近年、デジタルチャネルを通じた顧客接点が急速に拡大する一方で、「本人確認」の在り方にも変化が求められています。

パスワードやPINコードなどの従来手法は利便性に優れる一方で、なりすましや情報漏洩といったリスクを抱えています。さらに、生成AIの進化により、詐欺やサイバー攻撃の手口はますます巧妙化するばかりです。

本記事では、セキュリティの高さと顧客からの信頼が何よりも重要な金融・保険業界に焦点を当てます。そして、「生体認証」を活用することで、本人確認プロセスにおける「セキュリティ強化」と「顧客体験向上」をどのように両立させるかを解説していきます。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

【この記事が解決するお悩み】

  • 金融・保険業界で必須な本人確認プロセスにおいて、現在はセキュリティ強度と顧客体験がトレードオフになっている
  • シニア層の顧客にとっても負担の少ない生体認証を知りたい

 

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生体認証に関する現状

顧客体験を損なわない認証方法が求められています。そこで注目されているのが「声紋認証」という生体認証技術です。

スマートフォンやパソコンのロック解除をはじめ、生体認証は私たちの日常に広く浸透しています。指紋や顔認証は身近な存在となりましたが、「それだけで安全に認証が完結するケース」は依然として多くありません。

総務省が提供している「個人認証に関わる周辺状況」によれば、生体認証が単独で普及しきれない背景には、「セキュリティ強度の不安定さ」や「オンライン上におけるプライバシーへの懸念」が指摘されています。

実例として、すでに以下のような「なりすまし」が発生しています。

  • 偽造指紋によるロック解除
  • 高精度な顔写真や3Dマスクによる顔認証の突破
  • 光彩画像を使った偽造アクセス 

さらに、生成AIの進化により、音声や画像を使った「ディープフェイク」が現実的な脅威となっています。

このような状況の中、金融・保険業界のようにより高い機密性を求められる業界では、より強固で、顧客体験を損なわない認証方法が求められています。そこで注目されているのが「声紋認証」という生体認証技術です。

通話中の発話から本人確認を行える生体認証技術として「声紋認証」が注目されています。

金融・保険業界では、窓口対応にくわえてコールセンターが主要な顧客接点となっています。しかし最近では、コールセンターを狙った「ボイスフィッシング」被害が急増しています。さらに、2025年7月には、金融・保険業界における「フィッシングに耐性のある多要素認証」の導入が義務化されました。

こうした現状を背景として、通話中の発話から本人確認を行える生体認証技術として「声紋認証」が注目されています。

「声紋認証」とは、顧客の発話から発音・アクセント・スピードなどの行動特徴と、声道・声帯などの身体的特徴を抽出した「声紋」によって個人を特定する方法です。通話に特化した生体認証技術なので、コールセンターと非常に親和性が高いと言えます。

生体認証技術の声紋認証を活用することで顧客が幸せになっている

コールセンターにおける本人確認は、顧客との最初の接点でありながら、「毎回時間がかかる」「何度も同じことを聞かれる」といった不満が多い工程です。

とくに金融・保険業界では、本人確認の厳格化により、1件あたりの本人確認に2分前後を要することも珍しくありません。

お客さまにとって「本題に入る前の2分」は、心理的ストレスであり、顧客体験を大きく低下させる要因です。クレームやカスタマーハラスメントの引き金になるケースも少なくありません。

とはいえ、本人確認プロセスを簡易化したり省いたりすることで、セキュリティの低下を招くことは許されません。現場では依然として、「本人確認の簡略化」と「セキュリティ強化」がトレードオフの関係にあります。

このジレンマを解消するカギが、「声紋認証」です。

声紋認証は、セキュリティ強化と顧客体験向上を両立する認証方法として成果を上げています。

声紋認証がどのような具体的効果をもたらすのか、実例と共に見ていきましょう。

アフラック生命保険株式会社では、従来の本人確認に約2分を要していたものが、声紋認証の導入後は約30秒で完了するようになりました。

ユーザーは発話するだけで本人確認が完了します。そのうえ、オペレータも確認手続きにかける時間を削減できるので、お客さまが抱えている課題や悩みといった本題により集中することができます。

また、アジアの大手銀行では、本人確認時間が平均30〜40%削減され、顧客満足度は25%以上向上したという報告もあります。

このように声紋認証は、セキュリティ強化と顧客体験向上を両立する認証方法として成果を上げています。

金融・保険業界ではシニア層の比率が高い。声紋認証なら「話すだけ」で完結するため、操作に不安や不信感、ストレスを感じさせない

声紋認証がもたらすメリットは本人確認の「時間短縮」だけではありません。顧客体験を高める5つの効果を紹介します。

安心感の向上:声そのものがパスワードになるため、「なりすまし」への対策として有効であり、セキュリティの高さを顧客自身が実感しやすい

ストレスの軽減:住所・生年月日などの個人情報を毎回口頭で伝える必要がなくなり、心理的ストレスの軽減が見込まれる

一貫した体験の提供:どのオペレータが応対しても、必ず同じプロセスで認証が行われるので、応対品質にムラが出にくい

本題へのスムーズな移行:顧客がコールセンターへ電話をかけてきた本題へと素早く移行できるので、お客さまの迅速な課題解決へ貢献できる

デジタルリテラシーに依存しない:金融・保険業界ではシニア層の比率が高い。声紋認証なら「話すだけ」で完結するため、操作に不安や不信感、ストレスを感じさせない

声紋認証には、主に2つの方式があります。「アクティブ認証」と「パッシブ認証」です。

声紋認証はさまざまな要素によって顧客体験向上に寄与します。その効果を最大限にするため、声紋認証ツール選定時にチェックするべきポイントを解説します。

声紋認証には、主に2つの方式があります。「アクティブ認証」「パッシブ認証」です。

アクティブ認証:顧客に特定のフレーズを読み上げてもらうことで、登録済みの声紋情報と一致しているか否かを確認する方法

パッシブ認証:自然な通話の中で、発信者の声が事前に登録された顧客の声紋情報と一致するかを自動で特定する認証方法。対話の中で本人確認を完結できるのが特徴。

各方式に優劣はありませんが、通常の応対業務と並行して本人確認を済ませられる効率の良さから、国内外を問わずパッシブ認証の導入が一般的になっています。とはいえ、重要なのは自社の業務プロセスに合った方式を選ぶことです。

くわえて、声紋登録にかかる手間や時間についても確認するようにしましょう。声紋の登録に多くの時間や手間がかかる場合、とくにシニア層のお客さまにとっての心理的負担や、信頼感の損失に影響するからです。

参考情報:声紋登録は10秒以内で完了。認証は最短2.5秒。アクティブ/パッシブ認証のどちらにも対応している声紋認証ソリューション「VoiceDNA

声紋認証は、生体認証技術の中でもとくにコールセンターと親和性の高い認証方式です。

従来の本人確認プロセスに比べて、セキュリティ強度を維持・強化させながら、顧客の手間やストレスを軽減し、結果的に顧客体験の向上に大きな効果をもたらします。

「信頼」が何よりも重要な金融・保険業界において、声紋認証は安全性と利便性の両立を実現する有力な手段と言えるでしょう。