「AIを活用すれば、生産性・効率性を向上できる」―。AIエージェントの登場によりこの期待は一層高まりましたが、一方で「AIさえ活用すればすべてがうまくいく」という期待が神話に過ぎなかったことが露呈してしまった2025年。AI活用は今、大きなターニングポイントに差し掛かっています。
2026年、コンタクトセンターの現場は極めてシビアな現実に直面しています。Zendeskが発表した最新の統計によれば、70%以上の消費者がAIによる即時対応を期待しています。それどころか、不適切なAI対応を一度でも経験すると、半数以上の顧客が競合に乗り換えるという傾向が報告されています。
またForbesが指摘するように、現代の顧客はかつてないほどに「せっかち」で、待つことが苦手です。にもかかわらず、多くの現場ではAIツールやソリューションばかりが増え、オペレーションは複雑化し、オペレータの負荷がむしろこれまで以上に高まっています。「AI活用すればするほど、効率化が下がる」という恐ろしいジレンマに陥っている企業は、決して少なくありません。
そんな環境の2026年という荒波を乗り越えていくために、今こそ、技術の先を見据えた「視点のアップデート」が求められています。トレンドという波に振り回されることなく、自律的でサステナブルな運用を確立するための思考軸とは何なのか。TPIJが分析する「2026年に持つべき6つの最重要視点」を紐解いていきましょう。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
「AIを導入したのに、オペレータの負荷が減っていない(むしろ増えた)」
「ツールがバラバラで、データが繋がっておらず、結局人間が二度手間をかけている」
「顧客からの即時対応へのプレッシャーが強く、現場が疲弊している」
外的環境の「再定義」…今さら必要?

「顧客満足度の向上」「生産性の向上」「AI活用による効率化」―もはや耳にタコができるほど聞いてきたワードでしょう。こういった用語は今でもAI活用などの文脈として語られており、説得力もそこそこある用語でもあるため、もっともらしく聞こえるのは確かです。そんな中に、今さら外的な環境の再定義は必要なのでしょうか?
答えは「YES」です。なぜなら、2026年の市場環境は、これまでのCXやカスタマーサポート、AI活用の常識を根底から覆そうとしているからです。そして消費者は想像以上に「進化」していると同時に「残酷」にもなっているからです。
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「ゼロ忍耐」時代

まず直視すべきポイントは、顧客の内面的変化です。Forbesによると、2026年は「忍耐(Patience)」という概念がコンタクトセンターから消滅してしまう年、となります。
顧客はこれまで以上に、我慢「弱い」存在となっており、AI導入で即時対応が標準化した結果、顧客の期待値は「今すぐ対応」へと固定される、と分析されています。かつては許容されていた「待ち時間」ですが、今やブランド離脱のトリガーとなってしまう点は見逃せません。
期待値のハイパー・インフレ
さらに、AIの普及が顧客の期待を際限なく押し上げていること。2025年にかけてAIが一気に普及し、ビジネスや生活に一層入り込んできました。もはやAIは特別なものではありません。
顧客はAIが自分の文脈をあらかじめ知っていること、そして面倒なプロセスを省いて問題を即座に解決することを当然の権利として要求するようになっています。企業側の事情―「システムが連携していなくて…」「担当部署が異なりまして…」といった言い訳に、顧客は1ミリも関心を持ちません。
顧客が求めているのは、パーソナライズ体験が摩擦ゼロ(フリクションレス)で提供されること、その一点に尽きます。
「頑張り」のダークサイド

こうした顧客の変化に対して、これまでの日本企業が得意としてきた「現場の熱意」や「オペレータの踏ん張り」といった「頑張り」で応えようとすることは、もはや不可能になっています。
期待インフレを起こし続ける顧客に応えようとする現場が疲弊すれば、現場側では離職が進み、さらなる品質低下を招くというダークサイドが口を開けて待ち構えています。
2026年において外的環境を再定義することは、「現場の自己犠牲という精神論」の限界を認め、テクノロジーによって「CXが自動的に最適化される構造」を受け入れることに他なりません。「頑張ろう」から「徹底的に設計されたCX」へ。このパラダイム・シフトの必要性を理解するためにこそ、外的環境の再定義が必要なのです。
2026年のAIトレンド:AIセンセーションから「インフラ」へ

これまで、生成AI導入・活用という文脈で、次々に押し寄せるセンセーショナルな話題に一喜一憂するシーンが多く見られました。しかし時すでに、AI導入や活用を決めただけですべてがうまく回るという時代ではありません。
AIはもはや「驚くべき新技術」ではなく、電気やガス、水道、そしてインターネットと同じ「使えて当たり前のインフラ」と形を変えています。このフェーズの変化を正しく認識できているかどうかが、2026年を泳いでいくための最初の分岐点となるといっても過言ではありません。
AIはツールからチームメイトへ
AIはツールという立ち位置から、「チームメイト」として扱われるようになっています。AIが人間と並んで仕事をして、情報を整理し、次に取るべき行動をリアルタイムで推奨する。いわゆるコパイロット(副キャプテン)としての役割を負うようになっています。
つまりAIを導入するかどうかを決めるフェーズはとうの昔に過ぎ去っています。これからは、AIエージェントという同僚をいかに人間の組織内に最適配置し、連携させるかという「オーケストレーション」能力が問われるフェーズになっています。
ナレッジの統合
AIがインフラとして機能し、正確なチームメイトとして機能するには、組織内のあらゆる情報やナレッジが統合されている必要があります。そこで、部門ごとに情報が分断された、いわゆるサイロ化の解消が、2026年に向けた重要なトレンドとして挙げられます。サポートや営業、製品部門が同じ最新情報を共有するナレッジの統合により、ミスを減らし、迅速な解決を実現する鍵となるでしょう。
しかしその場合、単に特定の部署にAIを導入する「点」の運用では不十分です。組織全体の情報を一箇所に集め、AIがどこからでも参照できるデータ基盤を整えることこそ、これからのAI活用の成否を分けるインフラ整備の本質と言えます。
「話すAI」から、先回りして「動くAI」へ
すでにAIの役割は「顧客の質問に答えるチャットボット」という枠組みを大きく超えています。上記にもあるとおり、「チームメイト」として従業員を支えます。顧客の過去の購入履歴や行動に基づいたプロアクティブな提案やパーソナライズされたサポートをリアルタイムで実行するAIエージェントとして、EXを向上させます。
聞かれたことに答える「受動的な対話」が中心だったこれまでのAI活用から、AIが裏側で膨大なデータを分析し次に取るべきアクションを自ら導き出す、あるいは人間を強力にナビゲートする自律型へとシフトしていきます。
また、多岐にわたる業務プロセスやタスクに特化したAIエージェントを使い分けることが、今後のAI活用のコアとなります。コンタクトセンターにおいても、AIエージェント群、つまりマルチエージェントシステム(MAS)の最適配置が重要なポイントです。
これらのテックトレンドを押さえつつ、どんな重要な視点を持てばよいのかを考えてみます。
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TPIJが提唱する、2026年に持つべき「6つの最重要視点」

2026年のコンタクトセンターにおいて、AIは「実験的」フェーズからすでに「実戦」のフェーズに突入しています。
最新のAIトレンドをベースに、TPIJが提唱する「6つの最重要視点」を解説します。
1. データ基盤なきAI活用は成立しない
AI活用によるベネフィットを最大化するうえで重要なのが、統合されたデータです。部署ごとでサイロ化が発生してデータが断片化している場合、AI活用の利点を最大限享受することは不可能です。そこで、シームレスな体験を支えるためのデータ基盤が必要になります。
2. AIエージェントは「指揮」してこそ意味を持つ
特定の業務プロセスに特化したAIエージェントを複数で導入し、それらを統合制御する―オーケストレーションの視点が必要です。つまり、複数のシステムを横断し、払い戻しや予約変更などの手続きを最後まで、人間の手を介さずやり遂げるマルチエージェント(AIエージェント群)をオーケストレートする設計が、今後のセンターの心臓部となるというわけです。
3. 品質は人とAIを分けて考えない
自律的に動くAIが増えるからこそ、品質の物差しを標準化する必要が生じます。したがって、統一された基準(人間とAIに同じスキルの分類体系を適用)を共有し、AIベースのQA(品質管理)によって「すべてのチャネル上での応対・会話」をリアルタイムで評価することで、誰・何が対応しても変わらない体験が維持できることになります。
4. サポートは「待つ」から「先回り」へ
問い合わせが来る前に、動く。2026年もこのトレンドに一層拍車がかかると思われます。データ基盤が整ってAI活用が真の力を発揮してくれば、顧客のサイト閲覧履歴を基に予測分析や音声解析によるリアルタイムの課題特定などを通じて、AIは顧客の不満を「察する」ことができるようになります。顧客が電話をかける前に、そしてチャットで文字を打つ前に、AIが先回りして問題を解決するプロアクティブなサポートへ。
受動的な「待ちが基本のサポート」から、攻めの運用へとシフトします。いわばハイパーパーソナライゼーションの時代へと入っていくのです。
5. ガバナンスと透明性はブランド資産
ブランドの信頼性の担保を、AIに任せることはできません。AIが走っているからこそ、「なぜそう判断したのか」という問いに対する透明性とガバナンスが不可欠です。プライバシー保護を設計段階で組み込み、AIでデータ侵害もリアルタイムで監視する。セキュリティをしっかり固めることで、信頼というブランド資産を守ることができます。
6. エフォートレスEXが人の価値を高める
AIが普及してからずっと人々の頭から離れないのが、いつか自分はAIに取って代わられるのではないかという恐怖心です。発想の転換が必要です。人間がやらなくても良い仕事を、AIにやってもらう。ストレスフルで無意味な作業や操作から解放されることで、オペレータは人間にしかできない仕事に一層注力できます。信頼の構築、共感、そして複雑な意思決定。高付加価値な対話。反復作業の排除が、EXを向上させます。
これら6つの視点が、AIがインフラ化し、AIエージェントがカスタマーサポートの現場に浸透してくるであろう2026年を泳いでいくのに必要となる視座を与えてくれます。
「どの港に向かっているのかを知らなければ、どんな風も順風にはならない」
その昔、ローマの哲学者セネカが残した言葉です。
これまで見てきた6つの最重要視点は、これからの激流を泳いでいくための具体的な地図にほかなりません。しかし、どれほど具体的な視点や視座を持ち、精巧なロードマップを描き、最新のテクノロジーをそろえたとしても、自らが「どこへ向かいたいのか」という確かな意思がなければ、この荒波で自分をうまくコントロールしながら泳いでいくことはできません。
AIが一層普及し、インフラ化し、ある意味でAIが「姿を消す」ようになるであろう2026年以降の変革期において、私たちが持つべきなのは、「どの技術・ソリューションを導入するか」ではなく、「人間とAIが協力することで、何を成し遂げたいか」という本質的な問いでしょう。
それこそ2026年は、「人間の役割を排除するのではなく高める」ために必要な時間と言えます。AIエージェントが人間の傍らで動き、サポートし、定型業務を自律的にこなすようになれば、人間は戦略や創造性、そして信頼の構築という人間にしかできない価値を生み出し続けることができます。Salesforceの知見が示す通り、今後は「自社ビジネスの文脈において、AIシステムが一貫して信頼できるパフォーマンスを出せているか」を厳格に問えるかどうかが、企業の命運を分かつことになるでしょう。
シームレスなデータ活用が可能となる基盤、確かなセキュリティとガバナンスの上に築かれたAIを「信頼できるパートナー」として中心に据えた設計戦略を描くことが、真の意味でのテクノロジーと人間のコラボレーションを実現させることに繋がるはずです。トレンドという波に呑まれるのではなく、正しい問いを掲げ、一緒にこの荒波を泳いでいきましょう。




