「カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いを説明してください」と言われると、意外と明快な説明ができない2つの用語。どちらもよく耳にする言葉ではありますが、言葉そのものが似ていたり、使用される文脈が似ていたりして意味が混同されがちです。
しかし、この2つには明確な違いがあります。サブスクリプション型ビジネスの浸透・拡大や、製品による競合他社との差別化が困難になっていることを背景として、最近は「カスタマーサクセス」が重視されるようになっています。どれだけ「自社ならでは」の付加価値を付けられるかが勝負の分かれ目となるのです。
この記事では、最初に「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」の違いについてまとめます。続いて、カスタマーサクセスに求められる役割やKPI、今カスタマーサクセスに取り組むべき理由、そしてカスタマーサクセス「成功」のためのカギも解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニュー(CBA)が解説します。
「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」の違い
「カスタマーサクセスとカスタマーサポートが違うことはなんとなく分かるけど、何が違うのかは説明できない」「カスタマーサクセスの方が最近登場した言葉だけど、カスタマーサポートとほぼ同義だよね」…冒頭でも触れたとおり、「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」は似ている言葉として混同されがちです。
たしかに「顧客に寄り添う」という点では共通しています。しかし、実際は真逆と言っても過言ではないほど大きな違いがあるのです。改めてそれぞれの特徴についてまとめてみましょう。
「カスタマーサクセス」とは
直訳すれば「顧客の成功」です。言葉通り「顧客の成功」を支援することを目的としており、顧客が製品やサービスを最大限に活用できるよう助けます。プロダクトの購入や利用における前と後の両方で顧客の成功をサポートすることです。
たとえば、プロダクトの導入前には「使い勝手の丁寧な説明」をし、導入後には「便利な使い方」「新たな機能の使い方」などの提案を行っていきます。
能動的、かつプロアクティブに働きかけるのがカスタマーサクセスの最大の特徴です。
「カスタマーサポート」とは
顧客が課題・問題・疑問を抱えて問い合わせてきた際、解決に向けて動くのがカスタマーサポートです。
「コールセンタージャパン」の2023年8月号82ページの記事にて、メルカリ/ソウゾウ Directoie of CS 山田和弘氏は「(カスタマー)サポートは瞬間を捉えるスナップショット業務」であると表現しています。
カスタマーサポートには、問い合わせ窓口、コンタクトセンター、購入後のアフターサポートなどが該当します。「カスタマーサクセス」に比べると受動的であるのが「カスタマーサポート」です。
「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」の違いまとめ
カスタマーサクセスは、能動的でプロアクティブ/攻め/顧客の「成功」にフォーカスする
カスタマーサポートは、受動的でリアクティブ/待ち/顧客の「不満」にフォーカスする
カスタマーサクセスに求められる役割3つ
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いが明確になりました。では、カスタマーサクセスにおいて何が実現できれば「成功」と言えるのでしょうか。次は、「カスタマーサクセス」が担う役割を3つ解説します。
LTV(顧客生涯価値)最大化
近年急激に拡大してきたサブスクリプション型ビジネスにおいては、顧客がサービスを解約しない限りLTVが増加し続けます。
そのため、サービスの解約率を下げ、継続率を上げることがカスタマーサクセスにおける一つの「成功」です。
顧客との長期的な関係を構築していくには、以下に続く「顧客ニーズの把握」や「顧客ロイヤルティの向上」が必要不可欠です。
顧客ニーズの把握
顧客の真のニーズを把握して応え続けていくには、より新鮮なVOCに耳を傾けることが重要です。
この点においては、カスタマーサクセスに特化した部署の有無にかかわらず、自社のコンタクトセンターと連携して動くことがポイントになります。
コンタクトセンターには常に新鮮なVOCが集まるので、より精度が高くリアルな顧客の声を収集できるからです。顧客ニーズの把握には、「顧客自身さえ気づいていないニーズの把握」が含まれます。顧客の真のニーズに気づき言語化することはひとつの「スキル」ですが、コンタクトセンターのオペレーターはこのスキルにおいてとくに秀でています。
顧客ニーズの把握におけるカスタマーサクセスの究極形は、そもそも顧客に問題が起きないように予防することです。顧客が抱えそうな問題を事前に予測して対応し(=シフトワークレフト)、成功に導くことこそが理想と言えます。
「事前予防」はさまざまな業界において主流となっていきています。
「コールセンタージャパン」の2023年8月号82-83ページにて、ISラボ代表 渡部弘毅氏は「フィールドセールス分野においても自動検出による事前予防サポートを行う企業なども登場しています。サポートにおいてもサクセスにおいても、まずはデータを環境を整備し、予兆の自動検出を可能にすること。そのうえで適切なセグメント別に打ち手を構築しておくことは今後重要となってくる」と述べています。
「事前予防サポート」の観点で近年活躍を期待されているのが、VRやAR、AIといったテクノロジーです。急激に普及し始めたこれらの技術を活用しているかどうかは、カスタマーサクセスを成功させる上でのアドバンテージとなるでしょう。
参考情報:サポートサービスの前倒しが実現できるARソリューション「CareAR」
顧客ロイヤルティの向上
高い顧客満足度を維持し、自社の製品やサービスの価値を提供し続けるには、製品やサービスの改善・改良を繰り返さなければいけません。的確な改善・改良を図るには、顧客との密なコミュニケーションが必要不可欠です。
「口コミ時代」だからこそ、ユーザーのリアルタイムな声を重視していきましょう。そのため、顧客への定期的なアンケートやヒアリング、顧客同士のコミュニティの活用は効果的です。
収集した「お客さまの声」に対し、改善・改良というかたちで迅速にフィードバックするなら、「欲しかった機能が実装された!」という満足感に繋がります。企業と顧客間の個人的で感情的な繋がりが生まれるので、ロイヤルティの向上が期待できます。
カスタマーサクセスに使えるKPI
カスタマーサクセスの役割がはっきりしたところで、「どのような指標で成功か否かを判断できるのだろうか」と思われるかもしれません。
カスタマーサクセスの役割と、カスタマーサクセス台頭の背景にある「サブスクリプション型ビジネスの拡大」について考えると、企業が意識しなければいけない指標が浮き彫りになってきます。それは「継続性」と「利益率」です。
「2023年カスタマーサクセスに関する実態調査」を見ると、カスタマーサクセスについて効果を感じている人の54.7%が「継続率/数/額」をKPIとして設定しています。続いて「解約率/数/額」、「アップセル率/数/額」がKPIとして活用されていることがわかります。
他にも、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)やNPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)などがKPIとして実用的です。
カスタマーサクセスに取り組むべき理由
そもそも企業が今カスタマーサクセスに取り組むべき理由は何でしょうか。中には「まずはお客さまの不満を確実に解消していくことが先決ではないか」という意見もあるでしょう。
たしかに顧客の不満解消は重要です。しかし、カスタマーサクセスが成功していれば、不満そのものを最小限に抑えつつ顧客満足度を向上させることが可能です。
既出の「2023年カスタマーサクセスに関する実態調査」によれば、カスタマーサクセスの効果を感じている5割~7割以上が「各指標が変化している」と回答しています。注目したいのは、「売上率」と「満足度評価」です。
62%の回答者がカスタマーサクセスの効果を実感した指標として、「満足度評価」を挙げています。
カスタマーサポートでも顧客の不満を解消し、最終的に顧客満足度を維持・向上させることは可能です。しかし、受動的に対応するサポートにおいては、すでに顧客が不満を感じたマイナス状態へのアプローチが前提となります。そのため、「マイナスだったところを0に戻せるかあるいは多少プラスにできるか…」といった具合でしか顧客満足度向上を狙えません。
対してカスタマーサクセスであれば、満足度がマイナスになる前から顧客にアプローチできるので、顧客満足度は基本的にプラスになることが期待できます。これはカスタマーサクセスに取り組む決定的なメリットです。
また、最も変化が感じられている指標が「売上率」です。売上率のアップは企業が目ざす最終ゴールの一つです。カスタマーサポートの場合、返品交換や返金、出張修理など少なからずコストの発生する対応が求められます。売上や利益率を最大化しながらコストカットするには、カスタマーサクセスが欠かせません。
カスタマーサクセス「成功」のカギ
ここまででカスタマーサクセスの役割、活用できる指標、メリットについて解説しました。最後に、カスタマーサクセスを「成功」させるために何をするべきか紹介します。
「2023年カスタマーサクセスに関する実態調査」において、カスタマーサクセスの成果が出た要因についてのアンケートが実施されています。上のグラフを見ると、半数以上が「カスタマーサクセスの概念がメンバーや社内に浸透したこと」と回答しています。そのあとに続く要因についても見ていくと、カスタマーサクセス成功にとくに効くのは以下の3つであると結論できます。
- 会社レベルでの取り組み
- 継続的な金銭的・時間的コスト投資
- テクノロジーの活用
上のポイントを見て「思ったより難しくない」と思われるかもしれません。しかし、カスタマーサクセスによる数字的効果が出るには予想以上に時間を要します。売上率や利益率はもちろんのこと、顧客満足度やロイヤルティを正確に把握するにはある程度の期間が必要だからです。テクノロジー活用を含め、継続的にコスト投資をしていく中で、カスタマーサクセスにおけるプラスよりもマイナスの方が大きく感じる時もあるでしょう。
また、カスタマーサポート部門やカスタマーサクセス部門がある企業においては、「カスタマーサクセスについて考えるのは該当部門の仕事」と認識してしまいがちです。しかし、本当にカスタマーサクセスでの成功を目指すには、上層部を含めて会社全体でカスタマーサクセスを意識し続け、そこにかけるコスト投資を短期間で打ち切りにするべきではありません。
顧客からの問い合わせ内容の変化や問い合わせ数、口コミの内容の変化など、小さな変化も見逃さないようにしつつ、的確にカスタマーサクセス成功のための施策を打ち続けていきましょう。
最後に
似ている用語として混同されがちな「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」についてまとめてきました。2つの違いを知ると、競合他社との差別化をはかるためにもカスタマーサクセスがいかに重要かが分かります。
能動的に動き、先手を打つカスタマーサクセスが成功すれば、受動的で待ちの姿勢を保つカスタマーサポートはもしかしたら必要なくなるのかもしれません。カスタマーサクセスの成功によって、カスタマーサポートの役割が限定的になる体制を目指したいものです。