AIの導入を検討する理由は企業によってさまざまです。
「AIが未導入では遅れている企業だと思われる」と企業ブランディングが理由になることがあります。コストを下げたい経営陣から「AIでなんとかして」とプレッシャーをかけられて検討することもあるでしょう。
エンジニアの方であれば「機械学習を活用してみたい」と思ったり、会社を経営している若いリーダーの方は「AIで新たなビジネスを始めたい」との願いがきっかけになることがあります。
しかし、いざAI導入を検討しようとしても、「そもそもAIで何ができるのか」「AIで自社の業務がどう変わるのか」ということがイメージしづらいかもしれません。
今回は、海外と日本におけるAI導入の現状をまず見ていきます。それから7つの業種別にAI活用事例を紹介します。
最後には、失敗しないAIの導入法7つのステップを紹介しているので参考にしてください。
AIの導入プロジェクトをより具体化していきましょう。企業の成長戦略に欠かせないAIツールの活かし方を見つけてください。
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AIとは
最初にAI(Artificial Intelligenceの略)とは何かを確認しておきましょう。結論から言うと、いまだにAIに対する確立した定義はありません。しかし総務省発行の情報通信白書では以下のように説明されています。
「AI」とは、人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報処理・技術といった広い概念で理解されている
情報通信白書
簡単にいうと、AIとはソフトを使って人間の思考の一部を再現したテクノロジーのことです。
AIは人工知能とも呼ばれ、ときには「機械学習」や「深層学習」といった言葉も一緒に使われます。
「人工知能」、「機械学習」、「深層学習」の関係は下の図から確認できます。
AI技術に含まれる「機械学習」と「深層学習」は、何を意味しているのでしょうか。
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機械学習(ML:Machine Learning)とは
機械学習とは、人間の学習部分をソフトが行うことです。膨大なデータを学習しながら、一定のパターンやルールを見つけていくプロセスを意味しています。
たとえば大量のニンジンとジャガイモの写真を見せてソフトに学習させます。その後、別のニンジンの写真を見せると、それがニンジンであるとソフト自体で結論できるのが機械学習です。
深層学習(DL:Deep Learning)とは
深層学習とは、ある特徴を意識しながら機械学習を行うことです。膨大なデータを学習する際のパターンやルールを発見するには、どの特徴をトリガーにしたらよいかソフト自体が判断する技術です。
たとえばニンジンとジャガイモのパターンやルールを見つけるには、色という特徴に着目すればよい、と自ら判断するのが深層学習になります。
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海外におけるAI導入の現状
海外においてAIの導入はどれほど進んでいるでしょうか。2019年に日本オラクルが実施した世界10カ国のAI利用状況調査によると、インド、中国、UAE、米国でAI導入が進んでいます。
IT人材が豊富なインドがAI利用率78%と一番多くなっています。オラクル社の2020年の調査では、ブラジルも上位にランクインしており、AI利用率は54%です。
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日本におけるAI導入の現状
日本のAI導入に関する現状には、ネガティブな点とポジティブな点があります。
ネガティブな点は、現場へのAI導入が他国に比べて遅れていることです。2020年のオラクル社が行なった調査では、日本を含む世界11カ国(米国、英国、UAE、フランス、イタリア、ドイツ、インド、日本、中国、ブラジル、韓国)の中で、日本はAI利用率が最下位でした。
2021年7月の総務省発行「情報通信に関する現状報告」では、AI導入状況が米国35.1%に対し日本は24.3%となっています。
ポジティブな点は、日本企業の現場でAI導入に対する抵抗感がないことです。
オラクルの調査で、「AIが誰の代替になることを受け入れるか」という質問がなされました。回答は以下のとおりです。
- アシスタント 85%
- セラピスト/カウンセラー 82%
- 同僚 80%
とくに注目できるのはセラピスト/カウンセラーとしてのAIニーズが高いことです。調査対象となった日本の従業員49%が、自分の不安について人間の上司よりAIに打ち明けたいと回答しています。
理由は、AIのほうが「ジャッジメント・フリー・ゾーン(無批判区域、決めつけのない環境)を与えてくれる」というものでした。
コロナ渦によってメンタルヘルスケアの必要性が高まっていることがわかります。
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日本でAI導入が進まない4つの原因
各国に比べて日本でAI導入が進まない原因は主に4つあります。
- AIリテラシーの低さ
- 技術不足
- AIベンダーが少ない
- 人材不足
日本のAIリテラシーは依然として低いままです。現場でAIを受け入れる意識が高まっているのに対し、役員や経営陣がAIに対する漠然とした不安を持っていたり投資意欲が低かったりしてAI導入が思うように進んでいません。
AIに関係した技術力が低いことも原因の一つです。たとえばAIに関する日本の論文数はアメリカの4分の1にも達していません。
日本はAIテクノロジーを扱う企業がまだまだ少ないのが現状です。中国の清華大学の報告書によると、日本のAI企業は40社となっており、アメリカ2208社、中国1011社と比較すると極端に少ないことがわかります。
AIテクノロジーに習熟している人材が不足していることも原因です。アデコ株式会社が2021年に40代・50代の管理職を対象に実施した「AI(人工知能)導入に関する意識調査」では、AI導入にあたって直面している最も大きな課題が人材不足であるとしています。
AIを導入したいニーズがあるものの、人材不足がネックになっていることがわかります。では人材不足を解消する方法はあるのでしょうか。
AI人材不足を解消する3つの方法
企業レベルで行えるAI人材不足を解消する方法は3つあります。
- 経済産業省「巣ごもりDXステップ講座」を活用する
- 給付・助成金制度を利用する
- G検定・E資格取得を推奨
経済産業省はAIやデータサイエンスについて学べる無料オンライ講座を紹介しています。社内で周知して人材育成に役立てられるでしょう。
有料の講座を給付・助成金制度を利用して社員に受けてもらうこともできます。経済産業大臣が認定した教育訓練講座のうち、厚生労働省が定める一定の要件を満たしていれば給付・助成金が支給されます。
▶参考情報
「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」※「項目:厚生労働省「教育訓練給付制度」との連携」をご覧ください
一般社団法人 日本ディープラーニング協会が認定するG検定・E資格を推奨することもできるでしょう。G検定は一般向け、E資格はエンジニア向けの資格です。
受講を資金面でサポートしたり、取得した際の報奨金を設定したりすることができます。
▶参考情報
「G検定について/E資格について」
AI導入を最優先すべき理由
なぜ今AIを導入すべきなのでしょうか。理由は企業のブランディング、業務効率化だけではありません。少子高齢化による労働力不足に対応するためにも必要です。
統計によると2030年には、1100万人の労働力が足りなくなると懸念されています。しかしAIを活用すれば対応できます。
アクセンチュア・ハイパフォーマンス研究所の調査では、このままいくと2035年の日本におけるGVA成長率は先進国と比べて最低ラインになります。しかしAIを活用するなら従来予測の3倍以上まで改善できると分析されています。
AI導入のメリット
AI導入に関する日本の現状、AIを導入すべき理由がわかったものの、「自社がAIを使うメリットは何か」と思われることでしょう。知っておきたいメリットを6つ紹介します。
1. 業務の効率化
AIは人間と違い体調不良、モチベーション低下といった問題を抱えません。一定のスピードと品質を保ちながらさまざまな作業を永遠に続けられます。
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2. 生産性アップ
AIが単調な作業を行い、人間はAIが苦手な「相手の感情を理解する」「社員をトレーニングする」「柔軟なサービスを提供する」などの業務を行えます。
3. コストカット
発注書や領収書などの処理はAIで行えるため、今までかけていた人材と時間を節約できます。
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4. 売上向上
AIは過去のデータを分析して、将来を予測することが得意です。商品開発にAIを活用すれば売れる商品を作れますし、発注でAIを活用すれば無駄な発注を減らせます。
5. 安全の向上
人間がすると危険な業務、また人間では危なくていけない場所で、AIを搭載した機械を使用できます。AIを使ってインフラ設備の不具合を早めに見つけることや、病気を予測することも可能です。
6. カスタマーサクセス
AIを搭載したアバター接客によって24時間365日いつでも顧客対応が可能になります。コールセンターでは顧客対応そのものをAIがしなくても、AIがお客様の割り振りをすることで待ち時間を減らせます。
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「AI連携」
AI導入のデメリット
AI導入にあたってはデメリットについても知っておかなければなりません。主なデメリットは4つあります。
1. 導入コスト
新しい技術を採用する際には導入費用がかかります。さらにAIを効率よく運用するために業務フローを見直す時間と人材といったコストも必要です。
しかし一度運用が軌道に乗れば、投資した分のコストを回収できます。
2. 雇用が減る
AI導入にあたって懸念されるのが雇用が減少するという点です。単純作業が多いデータ入力担当者、ホテル客室係などの雇用は減るかもしれません。
しかし労働力不足を考えるとAI導入は必至といえるでしょう。
AI導入によって単純作業をしていた人員を他の業務で活かすことも可能になります。
3. 情報漏えい
膨大なデータを学習するAIは、運用の途中で情報漏えいのリスクにさらされます。しかしAIの運用有無に限らず、情報漏えいのリスクはすべての企業が対処しなければならない課題です。
4. リスクマネジメントの難しさ
AIの運用はまだ始まったばかりです。導入や運用の際にどのようなトラブルが発生するかわからないことがあります。
すでにAI運用が進んでいる海外の知見を持っているAIベンダーに相談することで適切なリスクマネジメントが行なえます。
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7つの業界別にAI導入事例を見てみよう
AIをすでに導入している国内外の事例を業種別に見ていきましょう。
金融業界
Economic Intelligence Unitの調査によると、米国の銀行経営者77%が、銀行業界の勝者と敗者をAIが分けると考えています。
実際に、大手投資銀行ゴールドマン・サックス(米国)では、インサイダー取引などの不正行為を検知するためにAIが活用されています。国内では、三井住友銀行(SMBC)が、日本マイクロソフトと協同しSMBCチャットボットを開発しました。
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医療業界
アクセンチュア社の調査によると、ヘルスケアのAIシステムは、2026年までに米国だけで年間1,500億ドルの「節約」効果があると予想されています。
米国では、咳の音を録音しただけで病気を診断できるようなアルゴリズムの開発や、医療機関向けAIチャットボットの導入が進んでいます。
国内では、「エイアイビューライフ」はAI搭載の介護ロボットを開発しています。学習検知型アルゴリズムを用いて、徘徊、排泄を予測し通知するシステムです。
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アパレル業界
イスラエルにあるスタートアップのFinesseは、将来の需要予測をAIで行なっています。ニュージーランドでは接客に対話型AIデジタルヒューマンを採用したり、米国では接客に関して顧客の好みを学習してくAI導入が進みます。
国内に目を向けると、株式会社ZOZOが古着の値付けをAIで行なうことで価格の的中率を150%へアップさせました。株式会社ナノユニバースはECサイトでAIチャットボット「OK SKY」を活用し、
深夜でもECを利用しやすくすることで、購入単価と年間購入回数を増加させています。
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観光業界
海外の事例ではオーストラリアが対話型AIを活用したツアーガイドを企画しています。
国内では観光大国だけあってAIの導入が活発です。AIチャットボット、AIによるホテル予約管理、AI運行バスなど多くの分野で導入されています。
引き続き観光業界のおいてスマートツーリズムが加速していくでしょう。
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教育現場
AIを教師のアシスタント、もしくはバーチャルの教師として活用する取り組みが米国で始まっています。中国では学生の論文を評価するためにAIを活用しています。
国内はどうでしょうか。東京都小金井市立前原小学校では、2020年2月からAI教育プログラムの実証授業を実施しました。四天王寺高等学校・中学校では、2018年よりAIトレーニングツール「トレパ」を使って英語4技能の習得をサポートしています。
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通信業界
通信業界の中でもコールセンター、コンタクトセンターにおけるAI導入が国内外で進んでいます。米国のコールセンターの78%は、AIを使用中または今後3年以内に導入を計画中です。
国内においては、AIによってコールセンターのAHTの短縮、WFMの最適化を目指す施策が行われています。
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物流業界
海外では、AI機能付きの問い合わせ管理システムの事例が多いです。AIの利用で、電話とメールによる荷物の追跡リクエストを30%自動化したり、ワークフローの自動化によって30%のコストを削減したりする事例があります。
国内ではスマート物流への移行が進んでいます。検品仕分けにAIカメラを使う事例、倉庫管理システムにAI分析を活用する例が増加中です。
▶参考情報
「AIが3つの分野でサポート」
失敗しないAI導入の7ステップ
AIの導入で失敗しないためには7つのステップがあります。
ステップ1. 課題の洗い出し
自社の業務の中で生産性が低い分野、効率が悪い分野を洗い出します。
ステップ2. AIを導入するカテゴリの確定
洗い出した課題の中で、「人間でなければできないカテゴリ」、「AIに任せられるカテゴリ」を分けてください。
もしかしたらこの段階でAI導入ではなく、業務を単に自動化させる安価なRPAツールだけで課題を解決できるとわかるかもしれません。
▶参考情報
「問い合わせ処理プロセスを自動化」
ステップ3. データの収集
AIはデータの量が多ければ多いほど精度の高い分析を行えます。データを揃えるのが自社だけでは難しいことがあるので、外部へ委託することも検討してください。
ステップ4. AIツールの選定
社内にエンジニアがいるかどうかでAIツールの選び方は変わります。エンジニアがいるなら、既存のプラットフォームだけを利用してAIを導入できます。もし技術者がいないのであれば、企業向けのAIツーるを導入してください。
デメリットの項目で説明しましたが、AIを運用する際はリスクマネジメントが欠かせません。ツールを検討する際は、国内の実績だけではなく、海外での実績が豊富かどうかも踏まえて選んでください。
ステップ5. AIの学習期間
揃えたデータをAIに学習させる期間が必要です。AIに効率よく学習させるには、データ・統計・クラウドに関する知見を持ったエンジニアかベンダーの協力が不可欠です。
ステップ6. AIツールのカスタマイズ
機械学習が終わったあと、サービスに組み込んでいくプログラミング作業を行います。この段階では、プログラミングに加えて、電子基板やコンピュータに関する知識が必要です。
使いやすいツールへカスタマイズするにはベンダーとの協力が欠かせません。
ステップ7. PDCAを回す
AIの試用期間を設け、実用的なフローが出来上がるまで改善を繰り返してください。
試用期間が終わったあとは本格稼働です。本格稼働後も定期的に社員へアンケートを取ってAIの業務フローを見直しましょう。
最後に
インドや中国をはじめ世界各国でAIの導入が進んでいます。日本は遅れを取っていますが各企業のAIへの抵抗感は少なく、今後の導入拡大に期待が持てる現状です。
AI導入が世界の先進国に比べて遅いとはいえ、さまざまな業種でAIが活用されています。引き続き金融や医療、観光業や通信などの業界でAIの利用が増えていくと期待できます。
「AIを使いこなせるか心配」「無駄な投資にならないか不安」と感じるときには、社内の課題を洗い出してください。本当にAIツール導入が必要か、RPAの導入で代替できるか検討します。
AIは理解が難しい技術かもしれませんが、多くの可能性を秘めています。単に業務改善のためのツールとしてではなく、新しいビジネスを始めるツールとしても考えていきましょう。