「モノが売れない時代」と言われる現在。何を選んでもある程度の満足感と利便性が得られるようになっているので、モノが売れなかったり、顧客が定着しなかったりといった現象が深刻化しています。

加えて、顧客が抱える課題や欲求は刻一刻と変化しているので、企業は顧客のリアルタイムなニーズに対応しつつ、より深層に存在する欲求を発見し、アプローチしていかなければいけません

この記事では、近年重要視されている「顧客インサイト」について深掘りしていきます。

この記事が解決するお悩み

VOCを得られる機会や場が減っているように感じる

顧客インサイトってなんだか難易度が高くて、集め方がよく分からない

コールセンターに集まるVOCは今も価値があるのか不安

顧客インサイトとは

まず、「顧客インサイト」という言葉についてまとめていきましょう。注目度の高い言葉ですが、正式な意味や類語との違いなどが見落とされやすいワードです。

「顧客インサイト」と並んで用いられる単語には「消費者インサイト」「カスタマーインサイト」などが挙げられますが、指している内容はいずれも同じです。「インサイト」ともっとも混同されがちな言葉は「ニーズ」です

では、ニーズとインサイトにはどのような違いがあるでしょうか。二つの違いに注目しつつ、「顧客インサイト」の意味を明確にしましょう。

「ニーズ」と「インサイト」の違い

ニーズ:自覚的に顧客が求めているもの。ニーズには「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」がありますが、「インサイト」と似ているのは「潜在ニーズ」です。潜在ニーズとは、顧客に欲求はあるものの、はっきりとは自覚できていないニーズのことです。

インサイト:潜在ニーズと同じく顧客がもつ深層欲求のこと。とはいえ、潜在ニーズよりもさらに深層にあるもので、顧客自身も気づけていない欲求です。

2つのニーズとインサイトを深度順で並べると、「顕在ニーズ→潜在ニーズ→インサイト」となります。

顧客インサイトの重要性

「顧客のニーズを分析する」「顧客のニーズに合わせる」というのは、今や全ての企業が意識しているといっても過言ではありません。

しかし、最近は「良い」とされる製品の類似品や互換品が容易に選べる時代です。性能・品質・価格だけでは、競合との明確な差別化をはかったり、根強いファンを獲得したりすることは難しくなっています。

モノがあふれている一方で物価は上がり、モノが売れにくくなっている現在、市場競争力を高め、顧客に求め続けられるブランドであるには、顧客インサイトのキャッチが必要不可欠です。

激化する価格競争に巻き込まれず、「ニーズ」になる前からお客さまにアプローチし、的確にペインポイントを解消していくには、顧客インサイトの活用がポイントとなります。

顧客インサイト活用によるメリット5つ

顧客インサイトを活用できると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。代表的な5つのメリットを紹介します。

製品やサービスを最適化

顧客インサイトをキャッチできると、近いうちにお客さまが何を必要とするか、あるいは何に喜ぶかが見えてきます。そのため、お客さまの必要や願いを先回りして実現するために、既存の製品やサービスを最適化しやすくなります

市場の「今」を把握・理解

顧客インサイトは、メインターゲットとなる市場の好みや行動の傾向を把握し、理解・分析するヒントとして効果的です。市場の「今」が把握できると、より深い顧客インサイトが見つけられるようになるので、相乗効果としてさらにお客さまへ良いモノを提供しやすくなります

顧客満足度やロイヤルティの向上

製品やサービスが、お客さま自身が認識していない欲求に訴えられるものであるなら、「自分のことを理解してくれている」「まさにそれが欲しかった!」という満足感や驚きを抱いてもらえます。そのような体験の積み重ねが顧客満足度を高め、「自分が求める以上のものを提供してくれるブランド」としてロイヤルティの醸成へ繋がります。

マーケティング施策の最適化

顧客インサイトを分析できると、それに合わせてターゲット層を調整したり、売り方・宣伝方法を試行錯誤したり、キャンペーンを実施したり…と、より効果的なマーケティング施策を実行していけます。

競合他社との差別化

市場をより正確に理解しながらマーケティング施策を最適化できるので、自社だけの製品やサービスを売り出しやすくなり、競合他社との差別化が図りやすくなります

顧客インサイトをキャッチする3つの方法

顧客インサイトをキャッチして分析するには、依然としてVOCが必要不可欠です。これまで「VOCが集まる場所」といえばコールセンター/コンタクトセンターでした。

しかし、近年の自動化の影響により「コールセンターにVOCが集まりにくくなった」「コールセンターを利用する年齢層が限られてきたので、集まるVOCにも偏りがある」といった課題が表出してきています。

では、コールセンターに集まるVOCの価値は下がっていき、実用性や効果性はなくなってしまうのでしょうか。

「コールセンタージャパン」2024年6月号にて編集長の矢島竜児氏は、「コールセンターに集まるVOCは…顧客体験の実態」だと表現しています。同じく矢島氏は、「顧客ロイヤルティには、経済ロイヤルティ/行動ロイヤルティ/心理ロイヤルティの3つが存在する。とくに重要なのはブランドへの愛着を示した心理ロイヤルティ(中略)これを把握できる部門は、コールセンターがもっとも有力で、集まるVOCを軽視すべきではない」と指摘しています。

顧客体験の質は、顧客ロイヤルティの獲得へと直結する要素です。そうであれば、顧客体験の実態であるVOCは今もこれからも企業にとって重要な要素であると結論できます。

今後は、「顧客インサイトをつかむためのVOCをどのように得ていくか」が課題となります。では、コールセンターでのVOC収集をより効率的かつ効果的なものにするために何ができるでしょうか。3つの方法を紹介します。

オムニチャネル対応

企業におけるコールセンターの需要は高止まりしています。しかし、電話をかけてくるお客さまの年齢層や内容が偏っているといった実情は無視できません。

そのため、オムニチャネルに完全対応することで、VOCが集まる間口を広くしておくことは効果的です。これまでは電話で問い合わせてきていた顧客が、今では選択的にチャットやSNSを利用していることが考えられるからです。

どのような年齢層のお客さまがどんな内容でコンタクトを取ってきたとしても、各チャネルの対応履歴が余さず記録・共有されているならば、そこから貴重なVOCを収集することができ、インサイトの分析に活用できます。

▶️参考情報:オムニチャネルに対応しているコンタクトセンターシステム「Bright Pattern

SNSでの「エゴサーチ」

企業が売っているモノによっては、お客さまと直接コミュニケーションを取る機会や内容は限定的なものとなります。そのような企業の場合、コールセンターやメール、チャットといった顧客接点からインサイトを得るのは現実的でないと思えるかもしれません。

「待っていてもVOCが集まらない」と感じる時の一打開策は、SNSにて企業名やサービス名、製品名を使って「エゴサーチ」をすることです。エゴサーチによって成功している例を簡単に紹介します。

「コールセンタージャパン」2024年6月号に掲載されている「セブン銀行」の事例です。

全国にATMを提供するセブン銀行は、店舗や支店を持たないがゆえに、ATMそのものが最大の顧客接点となります。ATMに設置しているインターフォンからかかってくる問い合わせを、VOCとして活用しているのです。しかし同社は、「VOC収集を、ATM接点以外で行えないか」という考えから、 SNSの「X」を効果的に活用しています。「セブン銀行」をキーワードに、企業側からお客さまの声を探すのです。

Xで見かけたVOCに対しては、リプライを送るなどでアクティブサポートを実施しています。現在では、月間500件ほどの積極的なサポートを展開しているといいます。

ファンコミュニティの構築

自己解決率の向上や、ファンの意見交換の場の創出として、「ファンコミュニティ」を活用する企業は少なくありません。自動化により顧客にまつわるデータは増加傾向にありますが、データを分析するだけではお客さまの体験や、それに伴う感情を把握するには不十分です。

データが豊富にあるからこそ、直接聞く/見ることのできるお客さまの生の声やリアルタイムな感情に付加価値がついていると言えます。

企業が主体となっているファンコミュニティがあれば、顧客が自由に意見や感想を書き込み、顧客同士でコミュニケーションを取ることが容易になります。コミュニティには、企業そのものや製品・サービスに対していわゆる「熱が高い」人が参加してきます。そのため、より率直で実用的なVOCの収集が見込めます。

最後に

顧客インサイトの重要性やメリット、キャッチの仕方について紹介してきました。苛烈を極める価格競争に巻き込まれず、競合他社との差別化を目指し、お客さまに必要とされ続けるブランドであるためには、顧客インサイトが必要不可欠です。

顧客インサイトを得る上では、よりプロアクティブなサポートやサービスの提供がカギを握ります。「モノが売れない」時代の今、これまで以上に積極的で能動的な顧客とのコミュニケーションを意識し、お客さまから「この企業からモノを買いたい。このブランドこそ求めているものを提供してくれる」と思ってもらえるようになりたいものです。