カスタマーサービスの新しいチャネルとしてチャット対応が活用されるようになっています。チャットサポートと呼ばれることもあります。
チャット対応を初めてみたものの、運用やマネジメントが上手くいかないと感じる人も多いようです。
今回はチャット対応で覚えておきたい11のコツを紹介します。顧客満足度を向上させるチャット対応のマナーについても解説していきます。最後には、対応品質を測るKPIについても説明するので参考にしてください。
お客さまに不満を与えないチャット対応ではなく、お客さまから感謝されるチャット対応ができるようになる情報を紹介します。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、15年間にわたり日本市場へローカライズしてきたCBAが解説します。
チャット対応に役立つ11のコツ
すでにチャット対応を初めたものの、顧客満足度がいまいち向上しないと感じることがあるかもしれません。お客さまに「役立った」「また使ってみたい」と思っていただけるチャット対応をするのに役立つ11のコツを紹介します。
チャット対応の担当者を決める
担当者は専属でも兼任でも良いので複数人割り当ててください。チャット対応では一人の担当者が2~3人の対応を同時にしていけます。
1人のオペレーターに対して一人のお客様しか対応できない電話サポートと違い、チャット対応では一人あたりのオペレーターのサポートコストを抑えられます。そのため電話サポートより人員を割きやすくなるでしょう。
複数人の担当者がいるメリットは、初回応答のスピードを早められること、他の担当者と休憩をずらして運用できるため担当オペレーターの負担を軽減できることです。
適任者を担当にする
チャット対応の適任者は電話サポートの経験者です。コールセンター白書2021ではチャット対応に求められるスキルについて次のように説明しています。
「メール対応のオペレータが兼任」が37%と最も多いが、チャットは「必要とされるスキルはメールよりも電話対応のほうが共通点が多い」とされている
コールセンター白書2021 106ページ
チャット対応はテキストベースの会話が中心となるため、電話対応との共通点が多いことが特徴です。電話サポートのベテランオペレーターを担当者にすると対応品質を向上させられます。
大手ポータルサイトのチャットサポートでは、担当者にまずメール対応をしてもらって返信文の書き方を学んでもらい、次に電話対応で顧客との話し方の経験を積み、最後にチャット対応を担当してもらうようにして成果を出しています。
担当者へチャット対応マナーを教える
担当者へチャット対応マナーを教えることは大切です。なぜならチャット対応は電話やメール対応と違う点がいくつもあるからです。
まず問合せてきたお客さまの困っているレベルが分かりづらい点がその他の対応と異なっています。パニックになるほど困っているのか、「とりあえず知れたらいい」程度で問合せてきているのか、判断が難しいのです。チャットのマナーを押さえておかないと、お客さまの感情を逆なでしてしまうことがあるので気をつけてください。
チャット対応は短時間で短い文を使って返答しなければなりません。マナーを知らずに返信していると、要領を得ない会話になり、無駄に対応時間が長引く可能性があります。
知っておくべきチャット対応のマナーについては後述します。
硬くならない対応をする
人間のオペレーターによるチャット対応は、チャットボットと違って温かい反応が特徴になります。硬い表現を使わずに、人間味のある相づちや感謝の言葉を使うよう心がけましょう。「素敵ですね」「励みになります」など、ちょっとしたフレーズをオペレーターが使うようにしてください。
メール対応のような、かしこまった表現を使わないように気をつけましょう。チャットの気軽さというメリットを活かし、簡潔な言い回しで会話することを心がけてください。
プラスαの情報を提供する
顧客満足度を向上させるチャット対応のカギは、プラスαの情報を提供することです。問合せてきた内容に返信するだけではなく、お客さまにお得になるような情報も提供してください。「問合せてよかった」と感動させるには、相手にメリットになる情報やナレッジを伝えることが大切です。
チャットシステムをCRMと連携させること、問い合わせ履歴を確認することがパーソナライズされた情報提供に役立ちます。
チャット終了のタイミングに注意する
チャット対応では、会話をいつ終わらせるかわかりにくいことがあります。お客さまはまだ聞きたいことがあるのか、これで問合せは終わりなのか判断しづらいことがあるのです。
オペレーターが勝手にこれで終わりだろうと考えてクローズすると、思わぬクレームになるので注意してください。必ず「ほかにもご質問はあるでしょうか」「本日のお問い合わせは以上でよろしいですか」など聞くようにしましょう。
チャットボットを設定する
チャットの問合せは手軽に行えるため、問合せ件数が急増することがあります。そのため初回の対応や、よくある質問にはチャットボットで対応することがおすすめです。
チャットボットで対応できないものだけ、有人チャットへエスカレーションするフローにしておくと良いでしょう。
チャット対応の窓口の設置場所
「チャット対応の窓口を作ったが利用率が低い」ということがありますか。Gooleのリサーチによるとサイトを訪問した人の9割は30秒以内に離脱します。サイトの訪問者が30秒以内にチャット窓口を見つけられるような場所に設置してください。
効果が高い設置場所はどこでしょうか。一般的にチャット利用率が高いのは、FAQページです。訪問者が離脱しやすいページにチャットボットを設置しておいて、「お困りごとはありますか」などの声掛けをさせるようにすることもできるでしょう。
電話対応とメール対応と併用する
チャット対応だけでは解決できないケースがあります。電話やメールと連携させる体制を整えておきましょう。
たとえば複雑な質問やクレームは電話へ切り替える、解決に時間がかかる場合はメール対応へ切り替える、というようにできます。チャット対応の開始5分で長く掛かりそうかどうか判断し、長くなりそうであればメール対応へ切り替えている企業もあります。
履歴を分析
チャット対応の履歴を分析することで対応品質を向上していけます。「どんな質問の対応で時間がかかっているのか」「案内が適切でなかったために時間が長くかかった対応はどれか」などを洗い出して分析できます。
対応品質の現状、分析後の改善を確認するのに役立つKPIについては後ほど解説します。
忙しい時は無理に対応しない
チャットの問い合わせが増加し、対応が追いつかないことがあります。忙しい時は無理をしないようにしてください。無理してオペレーターに対応させるとミスが出て、無駄に会話が長引くことがあります。
忙しい時の対処法は、対応に時間がかかることをお客さまに知らせたり、チャット窓口を閉めたりすることです。
チャット窓口を閉める際の注意点について、コールセンター白書2021では次のように解説しています。
入り口であるWebサイトにチャット窓口を表示さえしなければ、新たなセッションは発生しないため、この手法は定着しつつある。しかし、これを多発すると窓口の存在そのものが周知できない可能性が高まるので注意は必要だ。
コールセンター白書2021 108ページ
チャット窓口を閉める対策は最後の手段にするのがおすすめです。またはチャット窓口を出すタイミングを通常より遅らせることもできます。普段はFAQページを訪れたらすぐ出しているポップアップを、ピーク時は数十秒おいてから表示させるようにするのです。
この問題は次世代チャットのメッセージングでは発生しません。メッセージングでは返信スピードを心配することなく対応できます。
チャット対応のマナーについて
チャット対応ではプライベートで使っているSNSと使い心地が似ているため、マナーを忘れがちになります。またメール対応のような堅苦しさは感じさせないよう意識しつつも、カジュアルすぎてもいけないバランスが難しいところでもあります。上手なチャット対応に必要な6つのマナーについて紹介します。
誰が見ても不快感を持たない文章
チャットの種類によってはテキストとして応対履歴が残るため、あとから誰が読むかわかりません。誰が見ても不快感や違和感を持たないような表現をするよう心がけましょう。そのためにはコンプライアンス、ビジネス文書の基礎知識を会得しておくことが必要です。担当者への研修などで最初に学べるようにしてください。
チャット対応に役立つ研修を外部へ依頼することもできます。もしくはチャットシステムのベンダーがトレーニングを提供しているケースもあります。
▶参考情報
「有人チャットセンターの構築・運用ポイントと人材育成」
https://ccaj.or.jp/ccaj_school/yujin_chat.html
「コールセンター向け メール・チャット対応研修」
https://www.recurrent.jp/listings/callcenter-operator-email
「チャット対応研修」
https://www.insource.co.jp/kenshu/chat_top.html
メールマナーは使わない
チャット対応では、メールマナーで必須の挨拶文や文末のお決まり文句が不要です。「平素より大変お世話になっております」「なにとぞよろしくお願い申し上げます」などの表現は必要ありません。冗長な文章はチャットの効率を落としてしまうので避けましょう。
絵文字はケースバイケース
チャットの最中に絵文字を使ってよいかどうか判断に迷うことがあります。結論から言うと、絵文字の使用に関して正解はありません。ケースバイケースでの判断となります。
企業風土、顧客層、扱う商材、会話のテーマなどによって絵文字を使うかどうか決めていけます。
アメリカでは医療機関や保険会社などが、一部の絵文字を使うようになっています。扱うプロダクトに関係する「家」や「傘」などの絵文字、顧客の理解をサポートするのに役立つ絵文字などをあらかじめ決めておいて、オペレーターが使うことを許可しています。
▶参考情報 https://liveperson.docsend.com/view/zhcuqc9jywririz9
検索キーワードを含める
チャット対応はトーク履歴が長くなる傾向があります。あとからお客さまが情報を検索しやすくできるように、検索キーワードを散りばめるようにしておきましょう。
たとえば「その製品」と書くのではなく「〇〇製品」と具体的な名前を含めるようにしてください。
簡潔な文章
一文を短くしながら返信するようにしてください。読点を多用して長い一文になると読みづらいですし、伝えたい意味がぼやけてしまいます。スマートフォンでは長い文章は読みにくく敬遠されがちです。
定型文は避ける
チャット対応のメリットは柔軟な対応ができること、人間味のある温かな受け答えができることです。定型文を使うとチャットのメリットが活きないので注意してください。オープニングやクロージングはある程度の定型文があるとしても、回答の最中は定型文を避けるとよいでしょう。
チャット対応のKPI
「チャット対応をしているが運用がうまくいっているかわからない」「上層部がいまいちチャット対応の効果性を理解してくれない」といったことがあるかもしれません。
チャットサポートの運用が効果的かどうかを判断するには、KPIの設定が必要です。KPIが設定されることでチャット運用の効果測定をし、現状の把握ができます。対応を改善したときには、改善点の効果性なども図ることが可能です。ではどのようなKPIを設定できるでしょうか。
チャット対応で採用されているKPIは以下のとおりです。
- 応答するまでの時間
- 顧客満足度
- CCpLH
- 対応件数
- 利用率
- コンバージョン率
- MCS
それぞれの項目について解説します。
応答するまでの時間
チャットサポートで一番多く設定されているKPIです。コールセンター白書2021によると、有人チャットのKPIとして最も多く設定されていました。昨年と比べると「応答するまでの時間」をKPIとして採用している企業が30.1%も増えています。これはチャット対応の件数が増えていること、それゆえにお客さまを待たせる時間が長くなっていることを表しています。
待ち時間が長くなるほど顧客満足度は下がるので、このKPIを設定しておくことで対策を取るタイミングを判断できます。
顧客満足度
次に多く採用されているのが「顧客満足度」です。チャット対応が終わったあとに、お客さまへアンケートを取ることで「顧客満足度」の測定ができます。CSATと呼ばれることもあるKPIですが、数値は90%を目指しましょう。
アンケートへの回答率を上げるため、2択にしたり、絵文字を選択するだけにしたりして、回答のハードルを下げている企業があります。
CCpLH
チャットサポートが進むアメリカで採用されているKPIです。Closed Conversation per Login Hourの略で、1時間あたり何件の対応ができたか測るKPIです。
基準になる平均数値は、チャット対応の件数が電話対応の件数より2倍になっていることです。たとえば自社のコールセンターで電話対応が1時間に3件の処理ができているのであれば、チャット対応はその2倍である6件であれば正常と判断できます。
対応件数
対応件数は、チャット対応だけでなく、電話やメール対応の件数もカウントしてください。センター全体の対応件数と比較することで、チャット対応の導入により他の対応がどれだけ減っているか、電話やメール対応の負担がどれだけ減っているかを測定できます。
利用率
チャット対応がどれほど利用されているか測れます。利用率をチェックすると、適切なチャット窓口の設置場所やタイミングがわかります。
コンバージョン率
ECサイトなどで必要なKPIです。チャット対応がどれだけ売上に貢献しているか明確に表す項目です。
MCS
MCSはMeaningful Connection Scoreの略で、利用者がチャット中にどんな感情を抱いているかを知れるKPIです。アメリカのチャットコマース先進企業LivePerson社が開発したKPIになります。
MCSは、チャット対応が本当に顧客を満足させているか知ることができる指標です。実はチャット終了後のアンケートは、顧客満足度を完全に反映しているとは言えません。アンケートに答えてくれるのは少数ですし、答えてくれる人の大半はチャット対応に満足した人です。
そこでチャット中にリアルタイムでお客さまの感情を測定するMCSが開発されました。
MCSの指標を使って、上記の表にあるようにチャット中のテキストを分析し、利用者の感情を見える化できます。チャット中の感情をトラッキングすることで、対応に不満を持っている人をリアルタイムで把握できます。クレームになる前にオペレーターをサポートしていけるでしょう。
チャット対応のよくある質問
チャットサポートの運用をしていると、現場レベルで多くの質問をされることでしょう。すでにチャットサポートが導入されている現場でされる「よくある質問」と答えを紹介します。
チャット対応中にトイレに行きたくなったときどうする?
お客さまとのチャットをしている間にトイレに行きたくなったときには、別の担当者に変わってもらうか、お客さまに「休憩に入るため〇〇分後に連絡する」と伝えられます。しかしこの問題は非同期のチャット(メッセージング)であれば発生しません。
お客さまとのチャットが長くなってるがどうしたらいい?
可能であればメール対応か電話対応へ切り替えられます。切り替えの際に注意すべきことは、単に「調査してから再度連絡します」と言うより、「現在の問題点」と「解決のためにこれから何をするのか」を具体的に伝えることです。そのうえで「回答が用意できましたらすぐお知らせします」と説明するほうがお客さまは納得します。
何時間もお客さまからの反応がないがどうすべき?
反応がない場合は、お客さまがまだ話したいのか、引き続き対話が可能かどうかをまず確認しましょう。それでも反応がない場合はクローズできます。
メッセージングの場合、数時間後にお客さまが再度問合せてきても履歴が残っているため、前回の続きからすぐに対応をはじめられます。
最後に
質の高いチャット対応をするためには担当者の選定と育成がポイントです。チャット対応に最適なのは電話対応のベテランオペレーターです。
担当者を選定したあとはチャット対応マナーを教えて下さい。研修では、コンプライアンス、ビジネスメールのマナー、絵文字の使用について教えていけます。
チャット対応の品質を維持し、向上させていくにはKPIの設定が欠かせません。記事で紹介した7つのKPIを参考にしてください。
「チャットサポートを導入したのに効果が実感できない」「役員たちからの評価が低い」ときには、担当者、マナー、KPIをまずチェックしましょう。
チャット対応の品質を向上させ、社内からも顧客からも評価されるサポートを提供してください。