高い顧客満足度を実現させるためには、「自己解決率の向上」が重要となります。そのため、顧客の自己解決を促すことを目的として、FAQの整備やボットが活用されてきました。
自己解決ツールの導入と整備が進み、効果を実感したり成功事例が出てきたりする一方で、新たな課題も表出しています。それは、「電話対応の高度化、複雑化」という現象です。
この記事では、コールセンターに立ちはだかる新たな課題に注目します。今後のさらなる複雑化を見据えた対策として、AIによるナレッジマネジメントについて解説し、最後にはおすすめのナレッジツールも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
自己解決率向上は達成できたが、電話応対が高度化・複雑化している
複雑化した電話応対に対応できるノウハウやコンテンツはあるのに、うまく管理・活用できていない
今、ナレッジ共有が重要なワケ
ナレッジ共有の重要性が強調されるのは、今に始まったことではありません。しかし、自己解決ツールの普及と発展により、顧客には新たなニーズが生まれています。
それは何でしょうか。自己解決ツールの充実化により、簡単でシンプルな悩みや疑問はすぐに解決できるようになりました。
一方で、わざわざ電話をかけて問い合わせてくるお客さまはすでに自己解決を試みた後で、それでも解決できていなかったり、たらい回しにされたりしている場合があるということです。
そのため、顧客がカスタマーサービスに求める要素が変化しています。
上の画像は、「コールセンタージャパン2024年10月号」で掲載されたデータを一部抜粋してグラフ化したものです。
これを見ると、依然としてホスピタリティの感じられるやり取り(言葉遣いや気遣いのある会話など)へのニーズはあるものの、迅速かつ的確に問題解決されることの方がより大きなニーズとして存在していることがわかります。
「競合他社や無機質で人間味のないAIに対して、ホスピタリティで差別化を図ってきた」というセンターやオペレータは少なくありません。「ホスピタリティや丁寧さは、今後お客さまに評価されなくなるのだ」と心配に思われますか。決して寄り添いやホスピタリティが軽視されるようになったわけでも、スピード至上主義の電話応対が求められるようになったわけでもありません。
むしろ、「迅速な問題解決とホスピタリティの両立」が今まで以上に強く求められるようになったのです。これまでホスピタリティや寄り添いと言えば、お客さまの悩みを言語化したり、共感したりといった側面にスポットが当てられてきました。
これからは、問題解決におけるスピード感も、新たな寄り添いの方法であると考えるようにしましょう。自己解決ツールが充実し、ユーザーに受け入れられるようになったからこそ現れた変化であり、成果であると言えます。
しかし、一般的に高度で複雑な問い合わせへの対応は時間を要するものです。これまでにはなかったイレギュラーな問い合わせを受け、適切なコンテンツを探したり、上司に確認をとったり…といった行動が必要となってきます。
この状況でコールセンターがスピードとホスピタリティを両立させるには、AIを活用したナレッジマネジメントが重要です。AIを含めてナレッジベースが整備・管理されているなら、適切なコンテンツをすぐにAIが検索・参照してくれます。
オペレータがコンテンツを探すためにお客さまを長時間待たせたり、類似した問い合わせ対応を繰り返したりすることを避けられます。
結果として、オペレータは応対時に「余裕」をもつことができます。余裕があるので、スピーディーに問い合わせ対応をしつつ、丁寧な対応や言葉遣い、お客さまへの気遣いといったホスピタリティを発揮しやすくなるのです。
ナレッジマネジメントの壁
AIによるナレッジツールが有効とはいえ、ナレッジマネジメントをしていくにはいくつかの壁が存在します。どのような壁でしょうか。ナレッジツール活用において、コールセンターがぶつかりやすい3つの壁を紹介します。
ナレッジコンテンツの構造化
AI搭載のナレッジツールを活用する際、下準備としてナレッジコンテンツの構造化に着手しなければいけません。この「コンテンツの構造化」がひとつの大きな壁です。なぜなら構造化というのは、一般的に複雑で手間のかかる作業で、膨大な時間と労力が必要とされるからです。
コンテンツの形式が紙やPDF、MP4(動画)のようにいろいろな種類のフォーマットがある場合、構造化の難易度は上がります。そのため、データサイエンスに関する専門的知識が必要不可欠で、AIエンジニアの関与が重要と指摘されることも少なくありません。
多言語コンテンツ
扱うサービスの開発拠点や市場がグローバル展開されている場合、コンテンツの多言語化を回避することはできません。しかし、グローバル展開されているからこそ、より多様なニーズに対応するためのナレッジが蓄積されます。企業としてのサービス品質を世界的に保つ上でも、ナレッジに言語制限を設けるのはもったいないことです。
とはいえ、すべての多言語コンテンツを事前に日本語へ翻訳(あるいは日本語コンテンツをその他言語へ翻訳)しておくには、時間や労力、外国語を使える人材が必要不可欠です。
コンテンツの事前翻訳ができていないと、お客さまへ案内するタイミングで翻訳しなければいけなくなり、お客さまを待たせてしまったり、情報の正確性が低下してしまったりといったリスクが生じます。
ナレッジのアップデート
現在はあらゆる機器やフォーマットでナレッジを蓄積できるようになっています。利便性が高い一方で、社内のナレッジは分散されやすい状況にあります。しかも、マニュアルは日々最新のものへと更新されていきます。
そのため、ナレッジツール活用の準備が整った後で、ナレッジベースのアップデートになかなか着手できなかったり、遅々として進まなかったりといった壁が立ちはだかります。
コールセンターにおすすめAIナレッジツール5選
ここからは、先に紹介したような壁を乗り越えていく上で効果的な最新のAIナレッジツールを4つ紹介します。ぜひツール選定の参考にしてください。
GIDR.ai(ガイダーエーアイ)
PDF、画像、動画、音声データ、紙データなど、あらゆるフォーマットのコンテンツをナレッジ化できる企業向けAIプラットフォーム。
特許取得済みの抽出・分類プロセスを使って、さまざまな情報やコンテンツを構造化できる。APIによりいろいろなLLM・CRM・チャットボットと連携が可能なので、拡張性が非常に高い。
毎月日本企業のさまざまな声を元に、機能が続々と追加されているので、今後の発展率が高い製品と言える。
PKSHA FAQ
簡単にFAQの作成・公開・分析・運用改善ができるナレッジマネジメントシステム。約7万語種類の概念知識と、1200万語の言語辞書を搭載した「言語理解エンジン」を搭載することで、高性能な検索システムを実現。
顧客向け/従業員向け/オペレータ向けFAQサイトを一元管理できるので、管理者の負担を軽減しつつ、ニーズに合わせてFAQの公開範囲をアレンジできる。
Dify
オープンソースのLLMアプリ開発プラットフォームで、RAGを使用し、LLMを組み込んだアプリケーションやAIエージェントを簡単に作成できる。ノーコードでAIアプリケーションを作成できるので、専門知識をもつエンジニアがいなくても安心して利用できる製品。
長さ制限なしでドキュメントを生成できるので、ボリュームのあるコンテンツにも対応可能。
DECA 接客AI
コールセンターにおけるオペレータのアシストや、ナレッジマネジメントツールとして活用できるAI搭載カスタマーサービスプラットフォーム。
ドキュメントやQAリストのような静的ナレッジはもちろんのこと、有人チャットやビデオ接客、メール、電話といった動的ナレッジからも、生成AIがナレッジを追加作成。ナレッジのない質問や、ドキュメント(接客履歴やマニュアルなど)をFAQとして自動生成してナレッジ化する。
ナレッジリング
ナレッジリングは、クラウド型のFAQシステム。FAQをナレッジ化できるツールで、「コミュニティ機能」によりユーザー同士での質問と回答がおこなえる。質問投稿者がベストアンサーを選んでナレッジとして記録することもできるので、「FAQをユーザーの手によって整備・充実させることのできる」ツールとも言える。
「ファイル内検索機能」によってファイル内(WordやPDFも対象)にあるテキスト情報を検索できたり、「統計情報機能」によりオペレータや顧客が問題解決の過程で求めているものは何かをより正確に把握したりすることが可能。
コールセンターのナレッジツール活用で挫折しないために
最後に、AIによるナレッジマネジメントを長く快適に継続していくためのポイントを解説します。
専任者を設ける
「AIによるナレッジマネジメントを継続できるか」「ナレッジツールを活用できるのか」が不安な時は、専任者を設けると効果的です。専任者がいるなら、センター内向けナレッジの一部をFAQなどで顧客向けに公開するかどうかを判断しやすくなります。コンテンツの管理における漏れやミスも防ぎやすくなるので、ナレッジ共有をより正確にできるのです。
中堅オペレータから活用してもらう
「ナレッジツールを導入・利用したは良いものの、オペレータにとって本当に有用なのか」というのは、つねに気にかかる要素です。生成AIの活用についても共通して言えることですが、最初はスモールスタートで始めましょう。ナレッジツールがセンターに馴染み、活用を継続することを目標にします。そのため、いきなりすべてのオペレータにナレッジベースを使ってもらう必要はありません。
まずは、ナレッジベースが効果を発揮しやすい中堅オペレータに使ってもらうと効果的です。
中堅オペレータ:基本的な対応はマスターしているものの、サービスの詳細や複雑な問い合わせに対しては、ナレッジを参照したりSVなどに確認したりしないと自信をもって応対できないレベルのオペレータのこと。
ベテランオペレータはナレッジベースがなくとも業務をこなすことができ、新人オペレータはAIから提案されたナレッジの是非を判断することができません。かえって業務効率や顧客体験を低下させるリスクがあるのです。そのため、ナレッジベースがもっとも効果的に活用され、適切なフィードバックをもらいやすいのが中堅オペレータであると言えます。
ナレッジのカバー率は75%で十分
センターに蓄積される情報は膨大で、いずれも貴重な資源です。しかし、そのすべてをナレッジツールによって網羅・管理しようとしないことも大切です。網羅率75%くらいを目指しましょう。
完璧な網羅を目標としないことには、2つの大きなメリットがあります。
一つは、ナレッジマネジメントにかかる負担軽減です。二つ目は、AIによるナレッジ提案精度の維持です。
仮にすべてのナレッジを管理しようとすると、使用頻度の低いナレッジと高いナレッジがミックスされます。これにより、使用頻度が高いナレッジの提案精度に悪影響を及ぼすリスクが上がるのです。
複雑化する電話応対において、「問い合わせ数の多い質問」や「オペレータが保留にするケースの多い問い合わせ」を優先的に管理していきましょう。
最後に
自己解決ツールの発展により、コールセンターの呼量は削減されたかもしれません。一方で、問い合わせ内容の高度化・複雑化は極まるばかりです。
しかし、これを決してネガティブな現象と考えないようにしましょう。むしろ、自己解決率向上を目的とした取り組みが功を奏している結果と考えられます。
複雑な問い合わせへの応答でこそ、オペレーターの真価の見せ所です。整備されたナレッジベースによって迅速にと問題を解決し、創出された余裕でホスピタリティを発揮できます。変化しているニーズや課題に対して、AIを含むナレッジツールでスマートに対処していきましょう。コールセンターをワンランク成長させる大きなチャンスとなります。