「コールセンターとコミュニケーション技術の「今」を伝える」というポリシーに則り、コールセンターやCXにまつわる最新情報・トレンドを国内外から広くお伝えしている当ブログですが、今回は「ナレッジマネジメント」にフォーカスします。

「ナレッジマネジメント」という用語、耳にされることも多いかもしれません。そもそも何のことを意味しているのか確認しておきましょう。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントとは、コールセンターへコンタクトされるお客さまのコールリーズンへの対応法を参照可能な知識データとして保存してまとめておき、センター内で共有する仕組みです。

基本的な考え方として、コールセンターにかかってきた問い合わせのコールリーズンをパターンごとに分類して、トークスクリプトなどで管理されたコールリーズンごとの案内内容を、オペレーター全体で共有する取り組みと言えるかもしれません。

コールリーズンによっては、そんなに頻繁に発生はしないものの、いざそのコールリーズンでお客さまが問い合わせされたときにあらかじめ対応法がナレッジとして用意されていれば、ベストな対応が提供できます。次回同じコールリーズンが発生した際にも、対応時間の短縮につながりますし、ひいては生産性や対応効率の向上にも大きく貢献します。

そしてこの取組を実践するのに必要なのが、ナレッジマネジメントプラットフォームやツールです。そういったソリューションの導入により、上述したナレッジマネジメントを通じて、オペレーターは問題解決に必要なコンテンツや情報を見つけやすくなります。

なぜナレッジマネジメント?

新型コロナウイルスの感染拡大による世界的パンデミック下でより一般的となったリモートワーク体制の導入に伴い、在宅型コールセンターへのシフトが進みました。しかし、オペレーター同士のコミュニケーションはデジタルを介したものになるため、センター内で同僚に気軽に確認を取ったりコミュニケーションを取ったりすることが難しくなったという弊害があります。

そのため、ナレッジをより効率的に共有できる仕組みが必要となりました。またパンデミック禍で浮き彫りとなったCXの向上という課題に対応するためにも、ナレッジマネジメントは必要不可欠であり、今まで以上に必要となってくる技術です。

ナレッジマネジメントプラットフォームは、強力なカスタマーサービスツールとしても機能します。たとえば、オペレーターと会話することなくお客さまへの問い合わせや問題に答えることのできるセルフサービスのタッチポイントになるだけでなく、問い合わせ対応中のオペレーターへのサポートにも活用できます。

そんなナレッジマネジメントプラットフォームですが、カスタマーサービスやサービスQAソリューションを展開しているSQM Groupが北米の大手コールセンター500社以上を対象に毎年実施しているベンチマーク調査によると、ほとんどのコールセンターが一元化されたナレッジマネジメントシステムを導入しているということです。そして回答企業の94%が、定期的にナレッジの更新を行っていると回答しています。

しかし、導入したシステムに満足しているのは19%、そしてオンラインナレッジマネジメントシステムを使用していると回答した企業が29%にとどまっています。本調査に寄せられたコメントから、導入されたシステムの使い勝手が、ナレッジマネジメントシステムに対する満足度が低い原因となっていることがわかります。

一般的にコールセンターのオペレーターは、お客さまの問い合わせに対応する際に適切なコンテンツを探すのに、オンライン・オフライン問わず複数のソースから、自身の業務時間のおおよそ10%以上を費やしていると言われています。しっかりと構築されたナレッジマネジメントシステムが導入されていれば、セルフサービスのタッチポイントを利用した顧客体験を実現でき、特に以下の点で非常に効果的です。

  • 初回解決率と顧客満足度の向上
  • 平均対応時間の短縮
  • セルフサービスの強化
  • オペレーターミス(繰り返し架電)の抑制

そこで、ナレッジマネジメントで向上できるKPIを具体的に見ていきましょう。

ナレッジマネジメントにより向上できるKPI

ナレッジマネジメントシステムの導入により大きな向上を見込めるKPIの典型例として、以下の4つに注目できます。

初回解決率

効果的なナレッジマネジメントシステムにより、オペレーターは初期解決に結びつく最適なコンテンツを用意に見つけ出せます。SQM Groupの調査によると、初回解決率が1%向上するごとに、顧客満足度が1%向上することが分かっています。加えて、初回解決率が1%向上するごとに、運営コストが1%減少されることも分かっています。

多くのコールセンターでは、初回解決率の向上が最優先事項に設定されています。同じくSQM Groupの調査から、93%のお客さまが初回解決を期待していることがわかっていることからも、初回解決率がKPIとして重要だということが分かります。

顧客満足度

しっかり更新されているナレッジマネジメントシステムがあれば、オペレーターによる優れたカスタマーサービスの提供に繋がります。さらに、AIを搭載したシステムの場合、顧客サービスのパーソナライズも実現できます。顧客は、たった一度の低い顧客体験で、サービスを離反していきます。

しかしSQM Groupの別の調査によれば、コールセンターで良い顧客体験を経験した95%の顧客が、その企業と取引を継続する意思を表しているということが分かっています。このことからも、ナレッジマネジメントシステムの導入により、顧客体験を改善して顧客満足度を大幅に向上することができます。

オペレーターミス

オペレーターのミスは多くの場合、対応に必要なコンテンツが見つからなかったり、正確でなかったりすることが原因です。そうしたミスの多くは、オペレーターと顧客の間のインタラクションやコミュニケーションを改善することで減らしていけます。

平均対応時間

効果的なナレッジマネジメントシステムは、オペレーターが問題解決に必要となる情報やコンテンツを簡単に得られるライブラリーとしての役割を果たします。単純な話、関連する情報やコンテンツが見つけやすく、理解しやすく、また正確であれば、オペレーター対応時間の短縮につながります。

SQM Groupの調査では、通話時間が長くなるほど初回解決率が下がっていくとのことです。そして、「1-3分の通話時間における初回解決率は76%であるのに対し、15分の場合は62%に増加」するようです。業界平均の通話時間である5-10分では、初回解決率は70%ほどです。ということは、平均対応時間の短縮により、初回解決率および顧客満足度の向上を実現できることになります。

ここまで考えてくると、「初回解決率」と「ナレッジマネジメントシステム」の切っても切れない関係が透けて見えてきますね。

以下より、初回で問題が解決しないのはなぜか?という理由と、ナレッジマネジメントをどう活用できるのかそのベストプラクティスを見ていきましょう。

初回で問題が解決しない理由5選に効くベストプラクティス

理由1:状況確認など、顧客が何度かコールセンターに電話をかけ直さなければならなかった。
ベストプラクティス:ナレッジマネジメントシステムが提供するセルフサービスコンテンツを実装しておけば、オペレーターはまずお客さまにセルフサービスで確認が可能であることをお勧めできます。

理由2:オペレーターから提示された解決策に不満があった。
ベストプラクティス:ナレッジマネジメントシステムを導入して更新しつつ運用している場合、お客さまのコールリーズンや顧客情報(年齢、製品使用状況、売上、以前の顧客満足度)に基づいた解決オプションを、オペレーターは随時取得することができるため、問い合わせてこられたお客さまに寄り添った解決策を提供できます。

理由3:顧客が別の相手(コールセンター外)に電話しなければいけなかった。
ベストプラクティス:ナレッジマネジメントシステムは、いつどこで第三者への電話が必要なのか特定して、オペレーターに三者間通話を実施するようにプロンプトします。

理由4:オペレーターから提示された情報が不完全もしくは不正確であった。
ベストプラクティス:ナレッジマネジメントシステムでは、情報が不完全または不正確なためにお客さまが電話をかけ直した時点で、情報は継続的に更新されます。通話分析を通じて、どの情報が不足していて不完全だったのかを判断して、情報を修正できます。

理由5:顧客が自分のリクエストは対応してもらえていないと感じている。
ベストプラクティス:類似のコール履歴に基づいて具体的なスクリプトおよびアクションがオペレーターに提供されれば、お客さまにおけるコールの繰り返しを避けられます。他部門が関与している場合、ナレッジマネジメントシステムで、処理に別のプロセスが必要になったとのフラグを立てることで、スムーズな対応ができるようにします(たとえば、社内のサービスレベル契約やプロセスが関連する場合)。

最後に

本エントリでは、海外の調査をもとに、ナレッジマネジメントシステムについて見ていきました。ナレッジマネジメントシステムを効果的に運用することで、初回解決率、カスタマーエクスペリエンス、そして顧客満足度を連鎖的に向上させられます。またこの分野には、AIがすでに大きく入り込んできてもいますので、今後ますます進化・普及していくでしょう。

とはいえ、ナレッジマネジメントは、コールセンター業務における生産性向上を実現する一つの方法に過ぎず、本質的な視点として、顧客体験をしっかりと改善して維持するという部分、すなわち、顧客目線の視点を常に持ち合わせていることがコールセンタービジネスの全体的な向上に繋がることは確かです。