コールセンターが依然として直面する人手不足という問題。人手不足を解消するために注目されているのが顧客コミュニティです。
とくにカスタマーサポートの分野では顧客コミュニティを活用することで、呼量削減の実現、さらに顧客とのエンゲージメントの向上というメリットが認められています。
今回は、顧客コミュニティの先進国である米国のデータを紹介しつつ、国内における顧客コミュニティのメリットや運営の課題を解説します。最後には顧客コミュニティがおすすめの企業の特徴を紹介するので参考にしてください。
本記事で取り上げるのはカスタマーサポートを目的とした顧客コミュニティです。企業プロダクトのファンを育てていく目的のものではありません。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
顧客コミュニティが求められる理由
カスタマーサポートの分野で、顧客コミュニティが注目されている理由は主に3つあります。
- 人手不足
- 自己解決サポートがうまく機能していない
- 企業と顧客の知識の落差が縮まっている
一つ目の理由は、人手不足です。人手不足はコールセンタージャパン2023年2月号の「2022年重大ニュース」「2023年市場予測」でも再三取り上げられている問題です。顧客コミュニティを活用することでカスタマーサポートの人的リソースを活用することなく、顧客同士で助け合いながら疑問を解消してもらうことが期待されています。
二つ目は、自己解決サポートが思うほど機能していないという点です。人手不足を解消するために、各企業は自己解決サポートに力を入れました。
たとえば、FAQ、ビジュアルIVR(VIVR)、チャットボット、IVRなどです。しかしカスタマーサポートのWebチームやコールセンターへの問い合わせが思ったより減っていない現状があります。そこで顧客コミュニティへ目が向いているのです。
企業と顧客の知識の落差が縮まってきているのが、三つ目の理由です。顧客がアクセスできる情報はインターネットとスマートフォンの普及によって膨大になりました。そのため顧客が抱く疑問や、抱える問題は多岐にわたります。
たとえば、他社製品との連携に関する質問や、サポート期限が切れたプロダクトに関する質問などがあります。企業のカスタマーサポート要員だけでは対応できないニーズが出てきているのです。
世界的にも顧客コミュニティの活用が進んでいる
米国では20年以上前から顧客コミュニティの活用に力を入れています。THE STATE OF COMMUNITY MANAGEMENT 2022によると、10年以上継続されている顧客コミュニティは最も多く17%を占めます。
しかし興味深いのは、次に多い15%の割り合いを占めるのが、継続年数が2年という企業です。つまり、パンデミックを受けて顧客コミュニティを活用し始めた企業が非常に多いということです。前年と比較すると1年未満のコミュニティで4%、1年から2年のコミュニティは5%増加しています。
米国において、この数年間で顧客コミュニティへの取り組みが本格化してきているのであれば、日本で今から始めても遅くはありません。
「顧客コミュニティは大企業が取り組むべきもの」と感じるかもしれません。実際、アップルやスターバックスのコミュニティは成功しています。
しかし上記の表を見ると、従業員数50名未満の企業が最も多く顧客コミュニティを始めています。前年と比較すると2倍の増加です。
続いて500名未満の企業が18%です。中小規模の企業でも顧客コミュニティの価値に気が付き、運営に取り組んでいるのが現状です。
顧客コミュニティのメリット
顧客コミュニティにはどのようなメリットがあるのでしょうか。カスタマーサポートにおける顧客コミュニティへのメリットは主に6つあります。
- 少人数での運営
- シニア世代のケア
- 顧客の声を収集
- 顧客とのエンゲージメント強化
- 障害の告知が簡単
- SaaSにおけるCXの向上
各メリットについて見ていきましょう。
少人数での運営
顧客コミュニティの最大の特徴は、ユーザー同士で疑問を解消してくれることです。正しく運営されていけば、コールセンターへの呼量削減、顧客対応のコスト削減を実現できます。
シニア世代のケア
国内では多くの企業の顧客に高い割合でシニア世代が含まれています。顧客コミュニティはシニア世代のユーザーをケアするために貢献します。
コールセンタージャパン2022年8月号には、顧客コミュニティを利用する年齢層について以下のように書かれています。
サポートコミュニティのプラットフォームOKWAVE Plusの利用者の33%は60歳以上が占める
同誌によると、シニア世代には4つの特徴があります。
- 直帰率が低い
- 複数のページを巡回する傾向
- 質問投稿する比率が高い
- 再利用傾向が9割
顧客層に50代や60代が多く含まれるのであれば、カスタマーサポートに顧客コミュニティというチャネルを加えるのは効果的と言えるでしょう。
顧客の声を収集
顧客コミュニティは顧客の声(VOC)を収集しやすいメリットがあります。同じ内容の質問が多いのであれば、WebページやFAQの改善、さらにプロダクトの改善に活用していけます。
さらに、一般的にコールセンターには「質問」が寄せられますが、顧客コミュニティではプロダクトに関する「不満」や「要望」が書き込まれます。これまで収集しにくかったユーザー目線の情報を収集しやすくなります。
顧客とのエンゲージメント強化
顧客コミュニティを運営していくと、良質な返答をする信頼できるユーザーが誰なのかが見えてきます。コミュニティの運営に貢献してくれているユーザーに企業から特典を提供することで、ユーザーと企業間のエンゲージメントを高めていけます。
障害の告知が簡単
プロダクトに何らかの障害が発生したときに告知が簡単に行えます。障害発生の情報を素早く共有することによって、コールセンターへの問い合わせを抑制できます。
SaaSにおけるCXの向上
SaaSで重要なのがカスタマーエクスペリエンス(CX)です。カスタマーエクスペリエンスが良質なものでなければ、継続利用はしてもらえません。
顧客コミュニティでユーザーのニーズが高いコンテンツがあれば、Webページを充実させたり、ダウンロード資料を用意したりできます。説明動画を作ることやプロダクト自身の改善も行っていけます。
少数の顧客の不満を見極め、大勢の顧客を満足させる施策を行っていけます。
顧客コミュニティ運営の課題
顧客コミュニティの運営で問題になるのが形骸化です。具体的には何が課題になるのでしょうか。
- 思ったほど利用されない
- 経営貢献の可視化不足
- 炎上対策の難しさ
それぞれの課題を見ていきましょう。
思ったほど利用されない
顧客コミュニティを始めてはみたものの、「意外と閲覧数が伸びない」「投稿される質問が少ない」「良質な回答が出てこない」といった状況になり、利用者数自体が減少していく課題があります。
経営貢献の可視化不足
経営貢献の可視化不足のために予算がカットされ、顧客コミュニティの継続が難しくなることもあります。実は、費用対効果を見える化することは、顧客コミュニティの活用が進む米国でも課題とされています。
The 2022 Community Industry Reportによると、ROIを測定する難しさについて次のようにコメントされていました。
87%の企業が「コミュニティは企業のミッションに不可欠」と感じ、79%は「コミュニティが企業の目標にプラスの影響を与えている」と考えている。しかし、コミュニティの価値を財務的に定量化できると答えたのはわずか10%。コミュニティのデータを顧客データに関連付けられると答えたのはたったの3分の1に過ぎない。
顧客コミュニティが経営にどれだけ貢献しているかを見える化させること、コミュニティで得られた顧客データをCRMのデータと紐づけることに困難を覚える企業が多いことがわかります。
炎上対策の難しさ
顧客コミュニティの運営経験がないと、炎上対策に難しさを覚えます。初心者ユーザーの質問に対し、「過去スレを見ろ」といった返答に始まり、暴言など不適切な表現が使われるとコミュニティの品質は急激に悪化します。
どこまでユーザーに自由にさせ、どこからを規制するかといったガイドラインを作るのが難しいのです。
補足:コールセンターBPOが顧客コミュニティの運営に最適な理由
顧客コミュニティを運営していくためには、接客スキル、クレーム対応スキルを持ったオペレーターが必要になります。
コールセンターで顧客対応のスキルを培ったオペレーターは、コミュニティマネージャーに必要なスキルをすでに持っているからです。
実は顧客コミュニティではスキルを持ったコミュニティマネージャーが不足しています。その理由は以下の通りです。
- コミュニティマネージャー不在のコミュニティは荒れやすい
- 顧客対応スキルがない社員がクレーム対応すると不必要に炎上しやすい
- 顧客のマネジメントスキルがないとコミュニティが過疎化、形骸化する
- そもそも企業内にコミュニティマネジメントができる人材がいない
- 企業内にコミュニティマネジメントのノウハウがない
顧客コミュニティ運営を上手にする方法
顧客コミュニティを運営するうえでぶつかる3つの課題に、どのように対処したらよいのでしょうか。
特典を付与
「思ったほど利用されない」場合の対策として、良質の回答に特典を与えるキャンペーンを行えます。ギフト券、クーポン券、製品の無料ライセンス、企業からの認証バッジなどの特典を付与することができます。
知見のあるユーザーがやりがいを感じながら、質問したユーザーを助ける仕組みを作りましょう。お得な特典やステータスになる特典を活用することで、顧客コミュニティは活性化していきます。
注意点①:お得な特典ばかりを定期的に続けてしまうと、特典目当てのユーザーばかりが集まり、コミュニティの利用が定着しません。利用動向を見つつキャンペーンを実施するタイミングを決めてください。
注意点②:ステータス特典を持っているユーザーが、コミュニティに対して負の影響力を持たないようにも気を付けましょう。他のユーザーがコミュニティの人間関係が嫌になって、利用をやめてしまいます。企業は中心となるユーザーとよくコミュニケーションをとり、コミュニティの運営に協力してもらうようにしてください。
経営貢献の見える化
「経営貢献の可視化不足」には、KPIの設定が役立ちます。コールセンタージャパン2022年8月号には、OKWAVEの事例が紹介されていました。
OKWAVEでは、ユーザーアンケートの結果から質問数全体の65%が「質問して問題が解決した割合」と定義。「コールセンターに問い合わせした場合にかかったであろう1対応当たりのコスト」を800~1500円と仮定して掛け合わせ、「費用対効果」を算出している。
さらに同記事では、森永製菓の顧客コミュニティが、経営にどれほど貢献しているかを可視化する方法を紹介しています。それは、コミュニティ会員と一般消費者の一人当たりの年間購買額の差分を算出し、アクティブユーザー数をかける方法です。
Udemyでも顧客コミュニティのメンバーがプロダクトに貢献していることを可視化しています。UdemyではコミュニティのインストラクターがUdemy内でコースを公開する割合と、非メンバーが公開する割合を比較しました。
すると、コミュニティのインストラクターのほうが非メンバーよりも4倍も高い割合でコースを公開していました。つまりコミュニティのメンバーが増え、インストラクターの数も増えていくと、プロダクトの利用も活性化していくのです。
ユニークなKPIとしては、サイボウズの愛着度を測定する方法もあります。顧客コミュニティのメンバーを対象としたイベントを開催するときに、イベント前とイベント後に、サイボウズへの愛着度がどう変化したかを測定していきます。
プロダクトID登録の義務化
「炎上対策」として、プロダクトIDの登録を義務付けられます。なぜならプロダクトIDにはすでに個人情報が紐づけられているからです。
顧客コミュニティの運営を外部委託する方法もあります。
補足:NFTの活用
成りすまし、偽造ができないNFTを会員証とすることで、コミュニティ内での不正を防ぎ、個人認証を強固にしていけます。NFTを活用し、コミュニティ内での行動履歴をブロックチェーンに刻むことによって、貢献に応じた報酬や評価を提供し、ロイヤリティを強化していけるのです。個々の顧客、とくに貢献度が高い顧客(VIP)を見極めて、直接対話することが可能になります。
顧客コミュニティの始め方
顧客コミュニティを始める6つの手順を解説します。
1.コミュニティの導線を作る
カスタマーサポートの今ある導線において、顧客コミュニティのチャネルをどこに入れるか検討します。
たとえば、「FAQ→顧客コミュニティ→お問い合わせ」という導線にできるかもしれません。
FAQで検索したお客さまが問題が解決できず、顧客コミュニティで質問をします。それでも解決できなければ、カスタマーサポートに問い合わせるという流れです。
3つ目の段階であるカスタマーサポートへの問い合わせには電話、メール、チャットなどのチャネルを用意しておけるでしょう。
2.コミュニティのガイドラインを決める
ガイドラインを作成しましょう。顧客コミュニティ運営の知見がない場合は、まずベータ版からサイトをスタートできます。信頼できるユーザーを含めてベータ版を運用し、そこで得た知見を踏まえてガイドラインを作っていけるでしょう。
ガイドラインには以下の項目を含められます。
- 顧客コミュニティの目的と方針―コミュニティが何を目指し、どのような方針で運営されるか明確にする
- ユーザーの行動規範―誹謗中傷や差別的な発言、スパム行為の禁止
- 顧客コミュニティ内での情報の取り扱い―個人情報の保護や、機密情報の取り扱いについての規定
- コミュニティ運営の責任者や役割―モデレーターを企業側にするのか、企業が承認するユーザーに任せるのか、それとも外注するのか決める
3.コミュニティの内容を決める
顧客コミュニティでは、ユーザーが実体験した1次情報が多く含まれれば含まれるほど、利用は活性化されます。コミュニティを通してどのような価値を提供するのか明確にしておきましょう。
4.プラットフォームを決める
顧客コミュニティを運営するプラットフォームを決めます。
無料で利用できるプラットフォーム―Slack、Facebook、Discord
有料で利用できるプラットフォーム-OKWAVE Plus、commmune(コミューン)、coorum(コーラム)、Khoros、Discourse、Discord
補足:Discord(ディスコード)について
Discord(ディスコード)はコミュニティツールとして注目されています。20代を中心に2020年ごろからユーザーが急増しているツールです。とくにボイスチャットの音質の良さが評価されています。NFT関連の機能が充実しており、ユーザー認証などセキュリティ面で多機能な特徴もあります。
5.告知をする
最初に、プロダクトを長年利用してくれている優良顧客を中心に告知していきます。もともとロイヤリティの高い顧客を中心に運営を始めていくのがおすすめです。メルマガなどを使って告知できるでしょう。
6.コミュニティを拡大していく
運営の知見が蓄積されてきたら、SNSやブログサイトで幅広く告知していけます。コミュニティ内のコンテンツを増やすことでも、顧客コミュニティを拡大していけるでしょう。
顧客コミュニティが向いている企業とは
顧客コミュニティが向いている企業は以下の通りです。
顧客数が非常に多い―BtoCでは1000人以上、BtoBでは100社以上。顧客が多いほど共有される情報や知識が多いのでコミュニティは盛り上がります。会社の規模(従業員数)ではなく、顧客数がポイントになります。
複雑なプロダクトを販売している―使い方が複雑、または多岐にわたるプロダクトを販売しているのであれば、コミュニティを運営することでカスタマーサポートの負担を軽減していけます。
使用しているプロダクトを隠さなくてよい―クライアントが「使っているプロダクトがばれると恥ずかしい」「セキュリティ的にばれたくない」というプロダクトでは、コミュニティはうまくいきません。逆にクライアントが「使用しているプロダクトを隠さなくてよい」のであれば顧客コミュニティは機能します。
ユーザーが日常的に使うプロダクトを扱っている―一回きりの製品やサービスではコミュニティは活性化されません。継続して使うプロダクトのほうが、コミュニティで情報共有する価値があります。
顧客のニーズやフィードバックを取り入れたい企業―SaaSの場合、プロダクトの継続的な開発は必須です。コミュニティでVOCを収集することでLTVを高められます。
もし上記の項目に複数該当するのであれば、顧客コミュニティの運営を検討するとよいでしょう。
顧客コミュニティの今後
今回はカスタマーサポートに絞って顧客コミュニティについて解説しました。しかし顧客コミュニティの今後はさらに多様化していきます。さまざまな種類のコミュニティが形成されることによって、コミュニティマネジメントの市場は大きくなっていくことでしょう。
NFTプロジェクトやブロックチェーンゲームなどweb3と言われる領域で、このモデルはすでに確立され始めています。たとえば、2023以降はブロックチェーンゲーム(BCG)のタイトルがローンチ予定です。ゲームと対になってユーザーコミュニティが立ち上がります。
実は、Web3と呼ばれるジャンルはコミュニティとサービスがセットになっている場合がほとんどです。Web3コミュニティは以下の分野でさらに広がっていくと予測されます。
- エンタテインメント×ファン
- ファッション×コミュニティ
- NFT×コミュニティ
- スポーツ×コミュニティ
最後に
顧客コミュニティでカスタマーサポートの人手不足を解消する方法は、世界的な流れになっています。コミュニティを運営していくことで、人手不足を緩和できるだけでなく、シニア世代のケアやVOCの収集ができるなど多くのメリットを享受できます。
もし人手不足解消のために設けた自己解決ソリューションがうまく回っていないときには、顧客コミュニティの運営を検討してください。
顧客コミュニティの運営で「できるだけ人的リソースをかけたくないけど、経営貢献だけはしたい」というケースでは、限られたユーザーだけを対象にしたベータ版からスタートするか、運営を外注する方法が取れます。
顧客コミュニティに取り組むことで、カスタマーサポートの業務効率化とカスタマーエクスペリエンスを向上させていきましょう。