今や多くのコールセンターにおいて、AI導入だけでなくAIの本格活用が進められています。AI導入の効果を実感できたり、データとして効果が可視化されたりする場面が増えたのではないでしょうか。
一方で、「さらにAIを活用したい」「最大限のメリットを享受したい」という願いも強まっています。
この記事では、「AI導入効果で得られた時間」に注目して、これまでとは異なるAI活用の側面を解説していきます。創出できた時間の3つの活用法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
AI導入によって業務は効率化できたけど、いまひとつメリットを享受できている気がしない
AI活用で生まれた余裕をもっと有効活用したい
「人間にしかできない業務」を強調されるけど、具体的に何をするべきかわからない
AIで時間を創出
生成AIを導入する際、一般的に大きな目標とされるのは業務の効率化や自動化です。企業からのそのような期待と投資を一身に受けるAIですが、導入効果のひとつとしては「時間の節約&創出」が挙がります。この効果は業界を問わず見られるものです。
The Adecco Groupが公開しているGlobal Workforce of the Future(2024年版)によれば、AI活用の効果として1日あたり平均1時間、最大2時間の時間的節約が実現できているといいます。
節約できる時間に個人差はあるものの、人によっては1日あたり3〜4時間の節約を達成できているのです。
こうして創出された時間は、何に充てられているのでしょうか。一例ですが、以下のような分野で活用されています。
- 創造的作業
- 戦略的施行
- ワークライフバランスの改善
- リスキリング
やはり「人間にしかできないもの」「人間の方が向いている業務」に時間を活用する流れがあると言えます。
従業員満足度を向上させる時間の活用法3選
コールセンターにおいて「人間にしかできない業務」といえば何があるでしょうか。ここからは、AI導入効果として得られた時間の使い道を3つ紹介します。いずれも「人間の方が適役」あるいは「人間にしかできないもの」と言える分野ですので、ぜひ参考にしてください。
ナレッジの鮮度の維持・向上
コールセンターにおけるAI活用シーンのひとつに、後処理業務の自動化があります。AIによる自動要約で平均後処理時間を短縮し、応対履歴の品質を平準化するのです。
ナレッジをつねに最新で実用性のあるものとするには、応対履歴の品質を高く維持することがポイントとなります。AI活用によって実現した高品質な応対履歴と時間を活用し、問い合わせまでの動線やコールリーズンの分析をしてみましょう。
この取り組みにより、ナレッジの鮮度を維持・向上させることができ、自己解決率や顧客満足度の向上をはかることが可能です。顧客接点としてのコールセンターをさらに洗練させることができます。
▶参考情報:平均後処理時間の短縮に効く最新のAIプラットフォーム「GIDR.ai(ガイダーエーアイ)」
オペレータとのコミュニケーション強化
オペレータやSVとのコミュニケーションの機会を増やすことは、従業員からのフィードバックを得られるチャンスが増えるということです。
現場のオペレータは、リアルタイムのVOCをもっとも多く把握しています。彼らとのコミュニケーションが充実するなら、お客さまからの声を正確かつ迅速にキャッチすることが可能です。そのため、より良い顧客体験に向けた現実的な施策を講じやすくなります。
結果として、顧客満足度の向上やロイヤルティの獲得といった、コールセンターが最終的に目指している成果へとつながることが期待できます。
くわえて、「自分の声が採用される」「フィードバックが評価される」という従業員体験は、オペレータのセンター定着率へ直結します。
株式会社プロシードとCOPC社との合同調査によれば、「自身のチームリーダーが自分の意見を重視している」と感じている従業員の84%が、「今後12ヶ月間、組織にとどまる可能性が高い」と回答しています。逆に「自分の意見が重視されていない」と感じている従業員で、組織にとどまると回答している人はわずか17%しかいません。
定着率を向上させるには、オペレータとよく意思の疎通を図り、スタッフの声を聞き、業務の改善や発展に活かしていくことが必要不可欠です。センターに対する定着率を上げられるなら、比例して離職率を下げることができます。現在多くのコールセンターで課題となっている人材不足や離職率へのアプローチともなるのです。
従業員のウェルビーイング向上
概してコールセンターのオペレータはストレスがたまりやすい職業です。そのため、これまでもオペレータのメンタルヘルスケアや負担軽減への取り組みは重要視されてきました。
とはいえ、業務内容の調整や効率化の第一目的として、ワークライフバランス改善やウェルビーイング向上を掲げるのは、意外と勇気が必要なことです。
理由の一つに、売り上げや顧客数といった利益へのつながりをイメージしにくいという要素が上がります。とはいえ、実のところ従業員満足度(ES)なくしては、顧客満足度(CS)は得られません。
これは、1994年にハーバードビジネススクールのヘスケット教授とサッサー教授によって提唱された「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」(=従業員満足度・顧客満足度・企業利益の間には因果関係がある)によって裏付けられます。
さらに、以下のようなデータもあります。
・従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)との間に、99%の因果関係が認められた(MICコミュニケーション、ウエスタン・ユーロピアン・マネー・センター銀行、メイジャーUSトラベル・サービス、ランク・ゼロックス)。
・ESが1%増加すると、CSが0.22%増加する(メリー・メイド社)。
出典:「カスタマー・ロイヤルティの経営―企業利益を高めるCS戦略」(ジェームス・L.ヘスケット他)
既出の株式会社プロシードとCOPC社との調査では、「チームリーダーが自分のウェルビーイングを気にかけてくれている」と感じている従業員の82%は、「仕事に満足している」と回答しています。
ワークライフバランスの改善によるウェルビーイングの充足は、仕事へのモチベーション、パフォーマンス、愛着へと影響することがうかがえる結果です。
「AIの導入により生み出せた余裕は、実務そのものに充てるべきではないか」と思われますか。冒頭で触れたGlobal Workforce of the Future(2024年版)の調査を見ると、AI活用により27%の人がワークライフバランスを改善できたと感じています。
つまり、AIツールの活用で成功している企業は、創出された時間をワークライフバランスの改善に充てているのです。
もちろん、「オペレータとのコミュニケーション強化やウェルビーイング向上は、売り上げや顧客数といった数値的メリットにつながりにくいのではないか」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、前述したとおり従業員満足度の獲得と向上なくしては、顧客満足度向上の実現は困難と言えます。従業員満足度こそが、オペレータのモチベーションや向上心の支えとなり、センターへの帰属意識や愛着ともつながっていることを忘れないようにしましょう。
最後に
AI導入によって生まれた時間を、どの分野へどれだけ充てるかに正解はありません。各企業のニーズに合わせて時間を活用することがベストだからです。
とはいえ、創出された時間を「コア業務や近しい業務に充てなければいけない」という縛りを設けるのはもったいないと言えます。むしろ、人材不足や業務の多様化に取り組む中でやっと生まれた余裕なので、いわゆる地固めや、これからのさらなるチャレンジに備えた準備に活用していけるでしょう。AIは業務の自動化・効率化だけでなく、従業員満足度向上やスタッフの「働きやすさ」につながるものなのです。
AI導入のネクストステップとして、従業員満足度向上による「真のAI活用」を掲げてみるのも良いかもしれません。