コールセンターにおけるナレッジ共有は必須と考えられています。なぜでしょうか。
コールセンターでは、「トークスクリプト」や「マニュアル」を見ながら顧客対応をすることが日々行われています。つまりコールセンターには、「応対フローの見える化がしやすい」「PDCAを回しやすい」環境があるのです。そのため、コールセンターではナレッジマネジメントの効果が出やすいといわれています。
しかし、ナレッジマネジメントの運用をスタートさせたり、継続させたりすることは簡単ではありません。
今回は、コールセンターのナレッジ共有が重要な6つの理由と、ナレッジマネジメントのスタートや継続に生成AIをどのように活用できるのか解説します。失敗しないナレッジマネジメントの運用方法についても説明するのでご覧ください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニュー(CBA)が解説します。
コールセンターのナレッジマネジメントとは
コールセンターにおけるナレッジマネジメントとは、センターに蓄積されているナレッジ(知識)をマネジメント(管理)して、顧客対応に役立てることです。
ベテランオペレーターやSVなどが蓄積してきた個人レベルの「ノウハウ」「コツ」「経験」など見える化されていない「暗黙知」を、センター内で共有できるように「形式化」していくことをナレッジマネジメントと言います。
ナレッジマネジメントを実施することによって、個人レベルで培ってきたナレッジが属人化することを防げます。そして、センター内にいる誰もが活用できる環境を作りだすことができるのです。
一般的なナレッジマネジメントの種類は、以下の3つのタイプです。
FAQタイプ―一般的な質問に対する回答や、過去の対処事例などをデータベース化するタイプ
チャットタイプ―社内チャットのテキスト情報をデータベース化するタイプ
センター内wikiタイプ―各オペレーターが自由にナレッジを書き込み全員が閲覧できるタイプ
ITソリューションの分野で最も注目されているのは「オペレーター向けFAQ」です。コールセンター白書2022によると、業界の62%がFAQタイプを用意しています。
コールセンターのナレッジ共有が重要な6つの理由
ナレッジマネジメントをスタートさせるのは簡単ではありません。また、運用を開始しても「管理が面倒だ」と感じることがあります。
しかしナレッジマネジメントには、時間、エネルギー、費用といったコストをかけるだけの価値はあります。
ここでは、コストをかけてでもナレッジマネジメントをするべき6つの理由を紹介します。
- オペレーターをコミュニケーション能力重視で評価できる
- 顧客向けFAQに流用できる
- 育休・休職明けのSVやベテランのフォローに活用できる
- 離職率を下げられる
- 研修コストと期間の効率化
- コールセンターと技術部門のナレッジギャップの解消
それぞれの理由について説明します。
1. オペレーターをコミュニケーション能力重視で評価できる
現在のコールセンターのトレンドとして、オペレーターには「専門知識」よりも「コミュニケーション能力」を求めるようになっています。
コールセンター白書2022の調査によると、「オペレータに最も求めたいスキル」を聞いた結果、56%が「対話マナーなどのコミュニケーション能力(ホスピタリティ能力)」と答えました。求めるスキルとして、専門知識はわずか12%、問題解決能力は23%でした。
これは、「専門知識や問題解決能力は、ナレッジマネジメントでサポートしていける」と考えているコールセンターが多いことの表れです。つまりナレッジマネジメントをしっかり行えていれば、オペレーターをコミュニケーション能力重視で評価し、本当に顧客満足度向上につながる人材だけを確保していけるということです。
2. 顧客向けFAQに流用できる
ナレッジマネジメントのために用意したコンテンツは、センター内だけで活用するわけではありません。顧客のためにも活用できます。
企業サイトに公開している「よくある質問」といったFAQや、チャットボットに流用していけます。ナレッジマネジメントは、顧客の自己解決率の向上につながっていくのです。
3. 育休・休職明けのSVやベテランのフォローに活用できる
育休・休職明けのSVやベテランオペレーターが現場に復帰する際には、休んでいた間にアップデートされたナレッジを復習しなければいけません。しかし、すべてのナレッジを読み込み、覚えるのは大変です。
ナレッジマネジメントがなされていれば、業務をすぐに再開しながら、必要なタイミングで必要なナレッジを参照していけます。
4. 離職率を下げられる
コールセンターでは、オペレーターの離職率の高さが問題となっています。離職が進む理由の一つは、顧客からのクレーム対応にストレスを感じるということです。
そこで、よくあるクレームの内容や対処法が共有されていれば、オペレーターの不安やストレスを軽減できるでしょう。
5. 研修コストと期間の効率化
オペレーターの研修は業務知識を覚えるだけではありません。ベテランオペレーターが蓄積してきた属人的なナレッジを共有するために、かなりの時間と費用が必要になります。
ナレッジマネジメントがなされていると、ベテランオペレーターの「ノウハウ」「コツ」「経験」のすべてがデータベース化されています。誰もが参照できます。新人オペレーターは実際の業務を行いながら、ナレッジを参照していけるのです。
これまではベテランオペレーターが離職すると属人化されていたスキルがそのまま消えてしまっていましたが、ナレッジマネジメントによってベテランのスキルはそのままセンターの財産となり、新人オペレーターへと引き継がれていきます。
6. コールセンターと技術部門のナレッジギャップの解消
カスタマーサポートを行なうコールセンターでは、センターと技術部門が連携して顧客対応をするケースがあります。その場合、オペレーターと技術者の間でナレッジギャップが生じることがよく観察されます。
しかしナレッジマネジメントがなされていれば、ギャップを最小限に抑えて、業務効率を向上させられます。
コールセンターのナレッジマネジメントにおける課題
ナレッジマネジメントを実施するメリットは数多くあります。しかしナレッジマネジメントを継続しているセンターでは、以下の3つの課題に直面します。
- ナレッジベースの更新が大変
- ナレッジが膨大すぎて検索が大変
- ナレッジマネジメントが評価されない
各課題について見ていきましょう。
ナレッジベースの更新が大変
ナレッジベースは常に最新でなければ意味がありません。そのため「更新作業が大変で追いつかない」という課題が時おり見られます。
コールセンター白書2022によると、「FAQなどのナレッジベースの管理について」誰が担当をしているかの調査がなされた結果、一番多い回答が「SVが兼務している」(45%)でした。
SVはすでに多くの業務を行っています。オペレーターのフォロー、クレーム対応、他部署への引継ぎ業務、シフト作成などです。これらの業務に加えて、ナレッジベースの管理も任されているのです。
SVの業務負荷が大きくなるため、更新が滞ったり、更新の質が落ちたりしてしまいます。
ナレッジが膨大すぎて検索が大変
ナレッジが蓄積されてくると、「データが膨大になりすぎて必要な情報をすぐに取り出せない」という状況が発生します。
せっかくコストをかけてナレッジベースを作ったのですが、検索が大変なのでナレッジがあまり活用されないという事態が起きてしまうのです。
ナレッジマネジメントが評価されない
ナレッジマネジメントの効果は数値化しにくいため、取り組みが経営陣から評価されにくいといった課題があります。
とくに有料ツールを使ってナレッジマネジメントをしている場合は、厳しく成果の提出を求められることがあります。
最初の二つの課題の解決策は、生成AIの活用です。次の項で詳しく解説します。三つ目の課題の解決策については、後ほど「ナレッジマネジメントの目的と評価方法を明確にする」の項で触れます。
コールセンターのナレッジマネジメントは生成AIにまかせよう
ナレッジベースの作成、更新作業、運用を効率的に行っていくために、生成AIを活用しましょう。生成AIによって、どのようにナレッジマネジメントを行っていけるのでしょうか。
FAQの自動生成
オペレーター向けFAQの作成に、生成AIを活用できます。生成AIにこれまで蓄積してきた顧客との通話内容のテキストデータを解析させ、FAQを自動生成してもらいます。
もしセンター内に既存のFAQがあれば統合することも可能です。社内wikiに情報を追加することもできます。
生成AIは日々の通話内容も解析し続けますので、ナレッジベースの更新作業を任せられます。
生成AIによる回答のリアルタイムサジェスト
生成AIを活用すると、顧客の質問に対する答えをAIがオペレーターへ提案してくれます。
具体的にAIはどのような働きをするのでしょうか。AIは、オペレーターと顧客との会話内容をリアルタイムで解析し、質問内容を特定します。
その後、ナレッジベースから関連情報を自動検索し、関連情報をベースにして回答を生成してくれるのです。
ナレッジマネジメントの失敗しない運用方法
ナレッジマネジメントの運用を継続していくためには、生成AIの活用に加えて、以下の4つのポイントが役立ちます。
- ナレッジマネジメントの評価方法を決めておく
- 専任者を設ける
- 中堅オペレーターから使ってもらう
- ナレッジのカバー率は75%で十分
一つ一つ簡単に説明していきます。
ナレッジマネジメントの評価方法を決めておく
経営陣や他部署にナレッジマネジメントの効果を理解してもらうためには、評価方法を決めておく必要があります。
もしカスタマーサポート業務において、技術部門への引継ぎ回数を減らすことが目的でナレッジマネジメントを始めているのであれば、取組前と後で引継ぎ数を比較することが評価方法となるでしょう。
もしオペレーターの自社サービスへの知識を向上させることが目的であれば、オペレーターへ「ナレッジマネジメントを開始してから自社サービスへの知識が深まったか」というアンケートを実施することができます。取組前と後での対応時間の長さも、評価項目に入れられるでしょう。
専任者を設ける
「ナレッジマネジメントを継続していけるのか」と不安な時には、専任者を設けるようにしましょう。さらに、生成AIを活用する場合でも、専任者を置いておくとナレッジマネジメントの効果的な運用ができます。
ナレッジは、生成AIによる通話内容の解析だけで形成されるものではありません。ベテランオペレーターがナレッジを共有することも必要です。経験のあるオペレーターへの声掛けや、ナレッジを共有しやすい環境づくりが必要になるのです。
専任者がいることによって、センター内向けのナレッジベースの一部を顧客用に公開する判断がしやすくなるでしょう。さらに、専任者を中心に顧客用のチャットボットの運用も始めやすくなります。
中堅オペレーターから使ってもらう
「ナレッジベースをオペレーターが使いこなせるのか」と心配になるでしょうか。実は、ナレッジベースはすべてのオペレーターに使ってもらう必要はありません。
ベテランオペレーターはナレッジベースを見ないで業務が行えますし、新人は提案されたナレッジの是非が判断できないのでかえって業務効率が落ちてしまいます。
新人オペレーターにナレッジベースを活用してほしいときには、表示される内容を限定的にしてください。
ナレッジベースが効果を発するのは、中堅オペレーターです。基本的な対応ができるようにはなったものの、サービスの詳細についてはナレッジを参照しないと自信をもって案内ができないレベルのオペレーターに、ナレッジベースを活用してもらいましょう。中堅オペレーターであれば、ナレッジを参照しつつ顧客対応を進める余裕があります。
ナレッジのカバー率は75%で十分
ナレッジマネジメントにおいて大切なのは、センター内ナレッジの全網羅を目指さないことです。使用頻度の低いナレッジを含めてしまうと、頻度が高いナレッジの提案精度に悪影響が出てしまいます。
ナレッジのカバー率は、問い合わせ内容の75%前後をカバーしていれば十分です。
優先すべきナレッジは、「問合せ数が多い質問」と「オペレーターがよく保留にする問い合わせ」です。
最後に
コールセンターのナレッジ共有が重要なのは、拠点の運営や業務効率化にメリットがあるからです。
オペレーターをコミュニケーション能力重視で評価できますし、離職率も下げられます。新人の研修を効率化できたり、休職明けの人材を有効活用できたりできます。コールセンター側だけではなく、顧客向けのFAQに流用することでCS向上も達成していけます。
ナレッジマネジメントには、時間や費用などのコストがかかりますが、生成AIを活用することでFAQの作成や更新が効率よく行えます。
「ナレッジがベテランに属人化してしまう」「ナレッジがサイロ化してしまう」「新人・中堅オペレーターの誤案内が多い」「ナレッジ検索に時間がかかる」といった悩みは、生成AIを使ったナレッジマネジメントで解消していきましょう。