顧客接点の最前線であるはずのコールセンター。しかし、解消されない人手不足や削減されない呼量、オペレータのスキル不足が継続的課題となっています。結果として「つながりにくいコールセンター」「つながっても解決しないコールセンター」となってしまい、もはや顧客接点として機能・成立しないケースも否定できません。
カスタマージャーニーにおいては「大トリ」であり、顧客体験や顧客満足度へ直接的な影響を及ぼす部署です。コールセンター次第で、それまでの顧客体験を覆すこともできるほど重要なポジションと言えます。しかし、SNSに書かれるユーザーの声では、以下のようなマイナスのコメントが目立ちます。
- コールセンターにつながらないのでサービスやプランを解約しようと思う
- 電話もチャットも対応してもらえず不便
- なぜつながりにくいのか分かっているはずなのに一つも解消されていない
トリであるはずのコールセンターの「つながらない」「問題が解決しない」が原因で、顧客を失いそうになっているのが現状なのです。ワークフォース・マネジメント(WFM)を可及的速やかに最適化する重要性を認識させられます。
この記事では、コールセンターにおけるワークフォース・マネジメントに改めて注目し、依然として残る課題に「うまく対処していく」具体的な方法を解説します。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
オムニチャネル化によってリソース配分が高度化している
人手不足と自動化のどちらに対しても、すぐには大きな投資ができない
人材確保やIT投資の結果が出るまでに時間がかかるので、その間にできることをしたい
ワークフォース・マネジメントはアーランC式?アーランO式?
コールセンターの「基本」であるワークフォース・マネジメント。しかし慢性的な人手不足やオムニチャネル化、デジタルシフトなどによってこの「基本」が崩れそうになっているセンターは少なくありません。
「コールセンタージャパン2024年11月号」によれば、アーランCという数式をベースとするのが本来のワークフォース・マネジメント(リソースマネジメント)であるとしつつ、最近ではアーランOという新たな数式を活用する企業も出てきているといいます。
では、アーランC式とアーランO式についてそれぞれの特徴をまとめつつ、今一度ワークフォース・マネジメントの考え方について検討してみましょう。
アーランC式とアーランO式とは
アーランC式は、待ち行列があるシステムでの「待ち時間」や「サービスレベル」を評価する方式です。
たとえば、コールセンターにお客さまからの電話が多くかかって来るとします。オペレータが全員対応中のとき、次のお客さまは待ち行列に並びます。
アーランC式を使うと、待っているお客さまがどのくらいの時間でオペレータに繋がるか、または待ち時間が一定の範囲内に収まるかといった確率を計算できます。「待ち呼数」や「平均応答時間(ASA)」を算出していけます。この方式により、必要なオペレータの人数を決めて、待ち時間を短くし、サービスレベルを向上させることができるのです。
アーランO式は、待ち行列がないシステムでの呼び出しがブロックされる確率を評価する方式です。
たとえば、コールセンターが持っている回線が限られていて、すべての回線が使用中の場合、新しい電話は繋がらず、ブロックされてしまいます。
アーランO式を使うと、お客さまが電話をかけた際に回線が見つからず、かけ直しが必要となる確率を計算することができます。この計算結果を基に、適切な回線数を設定することで、お客さまの電話がスムーズに繋がる環境を整えていけます。
ワークフォース・マネジメントにどちらを採用するべき?
前述のコールセンタージャパンでは、サービスレベル(SL)というKPIの達成を目指して、アーランC式をベースに必要なオペレータ数を算出するのがワークフォース・マネジメントの基本であると説明されています。
一方のアーランO式は、時間帯ごとの変動要素や予実ギャップ、シュリンケージ(研修時間や欠勤など実際に発生する要員数の目減り)なども考慮した数式となります。そのため、オムニチャネル化されたセンターでのリアルタイムマネジメントに効果的です。
ただし、アーランC式よりも複雑かつ必要なデータが多いので、手作業的な運用は困難であるとされています。
それぞれの式で算出できるものが異なるので、安易にどちらの式がベストであると結論できるものではありません。
しかし、多くの国内企業はサービスレベル(SL)を最重要KPIとして設定していません。「コールセンター白書2023」を見ると、重視しているKPIの1位は応答率(55%)で、サービスレベルを重視しているセンターはわずか7%にとどまります。
一般的に、応答率が悪くなるとサービスレベルも低下する傾向にあります。そのため、応答率を重視することが悪いわけではありません。
とはいえ、応答率はあくまでも企業視点でのKPIであることを忘れないようにしましょう。応答率に関するKPIは達成できている(企業視点)のに、お客さまの感覚・主観では「センターに電話が繋がらない」と感じてしまうことがあるのです。
ワークフォース・マネジメントを最適化するために見直すべきポイント
ワークフォース・マネジメントの観点から、KPIとしての「応答率」を考えると、「応答率にあわせてワークフォース・マネジメントを進めれば良いのではないか」と感じるかもしれません。
現在は多くのコールセンターがオムニチャネル化していて、なかでもチャットやボイスボットの導入が急速に進んでいます。オムニチャネル化は、顧客接点を広く多く設けられる一方で、ワークフォース・マネジメントを高度化させる一つの要因でもあります。
コールセンターの教科書プロジェクト 主宰/ひるぎワークス代表の熊澤伸宏氏は、以下のように指摘しています。
「オムニチャネル化によって、リソースマネジメントは高度化しています。とくに同時に複数の顧客に対応するチャットのリソースマネジメントは、予測のメソッドがまだ確率されておらず精度にも限界があります」
もし応答率だけで人員配置を検討するなら、オムニチャネル環境への柔軟な対応がより難しくなります。そこで、応答率以外の要素も考慮することは効果的です。以下のような要素も検討してみましょう。
- 実際にどれだけのコミュニケーターが不足しているのか
- 人材確保にどれだけ投資すべきか
- チャットボットやボイスボットにどれだけ置き換えられるか(=自動化できるか)
具体的な数字の算出や業務の棚卸しが完了すれば、既存のリソースをどこへどれほど割くべきかが見えやすくなります。もし現状のサービスレベルを維持していくことが難しいとわかった場合にはどうすれば良いでしょうか。
熊澤氏は、「サービスレベルの維持が不可能であれば、経営および顧客の合意のもと、下げざるを得ません。いったん基準を下げたうえで、リソースマネジメントをきちんと実践し、現状のリソースで最大限提供できるサービスを設計する必要があります。」と提言します。
「サービス品質を下げる」と聞くと、「後退」や「劣化」といったネガティブなイメージが先行して浮かぶかもしれません。そうではなく、今の体制でベストのサービスを提供できるよう「サービス品質を再設計する」と考えてみてください。
ワークフォース・マネジメントに向けた再設計案3つ
ひとことに「サービス品質の再設計」といっても、具体的に何をしたら良いでしょうか。3つの再設計案をご紹介します。
コンタクトリーズンの仕分け
まずは、コンタクトリーズンを「有人対応すべきもの」「自動化すべきもの」に仕分けしましょう。顧客満足度の向上に寄与し、企業にとっても価値のある業務を有人対応側に分類し、集中的にリソースをかけるのです。
自動化すべきものについては、VOCの活用を強化することによって問い合わせ数そのものの削減に取り組むことができます。
イー・パートナーズ代表の谷口 修氏は、「顧客視点(満足度)と企業視点(価値)でコンタクトリーズンを分類し、どちらにとっても価値が高い問い合わせに有人対応のリソースを集中させる。逆に価値が低いコンタクトリーズンは、問い合わせが発生すること自体がビジネスにとってマイナスなので抑止、解消したい」と強調します。
谷口氏は、有人対応/自動化の他にも、「緊急度あるいは重要度」と「対応難易度」という分類軸も提唱しています。
自動化する場合は、チャット/ボイスボットの精度を徹底的に追求・強化したいものです。人間の介在を回避することがひとつの目標だからです。
逆に、有人対応すべきものについては確実にロイヤルティを獲得・向上できる応対を実現することが目標となります。そのためには、オペレータの教育やサポート体制の整備といったベースの見直しも必要になるでしょう。
IT活用
生成AIに代表されるIT活用が進んだことにより、単純業務が減り、かえって業務が高度化したり、ITまわりの管理者を設けなければいけなくなったりした側面は否定できません。
一方で、IT活用はオペレータひとりあたりの生産性向上に大きく貢献します。すぐにリソースを増やせないのであれば、自動化や業務支援によるひとりひとりの生産性向上が必要不可欠です。
▶リソースを節約しながら最大の効果が得られるAIプラットフォームの例:「GIDR.ai」
BPOの活用
「人材確保もIT投資もすぐには難しい」という場合には、BPOの活用という選択肢があります。しかしBPOの活用を前提にすると、高いランニングコストが懸念されます。そのため、将来的にボットで自動化予定の業務だけを委託するというのも一つの手段です。
そうすると、現状のリソースを有効活用しつつ、サービス品質を再設計し、持続可能なワークフォース・マネジメントができたタイミングで、インハウスへ切り替えられるでしょう。
最後に
コールセンターにおけるワークフォース・マネジメントの最適化は、2025年の喫緊のミッションです。新たな一年を、新たな人員・業務体制で気持ちよくスタートできるよう、まずは現状を正確に把握し、その上で率直にサービス品質の再設計の必要性について分析しましょう。
現状維持がベストなところ、もっと最適化できるところを特定でき、VOCやオペレータの声に耳を傾ける機会にもなるはずです。