と、企業が顧客ニーズを理解して対応する方法を劇的に変化させつつあります。NLPや予測分析、機械学習など、AIの強みを最大限に活用することで、膨大な顧客データを実践的なインサイトにコンバートし、さまざまな価値に変化させることができます。またAIをベースとしたVOC活用は、単に問題解決につながるだけでなく、将来のトレンドを予測し、顧客の期待に応じたサービスや対応の提供に大きく貢献します。
一方で、AIを効果的に活用するには、データの品質やプライバシーの保護、バイアスの排除といった課題にも目を向ける必要があります。倫理的な観点をおさえつつ、AIの弱みをしっかりと理解し、人間を然るべき場所に介在させることが、企業と顧客の信頼関係をより強くすることにつながるAIの活用を実現できます。
今後AIをより深く活用し、VOCを戦略的に取り入れることにより、持続可能なビジネスを築くことができるでしょう。AIによるVOC解析・活用は、カスタマーサービスの今を築き、引き続き未来を切り開く大きな武器として、これからのビジネスに欠かせない存在となるはずです。