電子レシートや自動掃除ロボット、電子書籍や動画配信、テレワークや名刺のデジタル管理…日常生活に関わるものからビジネスに関わるものまで、私たちの暮らしは日々デジタル化が進んでいて、利便性やタイムパフォーマンスが向上しています。

とはいえ、行政サービスとなると、

「窓口に行くしかないのに、待ち時間が長い」
「行ける時間帯に窓口が開いてない」
「手続きが複雑でわかりにくい」

というように不便さを感じる機会は少なくないでしょう。現在、このような不便さを解消し、市民と職員の双方にとってより快適な行政サービスの提供を目指す動きが高まっています。

そこでキーワードになっているのが「GovTech(ガブテック)」です。

本記事では、ガブテックの概要に加えて国内の現状と課題を解説していきます。ガブテックを推進するための具体的な一歩も紹介するので参考にしてください。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

【この記事が解決するお悩み】

  • 紙文化が根強く残る行政において、デジタル化の推進は難しい
  • ガブテックを推進するために何から着手したら良いかわからない

 

 

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GovTech(ガブテック)とは

ガブテックとは、GovernmentとTechnologyを合わせた造語で、ひとことで言うと「行政×IT」のことです。

行政サービスの向上や行政課題解決のためにデジタル技術を活用する取り組みのことを指します。具体的な例は記事の後半で紹介しますが、市民がスマートフォンで行政手続きを完了できるようにする取り組みは、ガブテックの一例です。

ガブテックという言葉は最近見聞きすることが増えましたが、エストニアやデンマーク、シンガポールといった諸外国では、1980年代頃からすでに取り組まれていました。エストニアでは、すでに行政手続きの99%が電子化されています。

また、日本総合研究所によれば、世界におけるガブテック市場は推計4000億ドルを超えると予想されています。EUでは毎年ガブテック・サミットが開催されており、ガブテック市場は世界的に成長市場として認識されています。

日本においては、とりわけ東京、大阪、兵庫、広島などがガブテックに力を入れています。では、日本国内のガブテックにまつわる現状はどうなっているでしょうか。

デジタル庁が発行している「行政手続等の棚卸結果等の概要(令和4年7月11日版)」によれば、年間25億件を超える行政手続きのうち、オンラインで実施できるものは、種類ベースで全体の31%、件数ベースで全体の85%にも上ります。

一方で、実際にオンライン手続きで実施されている件数の割合は68%にとどまっています。着実にオンライン化が進んでいるとはいえ、まだまだ追いついていないのが実情です。

従来の行政手続きは、対面で、紙をベースとして行うのが主流でした。しかし、近年では窓口での待ち時間の長さや、電話のつながりにくさ、煩雑な手続き方法などが、多様な生活をする住民の不満や職員の負担につながっています。

ガブテックは住民と職員の不満や負担を解消し、「住民満足度」と「職員満足度」を向上させる上でも効果があります。効果的なガブテックの推進ステップを考える前に、どのような取り組み例があるのかをまとめておきましょう。

手続きのデジタル化

住民票や助成金申請など、市民や事業者が行政におこなっていた申請手続きをオンラインでも行えるようにする。

窓口対応のデジタル化

窓口の事前予約制や、窓口で聞き取り・作成していた書類作成をデジタル化するなど。

情報発信のデジタル化

自治体等の組織が、WebサイトやSNS、アプリなどを通じて、市民へより効率的かつ迅速に情報を発信していく。

相談・問い合わせ対応のデジタル化

チャットボットや電話対応の自動化などにより、市民からの相談や問い合わせ対応を自動化し、簡単な問い合わせについては職員を介さず自動で対応できるようにする。

AIチャットボットを活用すると、寄せられた問い合わせに関連する情報を、AIがすぐに検索・回答してくれます。すでに自治体としてのホームページやFAQを作成しているなら、それを元に効率的に市民への対応を行うことができ、市民が情報を探し回る手間もなくなります。

ガブテックの一環としてさまざまな業務のデジタル化が挙げられますが、全てを一度にデジタル化できるわけではありません。自治体をはじめ、行政のデジタル化は難航しています。ガブテックの推進には、どのような課題があるのでしょうか。3つの大きな壁について解説します。

依然として残るアナログ文化

多くの行政機関は長い歴史をもつので「伝統」が存在します。「紙文化」はその代表例で、伝統的な手法を変革するのは容易ではありません。そのため、いきなり大規模な変革を起こそうとするのではなく、まずは「伝統」への影響力が少ない分野からデジタル化へ取り組む方が現実的です。

また、デジタル化のもたらすメリットが、住民だけでなく行政職員にもあることを周知するようにしましょう。

職員が効果を体感できたり、可視化できたりする業務から着手していくなら、デジタル化への抵抗感や苦手意識、リスクへの不安を軽減できるでしょう。

デジタル人材の不足

本格的にガブテックへ取り組もうとすると、AIを含むデジタルツールに対して抵抗感の少ない人材が重要になります。とはいえ、デジタル人材の不足という課題は、行政だけでなく民間企業でも発生しているのが現状です。すぐに理想のデジタル人材を確保しようとするのは、あまり現実的ではないでしょう。

各組織におけるデジタル人材育成に重きを置きつつ、必要な分野のみを部分的にアウトソーシングしたり、サポート体制が手厚いベンダーを選択したりすることで対処していけます。

セキュリティへの不安

機密性の高い情報を取り扱う行政において、高いセキュリティ対策は必要不可欠です。

AI活用により業務の効率化やデジタル化が取り沙汰される一方で、サイバー攻撃や情報漏えい、なりすましといった詐欺被害が増加・深刻化しています。そのため、従来の紙文化に加えて「電子データよりも紙の方が安心」という意識が高まり、ガブテックを妨げる要素となっているのです。

電子データも紙も、セキュリティ面で絶対に安全とは言えないことを認めつつ、デジタル化するからこそ強化できるセキュリティ対策を施していきましょう。

デジタル化に着手する際のツールやベンダー選定時に、行政での導入実績があるものや、グローバル水準でのセキュリティが確立されているものを選んだりするなら、「ガブテックによるセキュリティの脆弱化」というリスクや不安を軽減できます。

参考情報:声紋認証でセキュリティ強化できる製品「VoiceDNA(ヴォイスディーエヌエー)」

ガブテックの前に立ちはだかる3つの壁を乗り越えるためには、具体的にどの業務のデジタル化から始めたら良いのでしょうか。

行政の業務には、定型あるいは定期で実施するものが多くあります。たとえば、各種手続き/支払いに関する督促や催告などが代表的です。従来のやり方では、該当する市民へはがきや書類を郵送して、督促・催告をするケースがほとんどでした。

【大阪府大東市】

大東市はガブテックの取り組みの一環として、税金の納付期限が過ぎた市民を対象に、自動音声による一斉発信(オートコール)を活用しました。

納付期限を過ぎ、督促状を送付する前の段階で電話発信をするのです。成果として、電話発信したうちの3割程度が、数日以内に支払いを済ませるという効果が出ました。くわえて、不要になった督促状の郵送費削減という効果もありました。

同市では一度に約300件の発信を行っており、職員不足の現状では同じ業務を実現することは難しかったと分析しています。

ガブテックの第一歩としては、大東市のように「定型/定期業務における自動架電の活用」が挑戦しやすく効果を実感しやすいでしょう。

これまで紙で送付していた案内を電話案内に変更したり、紙による督促・催告の前に電話案内のステップを入れたりするということです。

申請や支払いなどの完了率によってすぐに効果が可視化される上、郵送費を含むコストの削減は一目瞭然です。また、書類の作成、印刷、郵送といった手作業の量が減るなら、職員ひとりひとりが業務負担の軽減や効率化を体感できます。ガブテックのメリットを早い段階で理解してもらうことが期待できます。

自動架電を含むコールセンターシステムの選定時、3つの壁を踏まえて以下のポイントをチェックすると失敗しにくくなります。

AI機能の有無→優れたAI機能があれば、電話対応に慣れていない職員をAIがリアルタイムでサポートしたり、電話の内容を要約・分析したりできます。

インバウンド(受電)とアウトバウンド(架電)の両方に対応しているか→ガブテックの一歩としてまずは架電に絞るとしても、のちのち受電にも対応していく場合は、システムが両方に対応している方が効率的で、最終的なコストを抑えることにも繋がります。

ベンダーのサポート体制→導入から運用までのサポートが保証されているかどうかは必ず確認するようにしましょう。サポート時の言語が日本語に完全対応しているかどうかも重要です。

ダイヤリング方式→行政から市民への架電によって業務の効率化を目指すとして、用件や架電対象によって柔軟な架電方式を取れる方が業務に有利です。アウトバウンド発信のスタンダードとされる「プレビューダイヤラー/クリック・トゥ・コール」のみならず、督促に適した「オートダイヤラー(IVR)」などが搭載されているかも確認しましょう。

AIとアウトバウンド業務に強いコールセンターシステム例:https://brightpattern.cba-japan.com/feature/outbound/

行政のデジタル化を推進するキーワードとして急速に広がっている「ガブテック」。ガブテックは、市民と行政の双方に利便性や安心感、満足感をもたらす変革の鍵となります。

根強く残るアナログ文化や人材不足、セキュリティの不安といった課題は残りますが、着手しやすい領域から一歩を踏み出すことで大きな成果を重ねていけます。

行政の負担を減らし、市民にとっても職員にとっても満足度の高いサービスを提供できるなら、今よりももっと信頼され、愛着をもたれる行政運営が実現するでしょう。