生成AIの登場と本格活用、それに伴う人材配置や育成といったリソースマネジメント、一方で解消されない人手不足など、センター長に求められる資質や役割は大きく変化しています。

コールセンタージャパン2023年8月号」では、「従来のコンタクトセンターが追求してきた最重要課題が…『安定稼働』だったのに対し、現在は『変革』の主導が最大のミッションになっている」と指摘されています。

この記事では、今のコンタクトセンターにおいて、現場を「安定稼働」させつつ「変革」をもたらせる「良いセンター長」になるには何をすべきかについて解説していきます。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

この記事が解決するお悩み

センター長に変化が求められていることはわかっているけど、どんなことを意識すべきか不明確

異動でセンター長へ就任したけど、どうすれば「良いセンター長」になれるのか分からず不安

 

 

イベントカレンダー

 

コンタクトセンターにおけるセンター長の役割

コンタクトセンターのトップマネージャーであるセンター長の主な役割は、「コンタクトセンターの経営」です。とはいえ、その仕事内容は以下のように多岐に渡ります。

  • 収益の管理
  • SVが完了できなかった案件の対応
  • プロジェクトの管理
  • センター内外におけるやり取り

これまではオペレータからSVの経験を経てセンター長になるパターンが多く見られました。最近では別部署からの異動によるセンター長就任のケースが増えています。

ひとことにセンター長といっても、現場での経験や専門知識の蓄積度合いなどに差が生じるのが現状です。しかし、経歴や知識に関係なく「良いセンター長」であるために押さえるべきポイントがあります。

「良いセンター長」であるための3つのポイント

現代のコンタクトセンターにおいて「良いセンター長」であるためには、どのようなポイントを押さえるべきなのでしょうか。具体的な3つのポイントを解説します。

1. センターの価値を高める

良いセンター長として、誰へどのようにセンターの価値を明示していけば良いのでしょうか。「コールセンタージャパン2023年8月号」に掲載された3人のセンター長は、いずれも共通の視点をもってセンターの価値を押し上げました。「コンタクトセンターをいかに会社発展のために有効活用し、センターの価値を高めていけるか」という視点です。

ここからは「コンタクトセンターを会社発展のために有効活用する」という視点を前提にしつつ、センターの価値を高めるための具体案を2つ紹介します。

基本業務を経営貢献として可視化する

顧客接点の最前線として常に顧客体験や満足度の向上を図るコンタクトセンターとは裏腹に、センターが達成している高い顧客満足度に強い興味・関心をもつ経営層は少数です。

そのため、センターが実現してきた顧客数の増加率や売り上げの伸長率などを、企業全体の経営指標に沿ってアピールすることは、センターの価値を高める上で必要不可欠です。経営層にとって馴染みのあるデータとして、コンタクトセンターの実績を可視化するのは効果的です。

まずは、センターが日々意識し実現してきた「顧客満足度の維持・向上」が、売り上げアップにつながることを理解してもらえるようにしましょう。顧客満足度と売り上げとの関係性が明確になれば、顧客満足度の根幹となる従業員満足度向上の重要性を受け入れてもらいやすくなります。

多くの「良いセンター長」は、お客さまだけでなくオペレータの満足度も意識しています。

そのため、従業員満足度向上を目指した大胆な社内変革へチャレンジすることがあります。従業員満足度の重要性を経営層に受け入れてもらうことは、チャレンジを成功に導くための大切な土壌です。

コンタクトセンターが実現してきたものや基本業務の効果を可視化するなら、社内におけるセンターの価値を確立させ、従業員満足度向上をはかるための安定した土台構築へとつながります。

他部署の活動を支援する

「コンタクトセンターが他部署…たとえば開発や技術サポートといったチームを支援するのは現実的ではない。むしろ非効率的ではないか」と思われるでしょうか。

「即戦力としてのマンパワー」という観点で、専門スタッフに劣ることなく業務をこなすというのは難しいかもしれません。しかし、お客さまに一番近い存在であるコンタクトセンターは、あらゆる情報の宝庫です。

コンタクトセンターがもっとも蓄積しやすく、他部署において生かしやすい情報資源の一つがVOCです。お客さまのリアルな声を、部署の垣根を越えて常に共有できているなら、お客さまを第一に考えた製品開発やサービス提供に生かしていけます。

また、オペレータは幅広い顧客対応を行っているため、多岐にわたる豊富な業務・製品知識や、顧客対応スキルを備えています。マルチな能力を持ち合わせるオペレータを他部署へ派遣していくなら、「人材輩出機関」としての新たなポジションを確立することが可能です。

「他部署はコンタクトセンターの何を魅力的と捉えるのだろう」「どんな技術や知識を新たな価値として社内に提供できるかわからない。既存の価値しか見いだしてもらえないのではないか」という場合は、外からの客観的な視点を参考にしてみましょう。

たとえば、他部署からコンタクトセンターへ異動してきたセンター長は、現場では気がつきにくい価値を発見できる傾向が評価されています。外からの視点ゆえに気がつく魅力を最大限に生かせれば、独りよがりになることなくセンターの価値を高めていけます。

2. リスキリングする

現場と対話し、現場に変革をもたらしていくには、センター特有の知識に対する深い理解が不可欠です。とりわけ、センターのトップマネジメントであるセンター長は、コンタクトセンターにおけるKPIの意味や相関性、コントロールの仕方を熟知していなければいけません。

前述の3人のセンター長の一人であるリコージャパンデジタルサービス営業本部 CXセンター センター統括部 部長の加藤道夫氏は、以下のように述べています。

レポートを読み解くスキルは実務を通して学んでいきました。KPIの相関関係をきちんと理解しておかなければ、他部署や経営、現場のオペレータに対する説明も説得力を持たせられません。」

保守サービスからコンタクトセンターへと異動した加藤氏にとっては、コンタクトセンターにまつわる専門的な知識の習得は、まさにリスキリングであったと言えます。加藤氏は、リスキリングによる正確な知識とエビデンスに基づいて、コンタクトセンターと保守サービス部門や営業部門との連携体制強化や、情報を迅速にフォードバックできる体制の実現を今後の目標に掲げています。

センター特有の知識やスキルをリスキリングすることは、経営層と現場のそれぞれへの発信力強化に直結します。発信力の強化は、センター変革を主導していく上で大切な要素です。

また、現場と足並みのそろった対話をしていくなら、オペレータから信頼され、頼られたり意見を出してもらえたりして、センター全体の能動性を向上させ、より活発な雰囲気を醸成できます。結果として、従業員満足度と顧客満足度の両立が可能な「良いセンター長がいる良いセンター」へと発展していけます。

3. SVをサポートする

コンタクトセンターにはSVの存在が欠かせません。センターによっては、センター長に続くポジションがSVです。しかし、現在のSVという役職は、キャリアにまつわるネガティブなイメージが払拭できていません。SVのキャリアパス問題を背景として、最近では「AI人材としてのSV」が注目されています。

SVがAI人材になると、SV職に関するキャリア問題へアプローチできるだけでなく、オペレータ職のスペシャリストとしてのこれまでの経験やノウハウ、ポテンシャルを経営資源化することが可能です。また、キャリアを含む「働き方」に関するストレス要因を解消することにより、コンタクトセンター全体の品質や業務姿勢の維持向上につながります。

とはいえ、優秀なSVをAI人材として任命するだけで良いというわけではありません。SVがAI人材として活躍していくためには、AIに関するリスキリングが必要不可欠です。たとえば、最新のITリテラシーやAIプロデュース力などを学ぶことが求められます。

そのためセンター長は、SVがリスキリングするための時間を創出しなければいけません。SVをより魅力的な役職として輝かせ、AIを効果的に活用し、変革のための旗振りをしていくには、SV育成の全面サポートがポイントとなります。

SVはオペレータたちにとって身近なロールモデルです。SVの仕事への向き合い方は、センター全体への影響力をもちます。「良いセンター長」として、これまで以上に良いセンターを築いていくためには、SVへの手厚いサポート体制と協力関係が欠かせません。

最後に

コンタクトセンターで求められる業務やスキルが多様化するのと比例して、良いセンター長に求められる要素も多様化しています。

これまで求められてきた「安定稼働」に加え、今求められる「変革の主導」を実現する「良いセンター長」となるためにぜひ3つのポイントを意識していきましょう。