コンタクトセンター市場や関連業界のみならず、ビジネスの世界でも激動の年だった2024年。AIの飛躍的な進化と企業や一般への浸透、顧客接点の多様化、そしてオフィス回帰といった働き方の変化により、企業が直面する課題は多岐にわたっている中、顧客の期待値はこれまでにない高まりを見せています

このような変化の中で、コンタクトセンターの持つ役割は単なる問い合わせの枠を超え、企業と顧客を結ぶ戦略的な顧客接点として機能し続けています。ただしその実現には、単に効率化を追求するのだけではなく、顧客一人ひとりの体験価値を同時に高めていくことが必要となります。

本エントリでは、2024年に話題となった技術的トレンドや業界の課題を振り返り、2025年に向けた戦略を探ります。これからの変革や革新を見据え、一層コンペティティブになるためのヒントを見つけてください。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

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2024年の業界トレンドや技術トレンドをサクッと読みたい

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来年の戦略的な意味のある話が客先でできるか心配

 

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数値で見るコンタクトセンター業界の動き

  • コンタクトセンター市場は2027年までに6076億ドルに成長すると専門家が予測(Research and Markets, 2022

グローバルな事業運営に不可欠なコンタクトセンター市場は活況を呈していて、今後数年間の成長が見込まれるはずだ。

  • 問い合わせ客の43%がアナログチャネル(非デジタルチャネル)を好んでいる(Salesforce, 2022

「人」対「人」の音声対話は依然として効果的なコンタクトメソッドである。自動化が台頭しているにも関わらず、この顧客エンゲージメントメソッドに対するオペレータのトレーニングは重要。

  • 53%の企業が、生産性向上のためにテキスト化ツールを利用している(Salesforce, 2022

対応のテキスト化により、オペレータは問い合わせ客のインテントやインサイトを把握することができるだけでなく、品質改善やオペレータ教育などの貴重な参考情報となる。

  • カスタマーサポートのリーディングカンパニーの90%が、顧客の期待がかつてないほどに高まっていると見ている(HubSpot, 2022

顧客の設定するハードルは非常に高くなってきており、それに対応するための業務強化が急務となっている。これには、オペレータの電話応対スキルから、クレームを踏まえた顧客対応を提供するための部門を超えたシームレスなコラボまで、さまざまな要素が含まれる。

2024年に見られたコンタクトセンターの課題を振り返る

こうした統計を踏まえて、2024年に顕著になった課題を見てみましょう。

人材不足とオペレータの離職率

コンタクトセンター業界を襲った、または「襲っている」と現在進行系で表現したほうがふさわしいでしょうか、「人材不足」という深刻な課題がまず挙げられます。これには、単なるオペレータやSVが不足しているというよりも、必要なスキルを持った即戦力で、現場に投入でき得る人材が不足しているというイメージが強いでしょう。

前項の5番目に挙げている「テクノロジー導入の壁」にも少しかかるかもしれませんが、生成AIや自動化といった比較的新しいテクノロジーに対応できる人材が不足しています。また、とくに日本では「カスハラ」が社会問題化しており、それに伴ってオペレータや関連人材の離職率が高いことも人材不足に拍車をかけています。

  • ストレスの多い職場環境:問い合わせの複雑化や厳しい応答時間目標、クレーム客やカスハラ対応がオペレータにプレッシャーをかけている。
  • 不明瞭なキャリアパスプラン:オペレータ業務が「一時的な職種」とみなされているため、長期的なキャリアの形成が難しい現状がある。

複雑化する顧客対応

近年、顧客は電話やチャット、メール、SNSなど、複数のチャネルで企業とつながりを持ちます。そのため、カスタマーサポートを提供する企業はオムニチャネル化を図ってきました。その反面、オペレータの顧客対応は複雑化の一途を辿っていることも確かです。

  • 対応に一貫性が欠如している:各チャネル間での顧客データや対応履歴の共有不足が顧客体験を低下させている。
  • 対応スピードの低下:複数チャネルに対応するため、オペレータの負担が増加し、対応が遅れがちになる。

セキュリティとプライバシー問題

今に始まった話ではありませんが、セキュリティとプライバシーは、顧客データを扱うコンタクトセンターにおいて、重要な課題です。とくにAIや情報処理の過程がブラックボックス化しがちな最近のシステムにおいて、顧客データとプライバシーの確保は必須です。

  • 増加するサイバー攻撃:ランサムウェアやフィッシング詐欺などが多発しており、データ漏えいのリスクが増加している。
  • 規制の厳格化:ヨーロッパを中心とした各国で個人情報保護に関する規制や法律が強化されており、企業の規制対応・遵守が求められている。

顧客満足度向上への飽くなきプレッシャー

企業にとって顧客満足度の向上は重要なインデックスですが、コロナ禍が完全に終了した2024年においてはそのプレッシャーがさらに高くなっています。

  • 顧客期待の高まり:顧客は迅速かつ的確なサービスや問題解決を求めるようになっている。同時にオペレータやカスタマーサポートに対する要求が厳しくなっている。
  • クレーム対応の増加:SNSやレビューサイトなどが浸透しており、顧客の不満を公にするツールが出揃っている。ブランドイメージを以下に維持するか、対応が求められている。

テクノロジー導入の壁

AIやクラウドシステム、オートメーションなど、新技術はどんどん市場に入ってきています。とはいえ、その導入には、なかなかの困難がつきまといます

  • コスト:最新技術を導入するには大きな初期投資が必要となり、中小企業にはとくに負担が大きい。またSaaSをはじめライセンスビジネスが多いため、ライセンスコストが馬鹿にならない。AIを導入して人を減らしても、コストは増えてしまったという結末も。
  • インテグレーションの問題:新しいテクノロジーを既存のインフラやシステムに統合する際に、あっちを叩くとこっちが立たず、のようなことがある。自社のニーズに合ったソリューションやテクノロジーの選択でつまずいてしまい、テクノロジーの導入に消極的になってしまう。

ここに挙げた課題以外にもたくさん存在すると思いますが、こうした課題を解決する可能性を持ったテクノロジーやソリューションなどが、2024年にトレンドとして出てきたのも事実。次はトレンドに少しフォーカスをあててみましょう。

2024年のコンタクトセンター業界におけるトレンド

2024年のトレンドを5つ紹介していきます。

AIと自動化の普及

AIとAIを活用した自動化は、コンタクトセンター業界に大きな影響を与えました。AIと自動化の普及は、業務効率化と顧客体験の向上が同時に進められる可能性を秘めています。

  • AIのチャットボットの活用:単純な問い合わせの自動対応に加えて、自然言語処理が大幅に進化したことで、会話がより人間らしくなった。顧客のセルフ問題解決にも繋がる。
  • リアルタイム分析:顧客データをリアルタイムで分析できるAIは、最適な対応方法をオペレータに提案することがでる。これにより、対応のスピードと正確性が向上し、顧客満足度の向上に繋がる。
  • 課題への影響:AIはオペレータやSV、センターの業務負担を軽減し、人材不足の解消に寄与するだけでなく、顧客満足度向上にも直結している。また、パーソナライズ化においても重要なプレーヤーである。

データドリブンな意思決定

データ分析がより一層深い意味を持ち始めた2024年、コンタクトセンターもデータドリブン型の運営が一般化しつつあります。効率的な運用と質の高い顧客体験の提供が可能となっています。

  • 予測分析:過去の顧客データをベースに、将来のニーズや顧客行動を予測する技術が進化している。たとえば、特定の季節や時間帯に増える問い合わせを事前に予測し、対応を強化することにより効率化が実現できる。ワークフォース・マネジメント(WFM)にも。
  • リアルタイムデータの活用:問い合わせ履歴や顧客の現在の状況を即座に分析、迅速な対応が可能となる。クレーム処理や、オムニチャネル対応での一貫性の確保が向上
  • 課題への影響:データドリブンなアプローチは、顧客満足度の向上だけでなく、顧客体験の複雑化に対応する際のキーファクターでもある。オペレータの効率性改善や職場環境の整備にも繋がる。

セキュリティ技術の強化

データ漏えいやサイバー攻撃への懸念が高まる中で、セキュリティ強化も大きなトレンドとなっていました。

  • 多要素認証(MFA)の採用:MFAの導入で、顧客データへの不正アクセスを防ぐ仕組みが強化。クラウドベースのシステムを採用している企業においては、顧客とオペレータ双方の安全性を確保する仕組みとしてMFAが必要。
  • クラウドセキュリティソリューション:クラウドプラットフォームを活用したセキュリティ技術の進歩により、データ保護の効率化とコスト削減が実現できる。
  • 課題への影響:セキュリティ強化は顧客の信頼を高めるだけでなく、規制に対応することで法的リスクの軽減にも繋がる。オペレータのセキュリティ教育を推進することで、セキュアな職場環境の構築も可能に。

パーソナライズ化

「顧客に寄り添った対応」が強く求められています。サービスのパーソナライズ化が不可欠な時代となっています。

  • AIによる個別対応:AIが顧客の購買履歴や問い合わせ内容を分析して的確な提案を実施。顧客満足度の向上に繋がる。
  • リアルタイム提案:対応途中でのリアルタイムサポートや次のステップへの案内により、顧客がスムーズに問題解決など、自分の目的を達成することができるように。
  • 課題への影響:クレームの減少につながるだけでなく、企業イメージの向上にも寄与。複雑なトピックの対応に求められる一貫性の確保にも。

音声解析技術

音声解析技術が注目された2024年、顧客とのコミュニケーションの改善や運用効率化に活用されています。

  • 感情解析:音声データをもとに、顧客の感情をリアルタイムで分析する技術が台頭。顧客が不満を示した場合、オペレータへ即時にアラートを送信することで、より迅速な対応を実現。
  • トレーニングの充実化:オペレータの会話データを分析することで、対応スキルの向上や改善点を特定するのが容易に。教育面での効率化が図られている。
  • 課題への影響:オペレータのパフォーマンス向上に寄与するだけでなく、品質改善にも活用できる。

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2025年にコンタクトセンターが取るべき5つの戦略とは

ここまでで、2024年に明らかになった課題や技術的トレンドを見てきました。これらを踏まえて、2025年に向けてどんな戦略を取ることができるか考えてみましょう。

1. AIと人間のコラボを最適化する

AIの活用は、業務効率化と顧客体験の向上を両立させる可能性を秘めています。一方で、人間を介在させることが非常に重要です。人間のオペレータやSVとのコラボレーションを最適化することが鍵となります。

  • AIで負担軽減:単純な問い合わせやデータ収集はAIに任せる。FAQなども自動生成できる。それを人間がレビューすることで正確性を担保。人間のオペレータが複雑な対応をする際のアシストとなる。
  • AIのリアルタイム性を最大化:リアルタイム分析、提案のサジェストなど、迅速かつ適切な対応をオペレータが実施できる環境が構築できる。オペレータのストレス低減、顧客満足度の向上、働きやすさの向上などを実現できる。

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2. データドリブンでカスタマーサービスを推進する

データの活用がますます重要性を帯びることになります。

  • 顧客行動の予測:過去のデータ分析や顧客が必要とする対応を事前に準備することでプロアクティブなサポートを実現。
  • リアルタイムデータの活用:問い合わせ内容や状況の即時分析を実施。迅速かつ一貫性のある対応を提供。データドリブン型のアプローチにより、顧客の期待を超えるサービスを実現。

3. セキュリティとプライバシーは最優先

顧客データの保護は信頼を築くために必須です。

  • 高度なセキュリティ技術の導入:MFAやエンドツーエンド暗号化を標準化、セキュリティリスクを最小化。
  • 透明性の確保:顧客データがどのように扱われているかについて、しっかりと情報発信する。信頼強化を実現。コンプライアンスだけでなく、顧客との長期的な関係を構築できる。

4. 顧客体験のパーソナライズ化を加速する

「顧客が個別対応を望む」というトレンドは強まっています。

  • AIによる個別提案:顧客に最適な提案やサポートを提供することでパーソナライズ化を推進する。
  • リアルタイムのパーソナライズ:問い合わせの途中で状況に応じた提案を行い、顧客が求める結果を迅速に達成する。

5. オペレータ育成と働きやすい環境を整備する

オペレータとSVはコンタクトセンターの核となる存在であり、重要な資産です。その育成と業務環境の改善はとても重要です。

  • スキルアップの促進:音声解析やトレーニングプログラムを活用して、オペレータのスキルを継続的に向上。
  • スキルギャップの解消:データ分析に基づいてナレッジを迅速に共有。初心者オペレータでも経験豊富なオペレータによる対応に基づいたサジェストを参考することができるため、スキルのばらつきを解消できる。こうした施策により、人材の定着率向上に。

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最後に

AIと自動化、それらを活用した技術は2024年、コンタクトセンター市場や業界に大きな影響をもたらしました。今後もその影響力はさらに強まるはずです。AIはもう切っても切り離せない存在として、認知され普及しつつあります。しかしAIの導入や活用が業界全体を劇的にイノベートする一方で、その活用には冷静な視点も必要です。

なぜなら、AIはすべての問題や課題を解決して人間の生活やビジネスをハッピーにさせる代物ではありません。AIは膨大なデータを驚くべきスピードで処理し、高速で分析を行うことができますが、「完全」ではありません。

したがって、AIを最大限に活用するには、まず自社のニーズと直面する課題をしっかりと見極めることが重要です。技術そのものを理解するだけでなく、技術やソリューションが自社の目標や目的、運用にいかにしてフィットするかを注意深く検討する必要があります。

それを踏まえ、AIが提案する結果や判断が本当に正しいかを見極めるためのレビューや、顧客の感情や微妙なニュアンスを汲み取る場合の判断プロセスには、依然として人間の感覚が不可欠なのです。ここで重要な意味を持つのが「人間の介在」です。

AIの能力を最大限に引き出すためには、人間によるオペレーションと判断が欠かせません。人間とAIがそれぞれの強みを活かしながら協力するヒューマン・イン・ザループの考え方は、これからのコンタクトセンター運営において大きな役割を果たすはずです。AIのスピードや効率性と、人間が持つ直感や共感能力を組み合わせることで、顧客体験を向上させるだけでなく、業務全体の質を飛躍的に高めることが可能になっていきます。

2025年に向けて、AIと人間の最適なコラボレーションを探り、それぞれの特性を活かした運用を目指しましょう。最終的に、技術だけでなく「人」にフォーカスすることで、顧客と企業の信頼関係をさらに強化できるはずです。