「顧客ロイヤルティの獲得」。多くの企業が当然の目標として掲げてはいても、何をもってして「ロイヤルティを獲得した」「ファンになってもらえた」と判断しているのでしょうか。基準が購入金額や購入回数といった「購入活動」に基づいたものである企業は珍しくないかもしれません。
とはいえ「顧客ロイヤルティが大切なのはわかるけど、指標としては比較的曖昧で漠然としている、弱い」と思われる方もいることでしょう。顧客ロイヤルティを明確に数値で表せる調査手法があればどうでしょうか。「自社のファン」を定義しやすくなるのではないでしょうか。
この記事では、顧客ロイヤルティを指標化する「NPS」のメリット・デメリットについて解説します。あわせて、NPSをコールセンターで活用するべき理由も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
NPSとは
「NPS」とは、「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」の略で、「企業やブランドに対し、どれくらいの信頼や愛着があるか」という顧客ロイヤルティを数値化した指標のことです。
アメリカの大手コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」でディレクターを務める、フレドリック・F・ライクヘルドが2003年に発表した調査方法で、シンプルな質問や回答のしやすさがNPSの特徴です。
NPSのスコアによる内訳は上のイラストのようになっています。
〈スコアによる属性分け〉ー0~6: 批判者(DETRACTORS) 7~8: 中立者(PASSIVES) 9~10: 推奨者(PROMOTERS)
「顧客満足度」(CS)との違いは何でしょうか。ひとことで言えば、「収益性との相関が認められるかどうか」です。
上のグラフのように、離反客のうち80%が直前の顧客満足度調査で「満足している」と回答しているとの調査結果があります。「顧客満足度が高い=顧客ロイヤルティも獲得できている」ではない最たる例です。
一方、NPSと収益の関係について、2022年にアパレル業界を対象としてNTTコムオンラインが実施した「NPS®ベンチマーク調査2020【アパレルECサイト】」を見ると、「推奨者」の年間購入金額は、「批判者」の3.1倍であるとの結果が見られます。間違いなくNPSと収益には相関性があると言えるのではないでしょうか。
また、「推奨者」は「批判者」の3倍の口コミを1年間で投稿しているとの結果もあります。ポジティブな内容の口コミが勝手に広まるとすれば、企業としては新規顧客の獲得も期待できる上、カスタマーサービスの質を第三者の目線から裏付ける要素としても活用できます。
また、NPSの調査は商品やサービスの成長度合いについて測る指標としても活用できます。定期的な調査によって成長度合いを見守るのに役立ちます。
あらゆるところでのデジタル化・自動化が進む中、これまで以上に「顧客にどれだけ寄り添えるか」が競合他社と差別化を図るカギとなっています。「自社は本当に顧客に寄り添えているのか」「それが収益として繋がっているのか」を確かめ、その結果を数値で示す手段としてNPSは有効です。
コールセンターにおけるNPSのメリット
では、NPS導入のメリットについて簡単に5つ紹介します。
専門知識がなくても運用しやすい
NPSは、企業や商品、サービスに関する推奨度を問うシンプルな調査方法のため、専門的な知識がなくとも直感的に始めることができます。スコアは「推奨者の割合(%)」-「批判者の割合(%)」で簡単に算出できるので、複雑な分析や集計は必要ありません。
社内の共通指標として活用できる
NPSのスコアは明確に数値化されるので全社で共有しやすく、NPS導入企業の中では、NPSのデータをKPIの一つとして活用している企業も少なくありません。
NPS活用企業の例:楽天グループ、ポーラ・オルビスグループ、富士通株式会社、第一生命ホールディングスなど
結果の比較がしやすい
NPSは世界的に使用されている測定法のため、日本に限定されず、国際的な競合他社と比較しやすいというメリットがあります。NPS調査内に他社製品の推奨度を尋ねる設問を入れれば、顧客ロイヤルティにおける業界内の自社のポジションを瞬時に可視化できます。
とはいえ、これにはいくらかの注意も必要です。注意点については次の「NPSのデメリット」の項目で説明します。
計測しやすい
1つ目のメリットと通ずるところですが、NPSでは顧客に0~11の11段階評価をつけてもらうので計測が非常に簡単です。顧客にとって回答にかかる負担が少ないので、回答を得やすい方法でもあります。
経営に活かしやすい
NPSは収益性と事業成長との相関性が高いので、結果を分析しながら今後の見込みや戦略を立てることに役立ちます。
コールセンターにおけるNPSのデメリット
次にNPSのデメリットについて考えましょう。大きく分けて3つのデメリットを紹介します。
日本ではスコアが低くなりがち
1つ目のデメリットは、日本特有の文化に起因するデメリットです。「中間」を好む日本人はNPSにおいて「5~6」のスコアで回答しがちなため、スコアによる属性で考えると大半が「批判者」となってしまい、お世辞にも良い結果とは言えないデータになる場合が少なくありません。
『ネットプロモーター経営』の著者の一人であるロブ・マーキー氏も、「多くの国で文化的な要因がNPSに影響を与えることはないが日本は別である」と指摘しています。
だからこそ、海外企業とスコアを比較する際には注意が必要です。これがNPSを活用する際の注意点です。
加えて日本には「サイレントマジョリティ」が多い傾向にあるので、可視化された数値が顧客ロイヤルティに関する実態を完璧に反映しているわけではありません。
とはいえ、前述したような日本特有のNPSにおける特徴が分かっていれば、継続的にNPS調査を行い、調査を重ねるごとに確実に数値を上げていくための施策を講じていけます。ソーシャルリスニングといった手法を平行して活用するなら、NPSをより効果的に活用する道も確立できます。
得られる情報が少ない
NPSの特徴である「シンプルさ」を大切にして設問数を少なくすると、当然ですが一人の顧客から多くのデータを得ることは難しくなります。しかし、設問数が少ないことは回答率向上の役に立つので、調査の母数を一定以上に保つためにも欲張らないことが重要です。
科学的な根拠はない
NPSの回答者はあくまでも商品やサービスを利用する顧客なので、科学的な根拠として利用できる数値ではありません。
NPSをコールセンターで活用するべき理由2つ
NPSのメリットとデメリットをそれぞれ紹介しましたが、それを加味しつつコールセンターでNPSを活用するべきだと言えるのはなぜでしょうか。大きく2つの理由に分けて解説します。
オペレーターの品質向上が図りやすい
「オペレーターの品質向上が思うようにうまくいかない」という悩みを抱えたことはありませんか。NPSはこの悩みに対するアプローチとして有効です。コールセンターでNPS調査を行っていると、定期的に顧客からのフィードバックを受けられます。
ひとことに「オペレーターの品質向上」と言っても、「誰から見てオペレーターの品質が向上していると思われたいのか」については全社で共通した認識を持つようにしましょう。企業またはコールセンターが一方的に抱いている「良いオペレーター、良い対応」の像が必ずしも顧客の思うそれと一致しているわけではないからです。
NPSによって顧客からのフィードバックを受け、それをコールセンター内で共有できれば、コールセンター全体または企業として持っている「理想のオペレーター像」を定期的にアップデートできます。そうすると、「今」顧客に求められているオペレーターの対応や技術を正確に把握でき、顧客の真のニーズへ柔軟に応えていけます。この流れがあれば、自動的に顧客満足度の向上が見込めるはずです。
しかし、NPSによるフィードバックをただ受け止めるだけでは、オペレーターの品質向上のためのアクションが漠然としてしまいます。
NPSと合わせて、これまで行ってきた日頃の応答率や解決時間といった業務の分析も必須です。コールセンターシステムにあるレポート・分析ツールをフル活用して、業務プロセスやサポート対応の質などを日々改善していくことは継続的に求められます。
参考情報:レポート機能が充実しているコールセンターシステム「Bright Pattern」
コールセンターの価値を対外的に示しやすい
コールセンターにありがちな悩みとして、「社内でのコールセンターの評価が正当ではない」「経営陣や他部署から『直接的利益を生み出さない部署』と思われている」などが挙げられます。しかし、実際は顧客接点の最前線であるのがコールセンター。だからこそ、コールセンターが生み出している顧客の「満足感」や「信頼」、「愛着」といった目には見えないものを可視化して、対外的にコールセンターの価値を示すことは、コールセンターの価値評価を改善させるだけでなく、企業全体の成長にとっても重要と言えます。一般的にコールセンターでは人件費がかかるため、特に経営層からは、目に見えるコスト面での良し悪しを価値評価の基準とされがちだからです。
満足感、信頼、愛着といった顧客の状態を可視化する手段の一つがNPSです。ご存じの通り、コールセンター業界ではこれまでも「顧客ロイヤルティ」と並んで「顧客満足度」(CS)が重要視されてきました。でも、CSと収益の相関性については、専門家や識者の中でも議論が分かれているのが実情です。
しかし、メリットの部分で触れたとおり、NPSは収益との相関が比較的高い指標として世界的に知られているので、NPSを長期的に実施し、オペレーターやコールセンター全体として改善できそうなことに着手し、確実にNPSのスコアアップを実現していくことには価値があります。
「NPSを定期的に実施する→結果を踏まえて都度品質改善のためのアクションをとっていく→サービスの改善に伴ってCSとNPSが上がる→売り上げ向上」というロジックを経営陣や他部署に示しやすくなります。
最後に
マネジメントの中でよく聞く「顧客ロイヤルティ獲得」や「ファン作り」は、いずれも基準や指標は曖昧で、精神論的なものになりがちです。しかし、NPSという世界共通指標を活用すれば、ロイヤルティを可視化することができ、その推移を見守ることもできます。
もちろんNPSの結果が全てではありませんし、もっと上を目指すに当たってはNPS+αが必要になってきます。しかし企業と顧客との曖昧な関係を可視化する一つの手段として、NPSの活用は有効です。自動化が進み、「パーソナライズ」や「顧客への寄り添い」が重要になってきているからこそ、「顧客ロイヤルティ」を可視化して、ロイヤルティの新規獲得、維持向上へ乗り出す絶好のタイミングではないでしょうか。