本ウェビナーでは、CXMコンサルティング株式会社代表の秋山紀郎氏をお招きし、「2022年下半期の業界トレンドの本質」を解説していただきました。弊社のCMO谷和彦が、企業がコールセンターに期待する「顧客とのタッチポイント」としての役割をどのように果たせるか尋ねていきます。
ウェビナーで扱うポイントは3つ。
- 最近の企業/コールセンターが抱える課題
- デジタルチャネル活用の注意点
- 市場に見られる2022年下半期のトレンド3つ
コールセンターの現場を誰よりも知り尽くしている秋山紀郎氏に、トレンド情報に加えて、よくあるデジタルチャネル活用の失敗例、成功するコツなどを説明していただきました。
最近の企業/コールセンターが抱える課題
ーー最近よくあるご相談内容はどのようなものですか。
秋山:企業によって千差万別なんですけども、まず多い内容の1つ目が、「5年や7年ごとのコンタクトセンターの更改を機会に将来像を策定したい」というのがあります。将来像を策定するとなると、それなりの金額になるので、業務のあるべき姿を描くことになります。それがとても難しいんですね。
クラウドの世界は気がつかないうちにバージョンアップしています。さらにソリューションも入り組んでいます。その中でどういったものを将来像のシステムに組み合わせていくかがすごく難しいんです。
これを企業さんご自身でやると言うのはかなり難しいと思っています。「将来像にミートするソリューションをどう組み合わせていくのかを中立な立場からアドバイスしてほしい」と賢明なお客さんは相談してこられますね。
ーー他にはどんな相談がありますか。
秋山:2つ目のパターンは、呼量削減ですね。数年前から言われている点ですけれども。
背景にあるのは、もともとあった人材不足と、コロナ渦で小池都知事の指示のもとワクチンの問い合わせでコールセンターが利用されるようになって、人材不足に拍車がかかったということがあります。これが今も続いているんですね。
その中でなんとか業務量を減らしたい、コストを下げたいとの願いがあり、呼量削減というトレンドにつながっています。
「呼量削減に合わせてDXも一緒に実現したい」という相談もあります。2つの要望が合わさった結果、チャットボットを導入したいとか有人チャットをやりたいということにつながってきていますね。
結果としてチャットボットの導入が進み、リックテレコム社発行の白書では40%が導入との調査結果になっています。業界にとってDXの一環でチャットボットというデジタルチャネルが増えているのは良いことです。
しかし呼量削減は注意しなければいけない点があります。その点は後で説明しますね。
ーーなるほど。
秋山:3つ目は、ナレッジマネジメントです。つまりFAQのシステムについての相談ですね。またコンテンツの更新のことですね。先ほど触れたチャットボットや音声認識と言ったシステムに関連します。
コールセンターは99%ほどの音声会話を全部録音しています。録音内容を文字化する、デジタル化するっていうのがトレンドです。音声認識も4分の1のコールセンターが導入済みです。これはDXの一つの手段だと思います。チャットボットや音声認識は、最近精度が上がってきて注目されているソリューションなんですよね。
一方で、ナレッジマネジメントの代表格であるFAQは10年以上前にあるサービスであります。しかしFAQを使ったナレッジマネジメントはなかなかうまくいかないというのが現実です。新しいソリューションでうまくいかないというのは理解できるんですが、長年運用しているナレッジマネジメントでうまくいかないのは根深い課題だと思っています。
ずっと工夫してきているけれども人への依存度が依然として高い、この依存度を下げたい、だからFAQをうまく活用したいとのご相談を受けます。
ーーナレッジマネジメントがうまくいかない理由として、「FAQが割りとウェブサイトの領域になってしまっている」ということはありませんか。FAQの運用と、コールセンターの運用を別部署がしているケースが多い気がします。
秋山:そもそもFAQを持っていない会社が多いんですよ。FAQが必要な会社で導入しているのがコールセンター白書によると50%程度です。さらに、おっしゃる通りコールセンターとウェブの担当が別になっていることがあります。非連動という状態ですね。
よくあるのが、「ホームページ含めたメンテナンスはマーケティング部門、販売したあとのカスタマーサポートはコールセンター部門で別部署なんだから、FAQはホームページ担当のマーケティングが見るんだよ」と分かれている会社が多くあります。これがナレッジマネジメントがうまくいかない原因でもありますね。
ーーほとんどの方がホームページを見てからコールセンターへ問い合わせていると思います。でも、「いざ問い合わせてみたらFAQを案内されてしまう」っていう負のループがありますよね。
秋山:おっしゃる通りですね。コールセンターがコロナ禍で非対面、つまりデジタルチャネルを使ってどんどん職域が広がっている良い面がある一方、コールセンターが電話だけのビジネス業務からウェブとの関連性が深まってきているんです。
お客さまがスマホやPCを使ってウェブから問い合わせの電話番号を探す、その手前でFAQ検索をしたらどんどんサジェスションしてくれた、それで問題が解決した、というのは喜ばしいことなんですね。
この流れの中でどうにか呼量削減のためにFAQを絡めて自己解決を促す、デジタルチャネルへ促すということを目指していかなければなりません。しかし1点だけ注意していただきたい点があります。
デジタルチャネル活用の注意点
ーー注意点とは何でしょう。
秋山:「コンタクトチャネルは状況に合わせてお客さまが選ぶべきもの」ということです。呼量削減を目的にしてデジタルチャネルを押し付けないでください、っていうのをわたしは強く強く申し上げたいですね。
ーーなるほど。詳しく説明していただけますか。
秋山:わたしが起業した頃の5年前くらいからチャットボットブームが始まっていたんですね。そして「意外と使いづらいぞ」と気がついておりました。しかしチャットボットを専業としている会社は「これは便利ですよ」「AIなので学びますよ」というのを謳い文句で販売するんですね。これは当然の権利だと思います。それをどれほど鵜呑みにするかは、ユーザー企業が考えなければいけないことなんですね。
よくあるのが、「チャットボットがそんなに優秀でなかったとしても、限定した機能しかなかったとしても、置いとくだけで1問でも2問でも自動で解決してくれればコールが減るんです、だから置いてるんです」っておっしゃる企業がいっぱいいらっしゃるんです。気持ちはわかるんです。
ただ「〇〇へ行くにはどうしたらよいですか」「こういうことは使えますか」「こういう商品はありますか」と言ったいろいろな問い合わせがチャットボットになされます。商品に関する問い合わせ、手続きに関する問い合わせなど色々あるんですが、これがスムーズにいかなくても、1点か2点の質問がチャットボットで解決すると思っていると実は大間違いなんです。
一見うまく解決したように見える裏側では「何だこの回答は!」「うまく意図を汲み取ってくれない!」という非常に残念な気持ちをしている、もしくは自分の問題が解決しなくてイライラっとしちゃっている人が表に出てこないだけでいっぱいいらっしゃるわけなんですよね。
これがチャットボットの普及にちょっとブレーキを掛けちゃっている、また導入企業のブランド価値を下げちゃっている、ということを受け止めていただきたいなと思うんですね。
これはチャットボットのベンダーさんにも良くないことですし、もちろん企業にも良くないこと、そしてアクセスしたお客さまにも良くないことなんです。今一度チャネルのあり方をですね、チャットボットを押し付けるようなユーザーインターフェースはやめるべきだと思っています。
ーーつまりチャットボットの技術自体は良いけれども、使い方が大切ということですか。
秋山:そうですね。やっぱり「チャットボットにはなるべく多くの質問に答えてほしい」と企業目線で考えちゃうと、チャットボットにいろんな選択肢を設けちゃうんですよ。なるべく多くのことをやらせようとしてしまう。これがひとつの間違いなんです。
チャットボットは人間を超えるほど賢くはないんですよ。ごく一部の賢い機能はありますよ。たくさんのものの中から探してくるとかは。わたしや谷さんが探しものをしてくるよりチャットボットがしたほうが早いです(笑)。
ーーそりゃ早いです(笑)。
秋山:チャットボットは限定して何かを検索するとかは得意なんですよ。ただ限定して何かをさせるとなると、「せっかく導入した月何万円とか何十万円とかの費用を回収できない」と思っちゃうと、いろんな機能を満載しちゃうんですよね。結果、チャットボットを使うユーザーさんの期待が広がり、入力表現も広がっていくんです。
チャットボットに丁寧に書く人はいませんからね。せめて一行ですよね。「なんとかの手続き方法を教えて」とか「ゴミの出し方教えて」とかですね。「ゴミの捨て方教えて」も、捨てる日を言っているのか、捨てる場所を言っているのか、ゴミの分類を言っているのか、わからないんですよ。
ーーそうですよね。
秋山:人間は文脈で判断するんですけど、チャットボットはなかなかそこまでいかない。やり取りを何回か繰り返す中で、やっと「ゴミの分別方法なのか」「捨てる曜日なのか」「捨てる場所なのか」をようやく紐解く感じになるんです。意外とお客さまに負担をかけちゃうんですよ。
ゴミの捨て方ひとつに絞ってもこれだけ課題が出てくるんですね。企業がたくさん質問を受けている内容を、チャットボットだけでいろいろ受けようとするのはかなり難易度が高いと考えなければいけません。
ーーなるほど。でもチャットボットを使わない選択肢はないですよね。
秋山:おっしゃる通りですね。やはり機能を限定してチャットボットを使っていただきたいなと思います。
導入事例で一番良く活きているのが、荷物の再配達ですね。これは非常にうまくいっているチャットボットの導入事例です。会社さんを問わずほとんどの企業が導入しています。
使い方は少し違えど「今荷物はどこにあるの?」「再配達は何時?」なんていうのはコールセンターへ電話するより画面を見たりしてやっていく。もちろんチャットボットと似たようなソリューションで、音声ボットとかIVRもあります。ある種デジタルチャネルですよね。
チャットボットだけじゃなくてこういうことも絡めて自動的に応対する、これはまさしく人が荷物の番号を聞いて調べてお答えするより手っ取り早いんです。
ただ…。このシンプルな荷物の再配達を例にとっても実は例外がありまして…。荷物の再配達なんだけれども、例えば伝票には「なまもの」って書いてあったとします。なまものっていっても「これは一体何日持つなまものなのか」「今すぐ受け取るべきものなのか」って疑問に思ってしまったときにどうするかというと、今日受け取るか、明日受け取るかを判断するために「物が何かを知りたい」なんて言う例外ってありますよね。
ーーなるほど。
秋山:例外があるときに「有人」という出口を作っているかどうかでだいぶ違うんですよ。ただ、なかなか「有人」出口がわたしの場合は見つけられないことがあって。ぐるぐる回るという先ほど谷さんがおっしゃった状態になるわけです(笑)。
再配達等の場合はドライバーの携帯へ直接電話するという手段があるのでなんとかなるんですがね。まあ、チャットボットは使用範囲を限定したとしても、最後には人の出番を作っておかないといけないと思います。
最後に
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