「コールセンターではなくコストセンターだ」「コールセンターは経営貢献しているのか」と言われた時代がありました。しかしVOCの重要性が認知されるにつれ、「コールセンターは経営に欠かせない部署」と見直されています

そうは言っても、いまだにコールセンターを「経費がかかる部署」とみている企業は少なくありません。今回はVOCの収集・活用によって経営貢献の見える化を推し進める方法を解説します。最後には、他部署を巻き込んだVOCの活用方法も紹介するので参考にしてください。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

VOCとは

VOCとは、Voice of Customerの略で、お客さまの声のことです。一般的には、コールセンターに集まるお客さまの声だけではなく、SNSや商品レビューも含めてVOCと呼ばれます。今回は、コールセンターで収集し活用できるVOCに焦点を合わせて解説していきます。

経営陣がコールセンターに期待すること

経営陣がコールセンターを「投資対象」ではなく、「経費削減対象」とみるのはなぜでしょうか。なぜなら経営陣の役割は、会社の利益を最大化することだからです。利益の最大化とは、「売上向上」と「コスト削減」の両輪で実現されます。

コールセンターは、商品やサービスといったプロダクトを売る場所ではないため、自動的にコスト削減の対象になることが多いのです。事実、コールセンターには多くのコストがかかります。人件費、システム費、場所代です。コールセンター業務を外部へ委託したとしても、委託費がかかります。

一方で、コールセンターでの顧客対応にネガティブなコメントがSNSで声高に取り上げられることがあります。「電話がつながらない」「たらい回しにされた」「何もしてくれない」などです。結果、経営陣から悪い意味で注目される機会が多くなります。

覚えておきたいのは、コールセンターに経営陣が期待する本質は「コスト削減」ではありません。その一歩手前、「利益最大化」です。

つまりコールセンターが会社の利益最大化に貢献していることが見える化されればよいのです。そこで大切になるのがVOCです。VOCを収集し、利益貢献につながるかたちで活用するなら経営陣のコールセンターに対する評価は変化していきます。単にコスト削減対象とだけ見ていたフェーズから、売上向上の対象と見るようになっていくのです。

マーケティングのトレンドはVOCに追い風

現在のマーケティングのトレンドはVOCに追い風です。サブスクビジネスの浸透により、消費者の活動は「モノを買う時代」から「サービスを利用する時代」に変化しています。同時に、企業の売上向上は「モノを売るスタンス」から、「サービスを長く利用してもらうスタンス」へ変化してきました。

できるだけ長くサービスを利用してもらうには、VOCが欠かせません。お客さまの声を取得し、お客さまの声をサービスに反映し、LTVを高めていくことが売上向上につながるからです。

企業の中でVOCの収集に最適なのはコールセンターです。そのため最近はコールセンターを外注するのではなく、内製する企業も出てきました。インハウスのコールセンターであれば、社内の営業やマーケティング部署と連動してVOCを素早く活用できるからです。

営業からのひとこと:

カスタマーサービスの現場で最近感じるのは、呼量削減よりVOCの活用が重視されるようになってきたことです。

コールセンターの問い合わせチャネルは、電話に加え、LINEやSMSなどチャットチャネルが増えきました。しかし電話の問い合わせが減ったわけではありません。チャネル数が増えるにつれ、センターで扱うコミュニケーションの総量は増加しているのです。つまり、VOCの総量が増加していると言えます。

そのため、呼量削減にコストを割くより、VOC活用にコストを割くほうが効率的と判断する企業が増えてきています。やっとコールセンター、営業、マーケティング、開発がいっしょに業務に取り組める時代が来たと感じます。

VOCが経営へ与える3つのメリット

具体的にVOCは経営へどのような良い影響を与えるのでしょうか。VOCは経営に3つのメリットをもたらします。

  • 顧客満足度の向上
  • ニーズに合わせたプロダクトの改善・開発
  • 新規事業のヒント

それぞれのメリットについて簡単に見ていきましょう。

顧客満足度の向上

企業はVOCによってお客さまのプロダクトへの不満を知ることができます。不満を解消するためにプロダクトを改善することで、顧客満足度は向上します。結果、エンゲージメントが高まり、LTV向上、アップセル、クロスセルを実現できます。

ニーズに合わせたプロダクトの改善・開発

コールセンターには自社のプロダクトを実際に使用した人の率直な声が集まります。社内の開発陣が机上で出した結論とは違う視点の気づきがあります。

VOCを活かして、既存のプロダクトを改善したり、新しいプロダクトを開発したりしていくなら、新たな顧客を獲得できます。

競合ではなくお客さまに目が向いたプロダクトが生まれ、他社との差別化が達成されます。市場におけるプロダクトの評価が高まり、ブランディング向上につながります。

新規事業のヒント

VOCには企業のマーケティング部門が気が付いていない市場の「悩み」「不満」「願い」が詰まっています。市場が求める新たな事業のヒントを得られるでしょう。

継続してVOCを分析していくと、消費者の傾向の変化が読み取れます。年間のニーズの変化、将来のトレンドに対する予測の精度が高まります。

VOCの収集方法

VOCの種類や収集方法は多岐にわたります。しかしコールセンターが取り組みやすいVOCの収集方法は2つです。

お問い合わせで収集

ひとつ目は、お問い合わせで収集する方法です。電話、メール、チャットで対応する内容をCRMに蓄積していく方法になります。

入力方法は、オペレーターが対応した内容を要約してCRMに手入力するやり方が一般的です。しかし最近は、ChatGPTなどのAIが音声をテキスト化し、自動要約してCRMに流し込んでくれるシステムがあります

補足:電話チャネルのVOCには、60代以上の高年齢層、緊急度が高い問合せといった特徴があります。メールやチャットのVOCには、コールセンターの時間外問い合わせ、10代から50代の若年齢層、リテラシーが高いゆえに複雑な問い合わせといった特徴が見られます。

アンケートで収集

オペレーターの対応後にアンケートを実施して、VOCを収集する方法もあります。電話対応、メール対応、チャット対応の直後にアンケートを実施するのは効果的です。

電話対応の場合、通話終了後にSMSやメールでアンケートの実施ができます。チャット対応の場合は、アンケートをポップアップ表示させられるでしょう。

コールセンターでのVOC収集が軌道に乗ってきたら、SNSや商品レビューのVOC収集も他部署と連携して行っていけます。

補足:カスタマーサービスという枠の中で実施できるアンケートには、プロダクトの購入直後のアンケート、実施したキャンペーンへのアンケートが効果的です。コールセンターに問い合わせてくる顧客以外の声を収集できます。

はがきやFAXなどオフラインチャネルのVOC収集はどうする?

企業によっては、お客さまの声が「はがき」「FAX」「手紙」で寄せられることが多いでしょう。オフラインチャネルのVOCはどのように収集し、活用したらよいでしょうか。いくつかの方法を紹介します。

  • 手入力でCRMへ登録する
  • スキャナーやスマートフォンのカメラで画像として取り込む
  • OCRを使ってテキストデータに変換する
  • はがきなどを読み上げ、音声をテキストデータに変換する
  • テキストデータをテキストマイニングする
  • テキストデータをAIに要約させてCRMへ流し込む

オフラインチャネルのVOC収集に役立つ技術:音声認識

音声認識技術とは、はがきなどを読み上げ音声データをテキスト情報に変換する技術のことです。テキスト化されたVOCは、テキストマイニングやAIによる要約などと組み合わせ、分析がしやすい形に整えられます。

もちろん音声認識技術は、電話によるオペレーターとお客さまの会話をテキスト化することにも活用できます。

オフラインチャネルのVOC収集に役立つ技術:テキストマイニング

テキストマイニングとは、大量のテキストデータを単語別に分けて、それぞれの単語の相関関係や出現頻度を分析することです。プロダクトについてのネガティブな意見やポジティブな意見を抽出し、活用しやすくしてくれます。

VOC収集・活用で失敗しないコツ

「VOCを収集するチャネルをどう選んだらよいのかわからない」「集めたVOCのデータが多すぎて活かしきれない」という状況が時おり見られます。どうしたらVOCの収集・活用を継続しやすくできるか4つのコツを紹介します。

収集項目の明確化 

VOCの収集項目をはっきりさせましょう。たとえばアンケートで収集する際に、「プロダクトに関する感想を聞かせてください」という漠然とした質問にはしないでください。以下のような具体的な質問を提示します。

  • プロダクトの機能、価格、デザイン、使い勝手についての評価
  • プロダクトの満足度、不満点、改善点についての感想
  • プロダクトの利用頻度、利用シーン、利用方法

プロダクトへの評価を0~5点などで評価する「NPS」というアンケート手法も便利です。

他部署と連携する

「VOCデータを他部署で活用してもらえるかどうかわからない」と感じるかもしれません。たしかにVOCは適切な部署へ提供しなければ活用されないので気を付けましょう。

たとえば、VOCを以下のようにカテゴリ分けして、該当部署へ共有すると活用されやすくなります。

【VOCのカテゴリ該当部署】
プロダクトの機能、価格、デザイン、使い勝手についての評価開発部
プロダクトの満足度、不満点、改善点についての感想開発部、企画部、品質管理部
プロダクトの利用頻度、利用シーン、利用方法開発部、企画部、マーケティング部
応対品質に関する評価カスタマーサービス部、教育研修部

さらに、「プロダクトのターゲット層」と「実際の利用層」にギャップがあるときには、マーケティング部へ情報を共有できるでしょう。プロダクトが受け入れられている層が、会社の想定している層と乖離していることがあるからです。

各部署が必要としているVOCデータを、使いやすい形で提供してあげることは大切なポイントです。

企画部が「いま市場はどんなプロダクトを求めているか」が知りたいのであれば、「プロダクトの満足度、不満点、改善点についての感想」のVOCを提供するとよいでしょう。マーケティング部が「シニア層の利用者が多いので、若年層にも訴求したい」となれば、若年層のVOCを提供できます。

AIを活用する

オペレーターの手入力でのVOC収集は時間と労力のコストが高くつきます。そのためAIを使った収集のほうが効率的です。入力後の分析にもAIを活用しましょう。

VOC収集・活用の担当者を取り分ける

VOCの収集と活用は片手間では行えません。現場のSVや管理者が通常業務をしながらVOCの収集・活用を行うのは難しいでしょう。とくに活用の部分は、カテゴリ分けや、関連部署とのミーティングなどが必要になります。

必ずVOC専任の担当者やチームを作るようにしてください。

VOC専任がいることによって収集・活用の精度が高くなります。関連部署からの評価も上がり、実際の成果も数値化されていきます。結果として、コールセンターの経営貢献が見える化していくでしょう。

コールセンターの経営貢献度を見える化する

VOCによってコールセンターの経営貢献度を見える化するためには、「お客さまからのお褒めの言葉」といったVOCをピックアップするだけでは不十分です。数値で見える化する必要があります。

たとえば以下の項目を数値化できるでしょう。

  • VOCをもとにした施策を行い、「解約率にどれだけ差が出るか」を見える化
  • VOCをもとにした施策を行い、「購入単価にどれだけ差が出るか」を見える化
  • VOCをもとにした施策を行い、「LTVがどれだけ向上するか」を見える化

他にも顧客の満足度、リピート率、ポジティブな口コミの数、新規顧客の数などを見える化できます。

VOCで経営貢献を実現できるユースケース

「VOCが経営貢献するイメージがわかない」と思われるかもしれません。VOCの経営貢献が見えやすい分野のユースケースを考えてみましょう。

LTVへの貢献

ある通販系コールセンターは、扱う問い合わせの半分近くが「定期配達を解約したい」という問題を抱えています。そこで、コールセンターで解約理由を分析するため、音声のテキスト化と分析が行われます

分析後、主な解約理由が「商品が期待していたものと違った」「商品の正しい使い方がわかっていなかった」の二つであることが判明しました。

そこで、「商品が期待していたものと違った」についてはWEBや広告の見直しをして対策、「商品の正しい使い方がわかっていなかった」については解約を受け付けたオペレーターが説明するという対策を実施します。

結果として、解約希望者の3分の1が継続へと切り替わりました。VOCによる施策後のLTVを分析すると、コールセンターの売上貢献度が明確になりました。

プロダクトの改善・開発への貢献

あるEC系コールセンターにはお客さまのお困りごととして、「新しいモバイルバッテリーが欲しいけど、古いバッテリーが処分できないから困る」という声がいくつも寄せられていました。マーケティング部がそこに着目します。そして古いバッテリーの回収キャンペーンを実施し、売り上げを大幅に向上させられました。

最後に

「コールセンターが経営貢献していないと思われていてショック」「役員からは予算削減しろとのプレッシャーしかない」という声を聞くことがあります。しかしVOCを活用するなら、コールセンターは経営に欠かせないことが分かってもらえます

なぜならVOCはLTVの向上に直結するからです。VOCを収集し、活用していくなら顧客満足度が向上し、市場のニーズに合ったプロダクトを提供でき、新規事業のヒントまで得られます。

VOCの施策について他部署との連携がうまく取れるか心配な時には、他部署のニーズに合ったデータを提供するようにしてください。

コールセンターが収集するVOCは企業にとっての資産です。VOCを活用することによってコールセンターの経営貢献を見える化していきましょう。

コールセンターの比較の仕方